月灯りの下
闇の世界に差し込む光を追い求めて
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嗚呼、今日は(前編)
暗闇の中に浮かぶ大きめの屋敷。その門の前には見張りが2人。その中の1人がいきなり、倒れた。
仲間の異変に直ぐに気付いた男は、倒れた男に駆け寄った。そして、仲間が倒れた理由が額に開いた穴のせいだと認識したときには、自分の額にも穴が開いていた。
男が倒れ、重なり合うのと同時に、前方の木から葉と共に人が降りてきた。
その人物は、蒼い瞳に屋敷を映した。
仲間の異変に直ぐに気付いた男は、倒れた男に駆け寄った。そして、仲間が倒れた理由が額に開いた穴のせいだと認識したときには、自分の額にも穴が開いていた。
男が倒れ、重なり合うのと同時に、前方の木から葉と共に人が降りてきた。
その人物は、蒼い瞳に屋敷を映した。
嗚呼、今日は(前編)
※流血表現あり
ビー
屋敷のベルが鳴った。誰か訪ねてきたらしい。まったく、何時だと思っているんだ。
玄関ホールにいるのは俺を含め4人。2人が扉を開けるために扉に近づく。そして、残った1人が呟いた。
「こんなところに、こんな時間に、誰が訪ねて来るんだ」
と。
確かにそうだ。ここは警察ですら手を焼いている、窃盗を始め、強盗、殺し、金のためなら何でもやるグリーブスファミリーの本拠地であるボスの屋敷。以前は敵対するファミリーが襲撃に来たことはあるが、今はもう近付こうとする者はいない。
なら、誰が……?
「誰だ?こんな夜遅くによぉ」と言いつつ警戒心もなしに扉を開ける仲間。それはそうだ。今までここを落とされたことはないのだ。隣の仲間が妙なことを言わなければ、俺だって何とも思わなかったに違いない。
と、その時、銃声が響いた。
音の方を見ると、倒れる仲間。その先には少し開いた扉と、そこから覗く銃身。次に姿を現したのは、黒一色の服に身を包んだ、少女といっても過言ではない女だった。
一緒に扉に近付いていた仲間も急なことで固まってしまっている。
『夜分遅くに失礼します。お手数をおかけしますが、あなた方のボスにお伝えください。殺し屋が貴方の命を喰らいに来た、と』
「……ッこの女!!」
何とも礼儀正しい、でも感情が全く込められていない物言いの少女の言葉に、扉の近くにいた仲間が拳銃を抜いた。
いや、抜こうとした。
『まあ、あなた方の命も頂きますがね』
銃声が響き、その直後にまた仲間が倒れた。
俺は隣の仲間を押してボスの元へ行くよう言い、拳銃を抜いた。仲間が走っていくのを背中に感じながら女を見る。そして狙いを定めて引き金を、引いた。立て続けに。
『…………』
しかし、女はステップを踏むように軽々と避け、そのまま流れるような動作でこちらに銃口を向けた。
ヤバイと思ったのと銃声が響いたのと、どちらが先だっただろうか。気が付いた時には、俺の胸には穴が開いており、俺の意識は意図も簡単にブラックアウトしていった。
俺が最期に見たのは、俺に興味を一切示さない女の姿だった。
玄関ホールにいた4人のうち3人は終わらせた。残る1人はボスのところへ行ってくれたのだろう。
そう勝手に解釈し、殺し屋を名乗る女・アイリスは男たちに跪付き、スーツの中を探る。そして拳銃と弾創を抜き取り、拳銃をベルトへ挿し、弾創を後ろ腰に付けているポーチの中へと入れた。
さっきの銃声で、他の場所にいた仲間たちも集まって来るだろう。吹き抜けになっているため、よく響いた。
折角団体を相手にするのだ。いつもと違ったシュチュエーション、運動に利用しない手はない。それに備えるためにも、先立つものが必要だ。
それぞれの男からそれぞれを抜き取り終えると、アイリスは中央に位置する、吹き抜けになっている2階へと続く階段へと歩んでいく。
天井にはシャンデリア。
「なんだなんだ、誰だよ発砲なんかしたの」
「……ッおい、アレ見ろ!」
階段へ差し掛かった時、丁度横を見れば、男たちが10人程がわらわらと階段の影から出てきた。どうやら向こうに1階の部屋があるようだ。
駆け付けてきた男たちは、変わり果てた仲間に気を取られ、これだけの人数がいて誰ひとりとして侵入者に気付かない。
『…………呆れますね』
アイリスは、階段を少し上り、集まった中の一人に狙いを定め、引き金を引いた。
一人のこめかみに風穴が開き、そこで漸くアリスの存在に気付いた。
「な、なんだテメーは!?」
『私は――――――』
突然、サイレンのような音が鳴り響いた。アイリスは警戒するが、続いて男の声が降ってきた。
<ファミリーに告ぐ!殺し屋を名乗る女が正面入口より襲撃してきた!!仲間が殺られている!見付け次第始末しろ!!繰り返す!>
『――――――だ、そうですよ』
放送を聞いて、あれ?まさか女ってあれ?的な視線をアイリスにやっていた男たちは、はっと我に返った。
「このアマ!!」
男たちは拳銃を引き抜き、アイリスに銃口を向ける。が、アイリスは階段を駆け登り、柱に身を隠した。柱が爆ぜる。
2階はこの階段の吹き抜けを囲んだ通路になっており、そこから廊下が枝分かれするように通路が何本かあった。
アイリスは柱に身を隠しつつ、階段を囲う柵の間から階下にいる男たちを狙い、撃っていく。上から狙っている以上、死角は限られてくる。そのため、撃てば確実に減っていった。
と、
『……来ましたか』
1階にいた者を半分ほど減らした頃、2階もだんだん騒がしくなってきた。先程のアナウンスでメンバーが集まり始めたようだ。
アイリスは弾創を入れ替え、右手に持っていた拳銃を腰にぶら下がっているホルスターへと戻し、柵と同じぐらいの低姿勢のまま、柱から出て走り出した。
階段を囲う柵沿いに廊下を走っていく。当然、枝分かれになっている廊下から侵入者を排除するために出てきた男たちは、
「オイ、いたぞ!あいつだ!!」
気が付くわけで。
発砲してくるが、走っているアイリスには当たらない。アイリスはそのまま半周し、男たちを誘い出す。そして、踵を反すと床を蹴り、柵を蹴り、そのまま階段の柱を蹴って空中へと身を投げ出した。
「な、あいつ飛び降りやがった!」
そんな男のお決まりの台詞を無視し、拳銃を口へ持って行き、両手を空にした。そして、その両手でシャンデリアを掴む。
『……っん』
シャンデリアが一度大きく揺れるのをやり過ごし、くわえていた拳銃を左手で取った。そして、
『人数で不利なんですから、有利な上から攻めるのが上策でしょ』
躊躇なく、撃った。
上からだと枝のように別れた通路の奥に逃げ込まれない限り、死角はほぼゼロだった。
そして弾が無くなれば、それを誰かさんへと投げ付け、ぶら下がっている手を素早く変え、ベルトに挟んであった拳銃を抜き、打ち続けた。男たちは揺れながら、でも確実に当ててくる女に成す術なく、朱く染まって、逝った。
見えている範囲では、特に1階にいた男たちは、粗方片付いた。
アイリスは再び拳銃を口へと運び、両手でシャンデリアを掴み、大きく揺らす。そして、タイミングを合わせて柵へ飛び移ろうとした。そこを見計らって男が数人、廊下へ飛び出してきたが、既に拳銃を手にしていたアイリスは、出てきた全員を射殺した。
予定通り、アイリスは廊下へと降り立った。あり過ぎた勢いを、前回り受け身でやり過ごし、体勢を整える。
グッ
『!』
後ろから殺気と絨毯を踏む微かな音を感じ取り、アイリスは素早く振り返り拳口を向けた。
が、銀色の光りが目に入り、咄嗟にポーチからナイフを抜き出した。
『……ッ!!』
その直後、鈍い金属音と同時に重さが掛かったナイフを拳銃で支え、全身で応える。
「ほう、俺の剣を受けるとはな」
『……どうも』
少し重さが引いた。
「俺はグリーブスファミリー一の剣使い、メヒューだ。ここからは俺がお相手しよう!」
『申し訳ありませんが、悠長にお話ししていたくはないので、すぐに――――――』
「なに、安心するといい!俺がお嬢ちゃんに剣を向けている間は、奴らは手を出さん」
『人の話しを聞いてください』
『すぐに失礼します』と言おうとしていたのに遮られカチンときたアイリスは、相手から目を逸らさずに拳銃をナイフから離し、弾創を抜いた。拳銃を先程と同じように口へと持って行き、空いた手をポーチへと突っ込む。
弾創が重力に従い、カツンと音をたてて落ちた。
手をポーチから引き抜こうとしてチラリと見えたのは黒い物、換えの弾創だった。
「!おっと」
メヒューはアイリスの目論みに気付き、後ろへと飛び距離を取った。
の、だが。
「あ、おいコラ!!」
アイリスはポーチからそのまま手を引き出すと素早く弾創を拾い、踵を返して、すぐ近くにあった通路へと入っていった。
拳銃に新しい弾創を入れ、至近距離で撃ってくるかと思っていたメヒューはすぐに追いかけた。
「あっははは!一本取られたなァ!面白い!!だが、逃がさん!」
その声を聞きながらアイリスは、弾創を叩き込み、ある物を目指して走った。
『あった!』
蒼い瞳の先には、剣を掴んだ甲冑。忍び込む経路を考えながら屋敷を一周していた時に、窓から見つけたものだ。
しかし、甲冑の先、T字路になった通路には男が5人、拳銃を構えていた。
ホルスターから拳銃を抜こうとしたが、
「おい!分かってると思うが、誰も撃つなよ!!そいつは俺の獲物だ!!」
どうやらこの男は、それなりに偉いポジションにいるらしい。撃ってくる様子はないので、アイリスは手を引いた。そして当初の予定通り、先程拾った弾創を投げた。弾創は狙い通り甲冑の手に当たり、持っていた剣がゆっくりと倒れる。
アイリスはそのまま走り、倒れていく剣を手に取ると、絨毯の上を滑るように急停止し、視線は追っ手のメヒューに向けたまま、拳銃は通路の男たちに向けた。
メヒューの後ろにも銃を持った男たちが並び、通路を塞いでいた。
「ほぉ、そいつで俺と殺ろうってのかい?お嬢さん」
『正々堂々殺そうとするような場合、なるべく相手と同じ土俵で殺り合うのが、私の殺り方ですから』
「ますます面白いな、あんた!気に入ったよ!!」
『……私と貴方の後ろにいる人達、撃ってこないんですよね?』
「ああ、もちろん。俺の部下だ。言うことは聞く。……ま、俺が万が一殺られた時は、構わず撃てと言ってあるが、な!!」
それを合図に、メヒューは地を蹴り、間合いを詰めた。
アイリスは拳銃をベルトへと挟み、両手で剣を握り、構える。
「正面から俺とぶつかろうなんざ、細っこいお嬢ちゃんじゃ無謀だぜェ!」
メヒューが剣を振りかざし、迫ってきたアイリス目掛けて力任せに振り下ろした。
アイリスはそれを姿勢を低くしギリギリなところで横へ避け、後ろに回り込むと素早く回転し、下から斬り付けた。金属音が鳴り響いた。
「ッ!!あっぶねェ、速いな、お嬢ちゃん」
『それを防いだ人に言われても嬉しくありません』
アイリスは後ろへと跳んで間合いを取る。
「だが、速さだけで俺に勝てると思わない方がいい!」
後ろや前から男たちの歓声が聞こえる。とても耳障りだ。
メヒューはそのままアイリスに切り掛かる。アイリスはそれを避けるか、剣で受け流す。そして、たまに切り込みメヒューにかすり傷を負わせる。それを繰り返した。
「くっそ、このガキ、ちょこまかと……!」
そして、メヒューはあることに気付いた。目の前の女が無傷であることに。ある部屋から、なるべく離れないように動いていることに。
この通路も階段から延びている他の通路同様、いくつか部屋がある。そのうちの一つ、丁度中間に位置する部屋から、つかず離れずの攻防を行っている。
(まさかこのガキ、わざと避け続けて……)
メヒューの背中に冷や汗が流れた。
(しかも無傷で……!?だとしたら、俺は完全に……!)
『そろそろ、いいですか?』
「ッ!!クッソー!!」
自分が力量的に劣っていることを理解したメヒューは自棄を起こし、力任せに剣を横薙いだ。
振るわれた剣はとても真っ直ぐで、持ち手の心情をよく表していた。アイリスはそれをいとも簡単に避け、相手の懐に潜り込み、瞳を覗き込んだ。
『恐怖の、色』
メヒューの瞳に映るのは、恐怖と死神と紅く輝線を描きながら散る液体だった。
アイリスが潜り込んだと同時に、メヒューの腕はなくなっていた。そして瞳を覗き込んだのと、
「い、たい……?」
メヒューが自分の片腕がなくなっていることに気付いたのと、
ガシャーン、ボタンッ
剣と落とされた腕が落ちた音が響いたのは、同時だった。
メヒューの口から、内蔵に収まりきらなかった血液が息とともに吐き出された。腕を斬られただけなのに……?
視線を正面から下へ下げ、ようやく自分の胸を剣が貫いているのを認識した。その剣を握っているアイリスは、頬に付いた血も気にせずに、真っ直ぐメヒューの瞳を見つめていた。
「ハッ、化けも、の、か……」
『……いえ、人間です。一応』
メヒューは自嘲気味に笑った。瞳から段々と光が退いていく。それをじっと見つめていたアイリスは、呆気に取られている気配から殺気に変わるのを感じ取った。
「メヒューさん!!」
「あのアマァッ!!」
アイリスは後ろ手に、先程から距離を取らないようにしていた部屋の扉の取っ手を握り、開いた。
その扉は外開きで、放たれた銃弾からアイリスの背中を守った。
そして正面は、
『ごめんなさい』
少し角度を変えて、メヒューの躯を盾にした。
銃弾が跳んで来る中、そのまま少しずつメヒューの躯を引きずり、部屋の中に入っていく。男たちが使っているのは小銃。怒りに任せて撃ってきた彼等のそれは、弾が尽きるのはほぼ同時。弱くなってきた時を見計らい、アイリスはメヒューという名の壁を突き飛ばし、扉を閉めた。
「メヒューさん……」
「チクショー」
「さっさと殺すぞ!逃げ場はねェんだ」
メヒューだったものに駆け寄った男たちは、怒りで顔を染めながら、アイリスが入って行った扉を囲んだ。残りは拳銃を構える。目で合図し合い、ボロボロになった扉を蹴り開けた。しかし、拳銃を向けるも、部屋には誰もいない。その部屋は、木箱が出鱈目に詰め込まれた、10人くらいならまだ入れそうな部屋だった。
「な、いないだと!?」
「どこかに隠れてるんじゃねェのか?そこら辺探せ!」
10人の人間が血眼になって部屋を荒らしていると、ある男が気が付いた。
「オイ、天井!」
「あのアマ、排気口から出やがったな!」
近くにあった木箱を力任せに蹴りつけた。すると、小さなプラスチック製の、目覚まし時計のような箱が転がり落ちた。
「?」
「チクショー、俺達も追うぞ!」
「オイ、何か落ちた――――――」
目覚まし時計のような箱は、明るい光とものすごい音を発しながら弾けた。
+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
こんばんは、渡月です。
先回の続き、『夜を彷徨う血濡れのアリス』をアップしました。
長くなりましたが、前後編に収めることにしました。
一話が長いですが;
今回の反省
戦闘シーンをもっとかっこよく書きたい
反省というより願望ですね;
想像はできるんですが、それを文におこせないという、僕の文才の限界がありありと……
取り敢えず、アリスはかっこよく戦ったということでお願いしますorz
それでは、ここまで読んでくださってありがとうございました。
またのお越しをお待ちしております。
屋敷のベルが鳴った。誰か訪ねてきたらしい。まったく、何時だと思っているんだ。
玄関ホールにいるのは俺を含め4人。2人が扉を開けるために扉に近づく。そして、残った1人が呟いた。
「こんなところに、こんな時間に、誰が訪ねて来るんだ」
と。
確かにそうだ。ここは警察ですら手を焼いている、窃盗を始め、強盗、殺し、金のためなら何でもやるグリーブスファミリーの本拠地であるボスの屋敷。以前は敵対するファミリーが襲撃に来たことはあるが、今はもう近付こうとする者はいない。
なら、誰が……?
「誰だ?こんな夜遅くによぉ」と言いつつ警戒心もなしに扉を開ける仲間。それはそうだ。今までここを落とされたことはないのだ。隣の仲間が妙なことを言わなければ、俺だって何とも思わなかったに違いない。
と、その時、銃声が響いた。
音の方を見ると、倒れる仲間。その先には少し開いた扉と、そこから覗く銃身。次に姿を現したのは、黒一色の服に身を包んだ、少女といっても過言ではない女だった。
一緒に扉に近付いていた仲間も急なことで固まってしまっている。
『夜分遅くに失礼します。お手数をおかけしますが、あなた方のボスにお伝えください。殺し屋が貴方の命を喰らいに来た、と』
「……ッこの女!!」
何とも礼儀正しい、でも感情が全く込められていない物言いの少女の言葉に、扉の近くにいた仲間が拳銃を抜いた。
いや、抜こうとした。
『まあ、あなた方の命も頂きますがね』
銃声が響き、その直後にまた仲間が倒れた。
俺は隣の仲間を押してボスの元へ行くよう言い、拳銃を抜いた。仲間が走っていくのを背中に感じながら女を見る。そして狙いを定めて引き金を、引いた。立て続けに。
『…………』
しかし、女はステップを踏むように軽々と避け、そのまま流れるような動作でこちらに銃口を向けた。
ヤバイと思ったのと銃声が響いたのと、どちらが先だっただろうか。気が付いた時には、俺の胸には穴が開いており、俺の意識は意図も簡単にブラックアウトしていった。
俺が最期に見たのは、俺に興味を一切示さない女の姿だった。
玄関ホールにいた4人のうち3人は終わらせた。残る1人はボスのところへ行ってくれたのだろう。
そう勝手に解釈し、殺し屋を名乗る女・アイリスは男たちに跪付き、スーツの中を探る。そして拳銃と弾創を抜き取り、拳銃をベルトへ挿し、弾創を後ろ腰に付けているポーチの中へと入れた。
さっきの銃声で、他の場所にいた仲間たちも集まって来るだろう。吹き抜けになっているため、よく響いた。
折角団体を相手にするのだ。いつもと違ったシュチュエーション、運動に利用しない手はない。それに備えるためにも、先立つものが必要だ。
それぞれの男からそれぞれを抜き取り終えると、アイリスは中央に位置する、吹き抜けになっている2階へと続く階段へと歩んでいく。
天井にはシャンデリア。
「なんだなんだ、誰だよ発砲なんかしたの」
「……ッおい、アレ見ろ!」
階段へ差し掛かった時、丁度横を見れば、男たちが10人程がわらわらと階段の影から出てきた。どうやら向こうに1階の部屋があるようだ。
駆け付けてきた男たちは、変わり果てた仲間に気を取られ、これだけの人数がいて誰ひとりとして侵入者に気付かない。
『…………呆れますね』
アイリスは、階段を少し上り、集まった中の一人に狙いを定め、引き金を引いた。
一人のこめかみに風穴が開き、そこで漸くアリスの存在に気付いた。
「な、なんだテメーは!?」
『私は――――――』
突然、サイレンのような音が鳴り響いた。アイリスは警戒するが、続いて男の声が降ってきた。
<ファミリーに告ぐ!殺し屋を名乗る女が正面入口より襲撃してきた!!仲間が殺られている!見付け次第始末しろ!!繰り返す!>
『――――――だ、そうですよ』
放送を聞いて、あれ?まさか女ってあれ?的な視線をアイリスにやっていた男たちは、はっと我に返った。
「このアマ!!」
男たちは拳銃を引き抜き、アイリスに銃口を向ける。が、アイリスは階段を駆け登り、柱に身を隠した。柱が爆ぜる。
2階はこの階段の吹き抜けを囲んだ通路になっており、そこから廊下が枝分かれするように通路が何本かあった。
アイリスは柱に身を隠しつつ、階段を囲う柵の間から階下にいる男たちを狙い、撃っていく。上から狙っている以上、死角は限られてくる。そのため、撃てば確実に減っていった。
と、
『……来ましたか』
1階にいた者を半分ほど減らした頃、2階もだんだん騒がしくなってきた。先程のアナウンスでメンバーが集まり始めたようだ。
アイリスは弾創を入れ替え、右手に持っていた拳銃を腰にぶら下がっているホルスターへと戻し、柵と同じぐらいの低姿勢のまま、柱から出て走り出した。
階段を囲う柵沿いに廊下を走っていく。当然、枝分かれになっている廊下から侵入者を排除するために出てきた男たちは、
「オイ、いたぞ!あいつだ!!」
気が付くわけで。
発砲してくるが、走っているアイリスには当たらない。アイリスはそのまま半周し、男たちを誘い出す。そして、踵を反すと床を蹴り、柵を蹴り、そのまま階段の柱を蹴って空中へと身を投げ出した。
「な、あいつ飛び降りやがった!」
そんな男のお決まりの台詞を無視し、拳銃を口へ持って行き、両手を空にした。そして、その両手でシャンデリアを掴む。
『……っん』
シャンデリアが一度大きく揺れるのをやり過ごし、くわえていた拳銃を左手で取った。そして、
『人数で不利なんですから、有利な上から攻めるのが上策でしょ』
躊躇なく、撃った。
上からだと枝のように別れた通路の奥に逃げ込まれない限り、死角はほぼゼロだった。
そして弾が無くなれば、それを誰かさんへと投げ付け、ぶら下がっている手を素早く変え、ベルトに挟んであった拳銃を抜き、打ち続けた。男たちは揺れながら、でも確実に当ててくる女に成す術なく、朱く染まって、逝った。
見えている範囲では、特に1階にいた男たちは、粗方片付いた。
アイリスは再び拳銃を口へと運び、両手でシャンデリアを掴み、大きく揺らす。そして、タイミングを合わせて柵へ飛び移ろうとした。そこを見計らって男が数人、廊下へ飛び出してきたが、既に拳銃を手にしていたアイリスは、出てきた全員を射殺した。
予定通り、アイリスは廊下へと降り立った。あり過ぎた勢いを、前回り受け身でやり過ごし、体勢を整える。
グッ
『!』
後ろから殺気と絨毯を踏む微かな音を感じ取り、アイリスは素早く振り返り拳口を向けた。
が、銀色の光りが目に入り、咄嗟にポーチからナイフを抜き出した。
『……ッ!!』
その直後、鈍い金属音と同時に重さが掛かったナイフを拳銃で支え、全身で応える。
「ほう、俺の剣を受けるとはな」
『……どうも』
少し重さが引いた。
「俺はグリーブスファミリー一の剣使い、メヒューだ。ここからは俺がお相手しよう!」
『申し訳ありませんが、悠長にお話ししていたくはないので、すぐに――――――』
「なに、安心するといい!俺がお嬢ちゃんに剣を向けている間は、奴らは手を出さん」
『人の話しを聞いてください』
『すぐに失礼します』と言おうとしていたのに遮られカチンときたアイリスは、相手から目を逸らさずに拳銃をナイフから離し、弾創を抜いた。拳銃を先程と同じように口へと持って行き、空いた手をポーチへと突っ込む。
弾創が重力に従い、カツンと音をたてて落ちた。
手をポーチから引き抜こうとしてチラリと見えたのは黒い物、換えの弾創だった。
「!おっと」
メヒューはアイリスの目論みに気付き、後ろへと飛び距離を取った。
の、だが。
「あ、おいコラ!!」
アイリスはポーチからそのまま手を引き出すと素早く弾創を拾い、踵を返して、すぐ近くにあった通路へと入っていった。
拳銃に新しい弾創を入れ、至近距離で撃ってくるかと思っていたメヒューはすぐに追いかけた。
「あっははは!一本取られたなァ!面白い!!だが、逃がさん!」
その声を聞きながらアイリスは、弾創を叩き込み、ある物を目指して走った。
『あった!』
蒼い瞳の先には、剣を掴んだ甲冑。忍び込む経路を考えながら屋敷を一周していた時に、窓から見つけたものだ。
しかし、甲冑の先、T字路になった通路には男が5人、拳銃を構えていた。
ホルスターから拳銃を抜こうとしたが、
「おい!分かってると思うが、誰も撃つなよ!!そいつは俺の獲物だ!!」
どうやらこの男は、それなりに偉いポジションにいるらしい。撃ってくる様子はないので、アイリスは手を引いた。そして当初の予定通り、先程拾った弾創を投げた。弾創は狙い通り甲冑の手に当たり、持っていた剣がゆっくりと倒れる。
アイリスはそのまま走り、倒れていく剣を手に取ると、絨毯の上を滑るように急停止し、視線は追っ手のメヒューに向けたまま、拳銃は通路の男たちに向けた。
メヒューの後ろにも銃を持った男たちが並び、通路を塞いでいた。
「ほぉ、そいつで俺と殺ろうってのかい?お嬢さん」
『正々堂々殺そうとするような場合、なるべく相手と同じ土俵で殺り合うのが、私の殺り方ですから』
「ますます面白いな、あんた!気に入ったよ!!」
『……私と貴方の後ろにいる人達、撃ってこないんですよね?』
「ああ、もちろん。俺の部下だ。言うことは聞く。……ま、俺が万が一殺られた時は、構わず撃てと言ってあるが、な!!」
それを合図に、メヒューは地を蹴り、間合いを詰めた。
アイリスは拳銃をベルトへと挟み、両手で剣を握り、構える。
「正面から俺とぶつかろうなんざ、細っこいお嬢ちゃんじゃ無謀だぜェ!」
メヒューが剣を振りかざし、迫ってきたアイリス目掛けて力任せに振り下ろした。
アイリスはそれを姿勢を低くしギリギリなところで横へ避け、後ろに回り込むと素早く回転し、下から斬り付けた。金属音が鳴り響いた。
「ッ!!あっぶねェ、速いな、お嬢ちゃん」
『それを防いだ人に言われても嬉しくありません』
アイリスは後ろへと跳んで間合いを取る。
「だが、速さだけで俺に勝てると思わない方がいい!」
後ろや前から男たちの歓声が聞こえる。とても耳障りだ。
メヒューはそのままアイリスに切り掛かる。アイリスはそれを避けるか、剣で受け流す。そして、たまに切り込みメヒューにかすり傷を負わせる。それを繰り返した。
「くっそ、このガキ、ちょこまかと……!」
そして、メヒューはあることに気付いた。目の前の女が無傷であることに。ある部屋から、なるべく離れないように動いていることに。
この通路も階段から延びている他の通路同様、いくつか部屋がある。そのうちの一つ、丁度中間に位置する部屋から、つかず離れずの攻防を行っている。
(まさかこのガキ、わざと避け続けて……)
メヒューの背中に冷や汗が流れた。
(しかも無傷で……!?だとしたら、俺は完全に……!)
『そろそろ、いいですか?』
「ッ!!クッソー!!」
自分が力量的に劣っていることを理解したメヒューは自棄を起こし、力任せに剣を横薙いだ。
振るわれた剣はとても真っ直ぐで、持ち手の心情をよく表していた。アイリスはそれをいとも簡単に避け、相手の懐に潜り込み、瞳を覗き込んだ。
『恐怖の、色』
メヒューの瞳に映るのは、恐怖と死神と紅く輝線を描きながら散る液体だった。
アイリスが潜り込んだと同時に、メヒューの腕はなくなっていた。そして瞳を覗き込んだのと、
「い、たい……?」
メヒューが自分の片腕がなくなっていることに気付いたのと、
ガシャーン、ボタンッ
剣と落とされた腕が落ちた音が響いたのは、同時だった。
メヒューの口から、内蔵に収まりきらなかった血液が息とともに吐き出された。腕を斬られただけなのに……?
視線を正面から下へ下げ、ようやく自分の胸を剣が貫いているのを認識した。その剣を握っているアイリスは、頬に付いた血も気にせずに、真っ直ぐメヒューの瞳を見つめていた。
「ハッ、化けも、の、か……」
『……いえ、人間です。一応』
メヒューは自嘲気味に笑った。瞳から段々と光が退いていく。それをじっと見つめていたアイリスは、呆気に取られている気配から殺気に変わるのを感じ取った。
「メヒューさん!!」
「あのアマァッ!!」
アイリスは後ろ手に、先程から距離を取らないようにしていた部屋の扉の取っ手を握り、開いた。
その扉は外開きで、放たれた銃弾からアイリスの背中を守った。
そして正面は、
『ごめんなさい』
少し角度を変えて、メヒューの躯を盾にした。
銃弾が跳んで来る中、そのまま少しずつメヒューの躯を引きずり、部屋の中に入っていく。男たちが使っているのは小銃。怒りに任せて撃ってきた彼等のそれは、弾が尽きるのはほぼ同時。弱くなってきた時を見計らい、アイリスはメヒューという名の壁を突き飛ばし、扉を閉めた。
「メヒューさん……」
「チクショー」
「さっさと殺すぞ!逃げ場はねェんだ」
メヒューだったものに駆け寄った男たちは、怒りで顔を染めながら、アイリスが入って行った扉を囲んだ。残りは拳銃を構える。目で合図し合い、ボロボロになった扉を蹴り開けた。しかし、拳銃を向けるも、部屋には誰もいない。その部屋は、木箱が出鱈目に詰め込まれた、10人くらいならまだ入れそうな部屋だった。
「な、いないだと!?」
「どこかに隠れてるんじゃねェのか?そこら辺探せ!」
10人の人間が血眼になって部屋を荒らしていると、ある男が気が付いた。
「オイ、天井!」
「あのアマ、排気口から出やがったな!」
近くにあった木箱を力任せに蹴りつけた。すると、小さなプラスチック製の、目覚まし時計のような箱が転がり落ちた。
「?」
「チクショー、俺達も追うぞ!」
「オイ、何か落ちた――――――」
目覚まし時計のような箱は、明るい光とものすごい音を発しながら弾けた。
+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
こんばんは、渡月です。
先回の続き、『夜を彷徨う血濡れのアリス』をアップしました。
長くなりましたが、前後編に収めることにしました。
一話が長いですが;
今回の反省
戦闘シーンをもっとかっこよく書きたい
反省というより願望ですね;
想像はできるんですが、それを文におこせないという、僕の文才の限界がありありと……
取り敢えず、アリスはかっこよく戦ったということでお願いしますorz
それでは、ここまで読んでくださってありがとうございました。
またのお越しをお待ちしております。
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