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月灯りの下

闇の世界に差し込む光を追い求めて

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守り方

正面から来た拳を後ろに飛んで避け、腕を引き、肘を後ろにいた奴にお見舞いした。

「おぇ」

 そのまま脇を締め直し、左から拳を振るってきた奴の腹を狙って蹴りを出す。

「ぐふっ」

 その足でしっかりと地面を踏み締め、右手で正面の奴に裏拳を浴びせる。

「あがッ」
「この……ッ」

 反撃とばかりに蹴りを放ってきた奴を避け、しゃがんで支えになっている足を払う。

「わっ!」
「調子に……ッ」

 拳を振るおうとする奴を視界の隅に捉えつつ、立ち上がり様に地面に背中を預けてる奴の腹を思いっ切り踏み付けてやる。

「うぐっ」

 振るわれた拳と同時にこちらも腕を突き出した。

「が……ッ!」

 俺に向けられた拳は髪を掠め、顔の隣で止められていた。一方、俺の掌は相手の顎を捉えていた。
 ひっくり返る相手を見送り、男の上から退きながら痺れを取るために腕を軽く振っていると。

「くっそ……ッ!」

 一番最初に肘を腹に受けた奴が、植木の茂みから何かを引っ張り出し、それを振り上げて突進してきていた。そして、

「くぅろぉみやぁーッ!!」
『!』

 振り下ろした。

『あ』

*          *          *


「騎暖ー?」

 放課後、掃除が終わり屋上に顔を出した。目当ての人は柵にもたれ掛かって、下を見下ろしていた。

『ん?……拓人』
「よかった、まだいて。下に何かあるの?」
『……いや、何も。それより、何だよ。何か用か?』
「うん。友達にね、おいしいかき氷屋を見つけたから、これから行かないかって誘われたんだけど、騎暖も一緒にどう?今日は朝から授業に出てたから疲れたんじゃない?」
『だから冷たいもので頭を冷やせ、と。……何か失礼だな、お前』

 少しの逡巡。

『俺は、いい。お前だけ行ってこい』
「え、いいじゃん。行こうよ。あ、友達にも一応許可はもらってるから、気にしなくても――――――」

 食い下がる僕に騎暖は首を振った。

『そうじゃない。野暮用があるんだ』
「野暮用?」
『いつ終わるか判らないから、遠慮しとく』
「そっか。なら仕方ないね。また用事が無いときに一緒に行こう」
『ああ』
「それじゃあ、また明日ね」
『明日な』

 そして僕は騎暖と別れた。
 けど、翌日、すごく後悔することになる。



 昨日は一日中教室にいたから、今日はこないだろうという僕の予想は当たっていた。騎暖の席は空いている。
 まったく、しょうがないなあ。
 そんなことを想いながらも、彼女を思い浮かべると、にやけてしまうから重症だ。

「あ、おーい、時崎くーん」
   なつくさ
「……夏草先生」
「何、その嫌そーな顔は」
「あ、すみません。嫌だったんで、つい」
「…………」

 移動教室で廊下を歩いていると、夏草先生に出くわした。騎暖には同族だと言われたが、僕はこの人がイマイチ好きになれなかった。

「で、何かあったんですか?」
「……ああ、昨日、姫大変だったな」
「はい?」

 複雑な表情をして固まった先生に声をかけたが、思わぬ人物の名前が出てきた。
 騎暖が、大変?

「学校内で喧嘩っていうのがマズかったよな~。外もよくはないが。しかし、怪我も軽くてよかっ――――――」
「怪我?!騎暖が?!どういうことですか!!」

 思わず先生に掴み掛かる。腕から用具は滑り落ち、けたたましい音をたてたが気にしている場合ではなかった。

「うお!何、知らなかったの?」
「だからこうして訊いてるんでしょ!」
「判ったから、落ち着きなさいよ」

 フーと溜息を吐きながらやんわりと僕の手を外すと、しゃがんで落とした用具を拾い始めてくれた。

「昨日の放課後、体育館裏で不良男子生徒5人と喧嘩したんだよ。一人だったにもかかわらず優勢だったが、一人が角材を隠し持っててな。姫の腕を掠ったんだよ」
「……角材」
「先生がたまたま通ったときは、姫が蹴りで角材をへし折り、相手は腰を抜かしたっていう場面だったらしい。で、そのまま生徒指導室へ直行。ま、姫は呼び出されただけだったみたいだし、相手が武器使ったもんだから、2週間の停学で済んだけど」
「停学……、2週間……」
「俺も女の子なんだからやんちゃは控えるようにって言ってあるんだけど、王子からも釘刺しといてくれる?」

 ほい、と僕の腕に用具を押し付けると。

「じゃ、授業頑張れよー」

 手をひらりと振って去って行ったが、僕の頭の中は先生の話しで拾った単語がぐるぐると巡っていた。お陰で授業の内容も、頭に入ってくることはなかった。




「騎暖!」

 朝、下駄箱に靴があったから、来ていることは判った。
 屋上に行くと騎暖は腕を組んで枕にし、横になっていた。腕に巻かれた包帯が覗いている。僕が大きな声を出したせいで飛び起き、包帯は袖に隠れた。

『何だよ、大声出して。驚くだろ!』
「昨日喧嘩したって本当なの?!というかその怪我!!」

 包帯が巻かれていた腕を取ったが、やんわりと振り解かれた。

『ただのかすり傷だ。包帯だって大袈裟なんだよ。……っていうか、何で昨日のこと知ってんだ』
「夏草先生に聞いたんだよ。昨日ってことは、僕と別れてからってこと?呼び出されたって聞いたけど、昨日の野暮用ってそのことだったの?」

 勢いに任せて騎暖に詰め寄ると、少し体をのけ反らせた。

『煩い奴だな。昨日の朝、下駄箱を開けたら手紙が入ってたんだよ。"前から気になってたんで放課後に体育館裏に来て下さい"って書いてあったんだよ』
「それって告白じゃん!」
『まさか。俺みたいなのにそんな色気があるもの、来るわけないだろ』
「君はね……」

 即答ですか。もう少し自分の魅力に気付いタ方がいいと思う。……ん?

「まさか、告白じゃ無いことを前提に、昨日全部授業に出てたの?」
『ああ。喧嘩になったら、しばらく授業出れないと思ったからさ』
「……告白だったらどうするつもりだったの?」
『どうするもこうするも、違うって判ってたから。俺がよくいる場所が屋だってことを考えないなんて馬鹿だよ、連中』
「まさかあの時、体育館裏の様子を窺ってたの?」
『ああ』

 昨日、僕が誘いに行った時、騎暖が下を見ていたのはそういう理由があったのか。ということは、

『相手の人数も囲むっていう行動も把握できたよ。打ち合わせみたいなのしてたし。……まあ、角材を隠してたのは知らなかったけど』
「……じゃあ、何であの時、言わなかったんだ?」
『拓人?』

 苛立ちで自然と声が低くなる。

「あの時、言ってくれれば、君を一人で行かせかなかったし、無視することだって出来たじゃないか!そうすれば、怪我もしなかったし、停学になることもなかったのに……!」

 その苛立ちは間違いなく、その男子生徒たちと自分と

『お前には関係ないことだろ』

 彼女に向けられた感情だ。

「関係なくないだろ!」

 苛立っている今の僕は、その言葉だけを言うのが精一杯で。
 それだけを彼女に吐き捨てて、屋上を後にした。

『…………』




 扉を乱雑にノックし、失礼しますと声をかける。「は~」と言うのを聞くや否や扉を開けた。

「い……って王子じゃん。まだ返事し終わってなかったんだけど」
「"は"って言ったら"い"しかないじゃないですか。あと、その呼び方やめてください」
「珍しくイラついてんじゃん。どうしたの?」

 夏草先生はお医者さんが座ってそうな回転椅子から立ち上がり、僕にはその前の椅子を勧められる。「失礼します」と言って座ると

「お茶でいい?」

 と訊かれたので、肯定の返事を返すと、少ししてから目の前にお茶を出された。礼を言って受け取ると、先生も定位置に座った。

「で?何があったんだ?」
「……騎暖に、昨日のことを聞きに行ったんです」
「姫の家に行ったの?授業サボって?」

 お茶を啜りながら意外そうな顔をされた。騎暖が大人しく家にいても、流石に授業はサボらない、はず……多分。

「騎暖なら学校に来てますよ」
「え、停学なのに?」
「……まあ、騎暖にも色々あるんですよ。それに、"停学食らうような人間は授業なんてまともに受けてないんだから、ただのご褒美でしかない。土日も学校に来いって言う方が罰に値する。"っていうのが騎暖の持論です」

 納得させられる持論だが、果して、それでいいのか。これには先生も苦笑した。

「あはは、姫らしいことで。でも確かに、元々姫は学校に来てるかどうかも判らない生徒だから、停学になってもあんま変わらないか。で、何にイライラしてんの?」
「……関係ないって、言われて」

 ……あ、思い出したらまた沸々と来たかも。

「呼び出しに応じる前に僕に会ったのに、何も言わなかったんですよ!言うチャンスはいくらでもあったのに!そりゃ、騎暖に話す義務はないですよ?でも、いいでしょ教えてくれたって!友達なんだし、それに、少なくとも学校では一番近くにいるんだし!」
「要するに、頼ってほしかったんだろ、時崎くんは」

 そう、それが僕の本音。
 でも、本当は判ってる。

「確かに、僕は騎暖程強くないですよ?喧嘩だって好きじゃないし。……でも、守りたいじゃないですか。好きになった女の子ぐらい」

 騎暖が僕に言わなかったのは、

「黒宮ちゃんも同じ気持ちだったんだ、きっと。君を守りたかったんだ」

 騎暖よりも弱く、喧嘩が好きじゃない僕を、守るため。

「否、自分を守るため、って言うかな、あの子は。君を弱いとは思ってはないだろうけど、自分のことに巻き込んで怪我をされたり、停学食らったりするのが嫌だった。黒宮ちゃんはそうなった場合、赦せなかったんだ。自分のことも、君のことも」
「僕のことも……?」
「もし、君が喧嘩に巻き込まれている。そこに黒宮ちゃんが加勢に現れた。嬉しい?」

 そんなもしも、簡単に想像できる。だって、その"もしも"が、僕達の出会い。僕が彼女に惹かれた理由の一つも、そこにある。

「そんな危ないことするなって、怒ります」
「相手のことを本当に想って怒るってことは、その相手を本当に大切に想っている証ってね。君がもし参加して、停学食らってたとしたら、黒宮ちゃんは自分自身を赦せなかった。喧嘩が好きじゃない君でいてほしかったんだよ。何故なら、君は――――――」

*          *          *

 これは俺の問題であって、あいつには関係ないこと。
 友達と学校帰りに遊びに行く。普通のこと。
 学校終わりに喧嘩する。まあベタだけど、普通じゃない異常なこと。
 普通に異常を持ち込んではいけないのと同じで、異常にも普通を持ち込んではいけない。何より、俺はアイツに入り込んでほしくなかった。それは何よりも自分のために。
 だから、これは俺が想像していた通りの結果。
 なのに。
 どうして、こんなに居心地が悪いんだろう?

「騎暖」

 アイツがいなくなることが、こんなにも俺の世界に影響を与えることだったっけ……?

『……拓人』

 先程と同じように寝転んでいると、再び拓人が現れた。そして、溜め息をひとつ。人の顔見て溜め息を吐くなんて失礼な奴め。

「包帯、緩んでるよ。やり直してあげるから起きて」

 そう言われて、チラリと横目で見ると、確かに緩んでいる。寝返りをうっている間に緩んだんだろう。

『いらない。大袈裟だって言っただろ』
「いいから起きる!」

 俺の傍に腰を下ろした拓人は、もうテコでは動かないだろう。仕方ない、舌打ちをひとつして起きる。拓人は別段気にする風もなく、包帯をスルスルと解き始めた。
 傷にはガーゼが張り付いており、血が滲んでいた。角材を反射的に避けたため直撃はしなかったものの、掠ってしまった傷はまだ塞がっていない。
 解いた包帯を丸め直し、俺の腕に巻き出した。

「……頼りないかもしれないけど、僕だって騎暖を守りたいんだからね」
『………』

 今まで無言で作業をしていた拓人がようやく口を開いた。と思ったら、世間一般に言う甘い言葉を吐いてきた。
 俺が守られるなんて、有り得ない。そんな必要もない。
 有り得ない。必要もない。のに。

「折角、僕みたいな物好きがいるんだからさ、少しは利用してみない?」

 コイツといると、ほんと調子が狂う。今に始まったことじゃないが。

「騎暖ならいつでも歓迎なんだけど」
『気持ち悪いこと言うな』

 立ち上がり様に手の甲で額を叩いてやった。

「いて」

 昼休みの終わりを告げるチャイムが響いた。空に向かって腕を伸ばし、伸びをする。

『お前、さっさと授業行けよ』
「判ってるよ。というか、君に言われたくない言葉だね」
『んで、帰りにかき氷屋に連れてけ』
「え」
『利用していいんだろ?図書館で待ってる』

 「そういう意味じゃないんだけどな~」と苦笑する拓人を無視して屋上を後にした。
 今の俺には、これが精一杯なんだよ。そのぐらい察しろ、バカ拓人。

*          *          *

”何故なら、君は、彼女のいる世界と君たちがいる世界を繋ぐことができる唯一の人だからね”

 夏草先生の言ったことはよくわからないけど、きっと精神的には頼ってくれているということだろうと勝手に解釈する。それでも、もっと頼って欲しいと思ってしまうのが、欲が尽きない人間の悲しい性。それを無理強いしようとしてしまったけど、彼女の気持ちは嬉しかったし、大切にしたい。
 だからせめて、もしも彼女が僕を頼る気を起こしてくれたときに、少しでも気楽に僕に支えさせてくれるように、扉を半開きぐらいにしておこう。
 それが今の僕にできる、彼女の守り方なのだろう。





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こんばんは、渡月です。
今回は『モノ彩』です。
話自体は出来てたんですが、忙しくてなかなかUPできませんでした。

なのに(?)長いし、言いたいことがまとまってなくてすみませんorz
伏線っぽくしようとして失敗したいい例です。←
この話の最終回の内容は既に決まってたりします。
なので、夏草先生の台詞がパズルのピースみたいにできればなあと思っているんですが……

誰か文才をください!!!


前回の『血塗れアリス』から喧嘩話が続いてますが、この2人は1話で仲直り。
『血濡れのアリス』の方は重いですからね、やっぱり簡単に仲直りは難しいかと……。
そして、次は『study!』の過去編ですね。
こちらもそんな匂いがプンプンしている代物ですが、
お付き合いいただければ嬉しいです。


それでは、ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました!
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