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月灯りの下

闇の世界に差し込む光を追い求めて

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動揺

俺は夢をみるのが好きだった。
単調な日常、醜い人間、彩鮮やかなで遠い世界、そして、歪んだ自分
そんな詰まらない雑多なものよりも、夢を見ている方がよっぽどよかった。
ただ、それだけが、俺をこの世界に留まらせていた。




「黒宮さん、一緒に帰ってもいいかな」
『またお前か』

最近、よく俺の周りをうろちょろするようになった、この男。
確かに、俺は初めてこいつとまともに話した屋上で、「僕もこれからここに来てもいいかな?」と訊かれて、『別に、俺の邪魔じゃなければ構わない』と答えた。
何でそう答えたのかは自分の事ながら全くの謎だ。
まあ、たとえ気まぐれだったとしても、確かにそう言ったことは認める。
が、いつでも付き纏っていいとは言ってない。

『お前、何で俺に構うんだ』
「"お前"って……黒宮さん、いつになったら僕の名前、呼んでくれるの?……迷惑だった?」
『…………』

言ってはいない、が。
迷惑じゃないから余計に困っているのだ。
落ち着かないのに迷惑じゃないってどういうことだ?
嗚呼、調子が悪い。

『……俺はひとりでいる方が好きだ』
「うん、知ってる。だって、いつもひとりでいるもんね、でも――――――」
『なら構うな。お前だって人付き合いってもんがあるだろ。俺と関わっててもいいことなんてないぜ』
「大丈夫、ちゃんと他の友達とも交流あるから。それにね、さっきも言おうとしたんだけど――――」
「おい、黒宮騎暖」
『………』
「ん?」

今度は俺じゃなく、違う奴の声がクラスメイトの言葉を遮った。
遮った主は、俺達の目の前、校門脇を陣取っているグループのリーダー格であろう男。
校門前じゃないだけ控えめな奴らだ。
……誰だろ、こいつら。

「今帰りか?」
『今の時間と俺が向かっている先にあるものとを総合して考えれば、必然的にそうなるだろうな』
「チッ、一々回りくどい言い方しやがる野郎だな。隣の奴は何だ、お前の男か?」

取り巻き共が下品に笑う。
鬱陶しいことこの上ない。

「僕は――――――」
『まさか。だとしても、お前には関係ないだろ。さっさと用件を言え。わざわざ挨拶するために呼び止めたわけじゃないだろ?』

またクラスメイトの言葉を遮ってやった。
これ以上首を突っ込まれたくない。
だって俺のいる世界は、

「こないだのお礼をしにきたに決まってるだろ?」
『お礼?お前たちのことは全然覚えてないけど』
「テメェ……ッ!!」
『ま、どうしてもって言うなら、付き合ってやらないこともないよ』
「上等だ!!付き合ってもらおうじゃァねェか!!」

こういう世界。
これで落ち着いた、事が終わった後にはいつも通りの世界に戻れるはずだ。
きっと……

「どこがいい?校舎裏か、公園か。お前のお気に入りの屋上でも――――――」
「ストップ」
『!』
「あぁ?」

俺に手を伸ばしてきていた男の手首を掴み、俺と男の間に体を滑り込ませてきたクラスメイト。

『ちょ、何』
「悪いけど、ちょっと黙ってて」

何でコイツはいきなり邪魔をしといて俺に命令してんだ。
手首を掴まれた男は、その手を振りほどき怒鳴りつける。

「テメェ、何しやがる!邪魔すんじゃねェッ!!」
「最初に僕の言葉を遮って邪魔したのはそっちだよ。それに、いくら強いからって、女の子に男が束になって喧嘩を挑むのはどうかと思うんだけど」

恥ずかしくない?と相手を挑発する。
……コイツ、俺の代わりに喧嘩する気なのか?

「ンだとテメェッ!!」
「いい気になってんじゃねェぞ!!」
「テメェもついでにやってやろうかァッ!?」

「悪いけど、僕は彼女と帰る約束したんだから、」

今度は成り行きを眺めていた俺の手首を掴み、

「帰らせてもらうよ」

走り出した。

「あ、待ちやがれ!!」

連中はもうここで喧嘩をするつもりでいたため、走り出した俺達への対応が遅れた。
そんな中、クラスメイトはうまいこと連中の間を通り抜け、校門をくぐった。
こうして、不本意ながら俺はこの状況から脱出することに成功した。

男の背中って、こんなに大きいのか。
なんてことを、ふと思った。


*          *          *


コイツ、案外足早いんだな。
なんて思いながら、俺は手を引かれながら走る。
クラスメイトはいきなり道を曲がり、更にその道の脇に入り、壁に寄り添った。
追い掛けてきた連中は、お決まりの台詞を吐きながら走り去っていく。

「うまくやり過ごせたみたいだね」
『……手』
「へ?あ、ごめん!!痛かった?」

男は掴んでいた手を離し、慌てふためいている。
別に痛かったわけじゃない。でも、なんか嫌だっただけで。
――――――というか、なんで、コイツを見ていると、

『……なんで、間に入った?』
「え」
『何で、ほかっといてくれないんだ!』

こんなにもイラつくんだ。

『お前に助けられなくたって、俺はあんな奴ら片付けられた!逃げなくたって平気だった!お前がいなくたって、俺は……』
「うん、わかってる。でも、僕が守りたかったんだ。君を」
『は?"守る"……?』
「さっきから言おうとして遮られてるんだけどね、僕が君と一緒にいたいんだ。だって、君は僕の友達じゃないか」
『と、もだち?一緒にいたい?』
「うん」
『な、んで……?』
「うーん、それを訊かれると困るんだけど、ね」
『?』
「初めて会った屋上でも、言っただろ?好きだから、かな」
『……は?』
「だーかーらー、黒宮さんのことが好きだからだよ」

うん、とかひとりで頷いて勝手に納得してるというか、満足してる。
ちょっと待て。
わけがわからない。
確かに屋上でも「惹かれた」とは言われた。言われた、けど。
何故そうなる?
何故コイツはこんな満足げなんだ?
何故、俺はこんなにもむず痒い気分なんだ?

「あれ、黒宮さん顔真っ赤だよ?」
『~~~ッ、誰のせいだと思ってッ!!』
「はは、かわいい」
『かッ!?……もういい、勝手にしろ』
「え、ちょっと、黒宮さん!?」

俺はコイツを放置することに決め、細い道から出た。
そのまま、さっき走ってきた道を辿る。
コイツに付き合っていたらこっちまでおかしくなりそうだ。

「ちょっと、待ってよ!黒宮さん。一緒に帰るって約束だったでしょ」
『そんな約束した覚えはない』

俺はそこまで言うと立ち止まる。
おっと、と言って後ろで立ち止まる男。
――――――だから、

『"黒宮さん"は止めろ』
「え?」

俺は夢をみるのが好きだった。

『騎暖でいい。』
「え、じゃあ……騎暖、さん?騎暖、ちゃん?」

単調な日常、醜い人間、彩鮮やかなで遠い世界、そして、歪んだ自分、

『何照れてるんだ、お前』
「いや、だってなんか恋人みたいっていうか……」
『は?』

そんな詰まらない雑多なものよりも、夢を見ている方がよっぽどよかった。

『馬鹿じゃないのか……拓人は』
「――――――は、い、え、今、僕の名前、初めて……」
『後ろに何も付けなくていい。俺も、そう呼ぶから』

ただ、それだけが、俺をこの世界に留まらせていた。
はずだったのに。

『いいな!わかったな!』
「うん、騎暖!」

こんな、ことで。

「騎暖!ねえ、騎暖!もう一回僕の名前呼んでよ!騎暖!」
『名前を連呼するな!!』

名前を呼ばれ、傍にいられただけで。

「いいじゃない、別に。だから騎暖も!」
『意味わかんねェ!!』

単調な日常は調子を乱し、醜い人間が少しマシに見え、彩鮮やかなで遠い世界に少し近付けた気がした。
俺は歪んだままだけど。

こんな世界も、悪くないのかもしれない。
そう思えたのきっと。

「ちょっと待ってよ、騎暖!」
『待たない!!』

お前のせいだ。





+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++


こんばんは、渡月です。


今回のお話は「付き纏われている感はあったが、それを嫌だと思っていない」けど、そんな自分に戸惑っている騎暖のお話。
『俺たちの出会い』の後の2人の関係を書いてみました。
……時間軸バラバラですみません;


誰にでも自分だけの世界ってあるんですよね。
誰であろうと、その自分の世界を壊されるのは嫌なもの。
騎暖にとって拓人は自分の世界を壊す存在。
それにすごく抵抗があるなのに、それほど嫌でもない。
その理由は謎。

それでも、自分の世界に留まりたい気持ちと踏み出したい気持ちの間でグラグラしてる、そんな騎暖の気持ちが伝われればなぁと思います。


それでは、ここまで読んでくださってありがとうございました!
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