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月灯りの下

闇の世界に差し込む光を追い求めて

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只今、銀行強盗発生中!

部屋を満たすのは、窓から差し込む昼の日差しと時計の針が進む音。そして俺が紙にペンを走らせる音。だだそれだけ。

「……平和だ」
『…………』

 と思った矢先。

「水成!」
「ッ?!」
『…………』

 勢いよく開けられた扉と同時に飛び込んできた人。そのせいで、書類のサインがあらぬところへ飛んだ。

   みやしろ
「み、宮城警部!?何スか、いきなり!?」
「水成はどうした?どこ行ったアイツ!」
「先輩なら、」

 飛び込んできたまま部屋を見渡す宮城さん。俺は先輩の席を指し示す。

『…………』
「……何だ、アレは」
「何でもゲーセンで取ったんだとか。先輩代理だそうっスよ。今日先輩、非番なんで」
「非番だァ?!チッ、こんな時に……!」

 ただならぬ様子に事件の匂いを感じる。

「あの、何かあったん――――――」
「仕方ない!取り敢えず来い!」
「うわ!ちょっと!」
「事件だ!手ェ貸せっつってんだよ!」

 ズルズルと引きずられていく俺を、先輩代理―首から水成詩夢という名札をかけた大きな黒猫のぬいぐるみ―の冷めた瞳が見送った。

処変わって、俺は宮代さんの運転する車内にいた。

「珍しいですね、宮城警部が俺達に応援を頼むなんて」
「しょうがねェんだよ。……銀行強盗が発生した」
「銀行強盗っスか。また真っ昼間から」
「それで、水成が必要になるんだよ」
「先輩が?」
「おそらくな」

 信号で止まったところで宮城さんは携帯を取り出して操作し、助手席に座る俺に放ってきた。そして耳に付けている小さな機械のボタンを押した。微かにコール音が聞こえる。

「……出ねェな。くそっ、何やって――――――」

 そこでコール音が止んだ。

「あ」
「やっと出たか。俺だ。悪いが――――――」
《うるせェ!》
「ッ?!」
「いッ?!」

 宮城さんが耳につけた機械から聞こえた怒鳴り声。まさか第一声で怒鳴り声を聞くとは思っていなかったのだろう。車が揺れた。大きくではなかったのは、この人らしい。

《こっちとら取り込んでんだ!もうかけてくるんじゃねェぞ!》

 相手は一方的にそれだけ言うと電話を切った。

「~~~ッ」
「……大丈夫ですか?宮城警部」

 外から聞いていた俺にさえ、はっきり聞こえたんだ。耳にしっかり機械を据えている宮城さんにとっては凶器同然だ。

「~ったく、何なんだ今の。……オイ、履歴見てくれ」
「先輩の携帯に間違いないですね。……今の男の声、でしたよね?」
「ああ、アイツに男ができたなんて聞いてないが」
「俺もですよ。でも、もしさっきのが先輩の彼氏なら――――――」


「随分物好きな人っスね」
「随分物好きな奴だな」



 車は現場である銀行に到着した。入口は警察と野次馬で全く見えない。車から降り、テープを潜る宮城警部に続いてテープを潜る。宮城警部は、おそらく捜査一課だろう人に声をかけた。

「どうだ、状況は」
「変わりないですね。……宮城警部、水成警部は?」
「非番かつ取り込み中らしい。その代わり、何かの役には立つだろうと思ってコイツは連れて来た」
「どうも」
「……でも、新人ですよね?」
「アイツの下にいる奴だ。足を引っ張ることはねェだろ」
「………………。」


 あれ?何だコレ。
 俺、無理矢理引っ張られて来たのに、何でこんな言われようなんだ?それに宮城さん、それ期待してるようでしてないっスよね。声に願望、混じってますよね。

「しかし、水成警部がいないのは困りましたね。例の作戦ができません」
「違う方法で行くしかないだろ。こればっかりはアイツにしかできんからな」

 しかも完全に置いてきぼりだ。

「……あの、スミマセン。さっきから何なんスか、その"作戦"って」
「ああ、それはだな、ここまで警察と野次馬に囲まれれば逃走用の車を要求してくる。その用意した車の足元に水成を潜ませておき、犯人が乗ろうとしたところを挟み撃ちにするというものだ」
「ちょ、いくら先輩が無敵じみてて小さいからってそんなリスキーなこと……!」
「俺達は警官だ。市民の平和を守る義務がある。そのためには、個々人が持つ能力を最大限に活かせる場所に活かす必要がある。たとえそこに命をとすような危険があったとしても、だ。そしてその危険を減らすのが、俺たち外の人間だ」
「……あ」

 その言葉は、以前に聞いたことある。あれは、特使課に配属されてすぐの頃、水成詩夢という人の凄さを知って、自分が特使課にいて足を引っ張らないか不安になったときだ。


‘俺、体力には自信ありますけど、頭悪いし……。ここでやってけるのか……’
“あら、早速辞めたくなったの?“
‘辞めたくは、ないです!’
“ならよし!私達は警官である前に一人の人間なの。得手不得手があって当然”
‘……先輩にもあるんスか?’
“当然。一つや二つ、三つや四つ余裕にあるわよ。でもね、警察官である以上、市民の平和を守る義務が付き纏う。そのためには、個々人が持つ得手の能力を最大限に活かせる場所に活かす必要があるの。たとえそこに命をとすような危険があったとしてもね。そしてそのリスクを下げるために、様々な能力を持った仲間がいるのよ。あなたが不得手のところは、先輩である私が責任持って補ってあげるから、あなたは自分に自信を持ちなさいな。骨は拾ってあげるから”
‘ちょ、責任ってそっちの?!’


 先輩も不在かつ銀行強盗事件なんて経験したことがない俺は果たして、ここにいてどんな能力を活かすことができるのか……。
 そんなことを考えていると、宮城さんと話していた刑事の持つ無線がなった。少し会話をしている。

「逃走用の足、来たみたいです」
「わかった。……おら、ぼうっとしてないで、野次馬退けるぞ」
「あ、はい!」

 野次馬を退けて、逃走用の車を銀行の入口前へと通す。

「人質を一人連れて、犯人が3人出てくるそうです」
「チッ、人質もいるのか」
「定石じゃないですか」
「秋木刑事、犯人達の隙を見逃すな。車に近付くに連れ、隙ができる可能性が高くなる。ただし、人命第一だ。急くなよ」
「はいっ」

 車から少し距離を取り、警察の群れが扇形に取り囲む。と同時に、緊張感も辺りを包み込んでいる。
 野次馬の声が遠くに聞こえ、ドクドクと心臓の音がうるさい。
 銀行の自動ドアが開く。そこから出て来たのは4人。とうとう3人の犯人が姿を現した。3人共拳銃を所持している。真ん中の男が拳銃を突きつけているのは、

「よーし、動くなよ、サツ共。このガキ目の前で殺されたくなければな!」
「ッ!あ~!!」
「なッ、テメェは!?」

 セミロングの髪を靡かせ、ロングスカートを穿き、茶封筒を大事そうに抱いた、

『あちゃ~、やっぱし居たか』

 人質。

「詩夢!テメェそんなとこで何してやがる!!」
『見ての通り人質ですが、何か』
「いや、何かじゃないでしょ何かじゃ!!」
「オイッ、知り合いなのか!?」
『まあ、一応』

 人質はまさかの先輩だった。
 ……いや、まさかそんなベタな展開が待ち受けてようとは。どうしよう、緊張の糸を切られてしまった、先輩の手によって。
 というか、読者の皆さんの中には、“先輩がいない”“銀行強盗発生”というキーワードで既に落ちが読めてた方がいるのではなかろうか。いや、いらっしゃる。しかもほぼ全員が気付いていたに違いない。いやマジで。

                                   あつき
『ちょっと秋木くん?少しは私の心配してくれてもいいんじゃないの?ねぇ、篤稀』
「俺に振るな」
「おい、ちょっと待て!"篤稀"って、お前の彼氏サツかよ!」
「はぁッ?!」
「え、彼氏って……」
『あ、ごめんなさい。さっきのは咄嗟の嘘で、アレは元カレ。その隣が、今の私の彼氏なの。秋木!』
「イッたァ!!」
「ッ!っとお!」
「あの馬鹿!」

 先輩は犯人の足を思いっ切り踏み付けると同時に、俺に持っていた封筒を投げて寄越す。それを合図に宮城さんが走り出した。
 先輩はスカートを翻しながら。振り向き様に腰から取り出した警棒を一振りで伸ばし、そのまま拳銃を弾き飛ばした後、左の掌で顎を捉える。

「がっ」

 そして俺が何とか封筒を受け取って見たのは。

「このガキ……!」

 右隣にいた犯人が振るった拳銃を左手で捌き、左足で踏み込んで

「ぐふ」

 警棒で腹部を叩き付けた先輩と、

「来んじゃねェ!」

 拳銃を振り回す左隣の犯人の懐に潜り込み、腕と胸倉を掴んで

「うわあああッ!」

 一本背負いを決めた宮城さんだった。

「犯人確保」

 野次馬やマスコミが騒然とし、警察官たちも慌ただしく動き出す。宮城さんはそのまま犯人に手錠をかける。

「秋木、手錠」
「……あ、はい」

 俺も急いで先輩に駆け寄り手錠を渡す。もう一人の犯人は、違う刑事が手錠をかけていた。

「くそガキが!騙しやがって!!」
『騙した覚えはない。未遂ならまだしも、完全に犯罪者になった貴様らに、同情はしても容赦はしない』
「くっ」
「容赦しねェのはこっちだボケー!!」
『ぁ痛っ!』

 犯人の身柄を引き渡して、宮城さんは先輩の頭をはたいた。

『いきなり何をする、この馬鹿!』
「"何をする、この馬鹿!"はこっちの台詞だ!そんな格好で大立ち回りするんじゃねェ!!おまけに誰が誰の彼氏だ!あぁ?!」
『どっちもしょうがないだろ?非番だったんだし、人質してるときに電話なんてしてくるから。そんなことで何顔真っ赤にしてるんだ、子どもじゃあるまいし』
「だ、誰が真っ赤だ!」
『アンタしかいないだろ?あ・つ・き・くん』
「テメェ……!」
「ちょ、落ち着いてくださいよ、宮城警部!先輩も!面白がっておちょくらないでください!」
「面白いって誰がだ!」

 貴方ですよ。
 マジで顔真っ赤なんだから。見かけによらず、ウブなのか?この人。……ん?

「あれ?」
『どうした?』
「いや、あれ?俺、ここに来て何もしてない気が……」
「ああ、してねェな」
「…………」

 嗚呼、先輩がいなくても自分なりに頑張ろうと気合いを入れたばかりだったのに……。

『何を気にしてるんだ。この人数だ、ここに来て何もしてない奴は山ほどいるぞ。それに、秋木は何もしてなくない』
「……先輩?」
「…………?」

 言いながら近付いてきた先輩を見下ろして、ドキリとしながら次の言葉を待つ。

『何故なら……、私の大切なコレを、ちゃんと受け取ってくれたじゃない!』
「はい?」
「はァ?」

 雰囲気をガラリと変えた先輩は、俺が抱えたままだった茶封筒を取り上げた。どうやら"公スイッチ"から"私スイッチ"に変わったらしい。

『篤稀だったら絶対スルーして落とすもん!秋木くんがいてくれて、ほんっとよかった~!』
「当たり前だ。人命第一に決まってるだろうが」
「……それはそれで何か悲しいんスけど。封筒受け取ることだけが役目って……」
『あら、私にも篤稀にも出来なかったことよ?そして何より、これは私にとってた大切なものだから、重要な役目』

 封筒の中身は知らないが、『わかった?』と言う先輩の笑顔に自分を無理矢理納得させた。人々の笑顔を守るのも、警察の役目の一つだ。うん。そうだそうだ。

「とにかく、お前もこれから事情聴取だ。来てもらうぞ」
『えーっ!!非番なのに~!!』
「警察官である前に、お前は国民だろう。警察に協力するのも国民の義務だ」
『協力は義務じゃなく、上手く引き出すものよ。そうやって何でも権力を振りかざせばいいと思って……。だから警察は嫌われる傾向にあるのよ』
「それを先輩が言いますか」

 俺の見間違いでなければ、先輩も事件解決のためならバンバン権力を使っている。

『失礼な!私が使うのは身内だけよ』
「いや、それはそれで質が悪いんですよ」
「オイ、いつまでコントしてんだ。さっさと行くぞ!」
『あ~も~、わーかったわよ!……その代わり、私の事情聴取は秋木くんにさせるわ』
「え?!」
「はァ?」

 俺と宮城さんは奇声を上げた。そりゃそうだ。だって俺は、事情聴取なんてものは先輩のを見たことがあるにしろ、自分ではしたことがない。

「お前なァ、遊びじゃないんだぞ?新人教育なら他所でやれ」
『……あなた、舐めてるの?そのくらい解ってるわよ。部下の教育も上司の務め。丁度いい機会だし、実地訓練に使わない手はないわ』
「だからってな……」
『経験に勝るものはないってね。今回は私も当事者なんだから、実地訓練になるわよね?それで足りないって言うんなら、追加であなたの聴取も受けるわよ。私の貴重な非番を提供するんだから、有意義に使わせてもらわないとね』
「……チッ、わーったよ。好きにやれ」
『ありがと、篤稀。さ、そうと決まれば行くわよ、秋木くん』

 あー、また俺の手が届かないところで話がポンポンと進んでいく……。要するに、俺に拒否権はないということで、返事はただひとつ。

「……ハイっス」

 重い気分を引きずって、俺は先輩の背中を追った。
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