忍者ブログ

月灯りの下

闇の世界に差し込む光を追い求めて

[160]  [159]  [158]  [157]  [156]  [155]  [154]  [153]  [152]  [151]  [150

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

只今、捜査権争い中!(解決編)


            じんぼみちあき
別室にいた被害者の息子・神保 道明も加え、現場には橋谷さん、宮城警部、原道、俺、そして、

『はじめまして、道明さん。警視庁特使課の水成です』

先輩。

「け、刑事さんなんですか……!」
「そうですよ、俺と同じ警部です」
「そ、そうなんですか」

やはり、先輩が警察関係者だということが信じられなかったらしい。神保道明は面識のある宮城警部に確認を取った。

『私が考えたシナリオを是非、聞いていただきたくお呼びしました』
「シナリオ、ですか?」
『はい。貴方のお父様、神保氏を死に至らしめたシナリオです』
「!」
『と、その前に、ひとつ確認させてください』
「な、なんですか?」
『あなたの車にはカーナビが付いているそうですが、昔から使ってましたか?』
「は?カーナビ、ですか?……いえ、付けたのは最近ですよ。ほら、低燃費低燃費と騒がれていた時に車と一緒に。使い勝手がなかなか判らなくて、慣れるのに苦労しましたよ」

先輩の質問の意図が判らないのだろう。呆気に取られた様子だったが、苦笑しながら答えた。
『やはりそうですか』と先輩は一人で納得し、シナリオを語りはじめた。

『まず、私が気になった3点をお話しよう。まず1点目は、本棚の隣の床についた脚立による疵』
「?それが何だというんですか?被害者が地震対策バーを取り付けた時に付いたんじゃないんですか?」
『疵は真新しかったんだ。地震対策マニアだった害者が、つい最近取り付けたとは考えにくい。おまけにそれだと矛盾する』
「矛盾……?」
「あの、被害者が締め直した、とかはどっスか?」

原道の指摘は撃沈、俺も考えを述べてみる。

『だとしても、同じ矛盾点が生じることになる』
「同じ矛盾点、っスか?」
『害者の死に方は?』
「……そうか!害者は倒れてきた本棚によって頭を打ち、死亡した。しかし、新しく付けたであれ、締め直したであれ、倒れてくるはずかない、というわけか」
『さすが宮城、ご名答』

なるほど、取り付けたにしろ、締め直したにしろ、どちらにしても"締まった状態"、つまり地震に耐えられる状態なわけだ。しかし、実際にはそれが、倒れている。

『そして、2点目は散らばった本』
「どういうことだい?本棚が倒れたんだ。本が散らばるのは当たり前のことだろ?水成くん」
『普通の本棚なら、当たり前のことですよ。しかし、ここの本棚は普通じゃない』
「あ、安全バーのことっスか?」
『そう、あれは地震により本棚から本が飛び出すのを防ぐようにするもの。このバーを本が出ないようにすると、本の真ん中に位置している。いくら本棚が倒れたからといって、ここまで本が散らばるとは考えにくい』
「た、確かに……」

うーむ、と橋谷さんは考え込んだ。

「ということは、どういうことかね?」
『この2点から言えるのは、本棚は意図的に倒された、ということです』
「待ってください!この本棚が倒れた時に、バーがしてあったとは限りません!」
『ああ、あくまで私のシナリオ。可能性の話をしているんだ。防災対策に執着していた害者。そしてバーが付いた本棚。本を出す時にはバーを下し、それ以外はバーがしてあった、と考えるのが妥当だとは思わないか?』
「……しかし、何故バーがしてなかったからといって意図的に倒されたと言えるんですか?」

原道はさっきのことがあったからか、いやに先輩に食い下がる。

『本棚に本が入っていたら、いくら成人男性でも重くて倒せない。だから、本棚を空にしたんだよ』
「じゃあ本棚は、倒れる前に本が抜かれたってことっスか。どうせ本棚を倒すんだから、本が散らばっててもおかしくないと」
『ああ』
「ちょ、待ってくださいよ!親父は事故でなくなったんでしょ!?」
「どうやら彼女のシナリオだと、そうとも言えなくなってきたようですね」

神保道明は動揺を隠せないようだが、それとは対照的に宮城警部はそれを落ち着いていた。
そして、宮代警部の神保道明を見る視線は、どことなく冷たさが出てきた。

「それじゃあ、これは事故ではなく、被害者は意図的に倒された本棚に頭を打って亡くなったってことっスか」
『いや、ここの本棚の裏は壁で入れない。ということは、横の空いたスペースから倒したことになる。そのためにも本を出したんだろう。となると、本人が背後から本棚が倒れてくることに気付かないのはおかしい。本棚を倒そうとしている人物がいるんだからな』
「それじゃあ、害者は……」
『本棚が倒れる前から死んでいた。死体の様子から見てもそう言えるだろう。本は害者の上にはあっても、下にはない。これは、先の原道の着眼点である"バーがしてあった"という根拠の一つだ。合わせて考えると、信憑性が高くなる』
「確かに、辻褄が合うな。事故ではなく、殺人」
「ま、待ってくれ水成くん!玄関は?玄関はどうなる?」

宮城警部は納得している。
が、橋谷さんはまだ納得がいかないようだった。

『それが3点目です。金目のものがなくなっていたのでしょ?持って行った人間と害者を殺害した人物は同一人物でなければ矛盾する』
「……何故ですか?」
『きみの情報にはなかっただろう、原道くん。害者はセキュリティ業者と契約していた。しかし、侵入者を教える警報が鳴ったという情報はなかった。ということは、警報は作動しなかったことになる』
「……はい、確かに、業者に連絡を取りましたが、警報からの連絡はなかったそうです」
『なら、始めから侵入者はいなかったということだ』

侵入者はいない?
なのに扉は開いていた。

「え?先輩、じゃあ玄関は?」
『出て行った時にドアを開けっ放しにしても、警報は鳴らない。不当に侵入した時にしか反応しないからな』
「ということは……」
『犯人は普通に家に入り害者を殺害、そして本棚を倒し、普通に家を出たということだ。鍵を閉めずにな』



『そうだろう、神保道明氏?』



その場にいた全員の視線が一人に注がれる。
その視線を一身に受ける神保道明は、顔を赤くして怒鳴った。

「な、何を馬鹿なことを……!!俺にはアリバイがあるんだぞ!!」
「神保氏の言う通りだ。ここから出たとして、ゴルフ場まで40分。地震があったのが10時40分。本棚を倒すのなら、地震のことを知らなければならない。しかし、神保氏がゴルフ場に着いたのは11時。地震発生から20分でゴルフ場に着くのは無理だ」
『宮城、お前は言ったな。"彼が言っていた通りに向かったところ、誤差の範囲内だった"と』
「……ああ」
『秋木』

俺に呼び掛ける先輩。
いきなり名前を呼ばれ、一瞬何をすればいいのか判らなかったが、先程のことを思い出した。
手に持ったままだったメモを見て、改めて報告する。

「あ、はい!……先程、俺の車のカーナビで調べたところ、別ルートで行けば15分ほどでゴルフ場に着くことができます」
「ッ!!」
「何だと!?」

神保道明は、目に見えて明らかに動揺した。
宮城警部は俺からメモを引ったくると、さっと目を通す。

『最近は便利なものが出てきたものだ。恐らくカーナビを付けてから、最短ルートを知ったんだろう』
「そんな手があったのか」

最初の先輩の質問の意図はこれか。
橋谷さんも納得したらしいが、

「お、俺が親父を殺し、そのルートを使ったという証拠はどこにもない!!ここは俺がよく訪ねてくる家だ!指紋があってもおかしくないよなぁ!!」

張本人はまだ言い逃れをしていた。

『……何故、』
「先輩?」
『何故、害者が殺された後、本棚に潰されなければならなかったか、判るか』
「え、地震のせいにして事故死に見せ掛けるため、じゃないんスか」
『それもある。が、もうひとつの理由がある。それは、これだ』

そう言って見せたのは、害者の頭の疵が写った写真。

「それがどうしたというのかね?」
『害者は殺された後に本棚の下敷きにされました。しかし死因は頭の疵が原因』
「あ」
『ということは、他のもので殴られ亡くなったことになる』
「凶器は別にある、ということっスよね」
『次に注目すべきはこの疵。中心部だけが深い。そして、この疵の幅。ゴルフのクラブって、確かこのぐらいの太さじゃありませんでしたっけ、神保道明氏?』
「あ……!」
「原道!至急鑑識に調べさせろ!」
「は、はい!」

神保道明は言葉が出てこず、宮城警部は素早く指示を飛ばした。

「じゃあ、本棚を倒した本当の目的は……」
『凶器を隠し、事故に見せかけるためだった、というわけだ。ま、ルミノールをぶっかければ一発だがな』

神保道明は、力無くその場にへたりこんだ。

「あ、あいつが、あいつが悪いんだ!!」
「何だと?」

橋谷さんの問いに、俯かせていた顔を勢いよく上げた。
その目は、冷静さを完全に失っている。

「俺が何度も何度も頭をついて頼んでんのに、あいつは金を出さなかった……!あんなわけわかんねェ対策グッズに金かけてるくせによォ!」
『……それが、動機か』
「ああそうさ!あんな役に立たないやつが生きてても、金の無駄遣いだからよォ、俺が殺してやったのさ!こうやって、な!」
「!先輩!!」
「水成くん!」

弾かれたように、神保道明は先輩に襲い掛かろうと飛び掛かった。

『……役に立たないのは、』

先輩は足を後ろに引き、体を捻って神保道明を避けた。
そして勢いをそのままに、

『貴様だー!!』

上段回し蹴りを繰り出し、先輩の足は見事的の後頭部に命中。
神保道明は奇妙な声を発し、そのまま吹っ飛んだ。

『今まで親から育ててもらった借りを返さずに何が役立たずだ。貴様のような恩知らずの方が、生きている価値もないわ!』



その後、神保道明のゴルフクラブの一本から血液反応が検出され、被害者のものと一致。
神保道明は逮捕。宮城警部と原道が神保道明を連行することになった。

「いやー、今回も助かったよ!ありがとう!」
「いえ、俺は別に何も……」
「いやいや、君の助手っぷりも素晴らしかったよ、秋木くん!!」
「助手っぷりっスか……」
「じゃ、わしはこれから神保道明が持ち去った金目のものを探さなければならん。水成くんにもお疲れ様と伝えてくれ!」

俺は橋谷さんを見送った。
そして、もう一台の車へと体の向きを変える。
その先には神保道明を乗せた車と、宮城警部と話す先輩の姿。
俺が来たことに気付くと、宮城警部は車の後部座席のドアを開けた。

「――――――それじゃあ、俺は行くぞ」
『……ああ、今度パフェ的なものを奢ってくれ』
「何でそうなる!!」

宮城警部は車に乗り込むと、ドアを勢いよく閉めた。

「あの!」
『ん?』

運転席の窓が下がり、原道が顔を出す。

「先程は、生意気なことを言ってすみませんでした……!」
『フッ、構わんさ』

先輩の言葉を聞いて、原道は敬礼をしてから窓を閉め、車を発信させた。
彼が乗った車を見送る先輩の顔が、とても辛そうだった。

「……悲しいっスね、身内内の争いっていうのは」
『……ああ』
「でも、被害者も貸してあげれば、こんな事件も起きなかったのに……」
『いや、害者には害者の想いがあったんだよ、きっと』
「想い、っスか?」
『神保道明の部屋は、家を出て行った当時のそのままだったと、篤稀が言っていたな。そして、それを見た神保道明は驚いていた』
「はい」
『ということは、奴が家を出て行ったのはだいぶ昔。そして、その間、害者はその部屋をそのままにしていた。
 ――――――失くすことができなかったんだ。たとえ必要がないと置いていった物であっても、害者にとっては大切な思い出だったんだ。そして、きっと独りで寂しかったんだよ、害者は。だから思い出を大切にし、あんな手の込んだ防犯や地震対策をしていた』
「寂しかった……」
『ああ』

独り暮らしが心細かった、本当は。
でも言えなかった、害者の性格から考えれば、当然。
だから、異常なほどの防犯対策や地震対策という形になって現れた。

『本当は、金に困っている神保道明も助けてやりたかったのかもしれない。でも、もう自分の許を巣立っていった子どもだ。名前通り、どれだけ苦労しようとも、自分の道は自分で明るく照らして生きていって欲しかったのだろう。いざとなったら、家に帰ってきて、そこからやり直せばいいと思っていたのかもしれない。
 ――――――ま、このご時世だ。不用意に、全ての親が全ての子どもを愛しているとは言えない。これこそ、私の根拠のない憶測だ』

先輩は自嘲的に笑った。
けど、そんな顔、先輩には似合わない。

「俺は、その先輩のシナリオ、当たってると思いますよ」
『……そうか』
「はい。……さ、俺たちも帰りましょう」
『ああ、そうだな』


*          *          *


離れたところで秋木が橋さんと会話を交わしている。会話の内容は聞こえないが。
そして、私は神保道明を乗せた車を挟んで、篤稀と対峙していた。

「しっかし、お前の無茶は昔っからかわらねェな」
『昔はともかく、別に無茶した覚えはないが?』
「後頭部にお前のハイキック喰らって、死んだらどうしてくれるつもりだったんだ?」
『失礼な。ちゃんと手加減ぐらいしたさ』

正直に言うと、手加減した記憶はない。
だから、多分、と心の中で付け足しておく。
が、長い付き合いのコイツにはバレバレなようで。

「どうだかな、お前は特に今回みたいな犯人を目の前にすると、周りが見えなくなるからなァ」
『フン』
「……部下、取ったんだな」
『……私の意志じゃない。あの人が勝手にやったことだ』
「ああ、あの人か。あの人なら、やりかねんな」
『…………』
「ま、大事にしてやるんだな」

余計なお世話だと言ってやろうと思ったが、篤稀の視線が私から逸れたところを見ると、話の中心だった奴が来たようだ。

「――――――それじゃあ、俺は行くぞ」
『……ああ、今度パフェ的なものを奢ってくれ』
「何でそうなる!!」

篤稀は車に乗り込むと、ドアを勢いよく閉めた。というか、勢いがよすぎる。
手加減ができないとか、アイツに私のことは言えないと思う。
その後、原道くんと会話を交わし、3人が乗った車を見送った。





+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++


こんばんは、渡月です。

解決編、いかがだったでしょうか?
初の推理もの、のくせに犯人になりえる人間は限定されているという、
何とも推理する側にとっては詰まらないものとなってしまいました;
が、僕の頭が考えられるのはこのぐらいなんですorz


解決編を読み直していて気がついたことがあります。
そういえば、本棚の説明してなくね?ってことです。
すみませんでした!!(土下座)
しようしようと思っていて忘れていました。

図書館にもあるので、見たことがある方もいるかもしれません。
でも、大体は書庫の本棚に使われていると思います。
僕が見たことがあるものは、仕切りのところにバーが下りていて、
それを押し上げると本の真ん中ぐらいまでバーが来て、
地震が来ても本は散乱せず、本に埋まってしまうこともない、というものです。

・・・・・・・・・・・・・。

判りにくくてすみませんorz


それでは、ここまで読んでくださって、ありがとうございました。
PR

この記事にコメントする

お名前
タイトル
文字色
メールアドレス
URL
コメント
パスワード   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字

HOME 只今、捜査権争い中!(事件編)


忍者ブログ [PR]
template by repe