月灯りの下
闇の世界に差し込む光を追い求めて
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DarkNumber-暗数-
女か 男か
被害者か 加害者か
生者か 死者か
人間か 化け物か
私達は、様々な境界線が交差する歪な世界で生きていた。
第一人格 快音
被害者か 加害者か
生者か 死者か
人間か 化け物か
私達は、様々な境界線が交差する歪な世界で生きていた。
第一人格 快音
薄暗い部屋。
響く機械音。
子どもがはしゃぐ声一人分。
小さな窓二つからしか光源を取っていない白い部屋。そこにあるベッドに転がっている子どもから、全ての音と一つの光源は発せられていた。
小さな画面の中で降って来る、小さな色とりどりの玉。それを歪であれど積み上げていく。今それが、この子どものマイブームのゲーム。鼻歌を歌いながら、ボタンを押して操作し続ける。
だから、夢中になっていて気付かない。廊下に響く数人の靴音に。
降ってきた玉を思い通りの場所に下ろすと、連鎖が始まり積まれていた玉が消えていく。その時。
こんこん。
響いたノック音に、子どもはすぐに反応し、急いでゲームを中断させた。
ゆっくりと横へスライドする扉。ゲームを放り出し、後ろで纏められた三編みを揺らしながらベッドから飛び降りる。足枷の鎖がジャラリと重たい音をたてた。
しち
「七せんせー!」
だが、入ってきた人間は、思い描いていた人間ではなかったようで。かなり嫌そうな顔でブレーキをかけた。
「やあ、元気そうだな」
「……何しに来たの? 僕はゲームを楽しんでたんだけど」
体を翻し、ばふんっとベッドに飛び乗る姿はまさしく子どもだが、声はドライアイスのように冷たい。しかし、入って来た、よく言えば〝恰幅のいいおじさん″、悪く言えば〝メタボだろ医者のクセにこの加齢臭撒き散らし機″は、そんなことお構い無しだった。
「仕事を持って来た。 なるべく早く、今日の夜には行ってほしい」
「僕はヤダ。 そんなことしたくない」
「私達は君に頼んでいるのではない、"彼"にやってくるよう言っているんだ」
「…………」
偉そうな物言いに吐き気がした。
こう
コイツらが見ているのは、ここにいる僕じゃない。そして、僕たち、特に"荒"を同じ人間だとは思ってない。誰のせいで"こんなこと"になったと思っているんだ。本当に不愉快極まりない奴ら。……他二人は喋らないけど。
「だとしても、僕は知らない。 やるのは僕じゃないもん」
顔をフイッと背けるが、連中はまたしても、そんなことお構い無しだった。
「ああ、いいさ。―――――― 君が興味を持たなくてもな」
書類はここに置いていく。それだけ言って、床に大きい茶封筒を滑らせ、白く眩しい廊下へ消えて行った。扉が閉まりきった後、床に置いてある茶封筒を一瞥するが、ゲームを手に取り再開させる。それと同時に始まった連鎖、連鎖、連鎖。
そしてゲームから発せられる音声と合唱。
「フィーバー」
だが、その声は先程までの楽しんでいる様子はなかった。気分とは裏腹に、画面中に積まれていた玉は綺麗に無くなっていた。
「僕、アイツら嫌い。 大っ嫌い」
『……なあ、嫌なら代われよ。 俺が見るからよォ』
声が響く。放り出されたゲームの小さな画面がチラチラと光る、誰もいない部屋。
「……ヤダ。 今日は約束があるんだもん」
『約束ゥ?』
『先生との約束、でしょ?』
「うん、楽しみにしてるの!」
『少しぐらい待ってあげたら? 折角なんだし』
『……チッ。 ほんとに甘いな、お前』
『そう? 普通じゃない?』
「えへへ、ありがとう」
『どういたしまして』
一人しかいない部屋。でも"ひとりっきり"じゃなかった。
こんこん。
再び響くノック音。しかし子どもは無反応を決め込んだ。しかし、
「おーい、入るぞ~? ……って、電気付けなさい、電気!」
「! 七せんせーだ!」
相手が誰だか判ると、ゲームを放り出し、ベッドから飛び降りた。ドライアイスのような雰囲気は、完全に溶けきっていた。
訪問者に駆け寄る途中、何かを踏んで体が一瞬宙に浮いた。踏んだ物がくるりと舞う。
「わっ」
「……っと」
が、床とこんにちはをする前に、訪問者が宙に浮いている子どもを抱き留める。
かい
「あっぶね~。 床に物を置きっぱなしにしちゃダメだって、いつも言ってるだろ? 快
と
音」
「僕じゃないもん! 置いてったの~」
「僕じゃないって……あ」
先程舞った物が目に入る。茶封筒だ。見覚えがある、嫌なほどに。
「ねえねえ、そんなことより約束! そのために電気消して待ってたんだよ!」
「……あ、ああ、そうだな。 ほらDVDとポップコーン」
ガチャリ、と足枷を外してやり、約束の品を鞄から取り出す。
「やったー! キャラメルポップコーンだぁ!」
「コラ、食べ物を投げちゃいけません!」
ポップコーンを放り投げて喜ぶ子ども・快音を注意しつつ、消されていた備付けのテレビを付けた。これまたデッキに借りてきたDVDを入れて再生する。CMと映画会社のロゴが流れていき、映画が始まった。全体的に黄色で、長い耳の先端が黒く、しっぽの付け根が茶色い生き物が少年と共に跳びはねている。快音は機嫌よく、テレビのキャラクターと合唱。
「ぴっかー!」
* * *
DVD終了後、快音は七せんせーと呼ばれた男の膝を枕に寝入っていた。泣き疲れで、感動の。……そして、こちらも。
「ぐす……っ、大人でも結構クるな、これ」
鼻を啜りながら、快音を一瞥。先程の茶封筒に視線を移した。
「………」
快音を一瞥し、落とさないように気をつけながら身体を反らし、茶封筒に手を伸ばす。ギリギリのところを頑張って、指二本で引っ張り寄せ手に取った。茶封筒の右下には、枠で囲まれた"ここ"の名前と住所と連絡先。
どうやら、"仕事″の必要書類に間違いなさそうだ。そう核心を持ち、封筒の糊付けされていない口に手をかけ、開けた。その時。
「――――――それは"俺"宛て。 いくら担当医だからって、先に見るのはよろしくねェんじゃねェの?」
手からスルリと封筒が取り上げられた。同時に膝が軽くなる。
「シチミせんせ?」
「……ハァ、何度も言ってるだろ? 俺の名前は"シチミ"じゃなくて"ナナミ"だ! "七つの味"と書いて"ナナミ"!」
腕を伸ばして伸びをする快音。いや。
こうや
「おはよう。起きたのか、荒夜」
荒夜は封筒を膝に乗せ、三編みを解き、下で一本に纏めた。
「まーな。 仕事が入ったのは識ってたから。 ……にしても、快音といいアンタといい、よく泣けたもんだな。 あんなベッタベタな子どものアニメ映画で」
「そうか? いい話だったじゃないか。 大人も是非、見るべきだと思ったけどね」
「あっそ」
興味なさ気に返事を返した荒夜は、既に封筒から出した書類に目を向けていた。一番上の書類には、クリップで写真が止められている。
「ヘェ、真面目でどこにでもいそうな会社員さんが今回の獲物か」
「"獲物"じゃない! 患者! クランケだ、クランケ!」
ななみ
写真を見ただけで投げて寄越された書類を何とか受け取ると、七味もそれに目を通した。
「今夜、つうか夕方出るから。 外出許可取っとけ」
「……随分、性急だな」
「そういう依頼なんだ。 あちらさんも早く痕跡を消しちまいたいんだろうよ。 ま、聞いてやる筋合いは全く全然これっぽっちもありゃしないが、それでも……」
「それでも?」
「俺は暴れたいんだよ、自由にな」
けいけい
荒夜は、瞳を炯炯とさせて嗤った。
Continues to the "第二人格 荒夜"...
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