忍者ブログ

月灯りの下

闇の世界に差し込む光を追い求めて

[1]  [2]  [3]  [4

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

さようなら、

「どうしよう……どうしよう……」

 歩みを止めて後ろを見る。男がいる。今朝、教会に来た男がいる。男はこちらの視線に気が付いたのだろう。ニッコリと笑って手を振ている。引き攣った笑いを返し、バッと前を向き直す。歩みを再開しならがチラリと後ろを盗み見れば、男も何食わぬ顔で一定の距離を保ってついて来た。内心溜め息を吐きつつ手にした携帯に視線を落とす。

「どうしよう……」

 そのディスプレイが映すのは、一人のアドレス帳。

「……アリス」





※流血表現あり
PR

そんな二人を見ているのは

光と闇、白と黒で彩られた灰色の世界。

 そんな世界で私が見た初めての色は、アカイロだった――――――。


そういう意味では、

「あら、かっこいいお兄さん!お隣りいいかしら?」

 4月1日
 今日は"風の申し子"という女怪盗さんに会い、色々と話しを聞かせてもらった。中でも、以前に会ったという殺し屋"血濡れ妖精"の話しは興味深い。可愛い男の子だったそうで、彼女の好みなのだとか。脱走したらまた会いたいとおっしゃっていた。そして、最後に「私、絶っ対脱走しないんだから!」と言い残して戻っていった。エイプリルフールに吐く嘘は、現実にならないと謂いますから、どうなるか楽しみだ。



「お初にお目にかかります。僕はシド・アスキスという者で、探偵をしています」

 4月20日
 今日は探偵屋さんがきて、「最近、裏で有名になってきた"血濡れ妖精"を知っていますか?」と、そう訊かれた。私はずっと監獄暮らし、外のことには疎いので。そう答えると、私の殺し方と似ている、そして私が捕まってからその殺し屋は出て来たと根拠を教えてくれた。私の殺しのスタイルまで調べてあるとは正直驚いたが、正直に話すには確証が欠けている。その殺し屋さんと僕との接点があったという確証が。彼が提示したのはあくまで共通点。似せることなら誰にでもできますよ。そう告げると、「次に来るときは決定的な証拠を持ってきます」と言って帰っていった。いい目を、していた。



         赤     い     幻
「やぁ、あんたが"Jack the red Phantom"さん?ヘェ、結構若いんだ」

 4月3日
 情報屋を名乗る男が訪ねてきた。探偵屋さんと同じことを多々訊かれたが、こちらはかなり失礼な物言いだ。紳士としては、嫌悪感を持たざるを得ない。無礼には無礼で返すのが礼儀。しかし、「もしかしてさあ、あんたの身内じゃないよね?娘、にしては若いから、妹とか?」嗚呼、本当に不躾な男だ。僕に家族はいませんでしたよ。嘘は言っていない。けど、嘘でも「いない」とは言えなかった。彼はその微妙なニュアンスに「ふ~ん」とだけ返した。帰り際、ご忠告を一つして差し上げた。情報屋なら、相手に対する礼儀を弁えた方がいい。引き出せる情報を引き出せないなんてことになると、三流もいいとこですよ、とね。



「あ、あの!はじめまして!私、シエナ・アトリーといいます。ライル・ミルワードさん、ですよね……?」
「はい、そうですよ。はじめまして、シエナさん」

 5月14日
 今日は、また可愛らしいお嬢さんがいらっしゃった。




※流血シーンあり

瓦礫の山頂、

「へぇ、最近有名になりつつあり、かつ一癖ある殺し屋が、こんなガキだったとはねー」
「そそ。それでちょーっとね、軽く殺っちゃって欲しいんだよ」
「ハッ、軽くって何だよ!でもまあ、調子に乗ってる奴の鼻をへし折るのは嫌いじゃねぇ。むしろ好きだ」
「調子に乗ってるかはともかくとして、じゃあ引き受けてくれるんだ?」
「ああ。ガキに本当の殺し屋ってのを教えてやるよ」
「アハハ。それじゃあ、よろしく頼むよ?殺し屋さん。ま、」

 おし
 殺えられればの話だけどね。




※流血シーンあり

この時の私は、

目の前にある大きな白い建物は、普段は気にならないのだが、いざ入ろうと思うと足を進めることを躊躇してしまう。悪いことなどしてはいないというのに……。やはり人間の心理は不思議だ。
 でも、知りたい。否、知らなければ。
 知っていればきっと、私がアリスを傷付けることはなくなる。



<いや~、驚いたわ。あの子にあなたみたいな友達ができてるなんて>
<……あの>
<ん~?な~に?>
<さっきアイリスのことを"アリス"って、呼んでましたよね?お知り合い、なんですか?>
<あら、両方の名前を知ってるなんて、あなた懐かれてるのね~>
<懐かれ……?>
<あの子とは知り合いというか、あの子の師匠とね。腐れ縁というか、うん、幼なじみなのよ。だから、その師匠を通しての知り合いね>
<アリスにお師匠さんがいたんですか!?>
<そりゃねー。人にしたって動物にしたって、生まれたばかりは誰だって、何かの術は教えられなければ身につかないわ。……あの子に生き残る術を与え、殺す術を教えた人。それが師匠>
<あ、あの!今その人はどこにいるんですか?>
<あぁ、刑務所の中で自由気ままな囚人ライフを送ってるんじゃない?>
<囚人ライフ、って……?>
<自首したのよ、彼。アリスが殺し屋になった時にね>
<自首……>
<まったく、何を考えてるんだかね~>

 紅茶を啜る時計屋マッドハッターの女性店主エリサ・キャロルは、怒っているような、呆れたような、悲しそうな、そんな感情をごちゃ混ぜにしたような顔をしていた。

<あ、あの!>
<ん?>
<その人がいる刑務所、ご存知なら教えてもらってもいいですか?>
<……そんなこと、知ってどうするの?>
<知りたいんです。アリスのこと……。私、何も知らないんです、あの子のこと……何も>

 アリスに訊きたいことはたくさんあった。でも、今まで訊けなかった。何となく、訊いちゃいけない気がして。

 ねぇ、アリス。あなたはどこで生まれたの?どこから来たの?ご家族は?兄弟、姉妹はいた?小さい頃はどんな子だったの?どうしてそんなに色んなこと、知ってるの?

<私は、アリスが本当は優しい子だってことしか知らないんです>

 どうしてそんな哀しい色の瞳をしているの?

<私は、あの子に助けられたから。本当は悪い子じゃないって、わかってるんです>

 ……なのに、何故、殺し屋なんて始めたの?

HOME 次のページ


忍者ブログ [PR]
template by repe