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月灯りの下

闇の世界に差し込む光を追い求めて

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只今、追跡中!

『どのデザートにしよっかな~。ねえ、秋木くんはどれがいいと思う?』
「先輩が食べたいので」
『答えになってないんだけど。でもほんと迷っちゃうな~。全部買ってこうかな?』
「持って帰れません、歩きなんで」

 今、俺達はコンビニに来ている。きっかけは先輩の『何か甘いもの食べたくない?デザート的な』の一言だった。
 デザートって何のデザートなんだ?もう夕方なんスけど……。

「歩きといえば、なんか最近引ったくりが頻発してるらしいっスね。しかもスーパーやコンビニを出た人を狙ってるとか」
『歩きといえばどうかはさておき、そうらしいわね。でも、どうしてそんなとこから出てきた人を狙うのかしらね?財布を持っていることは確実だけど、たいていの人は持っているだろうし。お金使った後だから、少なからず手持ちも減ってるでしょうに』

 確かに……。

『……それはそうとして、引ったくられたときのことも考えて、容器ものは避けるべきよね。捕まえるまでに大変なことになるから』
「え、そこっスか!?」
『そりゃね。いつぞやのパフェの二の舞なんて御免だもの。ん?……あ、これにしようかな!"紅茶シュークリーム"だって!』
「へぇ、珍しいっスね」
『ね。クリームが紅茶味だなんて珍しい。よし、君に決めた!』

 目をキラキラさせながら、どこかで聞き覚えのある台詞を言う先輩は、端から見たら子ども以外の何者でもないのだろう。こう見えても、俺の上司で警部なのだ。

「決まったんなら会計に行きますよ。午後の休み終わっちゃいますよー」
『君さ、最近私を子供扱いしてないかい?……ん?ちょっと、秋木くん』

 レジへ向かおうとしていた俺のスーツが引っ張られる。

「なんスか?」
『あれ』

先輩が示す先には、20代後半から30代前半ぐらいの男性が、品物であるカップ麺を手にキョロキョロと周りを見回していた。

『商品を持ったまま、監視カメラを背にして周りを窺ってる』
「怪しいっスね」
『だな』

 先輩はシュークリームを元の場所に置くと、携帯を取り出した。そしてムービーを起動させた。先輩は完全に仕事モードだ。
 俺達は目で合図をし合い、先輩を隠す盾になって男性に気付かれないように近付いた。
 男性がキョロキョロと何かを探す仕草を止め、監視カメラを背にしたまま歩きだした。男性が目指す先には、品定めをしている一人の女性。
 男性がすれ違い様に、

「あ」

 女性が肩に掛けている鞄の中に、先ほど手に持ったカップ麺を放り込んだ。ぶつかったと思ったのであろう女性が振り返ったが、男性は会釈して去って行き、女性も品定めに戻った。

「ちょ、先輩!」
『しっ!共犯の可能性がある』

 そのまま俺達も移動し、男性がコンビニの外へ出ていくのを見送った。女性はレジに向かっている。
 先輩は素早く携帯を操作し、SDカードを抜いてから携帯を差し出した。

『秋木は男を引っ張ってこい』
「はい」

 携帯を受け取り、急いでコンビニを出ると、ちんたらと歩いている男性を発見した。




 レジに並んだ女性は、自分のカゴにある商品の会計を済ませ、外に出た。私もそれを追って外へ。

『ちょっとすみません』
「はい?」
『私、警視庁特使捜査課の水成と申します』
「え、警視庁の方、ですか!?」
『はい。……そちら鞄の中、少し見せていただいてもよろしいでしょうか?』
「え、何で……」
『いきなりの申し出で恐縮です。では、中身を確認してもらってもいいですか?』
「は、はい。それなら……」

 女性はオドオドしながらも、自分の鞄の中を見た。

「な、何コレ!?何でこんな物が……!」

 そして彼女は私を見て、

「あの、私!こんなの知らなくて!どうしよう……、あの、コンビニ、そうだ!コンビニ!取り敢えず返さないと!ですよね!?」

 ……何か少しズレてる気がする。

『すみません、少しお話をお訊きたいので、警察の方までご足労願えますか?』
「え、あ、えっと、ご、ごめんなさい!!これが入ってるなんて私、知らなくて!私、出てきてしまって、ほんと、ごめんなさい!!」

 頭をすごい勢いで何度も下げられた。
 すごいパニック状態。しかも今まで見たことがないパターン。どうやら共犯ではなさそうだ。

『落ち着いてください。あなたが万引きしたとは思ってませんから』
「え……?」
『万引き犯なら、謝った後に言い訳するか、すっとぼけるか、はたまた逃げるかのどれかですから』
「はぁ」
『どちらにしろ、色々お訊きしなければならないので、お時間よろしいですか?』
「判りました。あ、でもこれ冷蔵庫に入れてからでもいいですか?」
『はい、もちろん。では、お付き合いしてもよろしいでしょうか?歩いている間に、少し状況をご説明しますから』
「あ、はい。よろしくお願いします」

 そして、その場で少し待ってもらい、コンビニの店長に事情を説明してから、彼女の家を目指した。




「ちょっとすみません」
「はい?何ですか?」
「警視庁特使捜査課の秋木と申します」
「……警察の」

 俺は先ほどの男性を捕まえて、職質をかけていた。

「先程、少し行った所にあるコンビニにいらしゃいましたよね?」
「そうだが、何か?」
「お客さんの1人である女性の鞄の中に、カップ麺を投げ込まれてましたよね?」
「何を馬鹿なことを。そんなことして何になるっていうんだ?」
「さあ、それはまだわかんないんスけどね、証拠があったりするんスよ」

 そして先輩から託された携帯を開き、センターボタンを押した。最初は訝しがっていた男性も、流れ始めた映像を見て顔色を変えた。

「……取り敢えず、警察までご同行願えますか」

 俯いた男性に声を掛けた、その時、

「うわあああああ!」
「おわ!」

 突如、俺に飛び掛かり、携帯を奪って走り去った。

「ちょ、待て!!」

 俺は急いで追い掛けた。




    はしたか 
 女性・橋高さんの家に向かう途中、コンビニで見た一部始終を話していた。

『男の方は、いま部下が追ってますので、ご安心ください』
「そうだったんですか……。でも、その人は何でそんなことを?」
『まだ判りかねますが、あなたを共犯に仕立てようとした可能性は考えられますね』




「ちょ、待てって!!」

 男は思った以上に足が早いため、スタートダッシュが遅れた俺は完全に追い付けずにいた。
 ヤバい。非常にヤバい。これはどっかで見たことがあるシュチュエーションだ。

「ゲッ」

 そして、男の前には見覚えのある背中が二つ並んで歩いていた。




「わ、私が共犯者ですか!?」
『たまにいるんですよ。関係ない人を道連れにしようとする輩が』
「そうなんですか。じゃあ私も危なかったんですね……!よかった~、見つけてくれたのが刑事さ――――――」
「先輩……ッ!!」

 呼ばれて振り返ると、先程秋木に追わせた男性が、こちらに走って来るのが目に入った。橋高さんも私に倣って振り返ったが、その時にはもう遅かった。

『危ない!』
「キャッ」
『ッ!』

 男は橋高さんを突き飛ばすように体当たりした。何とか彼女と地面の間に滑り込んだが、手放された鞄は、男が持ち去った。

「先輩!」
『いい、追え!』
「はい!」

 追い付いた秋木に指示を出し、橋高さんを見る。

『大丈夫ですか?』
「あ、はい。ありがとうご――――――」
『すぐに所轄の人間を向かわせるのでここにいてください』
「あ――――――、」

 それだけ言い残し、走り出した。




『秋木!』

 男を追っていると、後ろから先輩が追い付いてきた。

『携帯!所轄に連絡を……』
「あ、それがですね……」

 怖々、男の手の中にあることをご報告。

『はぁ?!たくっ、ほんとに引ったくりに遭うなんて』
「すみません!」
『取り敢えず所轄に連絡!彼女の保護!』
「はい!」

 俺は携帯を取り出し、ボタンを押す。

『ん?引ったくり?万引きをした男が?』
「……?」

 訝しむ先輩を横目に電話を掛け、直ぐに向かう旨の返事を受けた。

『それにしても、速いな、無駄に』

 『秋木も私も追いつかないとは……』と言う先輩に俺は考えていたことを持ち掛けた。

「……先輩、俺、名誉挽回させてもらってもいいっスか?」

 先輩はチラリと一瞥して、

『訊くな、できることはやれ』
「はい!」

 そして俺は角を曲がり、先輩から離れた。
 陰った細い路地をくねくねと走り、進む。少し先に見えた光りへと飛び出した。

「なっ!?」
「ビンゴ!」

 目の先には先程の男。
 いきなりで驚いたのであろう男は、止まれず突っ込んで来る。そんな男の腕を取った。走ってきた勢いを殺すために一回りする。男の手にあった鞄と携帯が後方に飛んだ。

『うわっ、とと』

 そんな先輩の声を聞きながら、俺は男の肩を押さえて地面に沈めた。

「先輩!」

 先輩の方を見ると、何とか走り込んで飛んだものを確保した、といった感じだった。

『秋木!お前は私の携帯をパーにするつもりか!』
「す、すみません!」
『でも、よくやった』
「ありがとうございます……!」

 男を座らせ手錠をかける。

「チクショー」
『残念だったな。成功しなくて、最近流行りの引ったくり犯さん?』
「……」
「え、こいつが?万引き犯じゃなくて?」
『万引き犯が、わざわざ戻ってきて引ったくりなんてするわけないだろ?だから、それがあなたの手口ってわけだ』
「………」
「どうゆうことっスか?」
『私たちが見ていた通り、商品を選び、近くにいる客の鞄などに入れ、万引きを肩代わりさせる。そして、その人の鞄をする。それがこの人の手口、そうだろう?』
「フン」

 どうやら図星と取ってよさそうだ。

「でも、何だってそんなことを?」
『万引きをするにもリスクがかかる。それを他人に肩代わりさせたのさ。他人が万引きで捕まったとしても、共犯じゃないから自分が捕まることもない。自分が引ったくりで捕まっても、そっちの窃盗だけの罪だ。万引きによる店に対する窃盗は含まれないことになる』
「なるほど。なんて汚いことするんだよ、あんた」
「うるせー!そうでもしなきゃやっていけない苦労が、公僕のお前らに判るか!?」
『ああ、判らんな。巻き込まれた何の罪もない人間の気持ちを考えようともしない貴様の気持ちなど、判りたくもないわ!』
「ッ!!」

 噛み付いた男を、先輩はあっさりと斬って捨てた。

『生活が苦しいなら、他にも出来ることがあっただろ?少なくとも、人を巻き込まない方法ぐらいはあったはず!それを選んだのは貴様の弱さだ!人や国のせいにするな、馬鹿者!』
「……チクショー」




 さっきの女性のところまで戻った俺達は、来ていた所轄のパトカーに男を突っ込んだ。

『はい、鞄です。お怪我はありませんでしたか?橋高さん』
「ありがとうございます。はい、刑事さんが庇ってくださったので……。本当にありがとうございました!」
『いえ、どういたしまして』
「あの、よろしかったらコレ、どうぞ。助けていただいたお礼です」
『こ、これは……!』
「あ」

 女性が何やら先輩に渡した。横から覗き込むと、先輩の手の中には、先程買うのを断念した紅茶味のクリームのシュークリームだった。

「私、2個買ったので……」
『あ、や、しかし、お気持ちは嬉しいのですが、こちらも仕事ですので……』
「判ってます。それでも、やっぱりお渡したいんです。刑事さんじゃなかったら私、捕まってたかもしれませんし、怪我だってありませんでしたし。……ダメでしょうか?」
『……判りました。ありがとうございます。頂きます』

 そして、もう一台のパトカーにその女性が乗り、俺達も追加で来させたパトカーに乗り込んだ。

『あー、やっぱり』
「?何が……って先輩!?何やってんスか!」

 助手席から後部座席を見ると、先輩はストレートパンツを膝上まで捲り上げていた。

『何かいつもみたいに走れないと思ったら、擦りむいてた。ほら』
「せめて部屋に帰ってからにしてください!」
『何こんぐらいで動揺してんのよ。……あ、肘もだ』

 この人はもう少しぐらいでいいから、デリカシーというものを身につけてほしい。女性なんだし。

『それにしても奇跡よねー!まさか一度手放した物にこうして出会えるなんて!』
「確かに」
『食べるの楽しみー』
「その前に、傷の手当っスけどね」

 目をキラキラとさせている先輩に釘を打つ。

『いらないわよ、そんなの。このぐらい舐めておけば治るわ』
「ダメですって、消毒しなきゃ。バイ菌が入ったらどうするんスか?」
『……君ね、やっぱり私のこと、子ども扱いしてるでしょ?それにね、消毒は細胞を殺してしまうからよくないのよ?これ最近の常識。細菌だけに』
「うまい!……って、ただ消毒が嫌なだけなんじゃないんスか~?子どもじゃないんだから、せんぱ――――――」

 コツン、と頭に何かが当たった。バックミラーを見れば、それが何かは一目瞭然で――――――

ここで死ぬ?秋木くんv

 いつも常備している伸縮自在の警棒を持ち、黒い笑顔の先輩がそこにいた。

「スミマセンデシタ」





+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++





こんばんは、渡月です。

テスト終わった!テスト終わった!
ということで、『警視庁特使捜査顆』アップです!


……うん、結構自分でも無理があったと思います。
これだからミステリは~~~……!orz
難しいです;



ブログの方でもちょろっと書いたのですが、
学校の機関誌(?)に投稿してみようと企み、只今書いてます。
一応、この間『モノクロ世界彩るセカイ』にちょっと出した伏線の話で進んでおります。
そのまま長編としてここに並びそうで恐いですが;

ただ、字数が;
制限はないのですが、今まであまりみなさんそこまで長くなかったので、そこが唯一の関門です。
長かったら止めようかな……。←
一応、ここには載せようと思っております。
ここならどんだけ長くても安心です!(笑)


次の話は『study!』の予定なんですが、ものっそい長くなってしまいそうで;
『モノクロ』の話数は抜かしたくはないので頑張ります!(何を)



それでは、ここまで読んでくださってありがとうございました!
またのお越しをお待ちしております。
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