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月灯りの下

闇の世界に差し込む光を追い求めて

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三文小説的現実

どういう分類であれ、どうやら俺は面倒事に巻き込まれやすい体質らしい。

最近特にそんな気がする。




本が読みたくなって、近くの大型スーパーに行った。
けど、買いたいと思える本には残念ながら出会えず、暇を潰すべくブラブラしている。と、目の前にはゲーセン。
少し考えてから、俺はゲーセンを目指して歩を再開した。
何かしらやりたいとかそんなことは全くなく、ただ散歩の一貫で。

いつも人が多いゲーセンだが、今日は何やらいつも以上に人が多い。
と、店員の男がマイクを使ってこう告げた。

「まもなく、ジャンケン大会を始めまーす!お子さんだけではなく、親御さんもどうぞ!年齢制限ありません!」

なるほど、それで混んでいるのか。
人混みはあまり好かない。
俺は迷うことなくゲーセンに別れを告げ、踵を返した。
が、

「1位の方には超ロングポテトチップスを2本、2位には1本!負けてしまった人にも参加賞として、チョコ味のうまい棒とメダルを10枚差し上げます!」

ピクリと。
その単語に立ち止まってしまった。

「どなたでもご参加ください。まもなく始まりまーす!」


*          *          *


目的だったチョコ味のうまい棒をポケットに仕舞い、小さなバケツに入ったコインの使い道に迷っいながら、ジャラジャラと弄んでいた。
どうしたもんかと悩んでいると、聞こえてきたのは子どもの泣き声。
発信源に目をやると、ジャンケン大会をやっているところで、ワンピースを着た小さな少女が泣いていた。

親がいないのかと周りを見遣ると、その娘を見ながらこそこそと話す、たむろする子ども達の保護者であろうおばさん達。
不快感を感じながらも店員に目を遣れば、ジャンケン大会が継続しているため気づかないのかフリなのか、とにかく少女に気遣う者はいなかった。
その間も、少女は泣き止む気配はない。

こういうのは絶対、アイツ向きだ。
そんなことを思いながらも、俺は少女に近付き目線を合わせるために膝を付いた。

『どうしたんだ?迷子か?』
「お母さん、いなくなっちゃった……」

少女は頷いた後そう言った、ようだ。泣いていてよく聞き取れないが、状況と単語を拾えばそうだろう。
周りにいた保護者たちの警戒的な視線が刺さるが気にしない。
ふと、少女の手に見覚えがある小さなバケツが握られているのが目に留まった。

『ジャンケン大会やり終わって、ここで逸れたのか?』
「うん、お母さん、いないの……」

未だ泣きじゃくる少女を店員に引き渡すかと思い、もう一度見るがジャンケン大会は継続中。
周りを見ても、母親らしき人がくる気配もない。
少女に気付かれないよう小さくため息を付いた。

『よし、俺と一緒にお母さん探そう』
「うん……」

少女は頷いた。
このまま手を引いて歩いても、この人混みの中、この子の母親は気付くだろうか?
仕方がない、と俺は少女を抱き上げた。メダルが零れないように気をつけながら。

『俺は騎暖。名前は?』

少女は素直に答えてくれた、のだが。
咄嗟に出かかった『あ?』という言葉を飲み込んで、『悪ィ』という言葉を言い留めて、

『ごめん、もう一回教えてくれる?』

これだから泣いている子どもは苦手なんだ。……まあ、泣いていなくても苦手だが。

その後、3回同じ会話を繰り返し、ようやく少女の名前が聞き取れた。
モリシタ ナナミ。
これが少女の名前のはずだ、多分。
少なくとも、ナナミという名前は合っている。

母親の着てる服の色とかの特徴なんかも訊いてみたが、その問いの正しい答えは帰ってこなかった。
お母さんお母さんと泣くナナミに、取り敢えずゲーセンの中を回ってみるから、お母さんがいたら言うようにだけ伝えて適当に練り歩いた。
これだけナナミが泣いているのに母親が気付かないということは、ナナミの名前などを叫んでも聞こえないだろう。
下手したら、ナナミが聞いていなかっただけで、ゲーセンで遊んでいるように伝えて買い物に行っている可能性だってある。
子どもはよくも悪くもまっしぐらなのだ。

『いねェなァ……』

取り敢えず、子どもを探していそうな人を探すが、なかなか見つからない。
とうとうもうすぐで一周するというところまで来た。
やはりゲーセン内にはいないのだろうかと思い始めた時、

「あ、お母さん……!!」
『は?どこ!?』
「あっち!」

腕から身を乗り出すナナミを降ろすと、俺の手を取って走り出す。俺は大股で歩いて付いていく。が、

「お母さん……?」
『見失った、のか?』
「お母さん、いなくなっちゃった」

また泣き始めそうなナナミに、再び目線を合わせる。

『大丈夫だ、ここにいたことは間違いないんだから、すぐに見つかる――――――』
「ナナミ!」

顔をあげ、横を見れば、黒い服に眼鏡のおばさん。

「お母さんだ!」

どうやらこの人がナナミの母親のようだ。
俺の手を放し、母親に抱き着いたナナミはそのまま泣きじゃくった。

「もう、何やってるの貴女は!」

そう言いながらナナミの長い髪を撫でる母親の声には、安堵した雰囲気が感じられる。
その態勢のまま俺を見て、「すみませんでした、ありがとうございます」と言う母親に、『いえ、どういたしまして』とぎこちなく返事を返し、踵を返した。
折角再会して、安堵感から母親の腕の中で泣いているんだ、野暮なことは好かない。
俺はナナミには声をかけずに、その場を後にした。

さあ、残された問題はただひとつ。
――――――後はこのメダルをどうするか、だな。


*           *          *


『やっと使い終わった……』

結局メダルはスロットで消費することに決め、増やしながらも使い切った。用は済んだため出口へ向かう。
その途中、子ども用のメダルゲームが集まったところに目が留まった。
そこには、しゃがんだ母親の膝の上に座って、ゲームを楽しむナナミの姿。

『…………』

微笑ましい光景だし、実際、何と言うか、暖かい気持ちっていうのか、柄にもなくそういう気分にもなった。
だけど、それだけじゃなくて。
どこか見ていたくないような、いたたまれないような気分になって、目を無理矢理に逸らし。
俺は何かから逃げるように、ゲーセンを後にした。



こんな複雑な気持ちになったのはアイツのせいだ。
どうでもいいときにはいるくせに、こういうアイツ向きな面倒事の時には隣にいない。
いればきっとこんな複雑怪奇な気分に陥ることはなかっただろう。
多分、きっとそうだ、そうに違いない。
嗚呼、もう、何なんだ一体……!

と。
一気に頭の中で文句を並べ立て、溜め息を付いた。
ここでイライラしたってしょうがない。いない者はいないんだから。
取り敢えず、さっきほど得たチョコ味のうまい棒でも食べて頭を落ち着かせるかと、ポケットに手を伸ばす。

もしも、これが三文小説だったなら、

「あれ、騎暖?」

なんて、今まで頭の中にいた人間が現れることだろう。

『……………』

そこまで思って、ポケットに手を突っ込んだまま、徐に顔を左へ向ける。
その動きはかなりぎこちなく、よく使われる表現を敢えて使うと"それは、油が切れたロボットのよう"だ。

"事実は小説より奇なり"。
世の中に実際に起こる出来事は、虚構の小説よりも奇妙で不思議である、といった意味。
そういう場合もあるかもしれないが、ベタなことも起こったりするものだと思う。というか、そっちの方が絶対に多いはずだ。
今まさに、三文小説的展開になってしまったのがその証拠。

「やっぱり、騎暖じゃないか!」

走り寄ってきたソイツは、どうやら幻ではないらしい。
そんなことよりも、

『……なんで、お前、ここに……?』

先程のイライラに、

「母さんに買い物頼まれちゃってさ。今日安売りしてるからって来させられたんだけど、ここ家から少し遠いから、本当は気が乗らなかったんだ」

でも君に会えたんだから感謝しなくちゃね、それとも運命かな?と笑顔で言うコイツを見ていたら、

「騎暖は?君もおつかいに――――――」
『だったら……もっと早く、現れろやァー!!』

蓋が出来なくなったは、俺のせいじゃない。



三文小説的現実
(それも悪くないと思っている自分はどうかしている)



(ちょ、いきなり何!?どうしたのさ!)
(煩い!)
(痛!ま、待って!!状況を説明して)
(煩いったら煩ーい!)
(理不尽!!)





+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++





こんばんは、渡月です。

今回は『モノクロ世界彩るセカイ』をアップしました。
拓人の出番がない今回の話、実は最後出しましたが、あれもない予定でした。
僕の書く小説はベタベタすぎるので、ここで出したらさらにベタかな~、と思ったからです。
でも、もういっそのことそういうタイトルにして、ベタを足してしまおうかと(泣笑)

因みに、今回の話は半ノンフィクションです。←
僕は何故かよく迷子に出会います。
そして作中にできてきた、
「お母さん買い物に行ってるからここで遊んでるのよ」迷子(←何だそれ)
は、実際に遭遇済みです。確か男の子。
子供の視点の高さは独特で、本当に視野が狭いというか、まっしぐらというか(苦笑)
お子さんと買い物に行く時は、視点を低くもってあげましょう。←


最初は詩モドキだけで運営されていたこのサイト、いまや小説モドキに乗っ取られております。
そんなわけで、次回は『study』を書こうかと思ったんですが、ギャグが思い浮かばないというorz
僕はツッコミ要員なので、ボケがなかなか思い浮かばないんですね;
ということで、次回の話は『警視庁特使捜査課』の話を執筆中です。

よろしかったら、また読んでやってください。
それでは、ここまで読んでくださってありがとうございました。
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