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月灯りの下

闇の世界に差し込む光を追い求めて

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只今、回想中!

「こんにちはー……あ、」

特使捜査課の扉を開けて直ぐに目に入ったのは、俺の上司・水成詩夢がトランプタワー建設中の姿だった。

トランプタワーかぁ、なんか懐かしいな。

なんて、昔を思い出しながら苦笑した。



それは、俺が特使に配属された日の話。


*          *          *


俺は、ある部屋を目指して警視庁の廊下を歩く。
庁内では有名だが、公にはあまりされていない特使捜査課。通称・特使。
俺はその存在を、"ある人"に聞いて知っていた。
そして自分から志望し、配属されることになった。
まさか希望を叶えてもらえるとは思ってもいなかった。

"あの人"はまだいるだろうか?

緊張しながら特使捜査課のプレートが掲げられた扉の前に立ち、騒ぐ心臓を落ち着かせ、深呼吸。
ノックをする。コンコンコン。
しかし、中から返事が返ってくることはなかった。

「あれ、いない?」

もう一度ノックしてみるが、先程と変わることはなかった。
―――参ったなぁ。いくらいなかったからといって、配属初日からどこかで暇を潰しているのも気が引ける……。

「………」

俺は覚悟を決め、ドアノブに手をかけた。
鍵はかかっていない。
――――――事情を話せば判ってくれるだろ!
と、自分に言い聞かせ、それでもそろりと扉を開けた。

「し、失礼しまーす」

そして、俺が部屋に入って最初に目に映ったのは、書類タワーに囲まれながらトランプタワー建設中の少女。

……ん?少女?
何故、少女がここに?
ひょっとして、迷子?
あ、親捜し中?だから特使課の人達いないのか?
だからといって、ここに少女一人残しておいていいのだろうか?
というか、

『…………』
「…………」

少女が一度も俺に目を向けない。
――――――まさか、気付いてない?
取り敢えず、特使捜査課の人たちのことも訊きたいし、声をかけてみるか。

「あの……」
『…………』
「もしも~し」
『……………』
「お嬢さん」

反応を示さない少女の肩に手を置いた。
その時、

『私の邪魔をすなーッ!!』
「ギャー!!」

トランプタワーが舞った。




『で?何かな、君は』
「いや、何かなと言われても……」

俺は今、少女の前に立たされている。
その少女も、俺の前で仁王立ちしていた。

「えっと、取り敢えず、特使捜査課の方たちはどこにいるのかな?」
『ここに用事?』
「うん、まあ……」

無関係な少女に「今日から配属されました」と言っても意味はないだろう。

「ところで、ずっと気になってたんだけど、お嬢さんは迷子?」

俺はずっと気になっていた核心に触れた。と同時に、

『誰が子どもで迷子かーッ!!』
「ぅわッ!?」

どうやらこの子の逆鱗にも触れてしまったらしい。
少女に胸倉を掴まれたと思った次の瞬間には、景色は既に回っていた。投げられたことに気がついたのは、来客用と思われるソファーにたたき付けられた後だった。
狭いソファーの上で受け身が取れるわけもなく、頭を打たないように顎を引いていただけでも上出来だ。
……まあ、咄嗟すぎて対応できなかったから、偶然にすぎないのだが。

ソファーが軋む音を聞きながら、背中の軽い痛みに顔を歪る。
しっかりと目を開けた時、少女は俺の腹の上に馬乗りになっていた。
そして少女はポケットから何かを引き抜き、俺の顔に突き付けた。

「………ッ!?」

咄嗟に目を細めた俺が見たのは、四角く黒い見慣れたもの。

「け、警察手帳……?」
『警視庁特使捜査課、水成詩夢。以後、御見知りおきを』

開かれたそれを見て、俺は目を丸くすることになる。
確かにそこにある写真は、制服を身に纏った少女で間違いない。

「と、特使捜査課!?君が!?迷子じゃなガァッ!?」

迷子のまの字を言った直後、少女改め水成詩夢――先輩でいいか――は警察手帳を放り出し、背中に手を回したと思ったら今度こそ拳銃を引き出し、俺に向け引き金を躊躇なく、引いた。

『ほんっと、最近の若い子は学習しないわね~』
「ぢょっ、まがァッ!じぬ!じにまうって!!」

銃口から出てきた水は、寸分違わぬ狙いで俺の顔、特に口を重点的に撃ち抜いた。
俺がソファーに寝転んでいる状態から、必然的にソファーや上着にも被害が及んだ。
そして気が済んだのか、先輩は身を引くと警察手帳を拾う。

『全く、新人を遣わせるのに、何で私のことを説明しといてくれないかなー。そうだ文句言ってやろう、クレーマーになってみよう。やってみたかったし。……君、何課?』

その言葉で、一度も自分が名乗っていないことに気付いた。
俺は顔を拭いていたハンカチを手にそのままに、急いで立ち上がり敬礼した。

「ほ、本日付けで特使捜査課に配属されました、秋木竜志です!」

それを聞いた先輩は、拾ったばかりの警察手帳をポトリと落とした。
そして、そのままゆっくりと俺を見る。

「?あの、落ちましたよ?」
『……今、何て?』
「へ?"落ちましたよ?"」
『って何ベタな間違えしてるのよ!何課って!?』
「はい!!特使捜査課っス!!」
『手帳!』
「はい!」

スーツの胸ポケットから急いで警察手帳を取り出すと、先輩が掠め取るように奪い、中を確認した。

『……ほんとだ。特使捜査課になってる』
「どんだけ疑ってるんスか」

俺の警察手帳を穴が開くほど見つめたあ後、俺の顔をチラッと見ると、また戻し溜息をついた。
……何かものすごい迷惑そうな顔じゃないか、あれ。てか溜息までつかれた。

『仕方ない、取り敢えず、総務部から雑巾を調達し、そのソファーを綺麗にしてください。あと、散らばったトランプも』
「へ?」
『その間に確認取るから』
「え、俺がっスか。やったの先輩じゃ……」
『元凶は君、違う?』
「はい、行ってきます」

ギロリと睨まれれば、「トランプはともかく、水鉄砲はやりすぎだと思います」とは言えず、俺は特使捜査課を後にした。
そして時は流れ……総務課で雑巾を受け取り、特使捜査課に戻ると、先輩は電話をしていた。

『……どういうことですか!新人が来るなんて聞いてませんよ!』

え、クレーム?
え、マジでクレーマーやってんの!?
確認はどこへ行った!?

『何故、申し上げてくれなかったのかを訊いてるんです!』

俺は雑巾でソファーを拭きながら、密かに聞き耳を立てた。
……俺のことだし、俺がいることを知りながら話してるんだから、断じてこれは盗み聞きではない!

『……あのですねぇ』

呆れた声。
というか、どうやら人事担当じゃない気が……。

『――――――ハァ。じゃあ最後に、ひとつ教えてください』

あ、また溜息。
この人、そんなに俺を入れたくないのか?

『何故、彼なんですか』

"彼"って、俺のこと、だよな?

『………』

……俺、入る部署間違えたかな。

『――――――別に難しく考えているわけでは……判りました。では、彼はここの課で承ります』

え?

『はい。それでは、お忙しい中、失礼しました』

今、俺が何て?

「あ、あの……」
『さっきはごめんなさいね。取り乱しちゃって。新人が入ってくることなんてないから、驚いちゃって』

受話器を置いた先輩は、真面目な顔でこちらを見る。

『特使は激務よ。それでも、この課でやってく覚悟はある?』

そんなの、もちろん、

「はい!!」
『うん、いい返事。それじゃあ改めまして、よろしく、秋木くん』
「こちらこそ、よろしくお願いします、先輩!」

どうやら俺はここにいいということで納まったようだ。

『では、早速、初めての任務を言い渡します!!』
「は、はい!!」
『秋木くんのデスクの上を片すわよ』
「……あれをっスか」
『文句言わな~い!』
「は~い」

"初めての任務"だなんて言うから緊張してしまったが、何だ片付けか。
少しがっかりしながら四つのうち一つを除いて、全てのデスクに乗っている高く積まれた紙の山を見た。
……激務だ。

「――――――ってこれ全部捜査資料っスか!?」
『その山はね』

だから崩しちゃダメよ、と言う先輩。
持って見て気が付いた事実に驚いた。
崩すなって、すごい量なんスけど……。

「こんなに溜まってるのに、何でトランプタワーなんてしてたんすか?」
『うっさいはねー。トランプタワーは、刑事にとって重要な集中力を磨くのよ。それにそれ、解決済みの案件だから』
「マジっスか」
『マジっスよ』

こんなにあるのに全部解決済み?
というか、解決済みでもこんなに溜めてるのはよくないんじゃないだろうか?
そして、もっと人がいれば早く終わるのに。
……ひょっとして他の人たちも、先輩みたいな人なんだろうか?

「そういえば、他の方たちは?」
『ん~?』
「特使捜査課の課長さんとか、他の先輩とか」

先輩は持っていた書類の山を置くと、盛大な溜息をついた。

「な、何スか?」
『ほんと、注意力が足りないわねー』
「はい?」

注意力が足りないとか、いきなりそんなダメだしされても……。

『いい?私が使っていたデスク以外には、書類や資料が山と積まれてるでしょ?』
「自覚あるなら片付けましょうよ」
『うっさい。ということはよ?デスクを使う主はいないってこと。あなたが気にしてる他の先輩はいない』
「……あぁ!!って、え?」

じゃあ、"あの人"は?

『そして、これ』

先輩はポケットから再び警察手帳を取り出し、中を開いて見せる。

「?あの、さっき見ましたよ?」
『そんなこと判ってるけど、判ってないのはあなたの方』
「は?」
『読みなさい』
「えっと。"特使捜査課課長、水成詩夢警部"……ん?」
『まったく、さっき見て何で気付かないのよ』

先が思いやられるわ、という先輩の言葉は、俺には届いていなかった。
特使捜査課、課長、水成、詩夢、警部?
特使捜査課、課長……

「先輩が課長ーッ!!?」
『さっきから失礼な反応ばかりね、君は』
「だって、こんな若いのに……!?」
『ありがとう、褒め言葉として受け取っておくわ。……ま、この課には私しかいないんだから、当然と言えば当然でしょ』

この人が課長!?俺ヤバくないか?

「す、すいませんでした!か、課長!!」
『あら、今まで先輩だったのに』
「いや、だって……」
『案外、気に入ってたのにな~』
「気に入ったって……」
『先輩でいいわよ、別に。課長だなんて呼ばれても、呼ばれなれしてなくて逆に困るし。秋木くんも呼び難そうだしね』
「……じゃあ、先輩で」
『じゃあって、先輩としか呼んでないじゃない』



そう言って先輩は笑っていたっけ。
"あの人"に会えなかったのは残念だったけど、この人の下につけたことは、俺にとってはよかったって、今ならはっきりと言える。
"あの人"ならきっと、どこかで正義のために頑張ってるんだろう。
俺も"あの人"と会えた時に胸が張れるように、しっかりこの人の下で学ばなければ。

『――――――あら、秋木くん来てたの?』

先輩に声をかけられ、俺の意識は現代に戻ってきた。

「おはようございます、先輩。お疲れ様っス」
『おはよう。もうこんな時間?まだまだねー、私も』

椅子を軋ませ軽く体を反らしながら、先輩はそんなことを言う。
けど、それは在りえないと言うか何と言うか……十分だと思う

「そんなことないっスよ」
『ありがとう』
「それで、今日の仕事は?」
『書類整理よ』

そう言って先輩は立ち上がった。
先輩のデスクの上で、10階建てのトランプタワーが静かに崩れた。


*          *          *


竜志が出て行った後、詩夢は総務部の人事担当に電話をかけた。

竜志の配属について訊いたところ、それは一緒に面接をした上が、その子は特使にと決めたとのこと。
その上の人間の名前を聞き詩夢は、何であの人は面接なんかに顔を出してるんだと頭を抱えた。
礼を告げて切り、先程聞いた人物に繋げてもらうため、再び受話器をあげる。

取り次ぎはスムーズに進み、目的の人物が出た。

「お久しぶりですねぇ、詩夢さん」
『お久しぶりです。あの――――――』
「そろそろ貴女自身が来るか、電話が来る頃だと思っていました」
『そうですか。なら用件も判っておられると思いますが、単刀直入にお訊きします。――――――何故あなたが面接に参加し、人事に口出ししてるのかとか、訊きたいことは山ほどありますが、取り敢えず置いておきます。……どういうことですか!新人が来るなんて聞いてませんよ!』
「申し上げてませんからねぇ。当然でしょう」
『何故、申し上げてくれなかったのかを訊いてるんです!』
「そうですねぇ、強いて言うなら、親心と悪戯心と言ったところでしょうか」

相手は受話器の向こうでクスリと笑った。

『……あのですねぇ』
「心配なんですよ、貴女が。……判ってくださいますね、私の言いたいことが」

優しい声はどことなく、反論を許さない威厳を放っていた。
詩夢もそれを感じ取っていた。

『――――――ハァ。じゃあ最後に、ひとつ教えてください』
「何でしょう?」
『何故、彼なんですか』
「嗚呼、それは、彼なら貴女と合うと思ったものですから」
『………』
「……無理にとは言いません。貴女から見て、違う課に適性があると思われれば、そちらに飛ばしてもらっても結構ですよ。そう難しく考えずに」
『――――――別に難しく考えているわけでは……判りました。では、彼はここの課で承ります』
「そうですか。よろしくお願いします」
『はい。それでは、お忙しい中、失礼しました』

そして詩夢は受話器を置いた。





+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++





こんばんは、渡月です。

今回は『警視庁特使捜査課』のコンビの出会いを書いてみました。
若干推理的要素を入れたくて「他の先輩の有無」「課長は詩夢」ネタ(?)を入れました。
……本当に若干orz

詩夢の口調が定まってない感がプンプンする話となってしまいました。
こういう女の子らしいしゃべり方をするキャラって、
そういえばいませんよね、僕の小説の中に……。
精進しますorz

竜志が言っていた"あの人"と詩夢が話していた人物も出したいです。
……いつになるかわからないですけど;←

ここまで読んでくださって、ありがとうございました!
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