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月灯りの下

闇の世界に差し込む光を追い求めて

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守り方

正面から来た拳を後ろに飛んで避け、腕を引き、肘を後ろにいた奴にお見舞いした。

「おぇ」

 そのまま脇を締め直し、左から拳を振るってきた奴の腹を狙って蹴りを出す。

「ぐふっ」

 その足でしっかりと地面を踏み締め、右手で正面の奴に裏拳を浴びせる。

「あがッ」
「この……ッ」

 反撃とばかりに蹴りを放ってきた奴を避け、しゃがんで支えになっている足を払う。

「わっ!」
「調子に……ッ」

 拳を振るおうとする奴を視界の隅に捉えつつ、立ち上がり様に地面に背中を預けてる奴の腹を思いっ切り踏み付けてやる。

「うぐっ」

 振るわれた拳と同時にこちらも腕を突き出した。

「が……ッ!」

 俺に向けられた拳は髪を掠め、顔の隣で止められていた。一方、俺の掌は相手の顎を捉えていた。
 ひっくり返る相手を見送り、男の上から退きながら痺れを取るために腕を軽く振っていると。

「くっそ……ッ!」

 一番最初に肘を腹に受けた奴が、植木の茂みから何かを引っ張り出し、それを振り上げて突進してきていた。そして、

「くぅろぉみやぁーッ!!」
『!』

 振り下ろした。

『あ』
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生きることと遺すこと

「何かを遺さないとさ、生きてる意味がないっていうか、生きてるんだから、その証拠を残したいじゃん」

誰かがそう言った。俺は『ふーん』と流した。

だって俺は、そうは思わなかったから。

三文小説的現実

どういう分類であれ、どうやら俺は面倒事に巻き込まれやすい体質らしい。

最近特にそんな気がする。

動揺

俺は夢をみるのが好きだった。
単調な日常、醜い人間、彩鮮やかなで遠い世界、そして、歪んだ自分
そんな詰まらない雑多なものよりも、夢を見ている方がよっぽどよかった。
ただ、それだけが、俺をこの世界に留まらせていた。




「黒宮さん、一緒に帰ってもいいかな」
『またお前か』

最近、よく俺の周りをうろちょろするようになった、この男。
確かに、俺は初めてこいつとまともに話した屋上で、「僕もこれからここに来てもいいかな?」と訊かれて、『別に、俺の邪魔じゃなければ構わない』と答えた。
何でそう答えたのかは自分の事ながら全くの謎だ。
まあ、たとえ気まぐれだったとしても、確かにそう言ったことは認める。
が、いつでも付き纏っていいとは言ってない。

『お前、何で俺に構うんだ』
「"お前"って……黒宮さん、いつになったら僕の名前、呼んでくれるの?……迷惑だった?」
『…………』

言ってはいない、が。
迷惑じゃないから余計に困っているのだ。
落ち着かないのに迷惑じゃないってどういうことだ?
嗚呼、調子が悪い。

『……俺はひとりでいる方が好きだ』
「うん、知ってる。だって、いつもひとりでいるもんね、でも――――――」
『なら構うな。お前だって人付き合いってもんがあるだろ。俺と関わっててもいいことなんてないぜ』
「大丈夫、ちゃんと他の友達とも交流あるから。それにね、さっきも言おうとしたんだけど――――」
「おい、黒宮騎暖」
『………』
「ん?」

今度は俺じゃなく、違う奴の声がクラスメイトの言葉を遮った。
遮った主は、俺達の目の前、校門脇を陣取っているグループのリーダー格であろう男。
校門前じゃないだけ控えめな奴らだ。
……誰だろ、こいつら。

「今帰りか?」
『今の時間と俺が向かっている先にあるものとを総合して考えれば、必然的にそうなるだろうな』
「チッ、一々回りくどい言い方しやがる野郎だな。隣の奴は何だ、お前の男か?」

取り巻き共が下品に笑う。
鬱陶しいことこの上ない。

「僕は――――――」
『まさか。だとしても、お前には関係ないだろ。さっさと用件を言え。わざわざ挨拶するために呼び止めたわけじゃないだろ?』

またクラスメイトの言葉を遮ってやった。
これ以上首を突っ込まれたくない。
だって俺のいる世界は、

「こないだのお礼をしにきたに決まってるだろ?」
『お礼?お前たちのことは全然覚えてないけど』
「テメェ……ッ!!」
『ま、どうしてもって言うなら、付き合ってやらないこともないよ』
「上等だ!!付き合ってもらおうじゃァねェか!!」

こういう世界。
これで落ち着いた、事が終わった後にはいつも通りの世界に戻れるはずだ。
きっと……

「どこがいい?校舎裏か、公園か。お前のお気に入りの屋上でも――――――」
「ストップ」
『!』
「あぁ?」

俺に手を伸ばしてきていた男の手首を掴み、俺と男の間に体を滑り込ませてきたクラスメイト。

『ちょ、何』
「悪いけど、ちょっと黙ってて」

何でコイツはいきなり邪魔をしといて俺に命令してんだ。
手首を掴まれた男は、その手を振りほどき怒鳴りつける。

「テメェ、何しやがる!邪魔すんじゃねェッ!!」
「最初に僕の言葉を遮って邪魔したのはそっちだよ。それに、いくら強いからって、女の子に男が束になって喧嘩を挑むのはどうかと思うんだけど」

恥ずかしくない?と相手を挑発する。
……コイツ、俺の代わりに喧嘩する気なのか?

「ンだとテメェッ!!」
「いい気になってんじゃねェぞ!!」
「テメェもついでにやってやろうかァッ!?」

「悪いけど、僕は彼女と帰る約束したんだから、」

今度は成り行きを眺めていた俺の手首を掴み、

「帰らせてもらうよ」

走り出した。

「あ、待ちやがれ!!」

連中はもうここで喧嘩をするつもりでいたため、走り出した俺達への対応が遅れた。
そんな中、クラスメイトはうまいこと連中の間を通り抜け、校門をくぐった。
こうして、不本意ながら俺はこの状況から脱出することに成功した。

男の背中って、こんなに大きいのか。
なんてことを、ふと思った。


*          *          *


コイツ、案外足早いんだな。
なんて思いながら、俺は手を引かれながら走る。
クラスメイトはいきなり道を曲がり、更にその道の脇に入り、壁に寄り添った。
追い掛けてきた連中は、お決まりの台詞を吐きながら走り去っていく。

「うまくやり過ごせたみたいだね」
『……手』
「へ?あ、ごめん!!痛かった?」

男は掴んでいた手を離し、慌てふためいている。
別に痛かったわけじゃない。でも、なんか嫌だっただけで。
――――――というか、なんで、コイツを見ていると、

『……なんで、間に入った?』
「え」
『何で、ほかっといてくれないんだ!』

こんなにもイラつくんだ。

『お前に助けられなくたって、俺はあんな奴ら片付けられた!逃げなくたって平気だった!お前がいなくたって、俺は……』
「うん、わかってる。でも、僕が守りたかったんだ。君を」
『は?"守る"……?』
「さっきから言おうとして遮られてるんだけどね、僕が君と一緒にいたいんだ。だって、君は僕の友達じゃないか」
『と、もだち?一緒にいたい?』
「うん」
『な、んで……?』
「うーん、それを訊かれると困るんだけど、ね」
『?』
「初めて会った屋上でも、言っただろ?好きだから、かな」
『……は?』
「だーかーらー、黒宮さんのことが好きだからだよ」

うん、とかひとりで頷いて勝手に納得してるというか、満足してる。
ちょっと待て。
わけがわからない。
確かに屋上でも「惹かれた」とは言われた。言われた、けど。
何故そうなる?
何故コイツはこんな満足げなんだ?
何故、俺はこんなにもむず痒い気分なんだ?

「あれ、黒宮さん顔真っ赤だよ?」
『~~~ッ、誰のせいだと思ってッ!!』
「はは、かわいい」
『かッ!?……もういい、勝手にしろ』
「え、ちょっと、黒宮さん!?」

俺はコイツを放置することに決め、細い道から出た。
そのまま、さっき走ってきた道を辿る。
コイツに付き合っていたらこっちまでおかしくなりそうだ。

「ちょっと、待ってよ!黒宮さん。一緒に帰るって約束だったでしょ」
『そんな約束した覚えはない』

俺はそこまで言うと立ち止まる。
おっと、と言って後ろで立ち止まる男。
――――――だから、

『"黒宮さん"は止めろ』
「え?」

俺は夢をみるのが好きだった。

『騎暖でいい。』
「え、じゃあ……騎暖、さん?騎暖、ちゃん?」

単調な日常、醜い人間、彩鮮やかなで遠い世界、そして、歪んだ自分、

『何照れてるんだ、お前』
「いや、だってなんか恋人みたいっていうか……」
『は?』

そんな詰まらない雑多なものよりも、夢を見ている方がよっぽどよかった。

『馬鹿じゃないのか……拓人は』
「――――――は、い、え、今、僕の名前、初めて……」
『後ろに何も付けなくていい。俺も、そう呼ぶから』

ただ、それだけが、俺をこの世界に留まらせていた。
はずだったのに。

『いいな!わかったな!』
「うん、騎暖!」

こんな、ことで。

「騎暖!ねえ、騎暖!もう一回僕の名前呼んでよ!騎暖!」
『名前を連呼するな!!』

名前を呼ばれ、傍にいられただけで。

「いいじゃない、別に。だから騎暖も!」
『意味わかんねェ!!』

単調な日常は調子を乱し、醜い人間が少しマシに見え、彩鮮やかなで遠い世界に少し近付けた気がした。
俺は歪んだままだけど。

こんな世界も、悪くないのかもしれない。
そう思えたのきっと。

「ちょっと待ってよ、騎暖!」
『待たない!!』

お前のせいだ。




有意味 or 無意味

"              "

アイツの声が、頭に響く。鬱陶しい事この上ない。
空はあんなにも綺麗で、爽やかで、広くて、

『……遠い』

そんな空さえも鬱陶しく感じて、

『………チッ』

俺は寝返りを打って目を閉じ、視界を暗くした。



「時崎~!」
「はい?」

授業が終わった後、教室を出て行く僕に先生が声をかける。
僕は何かをした覚えはないから、要件の内容は大体は予想がつく。

「黒宮のことだが……」

やっぱり。

「連絡がないんだが、何か聞いてないか?」
「僕のところにも連絡はしてきませんよ、黒宮さんは。でも、靴は見かけたから、学校には来てると思いますが」
「そうか、お前なら心当たりがあるだろう。悪いが、見かけたら職員室まで来るよう言ってくれないか?」
「わかりました。見かけたら、伝えときます」
「助かるよ。しっかし、時崎、先生はお前を尊敬するよ。……あいつも昔は真面目な奴で優秀だったのにな」

呆れたような、理解できないとでも言うような、ちょっとバカにした感じを含んだ物言い。
僕はちょっとムッとして、
「先生、騎暖は今でも真面目だし、努力家ですよ。確かにちょっと問題はありますが、彼女はいい子です」

強気で言ってしまった。
先生もそれにたじろいだらしい。
「あ、あぁ、そうだな。それじゃあ、頼んだぞ」と言って、そそくさと職員室に帰っていった。

「……先生に対してあれはなかったかな」

先生の背中を見送りながら僕は少しだけ反省して、屋上へと足を運ぶ。先生に頼まれずとも、もともとそのつもりだったんだから。
それにしても、先生もあの言い方はないと思う。

確かに、騎暖は先生の言う、すごく真面目で優秀な子だった、と聞いている。
授業も休んだことなんて一回もなかったし、テストの成績だって必ず3位以内には名前を出していた。
成績表だってほぼオール5。
これを僕は聞いたとき、純粋にすごいと思った。
天才なんて砂漠の砂の中の宝石だ。だから、努力家なんだなって、そう思った。

それでもある時を境に―確か、テストで1位をとった後、と聞いた覚えがある―彼女は授業を休みがちになった。今も出席日数はギリギリだ。
僕はどうして行き成り授業に出なくなったのか、その理由を知らない。
けど、僕だって知っていることはある。

騎暖は人が苦手で、教室にいるのも億劫で、それでも彼女は授業に出ていない分、自分でちゃんと勉強している。
そして、テストでは未だに10番内には入っている。
授業に出ていない分、勉強は大変だと思う。
僕もたまに教えてくれとは頼まれるが、本当にたまにだ。
先生が教えてくれるテストの情報のことなんて一切聞いてこないし、教えようとすると断固断られる。
それはきっと彼女なりの誠意なんだろう。
だからこそ、かなりの努力が必要だと僕は思う。
僕は深呼吸をし、目の前に現れた屋上へと繋がる扉を開け、彼女がいるであろう場所へと進んだ。




「……騎暖?」

見つけた彼女は珍しく、空を見る仰向けの状態ではなく、横向きに寝て丸まっていた。
まさか、どこか悪いんだろうか?
不安になった僕は彼女に飛びついて、肩を掴み揺らす。

「騎暖!騎暖ったら!」
『……拓人?』

眠たげに開けられ、僕を見る瞳はいつもと同じで。

「よかった、心配したじゃないか」
『……何が?』
「いつもと寝方が違ったからさ、どこか悪いのかって心配した」
『…………そう』

そこで僕は気がついた。
起き上がった彼女の伏せられた目は、いつもの瞳なんかじゃなかった。
不安そうで、寂しそうで、危なげに揺れている。

「何か、あった?話、僕でよければ聴くよ?」
『…………』
「あ、でも無理には――――――」
『たまに、』

僕の言葉を遮って、彼女は口を開いた。
僕はそのまま口を閉じ、耳を傾けるだけにする。


『たまに、思うんだ。――――――自分は今、何でここにいるんだろう。自分は今、何でこんなことをしてるんだろうって』

『本当は、こんなとこにいたいんじゃない、こんなことしたいんじゃない。それでも、今更止めることなんてできなくて』

『一体何に意味があって、一体何に意味がないんだろう』

『そもそも、この世界に、意味のあるものなんてあるのかな』


気持ちのいい風が、僕たちの髪を揺らして行く。沈黙を流す。
今日は本当に空が綺麗だ。彼女がサボって屋上に来るのもわかる気がする。
そんなことを思いながら、空を眺めたまま僕は口を開いた。

「やっている事に、きっと意味なんてないんだと思う。意味があるかないかは、その物事が終わった後に、見えてくるものだと思うから。
 ほら、校則とか、きちんと守ってから"これは意味がない"とかっていう文句を初めて言うことが出来るだろ?
 それは、そういう行為をやってから初めて、本当に意味があるのかないのかわかるからなんだよ」

さっきよりも短い沈黙の後、今度は彼女が口を開いた。
自嘲を含んだ声が響く。

『……そっか。じゃあ、やっぱり、俺がやってきたことに、あいつが言ったように、やっぱり意味なんてなかったんだな』
「誰が言ったのそんなこと!?」
『……ッ』

僕はその言葉にはじかれたように、隣に座っている騎暖を見た。
驚いた顔をしてる。

『行き成りなんなんだ、驚かせるな』
「だって……!」

僕はそこまで言って、言葉を呑み込んだ。
ダメだ、ここで熱くなっても意味がない。落ち着かないと。
僕は浅めの深呼吸をしてからもう一度、飲み込んだ言葉を出した。

「誰に言われたの?そんなこと」
『………アイツ』
「"アイツ"って……。ハァ、君のお父さんには悪いけど、僕、今すぐ殴りに行きたくなっちゃったよ」

親のことを"アイツ"と呼ぶのは正直、感心しない。
けど、彼女の家はよくはわからないけど、色々と厄介らしい。彼女も寂しい思いをして、今に至るんだと思う。
何に対してそう言われたのか知らないけど、実の親だろうと言っていいことと悪いことがあるだろうに……。

『アイツのことはどうでもいいけど、何でお前がそんなふうに怒るんだよ』
「何でって、君を傷つけたからに決まってるだろ?」
『………決まってる?』
「うん、だって僕は、君を守りたいから」
『………』

彼女の事情は全くといっていいほど分からない。でも彼女が言わない以上、訊こうとも思わない。
それでも、わかるんだ。なんとなくだけど。

彼女は本当は寂しがり屋で、恐がりで、泣き虫で。
今の彼女は、そんな自分を守るために身に付けた防衛手段。

だから、そんな傷だらけの君を、僕は守りたいんだよ。
傷つけようとするモノから、これ以上君が傷つかないように。
君が傷ついたのなら、せめて少しだけでもいいから、その傷を癒せるように。


「いいかい?騎暖。確かに、やってたことに意味がないことだってあるよ」

「僕たちはまだまだ子どもだ。だから、きかなきゃいけない親の言うことの中にだって、さっき言った校則にだって、意味がないと思えることなんて腐る程ある」

「それでも、君が君の意志でやってきたこと、君が頑張ってやってきたことに、意味が無いだなんてありえない」

「君が一生懸命やったこと、頑張ったことは絶対無意味になんてならないから」
 
「たとえ終わった後に意味がなかったと思っても、気付かないどこかで意味あるものになって、君の力になってるから。だから――――――」

「だから、そんな、それこそ無意味な言葉に傷つかないで」


彼女の大きく見開かれ、揺れている瞳を真っ直ぐに見つめる。
そんな君のことを何も知らないような、知ろうとしないような言葉に、これ以上傷つくことはないんだよ。

『……別に、俺は、傷ついてなんかない』

「バカ」と言いながら、騎暖はちょっと拗ねたような顔で顔を背ける。
あ、照れてる。バカはちょっとヒドイ気がするけど、それも彼女の照れ隠しのひとつ。可愛いな~。

「そう?ならいいんだけどさ」
『……………でも、あ、ありがとう』
「どういたしまして」

不器用な彼女が可愛くて、クスリと笑うと、『笑うなバカ!』と頭を小突かれ思わず「いたっ」と言う声が漏れる。
それでも、彼女がいつもの調子に戻ったのは嬉しい。
僕は空を見上げた。
まだ照れているらしい、仏頂面のまま彼女も瞳を空へと向けた。


嗚呼、空はあんなにも綺麗で、爽やかで、広くて、

『……眩しい』



寂しがり屋で、恐がりで、泣き虫で、独りぼっちな君
どうか独りで傷つかないで
どうか独りで悲しみを殺さないで
その傷を
その悲しみを
どうか僕に殺させて

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