忍者ブログ

月灯りの下

闇の世界に差し込む光を追い求めて

[159]  [158]  [157]  [156]  [155]  [154]  [153]  [152]  [151]  [150]  [149

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

只今、捜査権争い中!(事件編)

「おはようございまーす」
『おはよう、秋木くん』
                                            俺の仕事場の扉をくぐると、そこには自分の席で新聞を広げている俺の上司・水成詩夢がいた。
いつもは読んでいるとしたら文庫本なのだが今日は違った。
その原因は昨夜にある。

「昨日の地震すごかったっスね。先輩の方は大丈夫でしたか?」
『ほんと、久しぶりだったわね、あんな地震。私の方は長い間気持ち悪い揺れが続いただけだったから、被害はないわ。秋木くんの方は大丈夫だったの?』
「こっちもまあ、なんとか。弟が大騒ぎでしたがね」
『まあ、無事でよかったわ』

そう、昨夜起きた地震。夜の10時頃だったか。
ここら辺は、被害は全くと言っていいほどないが、震源地近くでは死傷者も出ているらしい。
メディアによって色々な情報が錯綜しすぎているせいで、被害がしっかりと把握できていない部分はあるが、うちの警備部からも応援が出ている。

「俺たちに応援要請は?」
『今のところ、ないわ。向こうの被害とかもしっかり把握できていない状況だしね』
「ということは、今のところ仕事はなしってことですか」
『ま、今のところはね』

ここでタイミングよく、電話が鳴った。
俺は上着を脱いでいたため、先輩が受話器へと手を伸ばした。

『はい、警視庁特使捜査課……あら、橋さん。おはようございます』

"橋さん"というのは、捜査第一課の強盗犯捜査係の橋谷巡査部長のことだろう。
この人は、人の名前を略して呼ぶ。理由としては、本人曰く『"山さん"的な雰囲気が何かかっこいいでしょ』らしい。
どうやら警備部よりも先に、違う事件に駆りだされるようだ。



*          *          *


事件現場へ向かう途中、助手席に座る先輩が、電話で聞いた内容を説明してくれた。

              じんぼたかお
自宅で亡くなっていたのは、神保隆雄73歳。
今回の俺たちの仕事は、被害者宅に侵入し、金目のものを持ち去った強盗犯を捕まえること。
取り敢えず、聞き込みから始めて、怪しい人物の目撃情報を集めろ、とのことだった。

「ん?被害者は亡くなっていたのに、探すのは強盗犯?ってことは、今回は強盗殺ってことっスか?」
『さあ。よくわからなかったから、詳しいことは現場で聞くことにした。――――――ひょっとしたら、どっちかはっきりしてないのかもしれない』
「?」

先輩は既に仕事モードになっている。言ってることが難しい。
そして、着いた被害者宅は昔の雰囲気が漂う一軒家だった。
その前に停まってる車の前には見覚えのある人物がいた。

「ん?秋木じゃないか!久しぶりだな!」
 はらみち
「原道!そうか、お前、強盗犯捜査係だったな」
「そういうお前はどこだったっけ?」
「特使だよ」
「あー、そうそう。そうだったな」
『秋木』

呼ばれた方へ顔を向けると、そこには少し呆れたような怒ったような顔をした先輩が。
しまった……。

「す、すみません!」
「誰だ?この子――――――」
「ああ、紹介するよ!この人は俺の上司、水成警部!で、先輩!こいつは俺の同期の原道っス」
「け、警部?!」
『特使捜査課、水成詩夢だ』
「し、失礼しました!!よろしくお願いします!」
『あぁ、よろし――――――』
「ゲ、水成詩夢!!」
       あつき
『ん?ああ、篤稀。そうか、捜一に異動したんだったっけ。久しぶりだな』
「?」
 みやしろ
「宮城警部!」

被害者宅から出てきたのは、知らない男性。
あれ、何か俺だけ置いてかれてる感が……。

「何でお前がここにいるんだよ」
『橋さんに呼ばれたんだ』
「あの人か……」
                                            『秋木、こいつは宮城篤稀。階級は私と同じ警部。私の、知人だ。篤稀、これは秋木竜志。私の部下だ』
「これって先輩……。はじめまして、秋木竜志です」
『水成の部下?』
「……何だ」

宮城警部は、不思議なものを見るような目で先輩を見ている。
何か俺、マズイこと言ったっけ?

「いや、何でもない。よろしくは、なるべくしたくはないがな。……原道、近所の聞き込みは?」
「はい、丁度終わったところです!」
「ご苦労さん。今回は仕方ない。情報提供してやれ。……橋谷さんなら中だ。ついて来い」
『ん。いつもありがとう、情報提供』
「いつもじゃねェだろ!!いつもって言うな!!」
『秋木、害者のことを訊いておけ』
「はい、わかりました」
「チッ」

それだけ指示をして、先輩は宮城警部と共に現場へと入って行った。

「あ、危ねー!!」
「ちょ、あんな子どもが警部ってマジかよ?」

俺はコイツがいきなり地雷に片足付けようとするもんだから驚いたが、原道は先輩が上司であることに驚いている。

「……それ、地雷だから覚えとけ。それに、見た目は子どもみたいだが、あの人は俺の尊敬する上司だ」
「……ああ、悪ィ」
「この話は終わりだ。被害者の情報、聞かせてくれよ」


*          *          *


被害者宅の玄関、廊下を抜けると、そこが今回の事件現場のリビング。
リビングの隣が台所で、リビングとを区切っている壁に沿って食器棚や本棚が並んでおり、先輩たちは一番奥の本棚の前にいた。
その周辺の床にはかなりの本が散らばっている。
俺に気付いた年配刑事がにこやかに声をかけてきた。

「やあ、秋木くん!今回も、よろしく頼むよ!」
「お疲れ様です、橋谷さん。今回も、善処させていただきます」

俺達の会話を聞いて、宮城警部は眉根を寄せた。

「橋谷さん、どんだけ特使を使ってるんですか」
「いいじゃないか。水成くんは優秀だし、秋木くんもいい子だし、何より特使は応援要請に応える課じゃないか」
「しかしですね……」
『秋木、報告』
「あ、はい!」

先輩に催促され、先程原道から得た情報を報告した。

被害者・神保隆雄は、妻を亡くした一人暮らしで、長い間ここに暮らしている。しっかりした人で、曲がったことだ大嫌い、世間一般に言われる頑固ジジイの部類に入る人だった。
それでいて用心深い人で、空き巣対策や地震対策にも余念がなく、マニアに近いものがあったらしい。セキュリティ会社とも契約していた。
不法に侵入する人物がいれば、警報が鳴って周囲やセキュリティ業者に知らせてくれるタイプだ。
その2つの要素を合わせて、近所の人達にも頼りにされる存在だった。その一方で、若者からは鬱陶しがられていた。
そして、被害者には息子が一人いるが10年前ほどに家を出ている。彼は、たびたび訪ねて来る姿があったようで、事件当日も訪ねて来る姿が目撃されている。


「以上です」
『なるほどな。それで、あれか』

そう言いながら、上の方に視線をやる先輩。
俺もその視線を辿ると、そこには本棚の上にある、地震が来ても家具が倒れないようにする安全バー。
本棚だけではなく、食器棚などの上にもある。
そして、食器棚のガラス戸には、割れても破片が飛び散らないようにするシールが貼ってある。
おまけに、本棚から本が落ちないようにするバーが付いた本棚を使っていた。
しかし、倒れたせいだろう、今は本棚は空だった。
ほんとうにすごいな、ここの対策は。

「それで、そっちはどうです?」
『害者は、この本棚の下敷きになった状態で発見された。頭には殴られたような痕があり、倒れてきた本棚による傷で、これが致命傷になったらしい』

先輩から3枚の写真が渡される。
1枚は、男に被さっている本棚と、今と変わらない量の散らばった本が写った写真。
もう1枚は本棚を動かした後の遺体の写真。
遺体の上にも本が散っているが、遺体の下には本はない。
そして、最後の写真には致命傷となった頭部の傷のアップ写真。
傷の中心部は結構な深さがあり、それを囲む部分は、中心部に比べれば浅くなっているように見える。

「倒れてきたって……?」
『あっただろう、地震が』
「ああ!って、それじゃあ、これって事故なんじゃ……」
「いや、事故というにはおかしな点がある」
「おかしな点?」
「金目の物が無くなってるんだ。しかも、第一発見者は地震があったことから心配になり、朝訪ねたのだが扉が開いていたため、心配で家に入って遺体を発見した」

宮城警部が俺を遮り、そう付け足した。

「え、それじゃあ事故じゃなくて強盗殺人ってことっスか?」
「いやいや、被害者は用心深く、地震対策もしっかりしていたような人間だ。地震が起こってすることは、まずは出口の確保。扉を開けたのは被害者本人だ!」
「……ということは、あの、どういうことっスか?」

自信満々に言う橋谷さん。
言ってることは判るのだが、何が言いたいのか判らない。

「つまり、これは事後強盗。開いていた玄関を見つけた犯人は好都合と思って入った。しかし、その時既に被害者は亡くなっていたのだよ!
地震によって倒れてきた、この本棚のせいでね!」
「ああ、なるほど」

つまり、橋谷さんは、事後強盗だから捜査は強盗犯捜査係だけで行う、という主張で。
宮城警部は、強盗殺人だから殺人犯捜査係も捜査に参加させろ、という主張というわけだ。
このテの捜査権争いは、たまに見られることだ。

「しかし、たまたま地震で亡くなった被害者宅に、たまたま強盗が侵入するのは出来過ぎです」
「じゃあ犯人が、わざわざ本棚を倒して被害者を殺害したというのかね?それこそ手間がかかるし、倒す間に被害者に逃げられてしまう!」
「そ、それはそうですが……」
「先輩のご意見は?」
『……この疵は、何か判るか?』
「疵、っスか?」

被害者を死に至らしめた本棚の横にあるスペース。その床には、赤い塗料が付いた真新しい疵がある。何かを擦ったような疵だ。

「それは脚立の脚が付けたものらしい。大きさや色から言っても間違いない」

宮城警部が指さす先には、確かに、脚に赤い滑り留めが付いた小柄な脚立がある。

『死亡推定時刻は出てますか?』
「ああ、地震があった時間だから、夜の10時40分だよ」
『検視結果でお願いします』
「死亡推定時刻は夜9時から11時半だよ。」
『昨日、訪ねて来たっていう息子は?』
                       みちあき
「軽い事情聴取なら、ついさっき済ませた。神保道明・49歳。昨日、被害者を訪ねたのは、金を貸してほしいと頼むためだったらしい」
「金、っスか?」
「そうだ。だが断られたそうだ。一度言ったら曲げない人だし、ナイターゴルフの約束が入っていたから、諦めて帰ったんだとよ」
「じゃあ、その人は死亡推定時刻にはゴルフっスか?」
「正しくは、ゴルフ場へ向かう途中で地震があったらしい。神保道明宅からゴルフ場までは車で約1時間。ここからだと約40分といったところか。
一緒にゴルフをやっていた人間に確認をとったところ、地震が発生してから20分ほど経った11時頃に来たらしい」
『本当にその時間がかかったのか?』
「さっき原道に確かめさせた。ゴルフ場は最近建て替えはしたものの、昔からあったもので常連だったそうだ。彼が言っていた通りに向かったところ、誤差の範囲内だった」
『……そうか』

そう言って、宮城警部は先輩にメモ帳を渡した。
覗き見ると、そこには息子宅の住所とゴルフ場の住所、経路、所要時間が書かれていた。

「なんなら聴取するか?この家に待機してもらっている」
「え、いるんスか、この家に!?」
「ああ、昔使っていた自分の部屋にな。当時、家を出た時のままだったらしく驚いていた。どうする?」
『いや、それだけ聞ければ十分だ。……そうだ、その息子の車、確認したか?』
「?ああ。一応、見せてもらったが?」
『カーナビは?』
「カーナビィ?付いてたが、それが何だ」
『……訊いただけ』
「ンだよ、それ!!」
「……宮城警部は、息子さんを疑ってるんスか?」
「あぁ?……いや、念のためだ。悲しいが、身内を疑うのは鉄則に近い。動機がある以上な」

さすが刑事というか、こういう地道なことから可能性を潰していき、糸口を見つける。
この人は、そのための行為を惜しまない。徹底的にやるタイプのようだ。なるほど、先輩と似ている。

『なるほど』
「先輩、何か解ったんスか?」
『ああ。だか、あとひとつ、確認したいことがある。秋木』

先輩は手帳を取り出し、先程渡された手帳を見ながら、スラスラと何かを書き、そのページを破ると俺に突き出した。

「先輩、これは……?」
『お前の車に付いてるだろ、確認して来い』
「ああ!そういうこと!わかりました。行ってきます」

俺は、踵を返し足早に、乗ってきた車を目指し玄関へ向かう。
と、そこに原道が現れた。

「原道?」

どうした?という言葉は、

「水成警部!」

原道の批難の色を含んだ声に遮られた。

『なんだ』
「今回、あなたたちに頼まれた仕事は、強盗犯を捕まえるということのはずです!」
『ああ、そうだ』
「なら、ここにいたって強盗犯は捕まえられません!」
『つまり、油を売っていないで外を駆け回って来い、ということか』
「……そうです」
「原道!!」
『秋木』
「先輩……」

原道の言い草に腹がたった俺を留めたのは、先輩の冷静な声。

『お前はお前のすべきことをしろ』
「……はい!」

俺は止めていた走りを再開し、原道の横を通り過ぎた。
俺はこの後の先輩と原道の会話が手に取るように判る。
なぜなら、俺が特使に配属されたばかり頃、同じ質問をしたからだ。



<先輩、いいんスか?こんなところで勝手に捜査してて。一緒に捜査した方が……>
        ここ
《……そうだな、特使のやり方っていうのを知る必要があるか。少し講義をしてやろう。秋木、警察である我々の務めとは何だ?』
<えーっと、市民の安全を守り、市民が安心して暮らせるように、凶悪犯の逮捕に勤めることっスか……?>
《そうだ。だからこそ、手掛かりが必要だ。いいか、犯人を捕まえることだけに躍起になっていると、冤罪を生む。そうしたら、真犯人は野放しだ。結局何も守れない。ただ徒に犠牲者を増やすだけだ》
<でも、情報収集は、応援要請してきた課がやってますよ?>
《ああ、そうだ。だか、直接見たものと伝聞とではかなり違う。が、伝聞が劣るわけではない。両方必要だ。感じ方は人それぞれだからだ。
 犯人がいる以上、現場には犯人の手掛かりが必ず残っている。それを私たちが持ちうる五感、六感を使って見つけ出す必要がある。悪を確実に仕留めるためには、確実なものが必要ということだよ。
 それに、捜査は担当の課でもやってるんだ。同じ方向を見ていても、得られるものには限界がある。なら、違う角度から攻めるのも手。その課にはその課なりのやり方ってもんがある。特使には特使のやり方があり、そして、これが特使のやり方だ。
 この課でやっていくのなら、覚えておけ》



『――――――わかったかい、若造』
「……」

先輩に頼まれたことを終え、先輩がいるであろう現場に戻ると、ちょうど先輩の"講義"が終わったところだった。
それにしても、

「……お前も十分若いだろうが」
『それでも私は警部だぞ?』
「階級とは別問題だろうが、年は」
「しかし、水成くんの悪への執念は相変わらずだな!感動したぞ!」
『ありがとうございます』

呆然としている原道の肩を叩く。
まあ、自分より年下に見える人に若造と言われれば、そりゃそうなるわな。
けど、

「あれが俺の尊敬する上司だ」

それだけ言って、いましがた得た情報を報告に向かう。

「先輩、出ましたよ」
『ん、ご苦労。早かったな』

俺が書き添えをしたメモを渡すと、素早く先輩は目を通した。
そのまま俺へとメモを返す。

『よし、これで必要な情報は揃った』
「それじゃあ……!」
『ああ。橋さん、宮城、聴いてもらえるか。私が考えたシナリオを――――――』





+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++


東北地方太平洋沖地震によって、甚大な被害に遭われた地域の皆様に
心よりお見舞い申し上げます。
こんばんは、渡月です。

まさか、話のネタと被ってしまうとは思ってもみませんでした。
この話は、地震発生の少し前から考えていました。
地震があった後で、こんなふうに書いてもいいのか悩みましたが、
話が成立しなくなってしまうのでこのままにさせていただきました。
不快な思いをされる方がいらっしゃったら、申し訳ありません。



今回は、推理モノに挑戦してみました!
『警視庁特使捜査課』まだ話数は少ないのですが、
気に入ってくださっている方がいまして、お陰で創作意欲(?)が出てきました。
その結果、推理モノ。

なので長い!!
なので続く!!
なのでご了承ください(土下座)

そして、今回書いて判ったことが2つ。
推理モノにすると登場人物が多くなって名前に困る、ということです。←
そして、いろいろ設定がめんどくさい、ということです。←
描写とか上手く出来なくてスミマセン……!!


続編はもう出来ているので、1週間後に載せようと思っています。
推理してくださる方がいたら、とても嬉しいです。

これは事故か事件か?
もし事故だったとしたら、後から強盗がやってきた(事後強盗)ので、
強盗犯捜査係が捜査を行ないます。
しかし、これが強盗目的の殺人(強盗殺人)なので、
強盗犯捜査係と殺人犯捜査係が一緒に捜査を行ないます。

お時間がある方は、読んでやってください。


それでは、ここまで読んでくださって、ありがとうございました。
PR

この記事にコメントする

お名前
タイトル
文字色
メールアドレス
URL
コメント
パスワード   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字

只今、捜査権争い中!(解決編) HOME 動揺


忍者ブログ [PR]
template by repe