月灯りの下
闇の世界に差し込む光を追い求めて
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只今、微罪処分中
「ふぁ~……ぁ」
欠伸を噛み殺すこともせずに伸びをすれば、机に視線を落としていた先輩がこちらを見た。
『あら、秋木くん。随分と眠そうね。……それとも、書類整理に対するささやかな抗議?』
「すみません。耐えられなかったもので、つい」
『ふーん……?』
冷ややかな視線を浴び、自分の説明不足に気付く。
「あ、いや、違いますよ!?耐えられなかったのは欠伸の方っスよ!?……いや、実は昨日、弟がベットの上で暴れてまして、五月蝿いの何のって……」
『へぇ、あの弟くんが?暴れてたって、どうして?』
先程とは打って変わって、今度はキラキラと好奇心に満ちた瞳を向けられた。本当にこの人は、好奇心が旺盛どころではなく、だだ洩れだと思う。
でもよかった、誤解が解けたらしい。
俺は下に一人弟がいるのだが、マンション暮らしのため部屋は共有。寝床は二段ベットで、弟たっての希望で俺が下となっている。働く時間が不規則なため、異議はなかった。当初は。
「それが、今日プールがあるらしいんスけど、クロールが泳げないもんで、家の弟。それで、イメージトレーニングしながら寝たとか……」
『え、じゃあ暴れてたっていうのは――――――』
「夢の中でクロールの練習をしていた音らしいです……」
そう答えると、先輩は思いっ切り笑いだした。
『か、かわいー!秋木くんの弟くん!!最早イメージトレーニングの域を軽く越えてるわ!』
「かわいくなんかないっスよー。お陰で俺は寝不足なんですよ?」
『十分かわいいわよ、弟くん!夢で泳いじゃうなんて。とても秋木くんの弟くんらしいわ』
「どこら辺がっスか!?」
何かがツボに入ってしまったらしく、先輩はまだ笑い続け、目には涙を溜めていた。
『でも、子供らしくていいじゃない。歳相応ていうことはとても大切なことよ?こんなこと羨ましがっても仕方ないけど、羨ましいわ』
「?」
涙を指で拭いながら言う先輩。
羨ましいって、先輩にも下に兄弟がいる、という解釈でいいんだろうか?
訊こうとしたところで携帯が鳴った。
「あ、すみません」
『どうぞ』
先輩の了承を得て携帯を開く。ディスプレイには、話題に上がっていた人物の名前が光っている。ディスプレイの上に表示されている時間をちらりと見て、学校から帰ってくるであろう頃だと推測。
電話して来るなんて珍しいな。
「もしもし……、え、はぁ。そうですが――――――」
電話の向こうからは知らない男の声で「秋木竜志さんですか?」と問われた。答えきる前に「あ、コラ!」と言う台詞が遮ると、「兄貴~!!」と言う聞き覚えのある、泣きが入った声が聞こえてきた。
「もしもし?……どうかした――――――はぁ?!」
そして、その内容はよく伝わっては来なかったが、一単語だけで今は取り敢えず十分だった。
「判ったから、いや判らんが落ち着け。取り敢えず、さっきの人に代われ」
大人しく代わったらしく、最初の男性が出た。
今から行く旨を伝えて電話を切る。
「すいません、ちょっと出てきます」
『どうかしたの?』
「……先程話題にしていた弟が今、警察でお世話になってるらしくって」
『え』
欠伸を噛み殺すこともせずに伸びをすれば、机に視線を落としていた先輩がこちらを見た。
『あら、秋木くん。随分と眠そうね。……それとも、書類整理に対するささやかな抗議?』
「すみません。耐えられなかったもので、つい」
『ふーん……?』
冷ややかな視線を浴び、自分の説明不足に気付く。
「あ、いや、違いますよ!?耐えられなかったのは欠伸の方っスよ!?……いや、実は昨日、弟がベットの上で暴れてまして、五月蝿いの何のって……」
『へぇ、あの弟くんが?暴れてたって、どうして?』
先程とは打って変わって、今度はキラキラと好奇心に満ちた瞳を向けられた。本当にこの人は、好奇心が旺盛どころではなく、だだ洩れだと思う。
でもよかった、誤解が解けたらしい。
俺は下に一人弟がいるのだが、マンション暮らしのため部屋は共有。寝床は二段ベットで、弟たっての希望で俺が下となっている。働く時間が不規則なため、異議はなかった。当初は。
「それが、今日プールがあるらしいんスけど、クロールが泳げないもんで、家の弟。それで、イメージトレーニングしながら寝たとか……」
『え、じゃあ暴れてたっていうのは――――――』
「夢の中でクロールの練習をしていた音らしいです……」
そう答えると、先輩は思いっ切り笑いだした。
『か、かわいー!秋木くんの弟くん!!最早イメージトレーニングの域を軽く越えてるわ!』
「かわいくなんかないっスよー。お陰で俺は寝不足なんですよ?」
『十分かわいいわよ、弟くん!夢で泳いじゃうなんて。とても秋木くんの弟くんらしいわ』
「どこら辺がっスか!?」
何かがツボに入ってしまったらしく、先輩はまだ笑い続け、目には涙を溜めていた。
『でも、子供らしくていいじゃない。歳相応ていうことはとても大切なことよ?こんなこと羨ましがっても仕方ないけど、羨ましいわ』
「?」
涙を指で拭いながら言う先輩。
羨ましいって、先輩にも下に兄弟がいる、という解釈でいいんだろうか?
訊こうとしたところで携帯が鳴った。
「あ、すみません」
『どうぞ』
先輩の了承を得て携帯を開く。ディスプレイには、話題に上がっていた人物の名前が光っている。ディスプレイの上に表示されている時間をちらりと見て、学校から帰ってくるであろう頃だと推測。
電話して来るなんて珍しいな。
「もしもし……、え、はぁ。そうですが――――――」
電話の向こうからは知らない男の声で「秋木竜志さんですか?」と問われた。答えきる前に「あ、コラ!」と言う台詞が遮ると、「兄貴~!!」と言う聞き覚えのある、泣きが入った声が聞こえてきた。
「もしもし?……どうかした――――――はぁ?!」
そして、その内容はよく伝わっては来なかったが、一単語だけで今は取り敢えず十分だった。
「判ったから、いや判らんが落ち着け。取り敢えず、さっきの人に代われ」
大人しく代わったらしく、最初の男性が出た。
今から行く旨を伝えて電話を切る。
「すいません、ちょっと出てきます」
『どうかしたの?』
「……先程話題にしていた弟が今、警察でお世話になってるらしくって」
『え』
* * *
「兄貴~!!」
通された取調室をノックして開けると、黒い何かがタックルをかましてきた。それになんとか耐え、体から引っぺがす。
かい
「何やってんだ、海!この馬鹿!!」
「だって~、だって~」
『それにしても、ボロボロじゃない。大丈夫?』
「し、詩夢さん!?」
俺の後ろからひょっこり現れた先輩を見て、弟である秋木海は涙を引っ込めた。
『久し振りね、海くん』
「な、何故ここに詩夢さんが……!?」
「お前からの電話で、一緒に来てくださったんだ。……で?何しでかした?」
先輩に気を取られているうちに、取調室にいた警官に手帳の提示を済ませ、海に向き直る。
「そ、それが!プールバックがバーンてなって、謝って、俺たちダーッて走って、角行ったら無理で、謝ってもガッて来るからガンガン行ったんだけど、ボロボロで、お巡りさん来たらピューと行っちゃったんだよ、自分達だけ!」
お前は大阪の人か。相変わらずテンパり過ぎだろ。
「あー、つまり、何してたかは知らないが、プールバックが誰かに当たり、謝ったが許してもらえなかったため走って逃げたが、行った先は行き止まり。再度謝ったがそれもダメで、殴ってきたから仕方なく応戦したが、ボロボロにやられて保護され、相手は逃げた、と」
ブンブンと首を縦に振る海。
『……よく判ったわね、秋木くん』
「まあ、兄弟なんで。……慣れって恐いっスね、ほんと」
先輩は、すたすたと取調室に入り、調書を手に取った。
「ちょ、君!子どもが勝手に……!」
『………………』
先輩はニッコリと笑いながら、取り出した警察手帳を開いて見せた。
「け、警部?!し、失礼しました!!」
『フンッ』
先輩は調書を開き、目を通しながら口を開いた。
『ねぇ、海くん。さっき"俺たちダーッて走って"って言ってたけど、誰かと一緒だったの?』
「あ、ああ!そうだ!友達!兄貴!俺の友達が違う部屋にいるはずなんだ!」
「おま……、友達巻き込んで何やってんだよ」
海がまたも取り乱して取り付いてきた。
『じゃあ助けに行ってあげないとね、そのお友達を』
「ちょ、ちょっと待ってください!まだ話が……」
『あら、さっきので調書は埋まるでしょ?それに事情を聞けば、発端は彼だけど謝ったみたいだし、喧嘩の方は正当防衛。まあ、見た限り、どちらかというと彼の方が被害者に見えるけど?』
チラリと海を見る先輩。改めて見ると確かにボロボロで、警察を撒いて逃げる元気が相手にあるだけ、確かに被害はこちらが上そうだ。
「それはそうですが……」
こちら
『それに、相手は逃がしてしまったんでしょ?それで事情が聞けないのは警察のミス。逃げたところを見ると、やり過ぎたという意識はあったみたいだし。そもそも彼は未成年。前科もないんだから注意で十分』
「しかし……っ」
それでもまだ食い下がろうとする警官。先輩は痺れを切らした。
『あぁ、もう。何?私の微罪処分に文句があるの?保護者だって迎えに来てるんだし、い
う ち
いでしょ?なんならこの案件、特使で処理するわ』
「へ?あ、ちょっと……!」
調書を持って踵を返した先輩を、もう止める手段はない。先輩は、顔だけ警官に向けて言い放った。
うえ
『私は特使捜査課、水成詩夢。階級は警部。この件は微罪処分とする。上司に文句があるなら私に言うように伝えなさい』
「なあ、兄貴」
袖をツンと引っ張って、こっそりと呼びかけられる。
「なんだよ」
「"微罪処分"って何?」
「ああ、簡単に言うと、本当は検察の人に報告しなきゃいけないんだが、小さな事件は必ずしも報告する必要がなく、警察で処理してもいいってことだ」
「へー」
『行くわよ、秋木くん、海くん』と言って取調室を後にした先輩に急いで続く。
後ろをついて行っているため見えないだろうが、軽く頭を下げる。
「すみませんでした、先輩」
「ありがとうございます、詩夢さん!!」
『このくらい問題ないわ。ただし、海くんは今度から気をつけて行動すること。いいわね』
「はーい」
『よろしい。……じゃあ、後はお友達ね』
先輩は先程の取調室に案内した後、そのまま待機してくれていた女性警官に、案内するよう指示を出した。
「だから、さっさと両親の連絡先を言えと言ってるんだ!」
案内された取調室の前、そんな怒号が聞こえてきた。しかし、相手は冷静らしく、扉越しでは何を言っているのか聞こえなかった。
女性警官がノックをし、返事を聞いて扉を開けた。
俺の弟が引き起こしたことだ。なので俺が先に入った。
「失礼します」
「だったら後見人とか、世話をしてくれてる人の連絡先を教えなさい!」
『だから、一人暮らしですっつってるだろ』
……何だ、この光景。完全に少年の方が冷めている。海とは真逆の光景だ。
らん
「嵐!!」
『嵐!?』
「「へ?」」
『げっ』
この光景を見て声をあげたのは、海と先輩。
そんな先輩に声をあげたのは、俺と海、そして少年だった。
『なんで詩夢がいんだよ?!』
『それはこっちの台詞よ!というか、呼び捨て!!』
ずかずかと取調室に入って行った先輩を警官は諌めたが、先程同様に強制的に黙らされた。
『もう、ボロボロじゃない!体は大丈夫なの?』
『……平気だ、こんぐらい』
呆気に取られていた俺達兄弟は我に返り、海は少年に詰め寄った。
「ちょ、嵐!何でそんなに詩夢さんと親しげなんだよ!?」
『再会早々訊くのはそっちか。てか、お前こそ何で知ってんだよ』
「まあ!質問してるのはこちらよ?!先に答えなさい、この子は!!」
『ウゼェ』
「……えっと、先輩?あの少年と知り合いですか?」
『ええ、この子は』
『ぅわ!』
先輩は、ぐいっと少年の肩を抱き寄せた。
『私の弟よ』
「先輩の」
「弟ォッ?!」
『ちょ、離せって!』
本当にいた、先輩の弟さん。俺は改めて、抵抗している少年を見た。
茶色がかった黒くて少し長めの髪に黒い瞳。顔立ちは中性的だが、弟と同じ学ランに袖を通している。
「あれ、でも嵐の苗字……」
『……紛らわしい言い方するなよ。本当の姉弟じゃねェだろ』
「え、それって、あの、重い感じの……?」
オイ、それを訊くか弟よ。
『いや、ただ前にちょっと、お隣りさんだっただけだ』
しおねえ
「何よ、その言い方は!昔は詩夢姉って呼んでくれてたくせに~」
『バッ、いつの話してんだよ!!』
「うっわ、何それ!なんかむっちゃ羨ましいんですけど!」
『羨ましいのかよ』
……このまま放っておくと、収拾がつかない気がする。
「先輩、取り敢えず、場所移しませんか?」
『ん?あぁ、それもそうね。……そこの君』
こうして先輩は海の時と同様、権力を振りかざして外へ出た。
よなぎ
『はじめまして。いつも詩夢がお世話になっています。夜凪嵐です』
警視庁へ向かう最中、嵐くんの第一声がこれ。実にしっかりしてらっしゃる。
「これはどうもご丁寧に。こちらこそ、家の馬鹿がお世話になって。兄の竜志です」
『嵐!しお姉とお呼び、って行ってるでしょ!』
『嫌だ』
『何よ、照れちゃってー。それにしても、世界って案外狭いものねー』
「ほんとっスよ。まさか海の友人が先輩のお知り合いだったなんて」
『知り合いじゃなくて弟ね、弟』
『だから、血縁関係ねェだろ』
「おい、嵐!詩夢さんになんて口の聞き方するんだ!謝んなさい!」
『さっきからお前は一体何なんだ』
隣に座る先輩に後ろには海と嵐くん、そんな俺が運転する車の中の会話は、端から聞いたらカオスなんじゃないだろうか?
「それより、どうします?これから」
『一旦特使に帰って、その後解散になるかしらね。丁度いい時間だし』
「そうっスね」
取り敢えず、今後の行動を確認していると、海がいきなり挙手してきた。
「あ、はいはーい!だったら家にごはん食べに来てくださいよ!嵐も!」
『いや――――――』
『あら、いいの?』
『少しは遠慮しろよ』
「オイオイ、来てもらうのは構わないが、晩飯の用意帰ってからなんだけど?」
「竜兄たちは一回警察に帰んなきゃなんだろ?だったら先に帰って準備しとくからさ!な、嵐!」
『いや、"な"って言われても……』
「おま、準備って――――――」
「じゃ、後でな~。詩夢さん、絶対来てくださいね!!」
「コラ、海!」
『オイ、海!俺はお邪魔するとは一言も――――――』
車がタイミングよく停まったことをいいことに、海は嵐くんの手を引っ張って車から飛び出して行った。
「……何かすみません、嵐くん誘拐させちゃって」
『構わないわよ。あの子には、海くんぐらいが丁度いいのよ』
「丁度いいんスか、あれ」
信号が青に替わり、俺はアクセルを踏んだ。
+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
こんばんは、渡月です。
今回は『警視庁特使捜査課』です。
前回言っていた「新しいことに挑戦」してみました。
こいうの、クロスオーバーって言うんですよね?
もう薄々感づかれてたと思いますが、
『study!』の秋木海と『特使』の秋木竜志は兄弟だったという話。
ただその話が書きたいがために、こんなにも長くなってしまいました^^;
そしてまだ続きますorz
作中に出てきた「微罪処分」ですが、使い方はあれで合ってるんでしょうか?←
どちらかというと「現場裁量」の方が合っている気もしたんですが、
「現場」じゃないしな~; 「現場」にいたのは詩夢じゃないし……。
「現場」じゃなくてもいいのかな~。
あ、「現場裁量」というのは、
例えば、「喧嘩している人がいる!」という通報があったとします。
それを傷害事件や暴行事件として立件するのか、
当事者を説諭するだけに留めるのか、という裁量を警察が行うことです。
要するに、色々考慮した上で、現場の裁量で事件にするかしないかを決めることですね。
「前裁き」とも呼ばれています。
まあ「現場裁量」も事実上「微罪処分」なのでよしということで(オイ)
中途半端な知識ですみません(土下座)
ということで、もう少し続きますが、長い目で見てやってください。
ここまで読んでくださって、ありがとうございました。
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