月灯りの下
闇の世界に差し込む光を追い求めて
[14] [15] [16] [17] [18] [19] [20] [21] [22] [23] [24]
[PR]
×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
さっさと帰ってきなさいよ、この
建物から外に出て、空を見上げる。
夜空を覆う雲たちが、風に漂っている。
『寒……』
秋だと思っていたが、認識を改めなければならないみたいだ。
風が冷たい。体が冷えていく。心は――――――
とっくの昔に冷え切っている。
早く帰って暖かいコーヒーが飲みたい。
私はつい今し方出てきた、"仕事"を終えたオフィスビルを後にした。
街灯が少ないレンガ道を歩いて、これまた一段と暗い陰になった道へ入っていく。
見えてきたのは蔦に所々覆われたレンガ造りの小さなマンション。
そこだけ時間に置いていかれたような場所は、私の家でもあり、一番のお気に入りの隠れ家だ。
かなり古いマンションなのだが、私はその雰囲気が好きだった。
おまけに古いこともあって安いし、入っている人も少ない。
ポ リ ス
お金に困ることは無いが、商売道具も安くはないし、いつ"警察屋"に見つかるかもわからない身だ。
用心の為に貯めておきたいし、人が少ないというのも見つかりにくいという点ではありがたい。
私にとっては好物件だった。
私はエレベータに乗り込み、自分の部屋がある階のボタンを押す。
このエレベータもかなり古い型で、時々大丈夫かと思うときもある代物だったりする。
チーンという今ではもう聞けないような古いベルの音がして、これまた今ではもう聞けないガラガラという音を残して扉が開く。
私は鍵を取り出し、鍵穴に差し込む。
扉の先はいつも何も見えない闇が広がっていたのに、
「あ、おかえりー」
光と共に、ここにいるはずのない、よく知る声が広がってきた。
『……何でここにいるんですか?』
「何でって、もし何かあったらここに来てもいいって、場所と鍵を渡したのはあなたでしょ」
そう、確かに渡した。
私の職業は"殺し屋"だ。
足がつかないようにはしているが、どこから"警察屋"に嗅ぎ付けられるかわかったもんじゃない。
そしてその目が、唯一といっても過言ではない、私の本名を知る私の友人に向けられる可能性だってゼロではない。
もしもの為にと一番の隠れ家であるここの場所と合鍵を渡しておいたのだ。
『ッ、もしかして"警察屋"にばれたんですか?』
「いんや~?ただ近くに用があって、寒かったから避難させてもらっただけ」
だから安心しなさい、とのたまった友人に思わず脱力する。
『……そんな理由で、私の隠れ家に来て――――――』
「はいはい、文句は後で聞くから、取敢えずシャワーでも浴びて温まってきなよ。風邪ひくよ?」
『ちょ、ちょっと!』
文句を言うために口を開いたのに、彼女は私の言葉を遮って背中をバスルームへとぐいぐい押していく。
というか、ここ私の家なんですけど。
私は荷物を持ったまま、バスルームに押し込まれてしまった。
『……まったく、一体何なんだか』
私も体を早く温めたいと思っていたし、正しいのかはさて置き、友人のお言葉に甘えてシャワーを浴びることにした。
『と、その前に携帯』
私は携帯の電源を入れた。
仕事の依頼はノートパソコンの方に全部来るのだが、私用は全部携帯に来る。
仕事に感情は持ち込まなし、持ち込めない。
それが命取りになる事だってあるのだ。
だから私は仕事がある日は一日中電源を切っているのだ。
電源が入って少し時間が経つと、携帯が震えた。
……メールと、留守電?
私は先にメールを開いた。
<とっても美味しいケーキ屋さんがあるんだけど、よかったら行かない?ショートケーキも美味しいんだけど、チョコケーキも捨てがたいんだよ~!>
行き成り訪ねてきた、今向こうの部屋にい友人からだ。
送られてきたのは丁度一日前、つまり昨日の夜。
……嗚呼、やっぱり見なくてよかった。
今度は留守電を聞いてみる。
これも同じ人物から。
<何処にいるんだー?……今日は特に冷えるし、さっさと帰ってきなさいよ、この――――――>
私はドアに背を預け、留守電を消去するかという携帯からの問いかけに、私は迷うことなくNoと選択した。
こんな私を、"普通に"怒ってくれる人がいたとは。
とっくの昔に冷え切っていた心をいとも簡単に暖められるのは、この先もきっと彼女だけだろう。
そう思うと、何だか笑えてきた。
「――――――そういえば、とっても美味しいケーキたっくさん買ってきたから。今夜はケーキパーティーよ」
人の命を奪う事を仕事にしている私が、こんなこと思ってはいけないとわかっているのに。
私にもまだ人間らしい部分が残っていたらしい。
『――――――わかりました。温まったらすぐに出ますね。美味しいコーヒー煎れてあげます』
扉越しに聞こえてきた声に、扉越しに返事を返す。
聞こえるかどうかは分からなかったが、小さく『ありがとう』と言う言葉も添えることは忘れなかった。
そして「どういたしまして」という、これまた小さい言葉を聞いてから、私は扉から背を離し早く体を温めることにした。
(そうだ!今度買い物行こうよ。私、新しいコート欲しかったんだ~)
(奇遇ですね、私もそろそろコートがいるかと思ってたんですよ)
(なら決まり!私、近くに美味しいパフェがある店知ってるんだ!帰りに寄ろうね!)
(ケーキ食べながらパフェの話しですか。というか、どちらが目的かわかりませんね、それじゃあ。……まぁ、いいですよ)
夜空を覆う雲たちが、風に漂っている。
『寒……』
秋だと思っていたが、認識を改めなければならないみたいだ。
風が冷たい。体が冷えていく。心は――――――
とっくの昔に冷え切っている。
早く帰って暖かいコーヒーが飲みたい。
私はつい今し方出てきた、"仕事"を終えたオフィスビルを後にした。
街灯が少ないレンガ道を歩いて、これまた一段と暗い陰になった道へ入っていく。
見えてきたのは蔦に所々覆われたレンガ造りの小さなマンション。
そこだけ時間に置いていかれたような場所は、私の家でもあり、一番のお気に入りの隠れ家だ。
かなり古いマンションなのだが、私はその雰囲気が好きだった。
おまけに古いこともあって安いし、入っている人も少ない。
ポ リ ス
お金に困ることは無いが、商売道具も安くはないし、いつ"警察屋"に見つかるかもわからない身だ。
用心の為に貯めておきたいし、人が少ないというのも見つかりにくいという点ではありがたい。
私にとっては好物件だった。
私はエレベータに乗り込み、自分の部屋がある階のボタンを押す。
このエレベータもかなり古い型で、時々大丈夫かと思うときもある代物だったりする。
チーンという今ではもう聞けないような古いベルの音がして、これまた今ではもう聞けないガラガラという音を残して扉が開く。
私は鍵を取り出し、鍵穴に差し込む。
扉の先はいつも何も見えない闇が広がっていたのに、
「あ、おかえりー」
光と共に、ここにいるはずのない、よく知る声が広がってきた。
『……何でここにいるんですか?』
「何でって、もし何かあったらここに来てもいいって、場所と鍵を渡したのはあなたでしょ」
そう、確かに渡した。
私の職業は"殺し屋"だ。
足がつかないようにはしているが、どこから"警察屋"に嗅ぎ付けられるかわかったもんじゃない。
そしてその目が、唯一といっても過言ではない、私の本名を知る私の友人に向けられる可能性だってゼロではない。
もしもの為にと一番の隠れ家であるここの場所と合鍵を渡しておいたのだ。
『ッ、もしかして"警察屋"にばれたんですか?』
「いんや~?ただ近くに用があって、寒かったから避難させてもらっただけ」
だから安心しなさい、とのたまった友人に思わず脱力する。
『……そんな理由で、私の隠れ家に来て――――――』
「はいはい、文句は後で聞くから、取敢えずシャワーでも浴びて温まってきなよ。風邪ひくよ?」
『ちょ、ちょっと!』
文句を言うために口を開いたのに、彼女は私の言葉を遮って背中をバスルームへとぐいぐい押していく。
というか、ここ私の家なんですけど。
私は荷物を持ったまま、バスルームに押し込まれてしまった。
『……まったく、一体何なんだか』
私も体を早く温めたいと思っていたし、正しいのかはさて置き、友人のお言葉に甘えてシャワーを浴びることにした。
『と、その前に携帯』
私は携帯の電源を入れた。
仕事の依頼はノートパソコンの方に全部来るのだが、私用は全部携帯に来る。
仕事に感情は持ち込まなし、持ち込めない。
それが命取りになる事だってあるのだ。
だから私は仕事がある日は一日中電源を切っているのだ。
電源が入って少し時間が経つと、携帯が震えた。
……メールと、留守電?
私は先にメールを開いた。
<とっても美味しいケーキ屋さんがあるんだけど、よかったら行かない?ショートケーキも美味しいんだけど、チョコケーキも捨てがたいんだよ~!>
行き成り訪ねてきた、今向こうの部屋にい友人からだ。
送られてきたのは丁度一日前、つまり昨日の夜。
……嗚呼、やっぱり見なくてよかった。
今度は留守電を聞いてみる。
これも同じ人物から。
<何処にいるんだー?……今日は特に冷えるし、さっさと帰ってきなさいよ、この――――――>
馬鹿親友
私はドアに背を預け、留守電を消去するかという携帯からの問いかけに、私は迷うことなくNoと選択した。
こんな私を、"普通に"怒ってくれる人がいたとは。
とっくの昔に冷え切っていた心をいとも簡単に暖められるのは、この先もきっと彼女だけだろう。
そう思うと、何だか笑えてきた。
「――――――そういえば、とっても美味しいケーキたっくさん買ってきたから。今夜はケーキパーティーよ」
人の命を奪う事を仕事にしている私が、こんなこと思ってはいけないとわかっているのに。
私にもまだ人間らしい部分が残っていたらしい。
『――――――わかりました。温まったらすぐに出ますね。美味しいコーヒー煎れてあげます』
扉越しに聞こえてきた声に、扉越しに返事を返す。
聞こえるかどうかは分からなかったが、小さく『ありがとう』と言う言葉も添えることは忘れなかった。
そして「どういたしまして」という、これまた小さい言葉を聞いてから、私は扉から背を離し早く体を温めることにした。
(そうだ!今度買い物行こうよ。私、新しいコート欲しかったんだ~)
(奇遇ですね、私もそろそろコートがいるかと思ってたんですよ)
(なら決まり!私、近くに美味しいパフェがある店知ってるんだ!帰りに寄ろうね!)
(ケーキ食べながらパフェの話しですか。というか、どちらが目的かわかりませんね、それじゃあ。……まぁ、いいですよ)
PR
下克上
足掻いて足掻いて、必死に努力している者を笑い、
高みで見物を決め込んでいる者よ
そこでそうやって蔑んでいるがいい
俺の努力は俺だけのものだ
誰にも笑わせない
笑っている奴は笑っていればいい
そういう余裕を見せてると、一気に下に堕ちるんだ
――――――いいや、絶対堕としてやるよ
地獄まで真っ逆さまにな
(進化をやめれば退化しかない)
(その身によーく、痛いほど刻んでやるよ)
高みで見物を決め込んでいる者よ
そこでそうやって蔑んでいるがいい
俺の努力は俺だけのものだ
誰にも笑わせない
笑っている奴は笑っていればいい
そういう余裕を見せてると、一気に下に堕ちるんだ
――――――いいや、絶対堕としてやるよ
地獄まで真っ逆さまにな
(進化をやめれば退化しかない)
(その身によーく、痛いほど刻んでやるよ)
幸せの大きさ
『幸せ』って何だろう?
僕にはそれが分からなくて、
『幸せ』なんて、考えたこともなかった。
でも、君に逢って、少し変わった。
君が笑っているのを見ると、暖かい気持ちになる。
君が『幸せ』って言うと、僕も満たされた気持ちになる。
これが『幸せ』?
君が『幸せ』なら、僕も『幸せ』みたい。
なら僕は、『幸せ』はいらない。
君に全部あげるよ。
僕は君からもらう小さな『幸せ』だけでいいんだ。
――――――そう思ってた、はずなのに。
僕は気付いてしまったんだ。
君の笑顔が僕に向いている方が、暖かい気持ちになることに。
君が『幸せ』って僕に言ってくれる方が、満たされた気持ちになるって。
気付いてしまった先は、人間貪欲になっていけないね。
僕は小さな『幸せ』じゃなくて、大きな『幸せ』がほしくなってしまったんだ。
君に言ったら、笑ってこう言ってくれたんだ。
僕にはそれが分からなくて、
『幸せ』なんて、考えたこともなかった。
でも、君に逢って、少し変わった。
君が笑っているのを見ると、暖かい気持ちになる。
君が『幸せ』って言うと、僕も満たされた気持ちになる。
これが『幸せ』?
君が『幸せ』なら、僕も『幸せ』みたい。
なら僕は、『幸せ』はいらない。
君に全部あげるよ。
僕は君からもらう小さな『幸せ』だけでいいんだ。
――――――そう思ってた、はずなのに。
僕は気付いてしまったんだ。
君の笑顔が僕に向いている方が、暖かい気持ちになることに。
君が『幸せ』って僕に言ってくれる方が、満たされた気持ちになるって。
気付いてしまった先は、人間貪欲になっていけないね。
僕は小さな『幸せ』じゃなくて、大きな『幸せ』がほしくなってしまったんだ。
君に言ったら、笑ってこう言ってくれたんだ。
お題02「11/幸せの大きさ」
「それじゃあ、二人の『幸せ』を足せば、もっと大きな『幸せ』になるね」
光の中へ
<今何処にいるの?>
そんなの、こっちが訊きたい。
『知らない。今適当に歩き回ってるから、いつかは着くだろ』
<いつかっていつだよ。今迎えに行くから、何か周りにある建物とか教えてよ>
嗚呼もう、イライラする。
『いらないよ、餓鬼じゃあるまいし。待てないなら帰っていいよ』
<そんなこと出来るわけないじゃないか!>
『ンなこと言われたって、」
「この餓鬼がーッ!!」
俺の言葉を途中で遮った、背後からした声に振り向くと、俺の目の前は真っ暗になった。
『――――――ったく弱い奴が突っ掛かって来るなよな』
俺が腰を下ろすと、俗に言う"蛙を押しつぶしたような声"がしたが、気にしない。
どちらかと言うと、地面に直接腰を下ろす方を気にする。
俺はポケットから懐中時計を引っ張り出す。
『もうこんな時間か……今日はもう会えない、かな』
それもこれも、こいつらのせいだ。
俺は俺なりに、頑張って待ち合わせ場所を目指していたのに。
こういうやつらは強い奴には頭を垂れ、弱い奴らには容赦ない。
それは賢い生き方なのかもしれないけど、俺には虫唾が走るような生き方だ。
だからこそ、こんなにも不器用な生き方しか出来ない。
本当に、俺はまた、こんなところでなにをやっているんだか。
俺は薄っすら赤みを帯びている空を見上げてため息を付いた。
「あ、こんなところにいた!」
顔を戻すと、そこには待ち合わせしていた相手。
何で、こんなところに……?
『……お前、こんなところでなにやってるんだよ』
「あのね!それはこっちの台詞!それに君は一体何に座ってるの!?」
『何って……人』
俺は自分の座っているものを確認してから言った。
俺が喧嘩を売ったのか、それとも俺が喧嘩を買ったのか。
そこら辺はよく分からないが、その内の2人の男を積んで椅子代わりにしている。
待ち合わせ人は地面で寝てい男を跨いで俺に近付いてきた。
「そんなことは見ればわかるよ……ほら、早くここを出よう」
自分が訊いてきたくせに、勝手なことを言うもんだ。
俺の手を引っ張って立ち上がらせると、そのまま来た道を戻っていく。
もちろん、男たちを跨いで。
「……ッ、ンの餓鬼がァッ!!」
跨いだ内の一人が気が付いたらしい。
俺の背後から拳を振るう。
右手を掴まれたままの俺は右足を軸に左足で空を切った。
「ブ……ッ」
俺の足は男の顔半分に直撃した。
『「…………」』
だが、男の顔の残りの半分には拳がめり込んでいる。
男がぶっ倒れる中、俺と俺の手を掴んだままの男は、無言で見つめ合った。
「……行こうか」
そして何事も無かったように俺の手を引いて歩き出す。
そんな背中に、俺は思ったことを訊いてみた。
『珍しいな、お前が手を出すなんて。俺、久しぶりに見た』
「……そりゃね、君に手を上げようとするからさ、ついね」
正当防衛だよ、正当防衛、とぶつぶつ呪文のように呟きがらも歩き続ける。
『……別に、俺は平気だけど』
現に俺の蹴りは当たってたんだ。
この男の助けがなくても怪我することもなかっただろう。
第一、負かして時間がさほど経っていない奴に負ける気はしない。
「そうかもしれないけど、君だって女の子なんだし。それに―――――僕が嫌だったから」
――――――嗚呼、本当にこいつは。
何気なく、本当に、何気なく。
俺を光ある方へと連れて行ってくれるんだな。
嗚呼、そうか。
こいつ
俺は思い通りに行かなくてイライラしていたんじゃなくて、光のところへ行けずにイライラしていたのかもしれない。
俺たちは薄暗い路地裏から人通りがある道へと出た。
「……あ!お姉ちゃんッ!!」
明るい所へ行き成り出たことで目を細めていた俺のところに少年が一人走り寄ってきた。
『お前、まだいたのか?』
「だって……ッ」
言い淀みながら涙を溜めた少年の頭を俺の隣にいた男が撫でた。
「もう泣かなくても大丈夫だよ。何ともなかったから、ね?」
「うん……」
そんな男の姿を見て、俺はふとあることに気付いた。
そう言えば、
『お前、何でこんなところにいたんだ?よく俺の居場所が分かったな』
「うん、電話越しに男の人の怒るような声が聞こえた後、機械が何かにぶつかる音がして電話切れたからさ、気が付いたら走り出してた。適当に走り回ってたらその子が泣きながらオロオロしてたんだよ。どうしたのか聞いたら、お姉さんが自分のせいで男の人と行っちゃったっていうから、君だと思って行ってみたら、ビンゴだったってこと」
僕の勘も捨てたもんじゃないね、と笑う男。
そんな男を少し呆れた目で見ていると、少年がおずおずと何かを差し出してくる。
「あの、これ、お姉ちゃんの携帯。ごめんね、僕のせいで傷ついちゃってて……」
『別に構わないよ、壊れたわけじゃないし。それにそれはお前のせいじゃないだろ』
そう、俺が電話で話しをしていた時、俺が伸した連中がこの少年に喧嘩を売っていた。
どうやら少年と連中はぶつかってしまったらしい。
少年は謝ったものの、連中の怒りは治まらなかったようだ。
自分たちも前を見ていなかったことを棚に上げ、少年を力任せに投げ飛ばした。
その先に偶然俺がいて、俺はその少年を受け止めた。
そして、その時に携帯が落ちて切れてしまったようだ。
と同時に、俺の中の何かも一緒に切れたわけだが。
だから泣くな、と隣にいる男のマネをして頭を撫でてやると「ありがとう」と言って笑った。
その笑顔は、眩しかった。
少年と別れて、俺たちは何処へ向かうわけでもなく歩き出した。
「嬉しそうだったね、あの子」
『何が?』
「君に頭を撫でられた時だよ」
『あー……』
俺はあの少年の笑顔をもう一度思い返してみる。
……何となく、自分で肯定するのは気が引けた。
『――――――そうか?』
「うん、そうだよ」
にこにこしながら言うこいつは、さっきからこの調子だ。
何か気持ち悪い。
『さっきから何笑ってんだ、気持ち悪い』
「その言い方は酷いなー。たださ、優しいなと思って。君が」
『は?俺はただ、お前の真似しただけだけど』
「違うよ、そっちもだけどそっちじゃなくて」
何が言いたいんだ、こいつは。
「だってあの子のためにわざわざ場所移したんでしょ?優しいなって」
そう言ってこっちを見ながら笑いかけてくるこいつの笑顔に心臓が跳ねる。
『……別に、俺はただ、人通りがあるから暴れにくいと思っただけだッ!』
それにお前にその言葉を言われたくない、と毒づく俺の顔はきっと真っ赤だっただろう。
夕日に紛れていてくれればいいと願ったが、
「はいはい、そういうことにしといてあげるよ」
こいつにはあまり意味のない願いだったらしい。
おかしそうに笑ってるこいつに腹が立ってくる。
『ッもういい!お前なんて知るか!!』
俺は少し早く歩いて隣に並んでいた男を抜かした。
「あ、ちょっと!」
俺に合わせて足を速めるのを見て、俺は走り出した。
「ちょっと待ってよ!走ることないだろ!僕今日は結構走ったんだからね!」
そんなことを俺の背中に投げかけてくるのが嬉しくて、面白くて。
俺はあいつがついて来れる速さで、しばらくそのまま走り続けた。
――――――こいつがいれば、俺は光の中でも笑っていられる。
そんな気がして。
そんなの、こっちが訊きたい。
『知らない。今適当に歩き回ってるから、いつかは着くだろ』
<いつかっていつだよ。今迎えに行くから、何か周りにある建物とか教えてよ>
嗚呼もう、イライラする。
『いらないよ、餓鬼じゃあるまいし。待てないなら帰っていいよ』
<そんなこと出来るわけないじゃないか!>
『ンなこと言われたって、」
「この餓鬼がーッ!!」
俺の言葉を途中で遮った、背後からした声に振り向くと、俺の目の前は真っ暗になった。
* * *
『――――――ったく弱い奴が突っ掛かって来るなよな』
俺が腰を下ろすと、俗に言う"蛙を押しつぶしたような声"がしたが、気にしない。
どちらかと言うと、地面に直接腰を下ろす方を気にする。
俺はポケットから懐中時計を引っ張り出す。
『もうこんな時間か……今日はもう会えない、かな』
それもこれも、こいつらのせいだ。
俺は俺なりに、頑張って待ち合わせ場所を目指していたのに。
こういうやつらは強い奴には頭を垂れ、弱い奴らには容赦ない。
それは賢い生き方なのかもしれないけど、俺には虫唾が走るような生き方だ。
だからこそ、こんなにも不器用な生き方しか出来ない。
本当に、俺はまた、こんなところでなにをやっているんだか。
俺は薄っすら赤みを帯びている空を見上げてため息を付いた。
「あ、こんなところにいた!」
顔を戻すと、そこには待ち合わせしていた相手。
何で、こんなところに……?
『……お前、こんなところでなにやってるんだよ』
「あのね!それはこっちの台詞!それに君は一体何に座ってるの!?」
『何って……人』
俺は自分の座っているものを確認してから言った。
俺が喧嘩を売ったのか、それとも俺が喧嘩を買ったのか。
そこら辺はよく分からないが、その内の2人の男を積んで椅子代わりにしている。
待ち合わせ人は地面で寝てい男を跨いで俺に近付いてきた。
「そんなことは見ればわかるよ……ほら、早くここを出よう」
自分が訊いてきたくせに、勝手なことを言うもんだ。
俺の手を引っ張って立ち上がらせると、そのまま来た道を戻っていく。
もちろん、男たちを跨いで。
「……ッ、ンの餓鬼がァッ!!」
跨いだ内の一人が気が付いたらしい。
俺の背後から拳を振るう。
右手を掴まれたままの俺は右足を軸に左足で空を切った。
「ブ……ッ」
俺の足は男の顔半分に直撃した。
『「…………」』
だが、男の顔の残りの半分には拳がめり込んでいる。
男がぶっ倒れる中、俺と俺の手を掴んだままの男は、無言で見つめ合った。
「……行こうか」
そして何事も無かったように俺の手を引いて歩き出す。
そんな背中に、俺は思ったことを訊いてみた。
『珍しいな、お前が手を出すなんて。俺、久しぶりに見た』
「……そりゃね、君に手を上げようとするからさ、ついね」
正当防衛だよ、正当防衛、とぶつぶつ呪文のように呟きがらも歩き続ける。
『……別に、俺は平気だけど』
現に俺の蹴りは当たってたんだ。
この男の助けがなくても怪我することもなかっただろう。
第一、負かして時間がさほど経っていない奴に負ける気はしない。
「そうかもしれないけど、君だって女の子なんだし。それに―――――僕が嫌だったから」
――――――嗚呼、本当にこいつは。
何気なく、本当に、何気なく。
俺を光ある方へと連れて行ってくれるんだな。
嗚呼、そうか。
こいつ
俺は思い通りに行かなくてイライラしていたんじゃなくて、光のところへ行けずにイライラしていたのかもしれない。
俺たちは薄暗い路地裏から人通りがある道へと出た。
* * *
「……あ!お姉ちゃんッ!!」
明るい所へ行き成り出たことで目を細めていた俺のところに少年が一人走り寄ってきた。
『お前、まだいたのか?』
「だって……ッ」
言い淀みながら涙を溜めた少年の頭を俺の隣にいた男が撫でた。
「もう泣かなくても大丈夫だよ。何ともなかったから、ね?」
「うん……」
そんな男の姿を見て、俺はふとあることに気付いた。
そう言えば、
『お前、何でこんなところにいたんだ?よく俺の居場所が分かったな』
「うん、電話越しに男の人の怒るような声が聞こえた後、機械が何かにぶつかる音がして電話切れたからさ、気が付いたら走り出してた。適当に走り回ってたらその子が泣きながらオロオロしてたんだよ。どうしたのか聞いたら、お姉さんが自分のせいで男の人と行っちゃったっていうから、君だと思って行ってみたら、ビンゴだったってこと」
僕の勘も捨てたもんじゃないね、と笑う男。
そんな男を少し呆れた目で見ていると、少年がおずおずと何かを差し出してくる。
「あの、これ、お姉ちゃんの携帯。ごめんね、僕のせいで傷ついちゃってて……」
『別に構わないよ、壊れたわけじゃないし。それにそれはお前のせいじゃないだろ』
そう、俺が電話で話しをしていた時、俺が伸した連中がこの少年に喧嘩を売っていた。
どうやら少年と連中はぶつかってしまったらしい。
少年は謝ったものの、連中の怒りは治まらなかったようだ。
自分たちも前を見ていなかったことを棚に上げ、少年を力任せに投げ飛ばした。
その先に偶然俺がいて、俺はその少年を受け止めた。
そして、その時に携帯が落ちて切れてしまったようだ。
と同時に、俺の中の何かも一緒に切れたわけだが。
だから泣くな、と隣にいる男のマネをして頭を撫でてやると「ありがとう」と言って笑った。
その笑顔は、眩しかった。
* * *
少年と別れて、俺たちは何処へ向かうわけでもなく歩き出した。
「嬉しそうだったね、あの子」
『何が?』
「君に頭を撫でられた時だよ」
『あー……』
俺はあの少年の笑顔をもう一度思い返してみる。
……何となく、自分で肯定するのは気が引けた。
『――――――そうか?』
「うん、そうだよ」
にこにこしながら言うこいつは、さっきからこの調子だ。
何か気持ち悪い。
『さっきから何笑ってんだ、気持ち悪い』
「その言い方は酷いなー。たださ、優しいなと思って。君が」
『は?俺はただ、お前の真似しただけだけど』
「違うよ、そっちもだけどそっちじゃなくて」
何が言いたいんだ、こいつは。
「だってあの子のためにわざわざ場所移したんでしょ?優しいなって」
そう言ってこっちを見ながら笑いかけてくるこいつの笑顔に心臓が跳ねる。
『……別に、俺はただ、人通りがあるから暴れにくいと思っただけだッ!』
それにお前にその言葉を言われたくない、と毒づく俺の顔はきっと真っ赤だっただろう。
夕日に紛れていてくれればいいと願ったが、
「はいはい、そういうことにしといてあげるよ」
こいつにはあまり意味のない願いだったらしい。
おかしそうに笑ってるこいつに腹が立ってくる。
『ッもういい!お前なんて知るか!!』
俺は少し早く歩いて隣に並んでいた男を抜かした。
「あ、ちょっと!」
俺に合わせて足を速めるのを見て、俺は走り出した。
「ちょっと待ってよ!走ることないだろ!僕今日は結構走ったんだからね!」
そんなことを俺の背中に投げかけてくるのが嬉しくて、面白くて。
俺はあいつがついて来れる速さで、しばらくそのまま走り続けた。
――――――こいつがいれば、俺は光の中でも笑っていられる。
そんな気がして。
10/狂う
狂ってる
こんな世界は狂ってる
そこに住む人間も、狂ってる
だから俺は正常なんだ
俺の周りがオカシイだけなんだ
ならば周りに合わせて狂ってみようか
そうすれば俺も"正常"だ
こんな世界は狂ってる
そこに住む人間も、狂ってる
だから俺は正常なんだ
俺の周りがオカシイだけなんだ
正常だ
この世界は正常だ
そこに住む人間も、正常だ
だから私が狂っているんだ
私がオカシイだけなんだ
この世界は正常だ
そこに住む人間も、正常だ
だから私が狂っているんだ
私がオカシイだけなんだ
(狂っていようが正常だろうが)
(世界が一致していれば、それは"正常"ということ)
(周りに合っていないものが"オカシイ"ということ)
(世界が一致していれば、それは"正常"ということ)
(周りに合っていないものが"オカシイ"ということ)
お題『10/狂う』
ならば周りに合わせて狂ってみようか
そうすれば俺も"正常"だ
ならば周りに合わせて生きていこうか
そうすれば私は"正常だ"
そうすれば私は"正常だ"
でも可笑しいね
どっちに転んでも、狂っているということに変わりはない
嗚呼、頭が狂う
どっちに転んでも、狂っているということに変わりはない
嗚呼、頭が狂う
カレンダー
02 | 2025/03 | 04 |
S | M | T | W | T | F | S |
---|---|---|---|---|---|---|
1 | ||||||
2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 |
9 | 10 | 11 | 12 | 13 | 14 | 15 |
16 | 17 | 18 | 19 | 20 | 21 | 22 |
23 | 24 | 25 | 26 | 27 | 28 | 29 |
30 | 31 |
カテゴリー
フリーエリア
最新TB
ブログ内検索
カウンター