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月灯りの下

闇の世界に差し込む光を追い求めて

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似た者同士の邂逅

「ぅ……」
「痛……ッ」
『………』
「チ、クショー……」

 薄暗い路地裏。地に沈む男達と、それを無言で冷たく見下ろす人物が一人。唯一立っていたその人物は、ふいと踵を返し男に背を向けて路地を出る。そんな小さな背中に一人の男が吐き捨てた。

「キ、キョ……ウ……ッ!!」


*          *          *


「なぁ、夜凪。"キキョウ"って知ってるか?」

 朝、学校に行くとクラスメイトからそんな質問をぶつけられた。

『"キキョウ"?そりゃ有名な花の名前ぐらい知ってるよ』
「花の名前じゃねーよ。人の名前」
『……学校の奴か有名人?』
「違う違う、通り名だよ!通り名!」
『通り名?』
「そそ。で、お前のことなんじゃねーの?」
『――――――は?』
「ほら、白状しろよ!大丈夫だって、誰にも言わないから!」
『は?いや、話しが見えん。何のこと――――――』
「チッチッチッ、嵐は"キキョウ"じゃあないぜ」
『海……』
「秋木」

 俺の言葉を遮って、何故かかっこつけながら海が話しに入ってきた。

「オッス」
『朝からドヤ顔すんな。ウザい』
「おっはー、皆の集。嵐は朝から辛辣過ぎ」
「えー。夜凪は血の気多いし喧嘩っ早いからそうかもーって思ったのにー」
『いや、全然話しについてけてねェんだけど』
「なになに、秋木何か知ってんの?」
「フフン!実は俺"キキョウ"さん見たことあるんだよね~」
「マジ?」
「どこでだよ!どんな奴だった!」

 何やら勝手に盛り上がっている。なんだ、有名人なんじゃないか。

『なあ、その"キキョウ"って何だよ』
「なんだよ、嵐。知らないのか?」
お前いい加減にその顔やめねェと顔面に拳叩き込むぞ
ちょ、新年初の俺達の話しだからって飛ばしすぎ……!
『知るか』
「最近噂になってんだよ。不良たちを片っ端から潰してるかなり強い奴がいるって」
『……ただの噂じゃないのか?』
「だーかーら、俺は見たことあんだって!それに、その噂はちょっと違って本当は――――――」
「それにさ、昨日ウチの先輩達がやられたらしい」
「え、マジ?!それは初耳!」
『………』
「なあなあ、海は見たことあるんだろ?どんな奴よ」
「むっちゃ恐かった!でもむっちゃかっこよかった!!」
「抽象的!」

 アイドルに騒ぐ女子並の盛り上がりを見せたこの話題は先生が入って来るまで続いた。



『で?』
「ん~?」
『朝言いかけてただろ。本当の"キキョウ"って人はどんな人なんだ?』

学校の帰り道、何となく気にかかっていた俺は海に訊ねた。

「ああ、それか。なんだ、嵐も"キキョウ"に興味津々じゃーん」
『そりゃあんなに盛り上がられれば気になるわ』

 結局あの後の放課もずっとキキョウの話で盛り上がっていたが、挟まれてる俺は完全に聞き手に回っており蚊帳の外だった。

「えーと、何の話の時だったっけ?」
『不良たちを片っ端から潰してる強い奴』
「ああ、そうそう!それ!片っ端からっていうのは違くて、人助けのために不良と喧嘩してるんだよ」
『何だその正義の味方じみた話は。漫画の中の話じゃねェの?』
「ほんとにそんな感じなんだって!女の子囲んでた5人もいる不良をさ!こう、ビシーバシーとさぁ!」
『あ、バカ……ッ!!』
「ぐっ……!」

 デジャヴュとはこういうことを言うんだと、冷静な頭の片隅でそう判断した。海がブンブンと振り回した拳が、ガラの悪いお兄さんの一人に直撃した。

「ぁわ……ぁわ、ぁわ……」
『……お前はいい加減学習しろよ』
「テメェガキが……何しやがんだ!!」
「キャーーー」

 ということで、いつぞやの如く――――――

「待てガキ共ー!!」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
『……ッ』

 鬼ごっこをすることになった。
 夕方で買い物に出てきている主婦や帰宅する学生で賑わう道をぶつかりそうになりながら、謝りながら間を縫って走ったため体力の消耗が早い。しかも、相手も諦めてくれる気はないらしい。追いかけっこは続きに続いたが、

『ッぉわ!』
「嵐!!」
『いいから行けバカッ』
「いいわけないだろバカッ」

 左腹も痛み始め、そろそろ限界だった俺は足をもつらせて盛大に転んだ。戻ってこようとする海に叫んだが、意味はなかった。

「あだっ」
『っ……』

 結局、戻ってきた海共々捕まった俺達は路地裏に放り込まれた。

『ハ、ァ……ハァ…ハァ……ッ』
「嵐!大丈夫か?!」
「オイオイ、お友達の心配より自分の心配したらどーなんだ?」

 嗚呼なんてお決まりで陳腐な台詞なんだ。海が俺に寄って来るのを視界の片隅で捉えながら、地べたに寝転んでぼんやりとそんな感想が浮かんだ。
 こないだはまだ体力があったため強行突破という荒業を試みたが、今回は既に腹が痛みを訴えている。その余力は、ない。

「ホントごめんなさい!ちょっとはしゃいでて、当てる気なんてなくて……!」
「ワザとじゃなけりゃ何しても許されると思ってんのか?あぁ?!」
「ぅ……」
『ッ海!』
「お前は寝てろ!」
『か、は』
「ら、ん!!」

 胸倉を掴まえた海を助けようと起き上がろうとしたが、その前に背中を足蹴にされ起き上がれなくなってしまった。

「あはは、コイツらおっもしれ~。友情ゴッコさいこー」
『……ッ』

 友情、ごっこ――――――

《嵐ってすごいいい奴だよな!さすが友達!よっ、親友!》

《触るな人殺し……!!》

「友情、ゴッコじゃ、ない!」
『――――――!』
「あ?」
「俺と嵐は、友達で、親友!ゴッコじゃない!」
『海――――――』
「はいはい、そーですね!」
『海!!』

 海に不良の拳が向けられた。
 情けない……ほんと、情けない……また、目の前で……助けられないのか?俺は!!


『おい』


 その時、凛とした声が俺の脳を射ぬいた。

『何があったか知らないが、中学生相手にやり過ぎなんじゃないのか?』
「ああ?何だテメエは」

 逆光で姿は見えないし、声も中性的のため性別も判断がつかないが、話し方からして男か?そんな声の主に一人の不良が近付いていく。

「関係ねぇ奴はすっこんでろ」
『ッ、アンタ何やってんだ!逃げろ!』

 助けにきてくれたのは正直有難迷惑だ。見ず知らずの人間を巻き込むわけにはいかない。この間のおばさん達のように警察を呼んでくれた方が有り難い。
 チラリと、来訪者がこちらを見た気がした。が、本当に気がしただけだったのか来訪者は俺の忠告を無視し、そのまま続けた。

『あんだけ人通りが多いところ走り回っといて関係ないとかよく言うよ』
「テメエな、女だからって調子乗ってんじゃねぇぞ」
『そっちこそ、凄むことしか能がないのか?雑魚だってバレるぜ?』
「なんだと……?!」
「ッオイその人は関係ないだろ!!」

 来訪者の胸倉が掴まれるのが海にも見えたのか叫んだ。

『――――――手、出したな』
「あぁ?」
『これで俺も立派なお前らの言う関係者だな』
「何言って――――――いだだだだだっ」
「……あぁ!!」

 不良の言葉を遮り、来訪者は胸倉を掴まれていた腕を捻り上げた。その時、来訪者を見つめていた海が声を上げた。不良は堪らず手を離し怯んだ。その隙を見逃すことはなく、足払いしてバランスを崩させ倒れ行く体を容赦なく踏み付け地に叩きつけた。

「ぐ、はっ……」
「テメエ……!」

 不良の振り上げられた拳をひらりと躱すと、腹に拳を叩き込んだ。水色のマフラーが揺れる。

「コイツ……まさかあの……!」
「気をつけろ!女だからって手加減すんなよ」
「わかってる!」
「あだ」

 胸倉を掴まれていた海は地面へ落とされた。どうやら不良たちの意識は完全に来訪者に向けられたらしい。
 マズイ……!

「嵐、大丈夫か?」
『ああ。それより、あの人助けないと……!』
「大丈夫だよ」
『は、ぁ?何が大丈夫なんだよ!あの人女なんだろ?いくら強そうだからって3人一遍に相手は』
「大丈夫なんだって!だってあの人が――――――」

 這ってこちらに来た海の視線が来訪者に向けられる。それに倣って視線を向けると既に男を一人倒たところで、一人の男が背後から迫っているところで。ヒラヒラと漂うマフラーに手が伸ばされる。

『危ねェ!』
『!』

 俺が叫ぶのと同時にマフラーは掴まれ、男はそのまま力一杯引っ張った。が、来訪者はマフラーに手をかけており、体の重心を前に倒すとスルリとマフラーは解かれた。その時見えた口は歪つに笑っていた。そして振り向き様に男の首にハイキックを決めた。男の手から逃げ出したマフラーを手中に納めた。

「、クッソオオオォォォ」

 恐らくは、敵わないと思ったのだろう。しかし引くにも引けなくて。残された男は捨て身の突進を選んだ。踵を返した来訪者は、迫り来る男との距離を自ら詰め、男を抜かし。そして。

「――――――"キキョウ"なんだ」

 男の背後に回った来訪者・キキョウは、綺麗な回蹴りをその背中に決めた。

『すげぇ……』

 無駄がなく綺麗な動きに思わず感嘆が漏れる。その間にも男は路地の入口まで飛び、地面と挨拶を交わした。丁度その時。

「ぅわっ、ちょ、何?!人?!」

 人が入ってきた。恐らく一般人の。「だ、大丈夫ですか?」と伏せった男に声をかけている。まあ実に真っ当な反応だ。真っ当過ぎて新鮮味を感じる。

『大丈夫か?』
『ぁ……』
「はい!」

 変な感動を覚えていると新たな来訪者を無視しキキョウが近付いてきた。急に話し掛けられたため反応が遅れてしまった。海は目をキラキラさせてキキョウを見つめている。少し呆れる。

『取り敢えず、長居は無用だ』

 地に伏していた男達は意識はあるらしく呻いており、最後に蹴り飛ばされた男は起き上がろうとしている。

 きの
「騎暖!いきなりいなくなったと思ったら君は何して……って君達は?」

 男を避けて近付いてきた新たな来訪者は、そこで俺達に気付いたらしい。キキョウは完全無視だが。

『ついて来い。ここから離れるぞ』
『え』
『お前もついて来い』
「え、あ、ちょっと!」
『お前もぼうっとするな。行くぞ』

 焦る来訪者を軽く流し、キキョウは俺の腕を掴み足早に入口へ向かった。

「ちょっと騎暖!状況が――――――」
『飲めなくても飲み込め。とにかく、お前はそっちの奴連れて来い』
「え?」
「く……っ、この、クソガキ、どもが……」
『チッ』
「わわっ!君行くよ!」
「え、あ、はい!」

 転がっていた男の一人が動いた。来訪者はそれで状況を飲み込んだらしい。海を誘導して後に続いた。

『邪魔だ』
「ぐぇ」
『………』

 キキョウはキキョウで入口に半突っ伏した男を思い切り踏み付けて路地を出た。人込みの中をキキョウは迷わず突き進む。後ろを振り向けば、来訪者と海が少し離れてついて来ている。そこで俺はキキョウに引っ張られながら進んでいることに気が付いた。

『あ、の、俺自分で走れる!から』
『痛むんだろ』
『え』
『そこ』

 チラリとキキョウが俺を、俺の腹部を一瞥した。そこに視線をやると左腹が無自覚に抑えられていた。

『走ってるから限界がくるのは必至だろうが、これなら遅らせられるだろ。自力で走らせて全く動けられなくなるよりマシだ。それに――――――』
『それに?』
『甘えられる時ぐらいは甘えとけ』

 初対面の人間なのに、何故だろう。その言葉に泣きたくなるような苦しさを感じた。それに男前過ぎるだろ。
 俺は無意識にキキョウの手を強く握っており、キキョウもそれに気付いてか握り返してくれた気がした。


*          *           *



『ここまでこればいいだろ』

 どのぐらい逃げてきたのだろうか。俺達は知らない公園にたどり着いた。公園内をぐるりと見回しているとベンチに座るように促される。キキョウは走って乱れた呼吸を深呼吸一つで正した。すごいな、本当にこの人。

「ら、嵐……ハァ……だいじょぶ、か……ハッ?」
『――――――あ、あ。大丈夫、だ』

 後れてやって来た海もキキョウに促されるままベンチに腰掛けた。その後を更に後れてやって来た来訪者は、両手に缶を抱えていた。

『何だそれ』
「ん?走った後は水分補給しないと。はい、騎暖の分。君達、大丈夫?よかったら、これ飲んで。今そこの自販機で買ったものだから安心だよ」
「そんなん気にしないっス!ありがたくいただきます!」
『ありがとう、ございます』

 知らない人から物をもらうな、特に食べ物は。それが常識。いや、少しは気にしろよというツッコミが頭を過ぎったが、この人は大丈夫だろう。助けてもらっておいて疑う失礼だし、年は俺達と大して変わらなさそうだし。

「まったく、君はほんと無茶するね」
『無茶をした記憶はない』
「5人倒れてた気がするけど?」
『だから無茶はしてねェよ』
「あれを人は無茶って言うんだよ。ところで、何であんなことになってたんだい?」
「実はですね、オレがちょっと殴っちゃって……偶然なんスけど」
「そうだったんだ。……やり過ぎたんじゃない?」
『だから手加減はしたって』
「え、あれで?」
『した。しつこい』
『ぁ――――――』
「あ、あの!」
『あ?』
「ん?」

 助けてもらった礼が言いたくて声をかけようとしたところで、隣にいた海に遮られた。キラキラとした目に嫌な予感しかしない。

「キキョウさん!」
『は?キキョウ?』
「花、というわけじゃなさそうだね。でも彼女の名前じゃないよ?」

 二人は目を見合わせてから海に視線を返した。ごもっとも。そういえば、キキョウは来訪者に"騎暖"と呼ばれていたな。

「いやいや、あなたのことですよキキョウさん!あなたの通り名っス!オレファンなんです!」
『は、あ?通り名?ファン……?』

 海は熱弁しながら海曰くキキョウに近付き、手を握りブンブン振っている。気付け海、キキョウ引いてるぞ。さっき不良相手に大立ち回りしていた人とは思えない程、全力で引いてるぞ。

『オイ、困ってるだろ』
「会えて光栄です!」
聞けや

 人が大人しいことをいいことにコイツは……!

「ちょーと、その話詳しく聞かせてもらえるかな」
「あ!ちょっと何すんだよ」
「聞かせてくれるかな」

 海とキキョウの間に割って入った来訪者は、海の文句を無視し笑顔で噂の詳細を尋ねる。いや、笑顔でもなく、質問でもないのか。キキョウの知り合いということはある、ということだろうか。

「……もー。最近、噂になってるんだよ。不良たちを片っ端から潰してるかなり強い人がいる。それがキキョウ。で、もう一つ噂があって、それはキキョウが無差別に不良と喧嘩してるわけじゃなくて、悪いことをしてる不良を相手にしてるっていう。だから不良の人達は口を揃えて言うんだよ。"一般人に手を出す時はキキョウに気をつけろ"って」
「………そんな噂、初めて聞いた。さっきから気になってたんだけど、"キキョウ"ってどういう意味なの?」
「"鬼強い"っていう意味。鬼に強いって書いて"キキョウ"だよ」
『……少し前に流行った言い方だな、それ』
「で、オレ、前に見たんスよ。不良にぶつかっちゃって財布からお金取られちゃった女の子を助けるために喧嘩してるあなたのこと!噂はその後で知ったけど、あなたのことだってすぐにわかったんスよ!」

 呆然としている2人を余所に、「あの時オレ、感動しました!」と言いながら、またキキョウに迫っている海。だから――――――

やめろや
「あいた。ねえ、今グーで殴った?グーで殴った?」
『何で2回言ったよ』
「重要だろ!?」
『重要か?』

 俺が海の後頭部で殴ると、今度は来訪者がキキョウに詰め寄った。

「騎暖~?それ本当?」
『あー、何かあったなそんなこと』
「まったく君は!何やってるのさ!」
『何怒ってるんだよ』
「そーだそーだ!キキョウさんは悪くない!」
「悪いけど、君は黙っててくれるかな。……いいかい?騎暖。確かに彼が言ってた女の子を助けた話はいいとしても、そんな噂がたつほど喧嘩してるってことが問題なんだ」
『でもその噂からじゃ俺がその"キキョウ"だって断定できねェだろ』
「その噂から君を連想させることが問題なんだけどね。じゃあ訊くけど、君は噂になるほど喧嘩してないと言えるの?」
『……そんなに、してない』
「何その間。君は強くても女の子なんだから、喧嘩は控えるようにいつも言って――――――」
『あの、』

 来訪者はキキョウに説教をし始めてしまった。ふて腐れて視線をそらしているキキョウは、先程の人物とは思えないほど可愛く見えた。おかげで彼の言うとおり喧嘩は強くても普通の女の子なんだ、なんて思ってしまった。
 助けてもらったんだ。お礼とは言わないが、今度はこちらが助け舟を出す番だ。まあ、俺達に会わなければそんな噂のことでキキョウが説教食らうこともなかったんだろうから、そのお詫びも含めて。

『さっきは助けてくれて、ありがとうございました。えっと、騎暖、さん……?』
『……別に。たまたま見かけたから、気分だ。それに――――――』
「マジかっこいい!!」
「まあ、あれだけ盛大に謝りながら逃げてるところ見たら助けたくはなるけどね」
「あ、あははは、は」
『……お前は大丈夫か?嵐』
『え、あ、はい。お蔭様で』
「え、騎暖、彼と知り合い?」
『いや、公園入ってからそいつが名前呼んでたから。名前で呼ばれたし、俺も呼んだ方がいいかと思って』
「そいつじゃなくって海です!!あの、キキョウさん!何であんなに強いんスか?」
『何でって言われても……』
「何かやってるんスか?空手とか少林寺とか」
『いや、そういうのはやったことがない。見よう見真似』

 いや。見よう見真似ってレベルじゃないだろ、アレは。

「スゲー!!俺を弟子にしてください!」
『……はぁ?』
「え」
『海、お前何言って――――――』
「実はオレ、兄貴みたいな刑事になりたいな~なんて思っててさ。強くなりたいんだ、そのためにも!」
「へぇ、海君のお兄さんは刑事さんなんだ。かっこいいね」
「えへへ~」
『……弟子にするつもりは全くないけど、なら尚更止めた方がいい』
「そうだね。残念だけど、そうなるかな」
「ええ~!!何で!!?」
『"キキョウ"なんて噂が流れてるなら、多かれ少なかれ、そして遅かれ早かれその噂が警察の耳に入るのは確実だ。そうなれば、警察だって目をつけるだろ。警察になりたい奴が、噂の可能性がある人間の下につくべきじゃない』

 そういえば、こないだボコボコにやられて警察でしつこく事情聴取されたな。やはり警察にもその噂が耳に入っていたせいなのだろうか。
 ≪その噂から君を連想させることが問題なんだけどね。≫
 なるほど。さっき来訪者が言っていたのは、そういうことだったのか。

『それに、さっきお前は正義の味方みたいに言ってたけど、それは間違いだ。確かに無力じゃ何も出来ないけど、暴力は正義にはなれない。絶対に。お前が正義の味方目指して警察になりたいって言うんなら、俺に弟子入りなんて馬鹿な考えは捨てるんだな』
「…………」
「騎暖……」
『じゃあ――――――』

 3人の視線が俺に向けられる。そんなことは、気にしない。

『正義になれなくてもいいと言ったら……強くなれればそれでいいと言ったら、どうですか』
「嵐?」
『………』

 俺は真っ直ぐ騎暖さんを見た。騎暖さんも俺を見つめ返した。真っ黒い瞳に真剣な顔をした俺が映る。
 強くなりたい。前からそう思っていた。全部失なくした日から、ずっと。もう失くさないために。今度は守れるように。そして、奪った人間に――――――

『それでも、オススメはしない』
『え』
『お前には、そんなことよりも先に解決すべき問題があるだろ』
『………ッ』

 俺の瞳を射抜いていた視線は、左腹部にゆっくりと落とされた。まさか――――――

『あんた、何か知ってるのか。俺のこと』
『お前の格好見れば、その痛みがさっきので怪我したってわけじゃないことぐらいわかる。後は知るか』

 俺は改めて自分の姿を見た。地べたに俯せになっていたせいで、前は全体的に汚れている。背中は踏み付けられてたから、ひょっとしなくても足跡がついて――――――
 そこで思い至った。そうか、腹を痛がっている割りには前は特別攻撃を受けた形跡がないのか。ということは、この人が言う問題って体力のことか?ひょっとして、スタミナ切れで腹が痛いだけだと思われてる?

『――――――それに、俺は弱いよ』
『え』
「嘘だ!あんなに強いのに!」
『俺は弱い。それがわからないようなら、まだまだガキだな』
「……オレ達そんな年代わらないんじゃ?」
「あはは、まあね。でも年齢と経験は比例しないものだから」
「経験……」
『じゃあアンタの言う"強い"ってなんなんだ』
『俺に教えてやる義理はない。お前自身のことだ。自分で考えろ』
『………』

 絡まった視線を先に解いたのは騎暖さんだった。踵を返し、公園の入口へと向かう。

「ちょ、騎暖!どこ行くの?」
『帰る』
「へ?いきなり?!」
『お前の言う"強さ"って何だ、嵐』
『え――――――?』
『……お前達も汚れ落としてさっさと帰った方がいいぞ。ここも安全じゃないから』
「ああ、もう!気分屋騎暖!……それじゃあ、嵐くん海くん。気をつけてね」

 それだけを言い残し、二人は公園を後にした。




「しっかし、嵐が急にノって来るから驚いたわ」
『あ?』

 あれから俺達も貰ったジュースを飲み干し、公園を後にし帰路についていた。

「ほら、弟子入り志願の時!」
『ああ。まあ』
「嵐は何で強くなりたいんだ?」
『……男なら誰だって強くなりたいだろ。それより、俺はお前が刑事になりたいってことに驚いたけど。初耳だぞ』
「いや~、何か恥ずかしくって……。それに、こう、なんとなく憧れてるって程度だからさ!」
『いいんじゃねェの、別に。兄弟の職に興味持つのは当然だろ。そっからなりたいって思うのも』
「そっか……そうだよな!あ~、弟子入りダメだったな~」
『だな。一瞬いけるかと思ったんだけどな』
「へ?そうなの?なんでまた」
『いや、何か似てる気がしたからかな。もしかしてと思ったんだけど違ったみたいだ。あの人と俺は多分真逆の人間だわ』

 助けてくれた、そして数秒目を合わせたあの人を思い出し、空を見上げた。夕日で赤く染まった空がそこにはあった。


似た者同士の邂逅


「――――――知らなかった」
『あ?』
「騎暖が人助けしてたなんて」
『……俺がしてるのは人助けじゃない。喧嘩だ』
「でもやっぱり暴力はダメだよ。特に君は女の子なんだから」
『聞いてんのか。百万歩譲って人助けだったとしても、俺は正義のヒーローには絶対になれない』
「でも悪でもないよ」
『正義じゃないんなら悪だろ』
「なんで二分化しかないかな~。その間があってもいいんじゃない?」
『じゃあ正義と悪の間って何だよ』
「ん~……優しい、かな」
『なんだそれ。ありえないね。それに俺は片っ端からやってるわけじゃない。今日だって気まぐれで助ける形になっただけだ』
「でもそれだけじゃないみたいだった」
『………』
「何か言いかけてたでしょ?」
『……最初は何となくだったけど、似てると思ったんだ』
「騎暖と嵐くんが?」
『ああ。だから放っておくのが気が引けたんだが……さっき目を合わせた時に確信したよ。俺達は似てる。でもだからこそ――――――』

 後ろを振り返る。今来た道の先には先程の公園がある。もう見えなくなった公園を見つめるように目を細めて遠くを見た。

『決定的に違うってな』

 夕日で赤く染まった空がそこにはあった。


+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++

突発的に始まるクロスオーバー。
今回は『モノクロ世界彩るセカイ』×『study!』です。
騎暖の通り名を本当は『モノクロセカイ』でも出したかったのですが、
タイミングがなかなかなくてこの話で出すことにしました。
そして彼女が押しに弱いのはここでも顕在です。そして拓人の影が薄いのも(笑)

あとクロスオーバーしてないのは『モノクロ世界彩るセカイ』と『警視庁特使捜査課』だけですね。
『夜を彷徨う血濡れのアリス』は、まず他の3作と設定国が違うので
クロスオーバーできないのが残念ですorz

騎暖と嵐は似た者同士だと思っています。
でも、似た者同士だからこそ決定的な違いがそこにはある。
別々の話ではありますが、そこら辺を意識しながら次からの話を書いていけたらなあと思っています。
……文才がないの僕にどこまでできるかわかりませんが、努力します;

ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。
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