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月灯りの下

闇の世界に差し込む光を追い求めて

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昔も今も、

地面に広がるアカを反射した蒼い瞳は、

冷たさと、

狂気と、

美しさを含んで、

俺を見上げていた。





※長いです
※グロ注意



ブーブブブ ブブブーブ

太陽が地平線という名の布団に収まろうとしているような時刻。
俺のバックにある、壁の代わりにある窓からも夕日が差し込み始めたような時刻。
家のブザーが鳴り響いた。

この鳴り方―――――、これはこれは珍しいお客さんだな。

口角が上がるのを感じながら、俺は読んでいた新聞をデスクの上に放り出した。
そして、その隣に置いてあるインターフォンのボタンを押し、「どーぞ」と答えた。

お得意様には、それぞれブザーの押し方が用意してある。俺が識別するために。
俺はデスクの上に広げてあった資料をまとめて、引き出しの中に滑り込ませる。

コンコン

この部屋にある唯一目に見える扉、そこから響くノック音。

「はいはーい、いいよー」

ガチャリ、と。ノブを回し、ゆっくりと扉が開いていく。

『失礼します』

凛とした声と共に、この部屋に足を踏み込んだ少女。

「やあ。久しぶりだね、殺し屋さん」
『お久しぶりです、――――――情報屋さん』

俺は大袈裟に回転椅子から降り、デスクの隣へ移動する。

「元気そうだね。どう、最近の調子は?」
『見たとおりです。あなたも、恨みをそこらじゅうから買い漁っておきながら、そんな狙撃され易い場所に座っているくせに、元気そうですね』
「この窓のガラス、かなり丈夫なんだよ」

「何?心配してくれてるの?アリガトv」と笑顔で言ったら、

『ドーイタシマシテ』

と、棒読みで返された。
うん、嫌味だってわかってるけどね。何かもうちょっとリアクションしてくれてもいいんじゃない?

『そんなことより、こんな所からさっさと帰りたいので、貴方の生死云々よりも、本題に入らせていただきます。』

……うん、嫌味が軽く3倍になって返ってきた。

『昨夜、仕事を一件、片付けてきました。そこで――――――』
「ああ、それって彼のことじゃない?」

デスクの上に座って、さっき放り出した新聞を広げて彼女に見せる。

「"Abel Lyons(アベル・リヨンズ)氏、殺害。知られざる大企業社長の裏の顔。犯人の特定困難か"。これ、君の仕業でしょ?」
『ええ、そうですよ。しかし、私がしたい話は、』
「で?いい情報はあった?彼、結構裏でも幅利かせてたみたいだから、かなりの豊作だと思うんだよね~」
『ですから、私がしたいのは、』
「いつもはデータだけ送ってくるのに、珍しいとは思ってたんだけど、データで送れないほどの量だった?」
『――――――人の話は最後まで――――――』
「あ、それとも俺に会いたくなっちゃった?それならそうと言ってくれれば――――――」

パスンッ
ダコンッ

『人の話は最後まで聞け』
「……ハーイ」

空を切る音に続いて、頬を掠めた風、そして壁に何かが穴を開ける音。
彼女の手元を見ればわかる、その正体。
いつの間に抜いたんだか、黒光りしているサイレンサー付き小型拳銃が握られている。
俺は降参というように両手を上げ大人しく彼女の話に耳を傾けることにした。
そんな俺に、彼女は溜息を吐いて拳銃を仕舞いながら口を開く。

『先程も言ったように、昨夜、仕事を一件、片付けてきました。そこで貴方よりはマシな、でも不愉快な人に会いました』
「"不愉快な人"?」
『怪盗God-sent child of wind、ご存知ですよね?"風の申し子"』
「ああ、はいはい、あのお姉さんね。会ったんだ」
『ええ。その方に聞いたんですが、"Bloody Fairy"という名前に聞き覚えは?』
「あー……」

聞き覚えがあるもなにも、それは――――――

『ありますよね?私のことを妖精に喩えたのはあなただけです』
「ハイ、そーです。俺が付けました。……でもピッタリだろ?"ケット・シー"って妖精を特にイメージしてるんだけどさ」

ケット・シーとは、猫の妖精。
普段は猫のふりをしており、普通の猫に混じって生活している。
本来が猫なので、自分の気配を消してこっそりと姿を見せずに移動することもできる。
そして、猫を虐待する人間がいると懲らしめたりする。

「普段は君だって"普通の人"やってるんでしょ?でも、悪い人間がいると懲らしめに行く。本性を現して。まるで猫のように、誰にも自分の存在を気付かせないように。――――――ね?いい線いってると思わない?」
『そんなことはどうでもいいです』

彼女の瞳は鋭さを増した。
それはまるで、月の光で蒼い光を帯びたナイフのよう。

『私はあなたに情報を流す、そしてあなたは私の情報を流さない。そういう約束でしたよね?』
「約束、ね」


*          *          *


俺たちが初めて遭ったのは、4年ぐらい前――――――俺が情報屋を始めてまだ間もない、暗雲が漂う満月の綺麗な夜だった。
いい情報は手に入らず、落胆しながらも屋根伝いを移動して俺は帰る途中だった。情報収集中だけでなく、その前後も誰かに見つかるのはあまりよろしくない。
そしてふと、下を走る路地裏に目をやった。

――――――人?

暗くてよく見えないが人型がそこにはあって、俺は足を止めた。
こんな時間に、こんな暗いところに、人。
風が吹き、雲が流され、月が顔を出し、暗い路地裏を照らした。
路地裏の様子がはっきり見えた俺は、息をするのも忘れてしまった。

ペンキを一缶か二缶、ぶちまけた様な真っ赤に染まった路地裏。
そこに一人の少女が倒れ込み、赤い飛沫を上げて赤い海に身を投げた。
それを見ても微動だにせずに、ただ佇んでいる子供が一人。
俺には背中を見せていて、顔は窺えない。

―――――― 一体、何があったんだ?

そして、それは唐突に、でも徐に、佇んでいた人影が動いた。

「――――――」

音は出していない。だって俺は、動けなかったんだから。
それなのに、なんで、

「――――――ッ」

俺は何かに急き立てられるように走り出した。
地面に広がるアカを反射した蒼い瞳が、こちらを見つめていた。


そして、
驚いたのは、その翌日に俺の事務所を彼女が訪れたこと。
彼女がここに来て、開口一番に言った言葉、それが、

『取引しませんか』

その取引の内容が、俺が彼女の情報を流さない代わりに、彼女が仕事場で得てきた情報を俺に流すというもの。
俺はその取引に応じた。
これが、俺と彼女・アイリスとの出遭い。


*          *          *


『話が違います』
「違わないよ。俺は俺の勝手な印象と、これまた俺が勝手に付けた愛称を教えただけ。あんたの素性は全く判らないだろ?」
『貴方が私を見て得た情報を、貴方なりに表現した。私の素性がどうこう関係なく、それは間違いなく私の情報です』
「……」
『今日をもって、取引は無効とさせていただきます』
「……え、アベル・リヨンズの情報は――――――」
『言ったでしょ?取引は"無効"です。"無効"は"取り消し"とは違って、過去に遡ってなかったことになります』
「そんなこと知ってるけど……って、ちょっと!!」

彼女は踵を返し、手を振りながらそそくさと扉へ向かう。
その手には、メモリーカードがつままれていた。
おそらく、あれに今回の情報が入っているのだろう。要するに、見せびらかし。

ないないない!!あのアベル・リヨンズの情報を、こんなところでみすみす逃すなんて、

俺は床を蹴った。
そして、彼女の手がドアノブを握った。

そんなこと、

「させるわけないでしょ?」

俺はアイリスの背中を取った。
右手でドアを押さえ、左腕を彼女の首に回す。
ドアノブに手をやったまま、アイリスは動きを止めた。

「君のことを話したことは、確かに俺に落ち度があった。それは認めるよ。謝るからさ、その情報、俺にくれない?」
『謝るわりには、この仕打ちですか。第一、約束を破ったのはそちらでしょ。何故、私が、あげなければならない?』
「君と交渉するにはこれぐらいしないと。身の安全の確保ってやつだよ。――――――君の目的は殺しで、その副産物として、その情報を手にしている。そして君は情報屋はやっていない。ほら、俺に譲ってくれてもいいじゃない。君に損はないし、それに」

俺は彼女の耳元で囁いた。

「俺とアイリスの仲じゃない」

沈黙が続いた。
そして、

『……そうね』

溜息を吐いた後、アイリスは口を開いた。
手をドアノブから外し、応えるように俺の首に下から腕を回し、俺の頭を包み込む。

え、ちょ、この体勢はヤバイ。
まさかこう来るとは……流石の俺も予想外。

アイリスは、首をこちらへ向けて同じ様に囁いてきた。

『私と貴方の仲、ですから……ね』

その瞬間、
回されていた腕に力が込められ、頭を押さえつけられる。
咄嗟に反応できず、脳が状況を理解したその時には、

「い……ッ」

首筋に痛みが走っていた。
咄嗟に傷む部分を押さえ、彼女から体を離す。が、それでは既に遅かった。
痛みのせいで首に回していた腕の力が緩んだその隙に、勝負はもうついていた。

彼女はその場で小さく跳躍し、目の前の扉のドアノブに足を掛け、跳んでいた。
俺の頭上を通り、背後に降り立つと、振り返ろうとする俺の足を払った。
彼女の動きは速すぎた。
俺は何の反応もできないまま、床に背中を強かに打ちつけた。

「ッ、ガハ」

行き成りの景色の反転についていけなかった脳の情報処理が終わった時、俺の頬擦れ擦れにナイフが振り下ろされた。
俺がはっきり認識したのは皮肉にも、夕日の紅を反射した蒼い瞳。
あの時と真逆で、馬乗りに俺を見下ろしている。

「ケホッ……、まさか、君があんな手を使うとはね」
『どんな手であろうと、最終的にその人間が動かなくなっていれば同じことでしょ?それに、』
「それに?」
『先に手を出してきたのは貴方ですから』
「ハハ、ごもっとも」

頬をツーっと汗が一筋流れた。

「……ハァ、わかった、降参するよ。だから、見逃してくれない?」
『そうですね、貴方との取引は無効、そして金輪際、私の周りを探らないこと。この二つを了承してくださるなら、見逃してあげなくもないですよ』
「あちゃー、探りいれてたのもバレてたの?いつから?」

俺は、彼女が俺の事務所を始めて訪れたあの後から、ちょこちょこ彼女のことを調べ始めた。
だが、情報なんて何一つ存在しなかった。正直、自信喪失したこともあった。その一方で、より彼女にそそられたのも事実で。
しかし、気付かれていたなんて……、けど、彼女なら頷ける。頷けてしまう。

『最初から。気配に敏感な殺し屋に、ちょっかい出すのは頂けませんよ。……いくら"virus"といえども、ね』
「あ~、参ったね~」

ウィルス
virus
その男が情報を手にしようとしたが最後、いつの間にかその情報は犯されており、その情報の持ち主が気付くのは、目に見えたダメージが来た時。
それはまるで、潜伏期間を経て姿を現すウィルスのよう――――――。

これが俺の通り名。

「――――――わかった。俺も命は惜しい。それに、約束破って死にました、なんて洒落にならない」
『そうですか、それは残念。折角、殺す理由が出来たのに』

彼女の瞳は刃物のような鋭さを和らげ、俺の上から退いた。俺もゆっくりと上体を起こす。まだ背中が痛む。
背中を見せナイフを仕舞い、部屋から出て行こうとする彼女の背中に向けて最後に頼んでみる。

「あのさ!情報を譲ってもらうのも、もらうのも諦めるからさ、売ってくれない?君の言い値で買い取るよ」
『お断りします。それに、貴方の欲しい情報は、つい先程塵と化しました』
「……へ?」
『それでは、さようなら、ウィルス。また私の気が向いたら会いましょう』

それだけを言い残し、彼女はこの部屋から出て行った。
俺はおそるおそる、先程まで自分が転がっていた方へと顔を向ける。
俺の顔があったであろう場所のすぐ近くには、鋭利物が刺さった跡と粉々になっている黒いもの、そして、血痕。

「ハハハ……マジ?」

自分の頬を伝う、冷や汗だと思い込んでいた血を拭った。

「いつの間に……。ほんと、油断の隙も無い。あーあ、折角の極上な情報がこっなごな。情報の大切さをわかってないなー、アイリスは」

その場に座ったまま天を仰ぐ。
思い出すのは、ナイフを突き立てられたあの時。
あの時と同じ、紅くて蒼い、刃のような瞳。
フー、と肺からゆっくりと空気を追い出した。

ほんと、昔も今も、


あの瞳に勝てる気がしない。




(さて、これからはどうやって彼女のことを探ろうかな)


+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++



こんばんは、渡月です。


只今小説モドキ強化月間中……!!
更新は遅いですが、この月間はまだ続いております。
そして年を跨いで、まだ続く予定です←
(というか、年内最後の小説モドキがこんな話でよかったんだろうか……;?)

ドラマ「相棒」にはまっているため、今警察ブームです(←何だそりゃ)
なので、今度は刑事たちの話の方を書こうかと思ってます。
そでに、まだ1話しか書いたことないですからorz


さて、今回のお話、ようやく"あの男"が出せました。
情報屋のウィルス。
のらりくらり、飄々、食えない奴、をイメージした、つもり、です……;
ただ、殺し屋さんがあまりにも冷静で、動揺を全く見せないためか調子が狂うというか、
情報屋にとって殺し屋は
「むちゃくちゃちょっかい出したいし、色んな意味で負かしてみたいけど、
その前に違う意味でむちゃくちゃにされちゃうかもしれない存在」といったところです。←
アレです、好きな子ほど意地悪しちゃうタイプです(笑)
そして、殺し屋にとって情報屋は「ひたすら不愉快でウザイ奴」、これは確定ですね←

因みに、こんな感じですが、彼はこれからもちょこちょこ出てくる予定です。


あとは、ちょこっと補足をさせてください。
冒頭部分は、まあ、伏線ということで←
なんてわかりやすい伏線orz

彼の家のブザー音、あれはトンツーを使ってます。
通信用の暗号なんですが、彼女用の音は「BF」を意味してます。
「Bloody Fairy」の「BF」です。
……わかりにくッ!!(←自分で言う!)

そして、妖精ケット・シー。
これは結構迷いました。
最初は結構有名ないい子には何もしないけど、
悪い子にはイタズラするような妖精にしようと思ったんですが、何となく却下。
次に考えたのは、死を予言するとされているバンシーという妖精にしようかと思ったんですが、
恐ろしいほど容姿が全く違うんです。
そして最終的に決まったのが、ケット・シーという妖精です。

これを考えるために、妖精に関する本を読んだんですが、面白かったです。


それでは、ここまで読んでくださってありがとうございました!
そして、今年はお世話になりました!
来年もまだ忙しい日が続くので、更新は親亀が小亀を乗せて、
更にその小亀がひ孫を乗せて歩いたくらい遅いと思います。
なので、どうぞ、気が向いた時、暇な時にでも覗いてやってください。

それでは、よいお年をお過ごしください!
そして、来年もよろしくお願いします!!
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