月灯りの下
闇の世界に差し込む光を追い求めて
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永遠の縁
「はぁ……、も、やだ……」
――この時、オレは知らなかった。
「~♪」
溜息を盛大についた浮かない顔の少年の前から、鼻歌を歌いながら歩いてくる人物がいる。
――オレの身に起きている原因も、
その人物は白いロングコートを身に纏っている。
――彼女との出会いも、
少年もその人物もお互いに意識せずに歩を進める。
そして、
――そして、
少年とその人物はすれ違った。
――オレが見ているこの世界は
「~♪…………ん?」
鼻歌と共にその人物は歩みを止め、振り返る。
――ほんの一部でしかなかったということに……。
少年は歩き続ける。
今し方すれ違った人物が、自分のことを見つめているとも気づかぬまま。
長編小説
――この時、オレは知らなかった。
「~♪」
溜息を盛大についた浮かない顔の少年の前から、鼻歌を歌いながら歩いてくる人物がいる。
――オレの身に起きている原因も、
その人物は白いロングコートを身に纏っている。
――彼女との出会いも、
少年もその人物もお互いに意識せずに歩を進める。
そして、
――そして、
少年とその人物はすれ違った。
――オレが見ているこの世界は
「~♪…………ん?」
鼻歌と共にその人物は歩みを止め、振り返る。
――ほんの一部でしかなかったということに……。
少年は歩き続ける。
今し方すれ違った人物が、自分のことを見つめているとも気づかぬまま。
長編小説
『永遠の縁』
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背伸び
等身大で見る世界と
背伸びして見る世界は
同じようで違う世界で
違うようで同じ世界
見方によっては見え方が変わり
見え方が変わると認識が変わり
認識が変わると見方が変わる
背伸びして見る世界は
あなたの瞳にどう映っていますか?
等身大の世界と背伸びした時の世界
その違いはなんでしょう?
背伸びして見る世界は
同じようで違う世界で
違うようで同じ世界
見方によっては見え方が変わり
見え方が変わると認識が変わり
認識が変わると見方が変わる
背伸びして見る世界は
あなたの瞳にどう映っていますか?
等身大の世界と背伸びした時の世界
その違いはなんでしょう?
16/背伸び
(どうしよう。意味不明だ……;)
只今、年明け捜査中!
「明けましておめでとうございまーす」
『あら、秋木くん、明けましておめでとう。今年もよろしくね』
「こちらこそ、よろしくお願いします……って、うわ!なんスかそれ」
扉から入ってきた男に、振り返って挨拶をした女の前にあるデスクの上には、ダンボール一箱が鎮座していた。
別にそれがおかしいことではない。
仕事柄、ダンボールが部屋中に置かれていたとしても、帰りたくなる気持ちは拭えないが、驚きはしない。
問題は中身。溢れんばかりのお菓子が顔を覗かせている。
『何ってお菓子よ?どっからどう見てもお菓子でしょ?まごう事なきお菓子』
「いやそうじゃなくて!その尋常じゃない量がここにある理由が知りたいんスよ」
『理由?お年玉よ』
「はい?」
『だ~か~ら~、お年玉よ、お年玉!というか、お年玉代わり』
「"お年玉代わり"?」
彼女の話によると、あいさつ回りを行っていたところ、みなさんが「はい、お年玉!」と言ってお菓子を恵んでくれた、とのこと。
「流石、先輩っスね。でも、これは食べきれないんじゃないですか、流石に」
『大丈夫よ。食後のデザートやおやつの時間や夜食や見張りの時なんかに食べるから。……はい、これ。秋木くんの分』
「へ?」
彼女が差し出したのは3本1ケースになったコーヒーの缶。その上には板チョコ3枚が乗っている。
「え?何スか、コレ」
『何って缶コーヒーと板チョコセットよ?どっからどう見ても缶コーヒーと板チョコセットでしょ?まごう事なき缶コーヒーと板チョコセット』
「いやそうじゃなくて!ってか、これさっきと同じ会話!!誰からかって事が知りたいんスよ、俺は!」
『捜三の原さん』
「ってことは、コレ……」
『夜はかなり冷えるから、風邪引かないように対策して行ってね』
「あー、新年早々、3日間の張り込みっスか~」
『3日間で終わるといいわね~』
「……マジっスか」
『マジっスね~』
こうして、年明け早々、特使捜査課の水成詩夢警部と秋木竜志巡査2名に任務が出来たのであった。
「で、本当によかったんスか?事件があった町の方じゃなくて」
『そっちは捜三に任せる』
「それって応援にならないんじゃ……」
『犯人を捕まえれば文句ないだろ』
「そうっスけど、捕まりますかね~」
『捕まえるんだよ』
車を運転している男・秋木とその助手席に座る女・水成は、隣町の夜をドライブしていた。
もちろん、ただドライブしているわけではない。
"捜三"は"捜査三課"の略称で、空き巣・ひったくり・忍び込み・盗難などを扱う課である。
そして"原さん"とは、その捜査三課の中の窃盗捜査を行う第4係の原幹警視のことである。
そしてそして、この2人はその"捜三"の"原さん"に、賽銭泥棒捜査の応援を頼まれたのである。
昨日、町内で発生した賽銭泥棒。
手際がよかったのか、神主が物音を聞いて即行駆けつけたものの、時既に遅し状態。
賽銭箱には傷ひとつなく、鍵だけが綺麗に壊されていた。
おかげで手がかりはほとんどなし。
おまけにこの時期である。賽銭泥棒なんてゴロゴロ出没していたりするわけで、この2人に応援依頼が来たわけなのである。
『それにしても、新年早々、意地汚くも人様が自己満足のために捧げた金銭をくすねるなんて、嘆かわしいねぇ』
「先輩、外でそういった発言は控えてくださいね。"自己満足"なんて言ったら睨まれますよ」
『そうは言っても、神様なんて信じてないから、自己満足にしか見えないんだよ』
「まあ、わからんくもないですが、誠意を込めてる人は込めてますから」
『……ん、それもそうだ。以後気を付ける』
「はい」
会話がちょうど終わった時、車がひとつの神社の前で止まった。
水成は助手席から降り立つ。
『じゃ、これから秋木はこの町の神社見回ってから、さっき言ってた神社へ向かってくれ。車の中で張り込んでてもいいが、バレるなよ』
「了解っス。先輩こそ、気をつけてくださいよ」
『私に心配は無用だろ?』
「いえ、賽銭ドロをボコボコにし過ぎないように……」
『そっちの心配か!!』
水成は助手席のドアを思い切り閉めると、神社の鳥居をくぐって行った。
「あー、寒ぃな~、オイ」
現在、秋木は町内の神社に異常がないか見回ってから、水成に指定された神社の前に車を止めて張り込んでいた。
もちろん車のエンジンは止められており、車内はすっかり冷え込んでいた。
今はあらかじめ温めておいた、依頼料のような差し入れ缶コーヒーをすすって耐えている。
カイロも貼ってあるが、あまり意味を感じられていない。
「ほんとにここでいいのかな~」
"出る可能性が高い神社はこの2箇所。だから秋木はこっち、私はこっちに張り込むから。あ、カイロは忘れずに買っておけよ"
「つうか、張り込み初日で出るのか?」
その後、どれだけ経っただろうか。
鳥居をくぐる人影がひとつ。しかも、大きな鞄を背負っている。
が、まだ賽銭泥棒かは分からない。
秋木は車から音を立てないように降り、賽銭箱が見える場所にある茂みに隠れた。
相手は男。しかもどう見ても、参拝している動きではない。
賽銭箱をがさごそやっている。
秋木は確信を持って、茂みの中から出て行った。
「ちょっと、お兄さん」
「!!」
「何やってんの、そんなことして」
「あ」
男の手には定規のような長い棒。そして、提示した警察手帳を見て固まった。
「ちょっと署まで――――――」
「くっそ……!!」
「はい、逃げない逃げないー」
走り出そうとした男の行動は予想済み。
秋木は刑事らしい動きですぐに腕を捕り、その場にねじ伏せた。
「はい、窃盗の現行犯で逮捕します」
手錠をかけた途端、男はその音を聞いて完全に戦意喪失したらしい。
その後は、ちゃんと言うことを聞いて車に乗り込んでくれた。
そんな中、秋木は少し引っかかるものを感じていた。
「秋木です。先輩、ホシ確保しました」
秋木は車内で先輩である水成に報告を入れていた。
"ホシ?"
「ええ。というか、先輩。何で電話出なかったんスか?さっきから何度もかけてたのに」
"ということは、そっちにも出たのか、罰当たりが"
「そっちにもって?」
"……そっちの手口は?"
「え?そんなん聞いてどうするつもりっスか?」
"いいから答える!"
「ハイ!!えっと、賽銭箱の口に定規みたいな棒を突っ込むという、昔から見られる手口です!!」
"じゃあ、やっぱり気付かないお前がバカなんだ"
折角、賽銭泥棒を捕まえたのに、この言われようは酷くないか?
恐ろしくて、そんなこと口にはできないが、少しぐらい労ってくれてもいいのではないか?
褒めてもらえるのではと淡い期待を抱いていた秋木の願望は、音を立てて派手に崩れ去った。
"今回追っていた奴の手口を思い出せ"
「確か、鍵を壊されて……、あ」
秋木は、先程感じた引っかかりの原因をはっきりとここで認識した。
"気付いたか。ちなみに、今回追っていたホシは、こちらで確保した。至急車を回せ。寒い"
「へ?先輩の方にも出たんですか?」
"ああ。流石は正月といったところか。原さんにはこちらから連絡を入れておく"
「あの、大丈夫なんスか?」
"……何がだ?"
「犯人、死んでません?」
"またそれか!!"
"下らんこと言っているヒマがあったらさっさと車を回せ、バカ木!!"と言って電話は切れた。
「……悪いけど、もう2人拾ってくから」
後ろの席に座っている先程捕まえた男に声をかけ、車を発進させた。
『誰が1人と言った?』
「……ごもっともで」
秋木が水成と別れた神社へ向かうと、水成は2人の男を従えて立っていた。
予想にもしていなかったので、「何で2人?」と言ったところ、上の会話が生まれた。
今、運転席には秋木、助手席には水成が捕まえた男のうちの1人。
そして、後部座席には秋木が捕まえた男、水成、水成が捕まえたもう一人の男と座っていた。
「ところで先輩、何でわかったんスか?あそこの2つの神社が怪しいって」
『ん?ああ、わかったというか、勘だよ、勘』
「は?」
『勘と言っても、全てが勘というわけじゃないぞ?警察って言うのは、事件が起こると極限られた、その周辺地域しか見回らないものだ。そして今回の犯人は、かなり手馴れている。なんせ神社の人間に最後まで気付かれなかったんだからな。おそらく、初めてではないのだろう。となると、警察の動きも大体わかる。見回り範囲とかな。手馴れた賽銭泥棒は、今が稼ぎ時だから捕まらない自身がある以上、またやらかす可能性は高い。だから、次に出るとしたら、警察の行動範囲外。……ここからが勘なんだが、そこで、範囲外から一番離れた神社と、ギリギリ範囲外の神社に張込んだと言うわけだ』
「「「………」」」
「いや~、さすが先輩。今回も鮮やかで」
犯人達は長い説明に絶句。
秋木は、「勘と聞いたときにはドキッとしたが、やっぱりこの人は考えてる」と、少し感動を覚えていた。
『しかし、両方にかかるとは思ってもみなかった』
秋木が捕まえた男は、今回は初犯らしい。
まあ、長い棒にガムテープ巻きつけて引っ掻き回すあたり、ベタベタの素人なのは明白だったが。
「賽銭泥棒にしては大漁っスね」
『それにしても、一回の張り込みで捕まえられたのは運がよかった』
「今年の運、使い果たしたんじゃないっスか?先輩」
『よくも縁起悪いこと言ってくれるな、お前は。しかも私だけのか』
水成は運転席の背凭れを蹴りつけた。
この地味に痛い攻撃を受け、「手錠してなかったらガラの悪さじゃどっちが犯人だかわからない気がする」。
そんなこと、言ったらどうなるかわかったもんじゃないから、やっぱり秋木は口には出さない。ヘタレである。
『……帰ったら、お年玉でもらった合格祈願印の菓子でも食べるか』
「あれ、信じてないんじゃないんでしたっけ?」
『神を信じるか否かとは話が別。験担ぎだ、験担ぎ。これは案外大事なんだぞ?』
「さいですか」
5人が乗った車は、本庁に向け、夜の街を駆け抜けた。
『あら、秋木くん、明けましておめでとう。今年もよろしくね』
「こちらこそ、よろしくお願いします……って、うわ!なんスかそれ」
扉から入ってきた男に、振り返って挨拶をした女の前にあるデスクの上には、ダンボール一箱が鎮座していた。
別にそれがおかしいことではない。
仕事柄、ダンボールが部屋中に置かれていたとしても、帰りたくなる気持ちは拭えないが、驚きはしない。
問題は中身。溢れんばかりのお菓子が顔を覗かせている。
『何ってお菓子よ?どっからどう見てもお菓子でしょ?まごう事なきお菓子』
「いやそうじゃなくて!その尋常じゃない量がここにある理由が知りたいんスよ」
『理由?お年玉よ』
「はい?」
『だ~か~ら~、お年玉よ、お年玉!というか、お年玉代わり』
「"お年玉代わり"?」
彼女の話によると、あいさつ回りを行っていたところ、みなさんが「はい、お年玉!」と言ってお菓子を恵んでくれた、とのこと。
「流石、先輩っスね。でも、これは食べきれないんじゃないですか、流石に」
『大丈夫よ。食後のデザートやおやつの時間や夜食や見張りの時なんかに食べるから。……はい、これ。秋木くんの分』
「へ?」
彼女が差し出したのは3本1ケースになったコーヒーの缶。その上には板チョコ3枚が乗っている。
「え?何スか、コレ」
『何って缶コーヒーと板チョコセットよ?どっからどう見ても缶コーヒーと板チョコセットでしょ?まごう事なき缶コーヒーと板チョコセット』
「いやそうじゃなくて!ってか、これさっきと同じ会話!!誰からかって事が知りたいんスよ、俺は!」
『捜三の原さん』
「ってことは、コレ……」
『夜はかなり冷えるから、風邪引かないように対策して行ってね』
「あー、新年早々、3日間の張り込みっスか~」
『3日間で終わるといいわね~』
「……マジっスか」
『マジっスね~』
こうして、年明け早々、特使捜査課の水成詩夢警部と秋木竜志巡査2名に任務が出来たのであった。
「で、本当によかったんスか?事件があった町の方じゃなくて」
『そっちは捜三に任せる』
「それって応援にならないんじゃ……」
『犯人を捕まえれば文句ないだろ』
「そうっスけど、捕まりますかね~」
『捕まえるんだよ』
車を運転している男・秋木とその助手席に座る女・水成は、隣町の夜をドライブしていた。
もちろん、ただドライブしているわけではない。
"捜三"は"捜査三課"の略称で、空き巣・ひったくり・忍び込み・盗難などを扱う課である。
そして"原さん"とは、その捜査三課の中の窃盗捜査を行う第4係の原幹警視のことである。
そしてそして、この2人はその"捜三"の"原さん"に、賽銭泥棒捜査の応援を頼まれたのである。
昨日、町内で発生した賽銭泥棒。
手際がよかったのか、神主が物音を聞いて即行駆けつけたものの、時既に遅し状態。
賽銭箱には傷ひとつなく、鍵だけが綺麗に壊されていた。
おかげで手がかりはほとんどなし。
おまけにこの時期である。賽銭泥棒なんてゴロゴロ出没していたりするわけで、この2人に応援依頼が来たわけなのである。
『それにしても、新年早々、意地汚くも人様が自己満足のために捧げた金銭をくすねるなんて、嘆かわしいねぇ』
「先輩、外でそういった発言は控えてくださいね。"自己満足"なんて言ったら睨まれますよ」
『そうは言っても、神様なんて信じてないから、自己満足にしか見えないんだよ』
「まあ、わからんくもないですが、誠意を込めてる人は込めてますから」
『……ん、それもそうだ。以後気を付ける』
「はい」
会話がちょうど終わった時、車がひとつの神社の前で止まった。
水成は助手席から降り立つ。
『じゃ、これから秋木はこの町の神社見回ってから、さっき言ってた神社へ向かってくれ。車の中で張り込んでてもいいが、バレるなよ』
「了解っス。先輩こそ、気をつけてくださいよ」
『私に心配は無用だろ?』
「いえ、賽銭ドロをボコボコにし過ぎないように……」
『そっちの心配か!!』
水成は助手席のドアを思い切り閉めると、神社の鳥居をくぐって行った。
* * *
「あー、寒ぃな~、オイ」
現在、秋木は町内の神社に異常がないか見回ってから、水成に指定された神社の前に車を止めて張り込んでいた。
もちろん車のエンジンは止められており、車内はすっかり冷え込んでいた。
今はあらかじめ温めておいた、依頼料のような差し入れ缶コーヒーをすすって耐えている。
カイロも貼ってあるが、あまり意味を感じられていない。
「ほんとにここでいいのかな~」
"出る可能性が高い神社はこの2箇所。だから秋木はこっち、私はこっちに張り込むから。あ、カイロは忘れずに買っておけよ"
「つうか、張り込み初日で出るのか?」
その後、どれだけ経っただろうか。
鳥居をくぐる人影がひとつ。しかも、大きな鞄を背負っている。
が、まだ賽銭泥棒かは分からない。
秋木は車から音を立てないように降り、賽銭箱が見える場所にある茂みに隠れた。
相手は男。しかもどう見ても、参拝している動きではない。
賽銭箱をがさごそやっている。
秋木は確信を持って、茂みの中から出て行った。
「ちょっと、お兄さん」
「!!」
「何やってんの、そんなことして」
「あ」
男の手には定規のような長い棒。そして、提示した警察手帳を見て固まった。
「ちょっと署まで――――――」
「くっそ……!!」
「はい、逃げない逃げないー」
走り出そうとした男の行動は予想済み。
秋木は刑事らしい動きですぐに腕を捕り、その場にねじ伏せた。
「はい、窃盗の現行犯で逮捕します」
手錠をかけた途端、男はその音を聞いて完全に戦意喪失したらしい。
その後は、ちゃんと言うことを聞いて車に乗り込んでくれた。
そんな中、秋木は少し引っかかるものを感じていた。
* * *
「秋木です。先輩、ホシ確保しました」
秋木は車内で先輩である水成に報告を入れていた。
"ホシ?"
「ええ。というか、先輩。何で電話出なかったんスか?さっきから何度もかけてたのに」
"ということは、そっちにも出たのか、罰当たりが"
「そっちにもって?」
"……そっちの手口は?"
「え?そんなん聞いてどうするつもりっスか?」
"いいから答える!"
「ハイ!!えっと、賽銭箱の口に定規みたいな棒を突っ込むという、昔から見られる手口です!!」
"じゃあ、やっぱり気付かないお前がバカなんだ"
折角、賽銭泥棒を捕まえたのに、この言われようは酷くないか?
恐ろしくて、そんなこと口にはできないが、少しぐらい労ってくれてもいいのではないか?
褒めてもらえるのではと淡い期待を抱いていた秋木の願望は、音を立てて派手に崩れ去った。
"今回追っていた奴の手口を思い出せ"
「確か、鍵を壊されて……、あ」
秋木は、先程感じた引っかかりの原因をはっきりとここで認識した。
"気付いたか。ちなみに、今回追っていたホシは、こちらで確保した。至急車を回せ。寒い"
「へ?先輩の方にも出たんですか?」
"ああ。流石は正月といったところか。原さんにはこちらから連絡を入れておく"
「あの、大丈夫なんスか?」
"……何がだ?"
「犯人、死んでません?」
"またそれか!!"
"下らんこと言っているヒマがあったらさっさと車を回せ、バカ木!!"と言って電話は切れた。
「……悪いけど、もう2人拾ってくから」
後ろの席に座っている先程捕まえた男に声をかけ、車を発進させた。
* * *
『誰が1人と言った?』
「……ごもっともで」
秋木が水成と別れた神社へ向かうと、水成は2人の男を従えて立っていた。
予想にもしていなかったので、「何で2人?」と言ったところ、上の会話が生まれた。
今、運転席には秋木、助手席には水成が捕まえた男のうちの1人。
そして、後部座席には秋木が捕まえた男、水成、水成が捕まえたもう一人の男と座っていた。
「ところで先輩、何でわかったんスか?あそこの2つの神社が怪しいって」
『ん?ああ、わかったというか、勘だよ、勘』
「は?」
『勘と言っても、全てが勘というわけじゃないぞ?警察って言うのは、事件が起こると極限られた、その周辺地域しか見回らないものだ。そして今回の犯人は、かなり手馴れている。なんせ神社の人間に最後まで気付かれなかったんだからな。おそらく、初めてではないのだろう。となると、警察の動きも大体わかる。見回り範囲とかな。手馴れた賽銭泥棒は、今が稼ぎ時だから捕まらない自身がある以上、またやらかす可能性は高い。だから、次に出るとしたら、警察の行動範囲外。……ここからが勘なんだが、そこで、範囲外から一番離れた神社と、ギリギリ範囲外の神社に張込んだと言うわけだ』
「「「………」」」
「いや~、さすが先輩。今回も鮮やかで」
犯人達は長い説明に絶句。
秋木は、「勘と聞いたときにはドキッとしたが、やっぱりこの人は考えてる」と、少し感動を覚えていた。
『しかし、両方にかかるとは思ってもみなかった』
秋木が捕まえた男は、今回は初犯らしい。
まあ、長い棒にガムテープ巻きつけて引っ掻き回すあたり、ベタベタの素人なのは明白だったが。
「賽銭泥棒にしては大漁っスね」
『それにしても、一回の張り込みで捕まえられたのは運がよかった』
「今年の運、使い果たしたんじゃないっスか?先輩」
『よくも縁起悪いこと言ってくれるな、お前は。しかも私だけのか』
水成は運転席の背凭れを蹴りつけた。
この地味に痛い攻撃を受け、「手錠してなかったらガラの悪さじゃどっちが犯人だかわからない気がする」。
そんなこと、言ったらどうなるかわかったもんじゃないから、やっぱり秋木は口には出さない。ヘタレである。
『……帰ったら、お年玉でもらった合格祈願印の菓子でも食べるか』
「あれ、信じてないんじゃないんでしたっけ?」
『神を信じるか否かとは話が別。験担ぎだ、験担ぎ。これは案外大事なんだぞ?』
「さいですか」
5人が乗った車は、本庁に向け、夜の街を駆け抜けた。
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