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月灯りの下

闇の世界に差し込む光を追い求めて

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ありがとう、

To the killer
 (殺し屋へ)


Please kill Elisa・Caddick that lives in the Canterbury town.
(カンタベリー街に住む、エリサ・カディックを殺してくれ。)


Dhalis・Cedica
(ダリス・セディカ)

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昔も今も、

地面に広がるアカを反射した蒼い瞳は、

冷たさと、

狂気と、

美しさを含んで、

俺を見上げていた。





※長いです
※グロ注意

昔も今も、

地面に広がるアカに染まった蒼い瞳は、

寂しさと、

孤独と、

儚さを映して、

私を見下ろしていた。

残されたカード、それは

『さようなら……ご主人様』


"的"から流れ出す温かな液体は、この暗闇の中での色は所詮、黒。
もっと醜い色でもいいけれど、こいつにはその色がお似合いだと思う。

まあ、人のことは言えないんだけども。


『で?あなたは何の用で来たんですか?自殺志願者ですか?』


この部屋にあるたった一つの扉。
人の気配はずっと前から感じてた。
でも邪魔する様子も無かったし、なにより―――――

          ニオイ
どちらかというと同じ気配を感じていたから。


「まっさか~、こんなところでそんな奴と並んで殺されるなんて、それこそ死んだ方がマ・シっ」

しっかし、バレてたか~参った参った、とさして参っていないような声と共に扉が開く。
入ってきたのは、声からして女。
私は振り返って、立ち聞きをしていた行儀の悪い来訪者と対峙した。
私よりは年上、だろう。


『……この人の事を、知っているようですね』
「知ってる知ってる。自分好みの女を見つけては自分の屋敷に無理やり連れ帰り、まあ、好き勝手やってたクソオヤジよね。私も知った時は虫唾が走ったもん、華の女だし?だから絶対盗んで盗んで盗みまくって、明日は自分の保険金で生活しなきゃいけないぐらいジリ貧に追い込んでやろうって決めてたの」


そう、だから私は依頼を受けた。
この地獄のような屋敷に運悪く閉じ込められてしまった、ある女性に。
この屋敷に潜り込んで、そのことはよ~くわかった。
この人の言う通り、虫唾が走った。プラスアルファとして殺意も走った。
こんなに殺し甲斐のある奴は久しぶりだった。

そんなことより、気になるのが、この人が口走った言葉。

         ドロボー
『なるほど、貴女は怪盗屋さんでしたか』
「あ、言っちゃった。……ま、しょうがないか。そう、私は怪盗屋。怪盗God-sent child of wind」


God-sent child of wind――――――"風の申し子"。
最近巷で噂になってる怪盗屋。
ポ リ ス
警察屋も手を随分と焼かされているらしい。


『いくら戸締りをしようと、鍵をつけようと、警備をつけようと、風のように入り込み、気付かれないまま盗み、風のように捕まえることができずに去っていく』
「わあ、嬉しい!私のこと知っててくれたんだ!確かに、そういうふうに言われてたんだけど、盗む前にあなたに見られちゃったからね~。こんなの初めて。"気付かれないまま"は捨てなくちゃ。」


何でこの人はこんなに嬉しそう、というか、楽しそうなんだろう。
そして、うるさいほどよくしゃべる人だ。


「それにしても、坊やも大変ね~。女と間違えられて、こんなところに連れてこられるなんて」


どうやら私を男と認識したらしい。
この部屋の暗さ、そして私の声を考えると、仕方が無いことだと思うし、こちらとしては好都合。
微かに、"風の申し子"の雰囲気が変わる。


「まあ?その方が貴方にとっては好都合、というか、狙いだったんでしょ?仕事のためとはいえ、女装までして大変ね――――――Bloody Fairy、くんッ!!」


言い終わるか否か、どちらが先か、私目掛けて何かを投げ放った。
雰囲気が変わったことから、何か仕掛けてくることは分かっていたので難なく避ける。
そこに刺さったのはタロットカード。
……ただ、普通のタロットカードと違うのは、かみそりの刃のようなものでできているという点。


『"Bloody Fairy"?何ですか、それは』
「あら?あなたの名前じゃなかったの?人間には助けを、邪な者にはその人にあった死を届ける、冷徹な妖精……殺し屋Bloody Fairy」


Bloody Fairy……血濡れた妖精、ね。
そんな名前、名乗った覚えはないし、警察屋には同じ人間が殺しているとはバレていないはずだけど……、

<へぇ~、あんたまるで妖精みたいなことしてんのな>

それに似た感想は一度聞いた覚えがある。


『……それ、誰から聞きました?』
「探偵屋さんよ。その男の事について教えてもらいに行った時にちょろっとね~」
『あの男……』


頭が痛くなってきた。
探偵屋と聞いて思い浮かぶのは、ただ一人。
でも、約束が違う。
どうやら破られたらしい。
おまけに勝手に名前まで付けられて……、迷惑極まりない。


『で?行き成り何するんですか』
「あら、先にそっち聞かない?普通。……私はその男が結構溜め込んでるって聞いたから来たんだけど、この状況は想定外。私、こう見えて礼儀正しいから、色々頂いた家にはタロットカードを残してるの」


ちらりとタロットカードを見せる。
今度は紙製の本物のタロットカード、柄は悪魔。
なるほど、欲望に身を任せたこの男にはピッタリだ。


「だから、警察屋はここの盗みが私の仕業だって分かる。でも、そっちはそうじゃない。このままじゃ、私が殺人の罪を着ることになってしまうわ」
『だから?』
「だから、このままここに残って、警察屋に捕まって、それは私の仕業じゃないって証明して欲しかったんだけどな~」


そんな無茶苦茶な。


『お断りします。警察屋も、そこまで間抜けじゃないのでは?貴女がいつも盗みしかしていないなら、疑うこそすれど、証拠がないんだから罪は着せられない』
「そんなのいくらでもでっち上げられるじゃないのよ!!それに貴方、自分がやったっていう証拠は何も残さないで綺麗な仕事するくせによく言うわよ!!」


殺し方には2通りある。

――――――自殺に見せかけるか、他殺に見せかけるか。

どちらのやり方も、同じぐらいやってきたが、どちらにしても、自分に辿り着かせる証拠は残さない。
殺すまでにはいかなくても懲らしめたい奴がいたら、そいつが殺ったように証拠を残す方法はまさに一石二鳥。
それが、私の殺り方。


『だからと言って、私も捕まりたくはないんですけどね。それに、もう一つ、いい案がありますよ?――――――あなたがここに残って殺ったのは自分じゃないと弁明すればいい』
「ッ!!」


私は"風の申し子"の懐に入り込み、背中に吊っていたナイフを振るう。
彼女はギリギリのところで避け、入ってきた扉とは反対側の壁にある窓の方へ逃げた。
さすがと言ったところか、警察屋から伊達に逃げ回っていない。思ったよりすばしっこい。

「あっぶな!!ちょっと!!刺さったらどーするのよ!!死んじゃうじゃない!!」
『安心してください、殺しはしません。あなたが自分の潔白を証明できる程度には余裕を持たせます』


私の表情は無表情。
彼女の表情は引きつった笑い。


「……こっわ~。私の口も封じるつもり?さすがは"Fairy"、速いじゃない。お陰でスカーフが切れちゃった。お気に入りだったのに~」
『ご愁傷様です。が、先に仕掛けたのはあなたですから』
「む~、無傷だったくせに~。それに、拳銃じゃなかったの?あなたの道具」
『誰がいつ、そんなこと言いました?拳銃は少なからず音がする。余計な"仕事"には、こっちの方が向いています』
「……ハァ、わかったわ。貴方が殺ったってことは警察屋には黙っとくし、誰にも言わない。だから、見逃してくれない?」
『……別に、私は最初から貴女を殺すつもりなんかありませんでしたから。大人しくしていてくれれば、ですがね』


降参、というように両手を挙げた"風の申し子"を見て、ナイフを収めた。
余計な"仕事"はしたくない。
余計なことをすればするほど、痕跡は残りやすくなる。それは避けたい。
それに、窓からしか採光がないこの暗闇の中、私の顔はろくには見えていないだろうし、彼女が垂れ込んだだけで捕まることは絶対にないと言える自信はある。


「でも、盗みは今回は諦めるわ。私だって命は惜しいし、盗みだってまだまだしたりないし。それに、この男の姿を見て、来る前の気分も晴れたしね。私はこれにて失礼するわ。また逢いましょうね、Bloody Fairyさん」
『できれば、もう二度と会いたくありません』
「せっかくのお仲間なんだし、冷たいこと言わないの~!」


そう言って彼女は私に背を向け、窓に走りより躊躇なく飛び降りた。


『警察屋に追われている仲間なんて嫌ですし、そんなものいりません』


私の言葉は彼女を追い、私自身はそれを追わず、床に突き刺さったままの鉄片に近付き、抜く。
――――――"風の申し子"が残していったタロットカードだ。


『……これは、カードの意味は関係ないんでしょうね。まったく、なにが"Fairy"だ』


私はそのカードを仕事鞄の方に仕舞い、扉からこの部屋を後にする。

閉めた扉が発する音を、どこか遠くで聞いていた。


今日初めて会った女が残していったカード、それは――――――


死神

(取り敢えず、会いたくもないあの男に会いに行く必要ができてしまった。)
(それでもまずは帰りたい。)
(こんな"血塗れた"私を待っていてくれる彼女の元へ――――――)

さっさと帰ってきなさいよ、この

建物から外に出て、空を見上げる。
夜空を覆う雲たちが、風に漂っている。

『寒……』

秋だと思っていたが、認識を改めなければならないみたいだ。
風が冷たい。体が冷えていく。心は――――――

とっくの昔に冷え切っている。

早く帰って暖かいコーヒーが飲みたい。
私はつい今し方出てきた、"仕事"を終えたオフィスビルを後にした。



街灯が少ないレンガ道を歩いて、これまた一段と暗い陰になった道へ入っていく。
見えてきたのは蔦に所々覆われたレンガ造りの小さなマンション。
そこだけ時間に置いていかれたような場所は、私の家でもあり、一番のお気に入りの隠れ家だ。

かなり古いマンションなのだが、私はその雰囲気が好きだった。
おまけに古いこともあって安いし、入っている人も少ない。
                           ポ リ ス
お金に困ることは無いが、商売道具も安くはないし、いつ"警察屋"に見つかるかもわからない身だ。
用心の為に貯めておきたいし、人が少ないというのも見つかりにくいという点ではありがたい。
私にとっては好物件だった。

私はエレベータに乗り込み、自分の部屋がある階のボタンを押す。
このエレベータもかなり古い型で、時々大丈夫かと思うときもある代物だったりする。
チーンという今ではもう聞けないような古いベルの音がして、これまた今ではもう聞けないガラガラという音を残して扉が開く。


私は鍵を取り出し、鍵穴に差し込む。
扉の先はいつも何も見えない闇が広がっていたのに、

「あ、おかえりー」

光と共に、ここにいるはずのない、よく知る声が広がってきた。

『……何でここにいるんですか?』
「何でって、もし何かあったらここに来てもいいって、場所と鍵を渡したのはあなたでしょ」

そう、確かに渡した。
私の職業は"殺し屋"だ。
足がつかないようにはしているが、どこから"警察屋"に嗅ぎ付けられるかわかったもんじゃない。
そしてその目が、唯一といっても過言ではない、私の本名を知る私の友人に向けられる可能性だってゼロではない。
もしもの為にと一番の隠れ家であるここの場所と合鍵を渡しておいたのだ。

『ッ、もしかして"警察屋"にばれたんですか?』
いんや~?ただ近くに用があって、寒かったから避難させてもらっただけ

だから安心しなさい、とのたまった友人に思わず脱力する。

『……そんな理由で、私の隠れ家に来て――――――』
「はいはい、文句は後で聞くから、取敢えずシャワーでも浴びて温まってきなよ。風邪ひくよ?」
『ちょ、ちょっと!』

文句を言うために口を開いたのに、彼女は私の言葉を遮って背中をバスルームへとぐいぐい押していく。
というか、ここ私の家なんですけど。
私は荷物を持ったまま、バスルームに押し込まれてしまった。

『……まったく、一体何なんだか』

私も体を早く温めたいと思っていたし、正しいのかはさて置き、友人のお言葉に甘えてシャワーを浴びることにした。

『と、その前に携帯』

私は携帯の電源を入れた。
仕事の依頼はノートパソコンの方に全部来るのだが、私用は全部携帯に来る。
仕事に感情は持ち込まなし、持ち込めない。
それが命取りになる事だってあるのだ。
だから私は仕事がある日は一日中電源を切っているのだ。

電源が入って少し時間が経つと、携帯が震えた。
……メールと、留守電?
私は先にメールを開いた。

<とっても美味しいケーキ屋さんがあるんだけど、よかったら行かない?ショートケーキも美味しいんだけど、チョコケーキも捨てがたいんだよ~!>

行き成り訪ねてきた、今向こうの部屋にい友人からだ。
送られてきたのは丁度一日前、つまり昨日の夜。
……嗚呼、やっぱり見なくてよかった。

今度は留守電を聞いてみる。
これも同じ人物から。

<何処にいるんだー?……今日は特に冷えるし、さっさと帰ってきなさいよ、この――――――>



馬鹿親友




私はドアに背を預け、留守電を消去するかという携帯からの問いかけに、私は迷うことなくNoと選択した。
こんな私を、"普通に"怒ってくれる人がいたとは。
とっくの昔に冷え切っていた心をいとも簡単に暖められるのは、この先もきっと彼女だけだろう。
そう思うと、何だか笑えてきた。


「――――――そういえば、とっても美味しいケーキたっくさん買ってきたから。今夜はケーキパーティーよ」

人の命を奪う事を仕事にしている私が、こんなこと思ってはいけないとわかっているのに。
私にもまだ人間らしい部分が残っていたらしい。

『――――――わかりました。温まったらすぐに出ますね。美味しいコーヒー煎れてあげます』

扉越しに聞こえてきた声に、扉越しに返事を返す。
聞こえるかどうかは分からなかったが、小さく『ありがとう』と言う言葉も添えることは忘れなかった。
そして「どういたしまして」という、これまた小さい言葉を聞いてから、私は扉から背を離し早く体を温めることにした。





(そうだ!今度買い物行こうよ。私、新しいコート欲しかったんだ~)
(奇遇ですね、私もそろそろコートがいるかと思ってたんですよ)
(なら決まり!私、近くに美味しいパフェがある店知ってるんだ!帰りに寄ろうね!)
(ケーキ食べながらパフェの話しですか。というか、どちらが目的かわかりませんね、それじゃあ。……まぁ、いいですよ)

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