月灯りの下
闇の世界に差し込む光を追い求めて
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只今、団欒中!
かい
家へ向かおうと、先輩と車に乗り込む。丁度そこに携帯がなった。海からメールだ。
内容は、
《帰りにトマトとナス、買ってきてねv》
だった。
……お前は奥さんか。と心の中だけでツッコんだ。
「ただいまー」
『お邪魔しまーす』
トマトとナスを調達し、玄関を開けると、家にはいい匂いが漂っていた。
『あら、いい匂い』
先輩がひょっこりと後ろから顔を覗かせると、海が走ってやって来た。
たつにい
「いらっしゃい、詩夢さん!あ、おかえりー、竜兄」
「すっげー温度差。おい、この匂い……」
「いやー、実はですね~――――――…」
* * *
『……お邪魔、します』
「何遠慮してんだよ!ほれ!入れ!」
『いや、だって……』
らん
嵐は、恐々といった感じで敷居を跨いだ。海の家には何度かお邪魔したものの、嵐にとって友達の家で食事をするのは初めてだからだった。
「なあなあ、ゲームして待ってようぜ!何がいい?」
『いや、お前、お兄さんに先に準備してるとか言ってなかったか?』
「そうだけどさ~」
『ならやれよ』
「けど~、久々の喧嘩で疲れたし~」
『ギャルか、お前は。。……ハァ、台所入っていいなら俺も手伝うから。お前でも勝手ぐらいるだろ』
「え!嵐の手料理、フルコースで食べれるの!?」
『オイ、誰がフルコース作るっつったよ』
「ぃやったー!!今日は嵐の手料理フルコースだー!!」
『聞け人の話を!!』
その後、海が嵐の手料理を食べたいとごねた結果、嵐はいいのかと思いつつ、台所に立つはめになる。
* * *
「――――――という訳でして」
「という訳でして、ってお前な~」
台所はいくら使ってもらっても構わない。構わないが、友達だからといっても相手は客だ。客に夕飯の用意をさせるなど、いい訳がない。
『まあまあ。大丈夫よ、秋木くん。嵐はああ見えて料理上手いんだから』
「そーそー!竜兄に負けないんだぜ!」
「いや、そういう問題じゃないから」
リビングへ向かうと、台所から嵐くんが現れた。
『すみません、お邪魔した挙げ句に台所までお借りしてしまって……』
「いや、それは構わないよ。こっちこそ、お客さんにそんなことさせてしまって、すまないね」
『いつも作ってるんで、気にしないでください』
「俺も手伝うよ。料理できるから」
『いや、お疲れなんだからいいですよ!』
『……ちょっとー、なーに二人して新婚ごっこしてるのよ』
「ちょ、嵐は俺の親友だぞ、竜兄!」
そこに現れる先輩と海。
「新婚って、先輩……」
『彼氏すらいない奴がよくそんな比喩ができるな』
『嵐~ッ!!』
『いッ!!』
ハッと笑いながら呟いた嵐くんの言葉を聞いて、先輩は首を絞めにかかった。女の人にはやはり痛い一言だったようだ。
「そうだ!折角だからみんなで用意しようぜ!楽しいって絶対!」
『あら、それいいじゃない!ナーイス海くん!そうしましょ!』
「お前に任せてたら台所が爆心地になるわ」
『お前らに任せてたら台所が爆心地になるわ』
嵐くんとアイコンタクトを取る。どうやら先輩にも任せてはいけないらしい。
「海は必要そうな食器出しとけ」
『詩夢は、その食器でも並べとけ。割るなよ、くれぐれも』
俺は嵐くんとそれだけを言い残し台所へ向かった。
「え~!!」
『だーかーらー、しお姉とお呼びったら!』
先輩のお墨付き通り、嵐くんの料理の腕前は凄かった。
器用に右の鍋に切った野菜をざらざら入れながら、左の鍋の味見をしている。テキパキしていて手際がいい。あの海と同じ年だとは思えない。
「嵐くん、ほんとに料理上手いね」
『いえ、そんなことは……。竜志さんこそ凄いじゃないですか』
「まあ、俺も独り身だし、親も共働きで好き勝手やってるからね。お陰でここまで上達したよ」
俺が苦笑して言うと、そうなんですか、と苦笑する嵐くん。
「……海も、寂しい思いはしてると思う。そのせいなのかは判らないが、友達とは浅く広い付き合いばかりだったから、嵐くんみたいに深く付き合える子ができて、安心したよ」
『…………』
「でも、鬱陶しい奴だろ?あいつ懐くと、ほんと犬みたいにベタベタしてくるから」
『そんなこと、ないですよ。楽しいし面白いです、アイツ見てるのが。……本当は楽しいなんて思っちゃいけないんだろうけど』
「?」
最後にぼそりと付け加えられた言葉を、俺は言及しなかった。
「うっまー!!嵐の料理うっまー!!」
『ほんと、いつ食べてもおいしー』
机の上には、俺達が作った料理が並べられていた。
「うん、美味しい。その年でこの腕前とは、末恐ろしいね」
『あ、ありがとう、ございます……』
「嵐、レストラン開け!そんで俺がウエイターとして働いて、嵐の料理を美味しく頂けると……」
「『ウエイターが食うな』」
声が被り、お互い顔を見合わせる。俺が笑いかけると、嵐くんも苦笑を返してくれた。
『でも、竜志さんの料理も美味しいですよ。最近食べた中で一番』
「お、嬉しいこと言ってくれるねー」
『確かに、秋木くんの料理も負けてないわね。でも私は嵐派かな~』
「チクショー、嵐め……!」
『……何だよ』
どうやら先輩はブラコン(?)のようだ。
「アハハ、先輩は手厳しいっスね~」
『先輩ですから。部下にはアメとムチを使い分けなくっちゃね』
『……その前に自分が料理出来るようになってから言えよ』
「アハ、ハ……」
嵐くんはそうでもないらしいが。
「――――――でさ。兄貴ったら詩夢さんに剣道の練習中に手首取られて痛めてさー。送ってきて下さった時に詩夢さんに会ったのだよ!これが俺と詩夢さんとの初めての出会いだ!」
「篭手な、篭手」
『何やってんだよ、お前』
『いやー、ついつい本気になっちゃって』
『幾つになっても大人気ないところは変わらないのな』
「ん、先輩の年、知ってるの?!」
そうか、嵐くんは先輩曰く弟さんだ。先輩の謎の一つである年齢を知っていてもおかしくはない。
『え、はい、まあ……』
「ギャー、聞きたくない!俺は聞きたくない!!でも聞いてみたい!!」
『いや、どっちだよ』
『……3人とも、どういう形であろうと、女性の年齢でとやかく言うのは失礼よ?』
黒い笑顔で迫り来る先輩。俺たちに残された言葉の選択肢はただ一つ。
「「ハイ、スミマセンデシタ」」
『嵐くん?』
『……判ったよ。言わなきゃいいんだろ、言わなきゃ』
『うん、判ればよろしい!』
『バ、一々頭を撫でるな!!』
「嵐め……!」
たわいのない会話をしながら、俺たちは食事を楽しんだ。
そしてそんなの時間も終わり、食後の会話も程々に。
『――――――それじゃあ秋木くんはまた明日。海くんはまたね』
「お気を付けて、詩夢さん!嵐、しっかり守れよ!」
『……相手は現役警察官なんだけど』
明日もまだ海たちには学校が、俺たちには仕事がある。楽しい時間が過ぎるのは早いというが、早めにお開きになるのは必然だった。
「送って行きますよ?」
『いいわよ、わざわざ。タクシー捕まえようと思えばできるんだし。ありがとうね』
『お邪魔しました。ご飯も、ご馳走様でした』
「いえいえ、こちらこそ。よかったら、また遊びにきてやって。俺はいないかもしれないけど」
『ありがとうございます』
「じゃあな、嵐。また明日なー」
『ああ。宿題忘れんなよ』
「あ」
取り敢えず、呟いた海の頭を叩いておく。
「それじゃあ、お二人ともお気を付けて」
『お疲れ様、秋木くん。お邪魔しました』
『失礼します』
「詩夢さん、また来て下さいねー!」
こうして先輩たちは帰って行った。
静かになる部屋。
海がいつも楽しそうに話してくる嵐くんに初めて会って、少し変わっているなというのが正直なところの第一印象だった。この年頃の子供達を知っている訳ではないし、比較対象が海だし、一概には言えないが、妙に大人びている気がした。笑い方とか。それはもう不自然なほどに。
まあ、取り敢えず、何だ。
「何か寂しいなー」と言って唇を尖らせている海の肩に手を置いた。
「お前は嵐くんの爪の垢を少しもらって、煎じずに呑め」
「……は?」
* * *
『嵐にも友達がいて、安心したわ。全然そういう話してくれないんだから。連絡もろくにしてこないし』
『……別に、知っても仕方ないだろ、そんなこと』
『あら、そんなことないわよ?やっぱり嬉しいことも悲しいことも、共有したいじゃない。私たち、家族なんだから』
『…………』
帰っている間、いくつか嵐と会話を交わした後で、ふとあることが気になった。
『あ、そういえば』
* * *
リビングでテレビを観てくつろいでいると、いそいそと宿題を持ってきた海。
「竜兄~、宿題教えて~」
「……俺も久しぶりすぎて覚えてる自信がないんだけど」
「やっぱり?明日嵐に教えてもらおっかな~」
そこで、ふとあることが気になった。
「なあ、そういえばさ」
* * *
『どういう経緯で海くんと友達になったの?正反対なのに』
「どういう経緯で嵐くんと友達になったんだ?正反対なのに」
『ああ、』「どういう経緯で嵐くんと友達になったんだ?正反対なのに」
「俺達の出会い?」
『そりゃあもう』「それはそれは」
『最悪だったよ』 「最悪でしたよ」+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
こんばんは、渡月です。
今回は前回に引き続き、『study!』×『警視庁特使捜査課』のクロスオーバーをお送りしました。
今回書きたかったのは、
1.詩夢は料理ができない
2.詩夢にデレデレな海
3.竜志に若干戸惑ってる感がある(人見知り)嵐
4.嵐と竜志のタッグ
5.次回への繋ぎ(←あ。)
です。
ということで、次は『血塗れアリス』を挟んでから、
『study!』で嵐と海の出会いを書く予定です。
……どうしても『血塗れアリス』よりも話数が少なくなってしまう『特使課』orz
一段落したら、また強化月間作ろうかな……。
以前お話した学校の機関誌(?)に投稿してみようと企みについてなんですが、
締切ギリギリで、なんとか投稿しました。
結局、話の方は『モノ彩』にちょっと出した伏線の話にしました。
発行されてから、こちらにもアップしようと思っていますので、その時はよろしくお願いします。
それでは、ここまでお付き合い頂き、ありがとうございました。
またのお越しをお待ちしてます。
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