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月灯りの下

闇の世界に差し込む光を追い求めて

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嗚呼、今日は(後編)

※流血表現あり



アイリスは部屋の奥へと進み、ポーチからプラスチック製の目覚まし時計のような箱を取り出し、木箱の上に置き、スイッチを押した。そのまま木箱に飛び乗り、天井に近付く。その間にベルトから拳銃を抜いておく。その天井には鉄格子、排気口があった。鉄格子の四隅を拳銃で撃つと、重力に身を任せて鉄格子が落ちてきた。四発撃ち終わった時点で、使った拳銃を捨て、排気口の中へとスルスル入って行った。その一連の動作は20秒もなく終了した。

彼女が入った部屋は、木箱が出鱈目に詰め込まれた、10人くらいならまだ入れそうな部屋だった。

アイリスは排気孔の中を歩腹前進で進んで行く。

5

男たちの声が聞こえる。

4

怒鳴り声、何か――恐らく木箱だろうが――を蹴る音。

3

あ、今の音、"あれ"が落ちたかな。

2

衝撃では作動しないから大丈夫だと思うけど。

1

でも、まあ、どちらにしろ――――――

『0』

爆発するのだが。

直後、爆音が響き、空気を揺らした。
アイリスは排気口の中で少し状態を起こし、鉄格子を蹴破り、脱出した。抜け出すアイリスの頭上を、黒い煙が通過して行った。
着地したのは廊下。進んだ時間として、先程の部屋からそこまで離れていない。

『嗚呼、埃だらけ。……後でお風呂借りようかな』

服とポーチの埃を払い、歩を進める。
アイリスは廊下を歩きながら、ホルスターから拳銃を抜いた。この先はトの字型になっており、直進の廊下には誰もいない。更にその先は行き止まり。不安要素は右手へと進む廊下。そこまでくると、壁に張り付き、様子を伺う。耳に神経を集中させるが、無傷な者の発する音は拾わない。姿を分かれ道へと曝す。
右手の通路は中間辺りの壁や床、天井が黒くなっており、そこにある部屋の扉はひしゃげて床に、数人の人と共に倒れ込んでいる。そこは先程爆破した部屋だった。
銃口を下に向けたまま、倒れている人へと近付く。小さく呻く人達。息はあるが、さすがに動けないようだった。

『…………』

アイリスは倒れている人達を順番に、一人につき銃弾一つで楽にしてあげた。
それが済むと、部屋の中を伺う。木箱は最初に入った時よりも数は減っており、乱雑さが増していた。入口付近に2人、まだ息のある男がいたため、廊下のときと同じように引き金を2度引いた。その後、アイリスは部屋と廊下に視線を往復させる。

『部屋に対してこの威力。……まあまあ、といったところですか』

そのまま部屋を出る。近くで生きている人間の気配は、

『………』

なかった。踵を返し階段へと向かう。






『これで一通り回りましたね』

屋敷中の部屋を全て、生きている人がいないか確認しながら回った。数人に出会ったが、問題なく事を済ませた。

『後は……』

後一つを除いては。
窓の外に目をやる。屋敷の中の一際高い塔のような部分が、そこにはあった。





「し、静かになった……」
「今の音、まさか爆弾ですかね?」
「チクショー、グリーブスファミリーを相手にしようなんざ、なんて殺し屋だ……!」
「オイ、そいつは本当に女なのか?」
「間違いない、俺はこの目で見たんだ!」

暗く狭い小さな部屋。奥には石で囲まれた、暗闇に続く小さな小路がある。ここはグリーブスファミリーボスの部屋にある、隠し通路の中だった。入口は一つ。その部屋には5人の男。
ボスは部下3人と共に自分の部屋で、金や盗んできていた宝石の類を金勘定しながら寛いでいた。そこに1人の部下が駆け込んできて、こう叫んだ。

「殺し屋が来たッ!!」

と。
その後、聞こえてきた銃声に、部下たちはボスを隠し通路へ押し込んだ。そこから逃げようとしたものの、ボスは自分の部下を信じたのかいないのか、怒りをあらわにその場に踏み止まった。

「そいつは俺を殺しに来たと行ったんだろ?だったら屋敷を歩き回って、何時かはここに来るはずだ。そこを逆に殺る。俺に喧嘩売ったこと、あの世で後悔させてやる。ま、生きていればの話しだがな」

そして今に至る。

「……行きますか?ボス」
「いや、この部屋に来て出て行ったところを狙う」
「はい」

コツ コツ コツ コツ

「!」

足音が響く。遠くから聞こえてきた音は、こちらに近付いてきているようだ。

「来た……?!」
「静にしろッ」

息を潜めて、耳に全神経を集中させた。徐々に大きくなる足音。ゆっくりと、死神が鎌を持ってすぐ、そこまで。

「!」

足音が、止まった。
緊張が走る。
ドアノブがゆっくりと回され、ゆっくりと開き、

バアン!

勢いよく開かれた。

「ッ!」

次に聞こえてきたのは、

『……ここにも居ませんか』

若い女の声。
壁にカモフラージュされたドアを隔て、2つの空間を静寂が支配する。

『……逃げられちゃったかな?』

女が一つ呟いて、続いてドアが閉まる音。どうやらいないと思ったようだ。

「よし、追うぞ!」
「おぉ!!」

ボスの一声で部下たちが動き出す。ボスの為にドアを開けるべく、2人の男が先陣をきった。

バァン!

勢いよく隠し扉を開けた。

パンッ パンッ

と同時に、渇いた音がその場に居た者の聴覚を支配した。男4人の視覚は、先陣きった2人の背中が視界の下に消えた後に現れた、蒼い瞳の死神が支配していた。

「テ、テメェ……!よくも!」

後ろにいた残りの部下が、ようやく我に返り拳銃を向けた。
が、遅かった。
再び鳴った二発の銃声に、ボスは部下を完全に失った。
ボス・グリーブスは、部下が撃たれた音を合図に女・アイリスに拳銃を向け、頭を狙い、撃った。だが、自分のデスクに足を組んで座っているアイリスは、上体を僅かに横に動かしただけで避けた。そして、今度はグリーブスの肩を撃ち抜いた。

「ぐわっ!!」

肩を貫いた痛みで拳銃を落とした。
銃口は相変わらず向けられたままで、身動きは完全に封じられた。そして、アイリスが口を開いた。

『始めまして、グリーブスさん。貴方の命を貰い受けに来た者です』
「テメェ、出て行ったんじゃなかったのか!?畜生ッ!!どこの殺し屋だ!」
『一つ目の質問ですが、ただ単にドアを閉めただけです。出てきてもらうために、簡単で単純な、そして子供騙しな芝居をうたせてもらいました。貴方がたがそこの隠し通路に居ることは判っていましたから』
「何でだ?!……まさか、内通者がいたんじゃねェだろうな」
『まさか。そんなもんはいりませんよ。貴方がたが隠れるのが下手なだけです。気配も呼吸も、隠し切れていなかった。二つ目の質問ですが、私はマフィアの人間ではありません。ただの殺し屋です』
「ただの殺し屋だと?他のマフィアに頼まれたのか!?」
『いいえ。依頼があったのは確かですが、マフィアの依頼ではありません』

アイリスは淡々と答えていく。
グリーブスは、対立しているマフィア連中が送り込んだとばかり思っていたが、そうじゃない?なら、誰が?

「じゃあ何で、何で俺達を、俺を殺しに来た?」
『……このペンダント、貴方の手元にまだあるのなら、速やかに出してください』

そう言って、アイリスはポーチに手を突っ込み何かを出すと、グリーブスに向かって投げた。床を滑り、グリーブスの目の前で止まったそれは、

「写真……?」

だった。老婆と若い、しかしアイリスより年上の女が笑顔で写っていた。

『そのご婦人がしているものです』

老婆の胸に輝くそれは、色とりどりの小さな宝石が散りばめられたペンダントだった。

「こいつは……」
『ありますね?』
「……そこの金庫の中だ」
『出してください』

グリーブスはゆっくりと自分のデスクへと進み、椅子の後ろに掛かっている巨大な絵画へと向かう。その間も、銃口はグリーブスを狙っていた。絵画を外すと、そこにはこの部屋と同じ大きさのドアが顔を出した。ただし、そのドアは黒い鉄だった。鍵をポケットから出し、ドアノブの下にある鍵穴へと差し込む。
そこは部屋と同じ大きさの金庫だった。
金や宝石がたくさん詰まっている。その宝石の山を漁る。

「しかし、テメェ、まさか、そいつの為に来たとか言わないよな?」
『だとしたら?』
「正気か、テメェ?!」

探すのを止め、デスクの上のアリスを、信じられないと見つめる。

『さっさと探してください』

拳銃をかざされ、仕方なく探すのを再開した。

「こんなちっぽけなモンのために、グリーブスファミリーに奇襲をかけたって言うのかよ……?」
『……貴方にとってはちっぽけなモンかもしれませんが、他の人にとっては大切なものの場合がある、ということですよ』
「どういう意味だ?」
『そのままの意味ですよ。……ある女性は、祖母と二人で町へ買い物に出掛けました』

二人は手分けして買い物をしていましたが、女性はたまたま、男とぶつかってしまいました。その男は警察も手を焼くグリーブスファミリーのてっぺんでした。彼女は謝りました。しかし、男は大した被害を受けたわけでもないのにしつこく絡みました。
そこへ祖母がやって来て、自分の孫を助けようとしました。しかし、男は何の考えも無しにそのご婦人を突き飛ばしました。ご婦人は、たまたまそこにあった消火栓で頭を打ち付け、地面に倒れ込みました。
彼女はご婦人に駆け寄りましたが、既に息はありませんでした。ご婦人は先程の行為で、いとも簡単に亡くなってしまいました。
男たちはそれを見て笑い飛ばしました。そして、ボスはご婦人がつけていたペンダントに目を付けました。彼女が懇願するのも聞かずに、男は詫び賃にと言って、そのペンダントを持ち去りました。

『私の仕事は、そんな男が率いる群れをできれば狩ること。少なくとも大将の命は頂き、大切なペンダントを回収することです』
「ハッ、それはご苦労なこった。だが、覚えてねェなァ、そんなこと」
『でしょうね。写真を見ても何も言わなかったんですから。やった方は覚えてなくても、やられた方は覚えてるんですよ』
「なるほどな。覚えておくぜ」

金属が擦れるような微かな音を、アリスの耳は捉えた。

「テメェの顔もな!!」

グリーブスは振り返り様に、金庫の中に隠してあったのであろう拳銃を発砲した。その手にはれいのペンダント。アイリスは既に組んでいた足を解き、机の上に乗せていた。そのまま机を蹴って跳び上がり、空中でバク転し、机を盾にした。手をポーチに入れて。

「アーッハッハッハッ!小娘が!!テメェなんぞにこの俺が殺られるかよ!!」

グリーブスは、走りながら発砲し、隠し通路へ向かって行く。
一方、アイリスは床に腹ばいになり、ポーチから野球ボール大の球体を取り出した。そして、

『カウント』

小さな穴が集まっている部分に声を発した。
そして、隠し通路に向かって転がした。

<開始しま~す。ファ~イヴ……>

転がる球体からは、なんとも緊張感に欠ける女の声が発せられていた。

<フォ~>

グリーブスよりも早く転がっていく球体は、

<スリ~>

簡単に彼に追いつき、

<トゥ~>

アイリスは腹ばいのまま、グリーブスの足元を狙い、撃った。

<ワ~ン>

「がっ!!」

その弾はグリーブスの足に当たり、前のめりに倒れそうになった。
球体はグリーブスの足元を通り過ぎ、隠し通路の階段で跳ねた。



という挨拶を残し、球体は爆発した。

「だあッ!?」

足を撃たれ前のめりに倒れそうになっていたグリーブスは、爆風により今度は後ろへ吹っ飛ばされた。手からペンダントが飛んだが、問題なくアイリスがキャッチした。隠し通路の入口は崩れ落ち、瓦礫に隠れてしまった。

『……確かに、受け取りました』

仰向けに転がっているグリーブスの額に向けられた銃口。その先には、逆さまに自分を見下ろす蒼い瞳の死神。そこで漸く、自分の死を認識した。

「ちょ、ちょっと待ってくれ!!か、金か!?それならその女の倍、いや好きなだけ持ってっていい!!だから助けてくれ!頼む!」
『確かにいつもなら、私が依頼をこなすために使った物を調達するための資金やちょっとした手間賃を依頼主の方にお支払いいただきます。が、今回は最初から請求するつもりはなかったので、結構ですよ』
「な、なんで……!」
『貴方がたが集めたお金はもちろん、武器庫からも頂戴します。ただし、今まで人のあらゆる物を奪い、傷付けてきた貴方の命、ここで奪おうが奪うまいが頂戴できることには変わりはありません』
「そんな……そんな!たった一人の、いつ死ぬかもしれねェ老い先短いババアの命だろ?!ただそれだけのことじゃねェか!!」
『確かに、いつ死ぬかもしれない命だった。でも、それは貴方も含めた生きている人間になら誰にでも言えること。いつ死ぬか判らない、だから人は今を生きている。貴方はそんなご婦人の命を奪った。その貴方が、今度は私に命を奪われる。……ただ、それだけのことです』

死が、目の前まで迫っていた。今まで自分が平気で行ってきた行為が。

「や、やめ……!」
『……理解できませんね。生きているのかどうかさえも判らない私なんかよりも、生きている貴方なら、生の大切さを判っていたでしょうに、それを奪うなんて』
「た、頼む、か――――――」

パァン

一発の銃声が轟いた。

『嗚呼、そうか。大切さを知っていたからこそ、見失ってしまったのか』

丸い肉塊から静かに湧き出る紅い水。それを眺めながら静かに呟き、アイリスは自分の足が水溜まりに触る前に、踵を返して部屋を後にした。





朝。今日はとてもいい天気だ。
幼い頃に病気で母を亡くした私を育ててくれた優しい祖母が亡くなって、早6日。そして、母の形見であり、祖母の形見になってしまったペンダントが奪われて早6日。
買い物に出掛けた町で、有名なグリーブスファミリーに絡まれ、祖母を失い、祖母がしていたペンダントをも失った。
あのペンダントは、母の形見であり、祖母がプレゼントしたものだった。そして、今度は祖母がそれをしていた。

「あなたがあの時のお母さんの歳になったら、私に渡させて?それまでは大切にするから」

"あの時"……、祖母が母にプレゼントした日であり、母が私を産んだ日。それが、今日。
私から全てを奪ったあの男も、その部下も、みんなみんな許せなかった。

でも、一番許せなかったのは、何よりも、誰よりも、あんな連中に絡まれてしまった自分自身。

だから、お願いした。殺し屋さんに。自分がいつか殺人教唆にとわれても構わない。
私が頼んだその人は、裏ではまだ知られていなかったが、徐々に名前が広がりつつある人物らしい。ブラッディ・フェアリー、それがその殺し屋の名前だと聞いた。
その噂を聞いて、なんとか探し出して、名前を聞いたら、その人はアイリスと名乗った。
他の殺し屋は理由に関係なく標的を殺すみたいだけど、この人だけは私の話を聞いてくれた。そして、約束してくれた。奴らを殺すと。そして、奴らがまだ手元に残しておいていたら、形見のペンダントも取り返してくれると。

「そうは言っても、直接会ったわけじゃないから、何とも言えないけど……」

嘘だったらどうしよう。
嘘じゃなくても、返り討ちにあってるとか……。なんせ相手はグリーブスファミリーなのだ。そう簡単にいくとも思えない。
そんな気持ちが過ぎ始めてから早2日半。依頼を頼んでから早3日。依頼を了承してもらった後に、こんな重要なことに気付くなんて……。

「でも、信じるしかない、のよね」

パソコンの画面越しに、この人はいい人だと感じた。……殺し屋にいい悪いがあるのかはさておき。自分の直感とあの人・アイリスさんを信じようと、自分に喝を入れた。

「って、この脳内葛藤も何回繰り返してるのよ、私は……」

そんな自分に落ち込んでいると、

トントン

ベルではなく、ドアをノックする音が響いた。
だ、誰!?まさかグリーブスファミリー!?殺し屋さん、殺されちゃった!?まさか裏切りの方!?
なんて勝手にパニックになっていたが、シーンとしている状況に、あれ?と思った。
ひょっとして、殺し屋さん……?

「よし……!」

私は意を決してドアをそろそろと開けた。

「お、お待たせしました~」

が、

「あ、あれ?誰もいない……?」

まさか、帰っちゃった、とか?

「そんな、ちょっと……!」

ドアを大きく開け外へと踏み出すと、何かがコツンと足に当たった。

「?」

見下ろすとそこには、リボンがかけられた小さな箱。
それを見て、心臓の音が五月蝿くなった。
そろそろと箱に手を伸ばし、期待半分、恐怖心半分。ゆっくりとした動作でリボンを解き、箱を開ける。

「これ……」

中には、カードとあのペンダント。
カードを手に取る。
そこには、こう書かれていた。

『Happy Birthday
たった一度の、あなたの大切な人生です。これからは大切にしてあげてください。
P.S.例の団体さんには、この世からご退場願いました。』

やっぱり、私の勘は合っていたんだ。

罪悪感という名の後悔が、全くないと言ったら嘘になる。それでも、やはり嬉しさの方が勝っていて。

嗚呼、今日は


本当にとても天気がいい。



「おかえりなさい、お母さん、おばあちゃん……っ!!」





+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++





こんばんは、渡月です。


先回の続き、『夜を彷徨う血濡れのアリス』をアップしました。
やっと終わりました、後編です。
長い道のりだった……!←
お付き合い頂き、本当にありがとうございました!


今度は『モノクロ世界彩るセカイ』を書いて、
次に『警視庁特使捜査課』を書こうと思っています。
『特使』は何故か後から始まった『血塗れアリス』よりも話数が少ないという;
なので『特使』に力を入れたいと思ってるんですが、推理ものは難しいです^^;


それでは、ここまで読んでくださってありがとうございました!
またのお越しをお待ちしております。
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