只今、銀行強盗事件参考人取調べ中！

ある日、少女はルンルン気分で郵便局へ向かいました。何故ルンルンしていたのかというと、昨日の夜帰ってきたところ、郵便物の不在届けがポストに入っていたからです。それを見た少女は、郵便局に電話して届けてもらうよりも、自分で取りに行くことに決めました。それ程その時からルンルンしていたのです。
　翌日、郵便局に着いた少女は、窓口のお兄さんに不在届けを見せると、少し待つように言われ、郵便物を持ってきてくれるのを待ちました。
　しばらくして、呼ばれたので窓口へ行くと、お兄さんが大きめの茶封筒を渡してくれました。少女は嬉しくてキラキラとした瞳で茶封筒を受け取りました。そのまま窓口に突っ立ったまま、嬉しさのあまり感動に浸ります。
　少女は一人で感動に浸っていたため、お兄さんの顔が青ざめていくことと、後ろで起こっていたことに全く気付きませんでした。そんなお兄さんに、これまた気付かないままお礼を言って踵を返した時です。少女の額に冷たい物がゴツンと当たりました。視線で追っていくと、黒い鉄の塊が見え、それを持つ中年の男がその瞳に映りました。辺りにも視線を巡らせると、他に中年2人も拳銃を持ってお客さんや郵便局員を追い詰めていました。

「いいか！怪我したくなかったら全員言うこと聞いて隅に固まれ！！」
『…………ンなベタな』

　こうして少女は、人質となってしまったのでした。



『おしまい』
「……いや、まだ始まったばかりなのに終わらせんでください」
『ハァ……、あのな、秋木。参考人、被害を受けた方や事故に遭われた方の多くは冷静さを失っている。だから、まずは話したいことを話させるというのはいい。その後は突っ込んでないで、支離滅裂な話しから得た情報を鮮明にするために質問して、知りたい情報を引き出せ』

　『少しでも雰囲気を出すために、せっかく人が自分を卑下して少女と言ってやったのに……』とブツブツいうのは、取調べ中の、今回は参考人の先輩。
　雰囲気って、取調べで物語風に進めていく人はいないと思う。

『それに、突っ込むならもっと他の場所があるだろう？』
「他の場所、っスか？」
『私の話を聞いてなかったのか？犯人共は"郵便局"に押し入ったんだぞ？つまり、だ。奴らは"銀行強盗"ではなく、"郵便局強盗"だったということだ』
「はあ……？」
『ハァ……、まだまだ観察力が足りんな、秋木。要するに、副題に突っ込めと言ってるんだ』

　沈黙。

「……あの、先輩？ここでそういった発言は控えた方がいいんじゃ……？」
『フン！前話のモノローグで、読者や何だと言っていた奴に言われたくないわ』
「ちょ、人のモノローグ除き見るの止めてくださいよ！」
『とにかく、だ！私の目の前で中途半端なことは許さん。やり直せ、お前のそのどっちつかずのユッル～イ立ち位置と副題を！』
「ッ、わかりましたよ！もう何も気にせず副題を直せばいいんでしょ、直せば！

只今、郵便局強盗事件参考人取調べ中！

はい、これで満足っスか！？」
『よし。では、取調べの続きをするぞ』
「……ハァ」

　やっぱり、初めての取調べが先輩だというのはハードルが高すぎる。……色んな意味で。

「えーっと、では、集まれと言われて、みなさん集まったわけですね」
『はい。でも』

*　　　　　　　　　　*　　　　　　　　　　*

「いいか！怪我したくなかったら全員言うこと聞いて隅に固まれ！！」

　平日のお昼過ぎということもあってか、お客さんは少なかったんです。だから、自分が的になる可能性も跳ね上がるという考えが咄嗟に働いたのか、みんな大人しく集まっていました。でも、郵便局員さんたちは、そこら辺訓練をしていたのか、非常ベルを押したようでした。

「チッ、誰だベルなんて押しやがった奴は！死にてェのか！」

　リーダー格の男が拳銃を天井に向けて一発。

*　　　　　　　　　　*　　　　　　　　　　*

「撃ったんスか！？」
『警告で。お客さんたちはパニックで、郵便局員さんたちも流石に怯んでました』
「で、その時せ……じゃなかった、あなたは？」
『もちろん私も大人しくしてましたよ？あくまで一市民でしたから。でもね～』

*　　　　　　　　　　*　　　　　　　　　　*

「お客様は神様ですなんだろ？だったら余計な真似はすんな！」
「オイ、どーする？すぐに警察が来るんじゃないのか？」
「落ち着けよ。こっちには人質がいるんだ。そうそう簡単に手は出さねェよ」
「全員、携帯を出してもらおうか。警察に連絡されちゃ困るからな」

　そう言って犯人たちは、携帯を集めていきました。

「オイ、お前も出せ」
『私、携帯家に置いて来ちゃって持ってません』
「そうかィ」
「……オイ、そこのガキうるせェな。黙らせろ」

*　　　　　　　　　　*　　　　　　　　　　*

「ガキ？」
『いたんですよ、幼稚園ぐらいの男の子が。銃声に驚いて泣いていたんです。お母さんも必死であやしてたけど、状況が状況だから泣き止まなくて』

*　　　　　　　　　　*　　　　　　　　　　*

「チッ、うるせェガキだな」
「まあ待て。あのガキは使える。いざとなったら盾にできるからな。オイ、そのガキこっちに寄越しな」
「や、この子には触らないで……！」

　必死に子どもを守ろうとする母親と、泣きながら縋り付く子ども。そして、そんな親子に近付く犯人。ベタだけど、黙って見ていろって言う方が黙って見てろってもんでしょ？

『待ちなさい！』
「あ？何だ、まだガキがいたのか」
『……そんな小さい子は、人質に向かないと思いますよ』
「何？」
『小さい子は、こういう思いもよらない場面では何をきっかけに暴れ出すかわからないものです。外に出た瞬間、警察官を見てパニックなんて、十分に有り得る話しです。そうなって困るのは貴方方だと思いますけど』

*　　　　　　　　　　*　　　　　　　　　　*

「……って、何アドバイスしてんスか！？」

　俺は思わず立ち上がった。

『仕方ないじゃないですか。私だってコレがあるし、大人しくしてようと思ったんですよ？でも、あんな小さな子が人質なんて許されるわけないでしょ？』

　拗ねたように言う先輩は、今の格好じゃ本当に少女だ。

「さっきから気になってたんですけど、その中身って何スか？」
『気になります？しょうがないな～』

　先輩は、それはそれは喜々として、デスクに置いてあった茶封筒を手に取り、いそいそと開ける。

『じゃーん！！』
「"幻のレシピ大公開！幻の職人がおくる！幻のお菓子特集！"？」
『そ！噂には聞いてたんだけど、見かけなくって、本当に噂だと思ってたんですよね～。それがこの前、Amazanで見つけちゃって！即カートに入れちゃったっ』

　あー……

「……それで、そのあとせ……じゃなかった、あなたが人質に？」
『触れろバカ！！』
「た！」

　素早く丸められた茶封筒は、俺の頭に吸い込まれるように当たった。

『そういう時は、どこからでもいいから話しに乗れ！人間、共通点があれば、それがどんなに瑣末なものでもプラスに働く！信頼関係を築け、バカ！せっかく見せてやったのに、何かよくわからんが淋しいというか恥ずかしいだろバカ！』
「スミマセン。何か幻が続きすぎてて胡散臭さ大爆発してるもんで、近付かないほうがいいのかと……」
『何だ、胡散臭いって！！もういい！嵐に作ってもらっても、秋木には分けてやらん！！』
「……嵐くんに？」
『そ。あの子、お菓子作りも天才的だから、絶対完成する！私の幻のお菓子！』

　"嵐くん"とは先輩の弟さんだ。先輩は期待に目を輝かせているが、嵐くんは大変だな、こりゃ。取り敢えず、脱線した先輩を戻さなくては……。

「そうですか、それは楽しみっスね。それで……、あれ、何の話してたっけ？」
『チッ。上にスクロールしろ、スクロール』

　舌打ち。しかも、スクロールって……。

「……えー、それで、あなたはその子の代わりに人質になったと」
『ええ』

*　　　　　　　　　　*　　　　　　　　　　*

『そうなって困るのは貴方方だと思いますけど』
「……一理あるか。ってことは、ある程度状況を把握し、恐怖心を持ち、反撃できるほどの力がない子どもがいいってことだな」
『そう、なりますね』
「よし、ならお前が代わりの人質だ」

　そう言って、犯人の銃口は私に向けられました。

「お前はこっちへ来い。お前達はこの鞄に金詰めて来い！後の奴らはこっちに来な！」

　犯人達は、女性銀行員さんたちに鞄を3つ放り投げて渡し、銀行員さんたちは指示に従いました。

*　　　　　　　　　　*　　　　　　　　　　*

「それで、その後、人質として表に出た、と」
『勝手に結論を出すな。人質になっていた人は、何か有力な情報を持っている可能性が高い。犯人が逮捕されても裁判があるんだ。警察が知らない空白の時間は、なるべく作るな』
「あ、はい。……人質になっている間、何か、えっと、犯人と話しましたか？」
『そうですね、動機を、聞きました』
「動機って、何故郵便局強盗をしたのかをってことっスか？」
『ええ』

*　　　　　　　　　　*　　　　　　　　　　*

「しっかし、こんな時間にこんなところにいるなんて、お前もツイてなかったな。学校は？」
『……学校は、嫌いですから』
「サボりってやつか」
『クラスにも馴染めないし、先生たちも何もわかってくれないし、私を受け入れてくれない学校は、嫌いです』
「詳しいことは聞かないが、お前も苦労してるんだな」

*　　　　　　　　　　*　　　　　　　　　　*

「なんちゅー嘘を吐いてるんスか。相手同情してくれてるじゃないですか」
『向こうが子どもと勝手に勘違いしているのが悪い。状況的に、こっちは話しを合わせるしかないだろ？それに、こういった事件を起こすのは、社会から弾き出された連中が多い。言っただろ、瑣末なことでもいいから共通点を作れと』

*　　　　　　　　　　*　　　　　　　　　　*

『……どうして、おじさん達はこんなことを？』
「……リストラだよ」
『リストラ……』
「そうだ。俺達全員な」
「俺達くらいの歳になると、新しい仕事に就くこともままならねェ」
「だが家族だっているんだ。金が必要なんだよ、俺達にも……ッ」

　みんな、辛そうな顔してました。

『……でも、こんなことして手に入ったお金で生活したって、ご家族、喜ばないんじゃないですか？』
「………ッ」
「………」
「………」
『そんなこと、本当は分かってるんじゃないですか？』
「……嬢ちゃんの言う通り、分かってるさそんなこと！だけどな、こうでもしなきゃ、生活できないんだよ……！」

　詰めるなら今だと思いました。

『よくわからないけど、生活保護とかは……？』
「よく知ってるな、嬢ちゃん。受けるにも色々要件があるんだよ。それが難しくてな」
「受けてももらえるのは少ない金額だ。そんなんじゃ、家族は養えない」
『でも、お父さんが捕まる方が、ご家族は辛いんじゃないですか？』
「ぁ………ッ」
「………ッ」
「………」
『今ならまだ戻れる！だから、』

　トゥルルルルー

『ッ！！？』

　その時でした、携帯が鳴ったのは。

*　　　　　　　　　　*　　　　　　　　　　*

「携帯……？集められた携帯のどれかが鳴ったんですか？」
『いいえ、私の携帯が』
「私の携帯って……、あ」

　心当たりがある。まさか、その電話って……

『本当は人質になる予定もなかったから、隙を見て警察に連絡しようと思っていたんですが、まさかそちらから先にかかって来るとは……』

*　　　　　　　　　　*　　　　　　　　　　*

「……オイ、ガキ。この音、テメェから聞こえてるが？」
『え、あ、嘘……ッ』

　この時は焦りました。でもこれ以上は隠し通すことはできない。仕方なく携帯を探す振りをして出しました。

「このガキ、持ってやがったのか！」
『あ！』

　リーダー格の男は私から携帯を取り上げ、開きました。

　みやしろあつき
「宮城　篤稀？誰だ？お前の彼氏か？」
『……そう、です』

　よりによって篤稀かよ、って思いましたね。正直。だって、相手がアイツだとなると、用件なんて限られてきますから。
　そんな心配を余所に、男は通話ボタンを押しました。

《やっと出たか。俺だ。悪いが――――――》
「うるせェ！」

　微かに聞こえた篤稀の声。でも余計なことを言う前に、男が遮ってくれました。

「こっちとら取り込んでんだ！もうかけてくるんじゃねェぞ！」

　男は一方的にそれだけ言うと電話を切りました。私も思いましたけどね、かけ直してくるなよ！って。

「このガキ！俺達を騙しやがったな！それでサツに連絡するつもりだったんだろ！」
『ちが……、私は置いてきたつもりで……ッ！』

　ヤバイな、いっそ泣くか？なんて思っていたら、リーダー格とは別の男の銃口が向けられました。が。

『ッ』

　男は撃たずに殴り掛かってきました。

*　　　　　　　　　　*　　　　　　　　　　*

「……え、拳銃で？」
『拳銃で』

　そう言われて、マジマジと先輩を見つめる。怪我は――――――、

『してないですよ、怪我。避けましたから』
「ですよねー」

　さすが先輩です。
　でも、発砲せずに殴り掛かった？そういえば、先輩が反撃に出た時も、2人は撃たずに振り回してたな……何でだ？

*　　　　　　　　　　*　　　　　　　　　　*

「おい、落ち着けって！そういうのはリーダーの役目だろ」
「……チッ」

　もう一人の男が、殴り掛かってきた男を止めました。

『…………』
「オイ、今度下手な真似したら、怪我じゃ済まないかもしれないぜ。お嬢ちゃん」

　拳銃をちらつかせて威すのは、リーダーの男でした。

『………はい』

　その時、私は人質になって正解だと思いました。だってこの人達を捕まえるチャンスが見えたんですから。
　丁度その頃、外が騒がしくなってきて、警察の呼び掛けが始まりました。

「リーダー、警察の奴らが交渉したいってよ」
「あぁ」

*　　　　　　　　　　*　　　　　　　　　　*

『後はご存知の通りです』
「いや、あの、一つ訊きたいんですけど、捕まえるチャンスが見えたって、どういう――――――」

　意味、と言いかけたその時、取調室の扉が叩かれた。入ってきたのは、

「宮城警部」
「終わったか？」
『あ、元カレ』
「誰が元カレだ！お前みたいな奇想天外で規格外な奴、誰が女にするか！」
『ちょ、そこまで言う？！』
「ちょっと、もう止めて下さいって二人とも！」

　宮城さんの反応か面白いのか、先輩は同じネタでいじっている。

「あと一つだけ訊いたら大丈夫だと思いますから！……さっき、捕まえるチャンスが見えたって、言ってましたけど、どういう意味っスか？」
『そのまんまの意味ですよ。拳銃持っている犯人3人が相手なら、私だって一般人がその場にいなくなったからといって迂闊に手を出しません』
「一般人キャラでやってるのか。似合わねェな」
『・・・・・・・・・・・・・・・・』

　……ヤバい。何か、ピシッと、空気に亀裂が走る音がした。気がする。

『……いつもの感じだと後輩指導の意味ないでしょ？馬鹿ですか、あなたは。空気読めないんですか？あなたは』
「……なら、賢い一般人に教えておいてやろう。拳銃をそれぞれ所持した男3人相手に、危険な真似は控えることをお勧めする。一歩間違えれば怪我じゃ済まんぞ」

　あれ、険悪なムードが漂ってると思ったけど、宮城さん、なんだかんだ言って先輩を心配して――――――

『あら、捜一の宮城警部ともあろうお方が、アレを拳銃引っ提げた男3人と言うんですか』
「………」

　ちょ、先輩！？大人気ない……って、ん？

「え、どういうことっスか？」
「……3丁中2丁は偽物だった。リーダー格の男が持っていたものだけが本物だ。だが何故知っている？」
『……さっき、その刑事さんにも言いましたけど、私、拳銃で殴り掛かられたんです。リーダー格ではない男に。普通そんな使い方、しないですよね。わざわざそういう使い方をするということは、何かしら理由があるはず。リーダー格が撃っていたにも拘わらず、他の犯人が撃たなかった考えられる理由は2つ。死人を出さないよう釘を刺されていたか、もしくは……、撃ちたくても撃てなかったか』
「撃てなかった……、偽物だったから」
「それじゃあ飛躍しすぎだ。1つ目の可能性が残っている。そんな理由だけで賭けに出るにはリスクがありすぎる」

　確かに、それもそうだ。でも、

「それだけじゃないんスよね。賭けに出た根拠」
「それだけじゃねェんだろ。賭けに出た根拠」
「………」「………」

　先輩はそんなリスクが高い賭けをする人じゃない。たとえ危険が及ぶ相手が警察だったとしても。そう思ってたのは、どうやら俺だけではなかったらしい。

『……さっすが元カレと今カレ。よくわかってること』

　そう言いながらデスクに肘を付き、その上に顎を乗せた先輩は、何だか嬉しそうで、その顔はとても綺麗だった。

「ッ！まだその話しを引きずるか！！さっさと言え！」
『ハァ……、ちょっとした例えじゃない。ほんと短気ね、相変わらず』

　やれやれと言いながら、チラリと俺を見遣る先輩。

『……そちらの刑事さんは気付きませんでした？話しを聞いていて』
「あ～……、あはは、は」

　顔の横に両手を挙げる。所謂、お手上降参のポーズ。

『止めに入った男が言ってましたよね。そういうのはリーダーの役目だろって。そういうのっていうのは、拳銃を向けてきた行為、もしくは拳銃で殴り掛かってきたことを指している。どちらにしろ、共通することは拳銃を使っていること。拳銃を使うことがリーダーの役目ということは、別に死人が出ることを恐れて言った言葉じゃないですよね。リーダーは撃っていいわけですから。……ということで、私の中で可能性は2:8で、撃ちたくても撃てなかったほうに賭けたってわけです』

　『万が一を考えて、一般人から最も離れる外で賭けましたけど』。そう言って俺をもう一度見る。

『これで、先程の答えになりますよね』
「あ、はい。ありがとうございます」
『……』
「……」
『………』
「………」
『…………』
「…………」
『訊く事がなくなったならお礼！そして、何かあった時のためにアポ取り！』
「は、はい！……えっと……」

　先輩は、どう言えばいいか迷っている俺を見て、再び口を開きかけた。が、その前に。

「貴重なお時間、ありがとうございました。また何かお訊きすることができましたらその際はご協力の程、よろしくお願いします」

　宮城さんが教えてくれた。

「あ、はい！貴重なお時間をありがとうございました。また何かありましたら、ご協力よろしくお願いします」
『……珍しい。私に協力してくれるなんて』
「部下を勝手に借りたからな。これでチャラだ」
『変なところで律儀よね。別に好きなだけ使えばいいのに。ねぇ、秋木くん？』
「はい。なんたって、特使課っスからね」
「いや、お前達の力はこれ以上は絶対借りん」
『意地っ張りね～』

　先輩が苦笑し、宮城さんが仏頂面していると、
　コンコン
　響くノック音。

『ん？誰かしら』
「どうぞ」

　宮城さんの許しを得て開いた扉。その向こうにいたのは、

「どうも。お疲れ様です」
「ッ、貴方は……！」
『あ、』
「あれ？貴方は……」
「あぁ、貴方もいらしたんですね。お久しぶりです。その後、頑張っていますか？」
「はいっス！」

　俺が警察に入る前、面接官の1人だった人だった。

「何故、貴方がここに……！」
「宮城警部もお久しぶりです。詩夢さんが人質になっていたと聞きましてね。大丈夫でしたか？詩夢さん」
『もちろん！ご覧の通り、ピンピンしてますよ』
「それは何より」
「……あの～、先輩達は人事のお荷物窓際係長さんと知り合いなんスか？」
「ンな！」
「おやおや」
「馬鹿か、貴様は！」

　そう言うのが速いか否か、宮城さんから頭目掛けての平手が飛んできた。

「あ痛ッ！！ちょ、いきなり何すんスか！？」
「何馬鹿なこと言ってんだ、テメェは！」
「馬鹿なことって……」
『ちょっと、お荷物って失礼でしょうが。いくらなんでも取りなさいよ、そこは』

　怒られている意味が分からない俺を余所に、先輩と人事のお荷物窓際係長さんは会話を続けていた。

『というか、そんなこと言ったんですか？珍しいですね、貴方が嘘を吐くなんて』
「彼を見ていたら少し、からかいたくなってしまったものですからね。それに、直ぐに判ることでしたので、もう知っていると思っていたのですが」
『あ～、入署式の挨拶ですか。彼のことですから、緊張で聞き逃してますね、細かいところは確実に』
「そのようですね」

　……ん？嘘って言わなかったか？先輩が今。

　　　　　　のりづきみきまさ
「この方は、法月　幹正警視総監だ！！」

　警視総監って、巡査の次の巡査長の次の巡査部長の次の警部補の次の警部の次の警視の次の警視正の次の警視長の次の警視監の次に偉い、あの警視総監！？
　警視庁のトップの、あの警視総監！？

「どうぞ、よろしく」
「え……、え～～～～～～～ッ！？」

　人事のお荷物窓際係長さんじゃないの！？





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こんばんは、渡月です。
微妙に続いてしまいましたが、やっと終わった（笑）

法月幹正警視総監、この人は前々から出したかったキャラです。
以前はタイミングを逸して出せず仕舞いでしたが、ようやくの登場です！
また次の話にも出てくるので、この人の話は次回まで取っておきます。

補足として、会社に入ると「入社式」なるものがあるらしいですね。
これから一緒に頑張りましょう的な始業式的な儀式らしいですが、
警察にもあるんでしょうか？←
会社にあるんだから公務員にもあってもいいだろうということで、
警察署に入るという意味で「入署式」なるものをでっち上げました。

それでは、前回の話に引き続き、ここまで読んだくださってありがとうございました。