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月灯りの下

闇の世界に差し込む光を追い求めて

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銀世界を駆け抜ける

朝、部屋にチャイムが鳴り響く。

インターホンに出てみれば、

「よ~なぎくん!あ~そび~ましょ!!」

そこには、バカがいた。


*          *          *


『寒……ッ』

俺は朝やってきた同級生・秋木 海に連れられて、雪に覆われた町に繰り出す羽目になった。

「しっかし!雪なんて久しぶりに積もったな~!!」
元気だな、お前は
「"子どもは風の子げんキノコ!"っていうだろ?それに折角積もったんだ、遊ばなきゃ損だろ」

そう言って未だ降り続けている雪の中を「キャッホーィ!!」と叫びながら走っていた。

『……それを言うなら"元気の子"だろ』

"子ども"か……。
さっき言ったあいつの言葉を思い出す。
確かに、あんな風に遊んだりはしゃいだりするのは子どもの特権だろう。
だが俺は、そんなものをいつの間にだか捨ててきてしまった。
捨ててしまったものはもう戻らない。

元々人通りが少ない通りのせいなのか、はたまた朝早めのせいなのか、今は人っ子一人いなかった。
ここにいるのは俺たちだけ。
何故だか、銀色の世界に取り残された気分になる。

そういえば、誰だったかが俺に言っていた気がする。
"あなたはまだ子どもなんだから、無理せず子どもらしくしていいのよ?"って。
誰だったっけ……?

『……ッ!!?』

思考の沼にどっぷりと浸かっていた俺は、とても簡単に現実に引き上げられた。
視界が本当に真っ白になったと同時に冷たいという感覚に襲われる。

「アーハッハッハッハッ!!ぼうっとしてんじゃねェよ、嵐!!」
・・・・・・・・・・・・

その声を聞いて全てを理解した。
どうやら俺は、目の前のバカに雪玉をぶつけられたらしい。
人が考えごとをしているところに……

『テメェ……』
「さっきも言っただろ?折角の遊ぶチャンスなんだから、そんな辛気臭ぇ顔してんなよ!」
『……………ハァ、わかったよ』

どうやら俺は、こいつといる時はゆっくり考えごともできんらしい。

『じゃあ、遊んでやるよ』

そう言うと俺は、海に向かって走っていく。
走り際に塀の上に積もった雪に垂直に手を差し込むことを忘れない。

「ちょ、おまっ!!それ反則……ッ!!」

海は俺がしようとしていることを察知したらしい。
俺に背を向け走ろうとするが、

ぬおわっ!!?

足を滑らせ、ベシャリとその場に派手にすっ転ぶ。
俺はそれを見逃さなかった。
海のコートの帽子を掴み、塀の上からかき集めた雪をそれに詰、そのまま海に被せてやった。

つっべた!!ちょ、背中に入った!!首からも入った!!
『ケッ、お返しだ。バーカ』
いや、お返しって夜薙くん、普通お返しって同じぐらいのものを返すよね!?やりすぎじゃない!?やりすぎだろこれ!!
『うるさい。ったく、ほら』

俺は海に手を差し伸べてやる。

「お、おう。サンキュー」

海は俺の手に手を重ね、力を込めて立ち上がろうとする。
が、俺はそこで手を離してやる。
そうすると、海は体制を崩してもう一度滑るわけで、

「~~~ッ!!いったーーーッ!!嵐、おまッ」
『俺のお返しは何事も3倍返しがモットーなんだよ』

『知ってるだろ?』と口角を上げれば、「このドS鬼」と呟く声が聞こえてくる。

『最初に仕掛けたのはお前だろうが』
「でっ!」

俺は海にでこピンを一発くれてから、背を向けて走る。

『ハッ、バーカ』

という台詞をおまけ付きで。

「あ、嵐!!ンの……待てやコラー!!」


それから俺達は1時間ほど、銀世界を駆け抜けることとなるのだった。
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タビビト

自分の物だけど、誰かに与えられた物ばかりで溢れかえった狭い部屋は

とても冷たく

自分の部屋じゃないようで

自分の居場所じゃないようで

僕は部屋から飛び出して、自分の居場所を探して家を出た


行く当てなんて何処にもなくて

行き先さえも気の向くまま

それでも歩みを止めることなく、僕は世界を彷徨った


外の世界もどこか冷たくて、どこか遠くて

居場所なんてなさそうだけど、僕は歩みを止めなかった


僕の居場所は何処でしょう?

僕の還る場所は何処でしょう?

風も知らない

僕も知らない

誰も知ることのない場所を目指し、歩いていく


いつかは辿り着けるでしょうか

僕をあたたかく迎え入れてくれる

僕の居場所に

記憶

一体何を忘れてしまったというの?


記憶は記録

自分の中に刻まれている

それは消えることはなく

ただ、忘れてしまっただけ


忘却の彼方にそれはある


14/記憶



ただそれは、事実であったとして、真実だとは限らない


そんな曖昧なものを

自分に刻み、大事に抱いて生きていく

それが、

人というものなのでしょう?

過去現在未来

一瞬一瞬を積み重ねてきた
(そこには何ができたのか)


一瞬一瞬を積み重ねている
(わからないまま、今も何かを必死につくっている最中で)


一瞬一瞬を、これからも積み重ねていくのだろう
(それでもきっとこれからもつくり続ける)


無駄だと思っていても、それを続けることが人生で
(そうして積み重ねてきた一瞬一瞬は)


無駄を積み重ねるのが、人なんだ
(いつかは大事な何かになる)


お題『13/過去現在未来』



(その"何か"は人それぞれだけど)

放課後の作業

夕日に染まる教室の中、

『お前、まだいたのか』

声のした方へ目を向けると、同じく夕日に染まった友人が立っていた。

『こんな時間まで何やってんだよ、拓人』
「そういう君こそ、今まで何処にいて何してたんだよ、騎暖」

どうやら彼女は帰るために荷物を取りに戻ってきたらしい彼女に問うた。

『いつもの場所で寝てた』
「いつもの場所って、屋上?寒くなかったの?」
『太陽の陽射しが暖かかったし、風も防ぐ場所あるし平気だ』

僕の席へ近付き、前の席の椅子に跨って座る彼女に溜息を吐く。

「地球温暖化の影響でいつもより温かいからってねー。風邪ひいたらどうするのさ。それに女の子がそんな座り方しちゃダメだろ」
『うるさい、そんなの俺の勝手だろ』

風邪はなったらなった時だ、と言いながら僕を睨んでくる。
何で僕は、午後の授業丸々無断欠席した人に怒られてるんだろう?

『で、何やってんだよ?』
「ほら、班で何か発表ってやつがあるでしょ?あれの準備だよ」
『……一人でか?』
「そ、一人でね」

僕たちの学校では総合の時間というものがあって、先生からお題が与えられ、それについて発表と言うか、ディベートをやることになっている。
班は最初に先生がくじかなんかで適当に決めたもの。
回ってくる順番も先生が決めている。
今度は僕の班にその順番が回ってきたのだ。

「みんなちゃんとやってくれないんだよ。そりゃめんどくさいけどさ、やらなきゃいけないんだし。それを何かに理由をつけてトンズラこいて!全部僕に任せていきやがったんだあいつ等は!!」
『……荒れてるな』
「そりゃ荒れたくもなるだろ?しかも今回の難しいんだよ」
『…………』

僕は溜息をつきながら机に突っ伏した。
頭がショートしかけた僕にとっては、机の冷たさが心地よかった。
騎暖は机と一体となった僕をじっと見ている。
……好きな子に見つめられると恥ずかしいわけで、

「あーあ、せめて騎暖と同じ班なら僕ももう少し楽しく出来ただろうな~」

照れ隠しに言ってみたものの、何か違っていた気がする。

『お前なぁ』

だって彼女の十中八九の呆れ声が帰ってきたんだから。
あ~、何か切ないな。
僕の気持ちっていつも一歩通行な気がしてならない。
僕は本気で真面目に言ってるんだけどな~。

『……しょうがないから俺も手伝ってやる』
「…………え?」
『だから、手伝ってやるって言ったんだよ』
「…………え?」
『バカにしてるのかお前は』
「いや、だって、騎暖もこういうのめんどくさがってやらなさそうだし、自分の班のも参加してないよね?」

別に彼女は勉強が嫌いとか、そういうわけではないらしい。
その代わり、人付き合いが嫌いと言うか、人そのものが嫌いな気がある。
そのせいなのかクラスの人たちとも絡まないもんだから、かなり浮いた存在だったりする。
このディベートだって、参加してるとは言えない状態だ。
その彼女が手伝ってくれるって?

『参加しねェよ。だって関わり合いたくねェもん』
「それはそれで問題だよ、騎暖」

とは言ったものの、嬉しかったりするわけで。
他の人たちとは関わりたくないけど、僕とは関わってくれている。
その事実だけで救われた気分になるから、僕は病気だなんて言われるんだ。
まぁ、気にしないけど。

『うるせー。いいからさっさとやって、適当に終わらせようぜ。帰りにアイス奢ってもらうんだからな』
「え!?ちょっと待った!!どっから出てきたの、そんな話!」
『手伝ってやるんだからいいだろ別に、そのぐらい』
「勝手に決めないでよ、もう」

じゃあ俺はこっちの資料まとめてやるよ。というか、まとめればいいんだろ?、と言って少し楽しそうな顔で勝手に作業を進めていく彼女を見てると、

「ま、いいか」

勝手に頬が緩んでしまう。
そんな自分に苦笑する。
今回はいつもより楽しく作業が出来そうだ。

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