月灯りの下
闇の世界に差し込む光を追い求めて
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粉々バレンタインデー
バレンタイン。
それはチョコレート会社の陰謀から始まり、その日は男女共にそわそわする。
というのは昔の話か漫画の中の話。いや、昔のことなんて知らないけども、少なくとも俺のクラスにそんなそわそわという空気はない。
「何でそわそわしないんだろ?」
『貰えないことがはっきりしてるからだろ』
「酷ッ!!ちょ、僅かな希望砕くのやめてくんね!?」
机に頬杖をついて後ろの席に座る嵐に意見を求めた。が、一蹴。溜息を吐きクラスを見渡すと、女子が女子同士チョコを渡している。
家の学校は、割りと校則がゆるい。お菓子の持ち込みは禁止されているが、バレンタインぐらいはいいだろうということで、先生達は見て見ぬ振りをしている。
お陰でクラスの雰囲気は、そわそわというかキャピキャピ?してる。
「友チョコってやつだろ?そのチョコのせいで、俺達男子がチョコを貰える機会は完全に逸したわけだ」
『さっき僅かな希望は俺が砕いたと言ってなかったか?』
「あ~、チョコが欲しい!チョコが欲しい!!チョコが欲しい!!!」
『何回言うんだ』
「大事なことなので3回言いました」
愛情たっぷりのチョコは美味いんだろうな~。まあ、家に帰れば少なくとも母さんがくれるけどさ。毎年。市販のやつだけど。それでもやっぱり、女の子から欲しい……、健全な男子として。
「チョコ~」
『さっきからチョコチョコ五月蝿い奴だな~』
「そういう嵐だってもらってないだろ?」
『いらねェよ、興味ねェし。それに、渡す奴の方が今時珍しいんじゃねェの?知らねェけど』
「お前、幾つよ。そして相変わらずクール」
それにしても、嵐にチョコか~。豚に真珠の組み合わせ並に似合うよな~。
『オイ、どういう意味だそれ。喧嘩売ってんのかァ?買うぞコラ』
「すみません、心の中を勝手に読まないでください。因みに、諺で言われる組み合わせと同じくらいお似合いの組み合わせだな~って意味デス。"嵐にチョコ"みたいな」
『わけわかんねェこと考えてんじゃねェよバカ』
「ハイ、スミマセンデシタ」
……モテそうだもんな~、むっちゃ口悪いけど。
……嵐にチョコか。そういや嵐って料理美味いよな~。嵐が作ったチョコか。美味いんだろうな~、うん。
………。
「嵐様僕にチョコをください~!!」
『はぁ?!ちょ、何だいきなり!離れろ!!』
泣き付けば、嵐には顔面押さえ付けられるわ、周りからの視線が痛いわ、チョコもらえないわで踏んだり蹴ったり……。そんな視線を向けられるのは、お前らが嵐の料理の美味さを知らないからだぞ!!
「嵐料理めっちゃ上手いじゃん!めっちゃ美味いじゃん!チョコもどーせ美味いんだろ?もー嵐でいいから俺にくれよ~!ギブミーチョコ!」
『どーせって何だ、どーせって!俺でいいからって何だァ!チョコなんて市販の板チョコ溶かして固めてるだけなんだから、誰が作ろうが同じだろ?お前が作ったって台所の有様は酷いだろうが、味は普通に美味いだろうよ!』
「同じじゃないだろー!愛情の違いがあるだろー!俺が美味いの作れたとしても、自分に愛情なんて込められるわけないだろー!だったら嵐に作ってもらった方がいいじゃん!どうせむっちゃ凝った作り方するんだろ?なら普通のより美味いに決まってんじゃん!食ってみたいじゃん!」
『知るかー!気持ち悪いわお前はァ!!俺は男だッ!!』
「痛ーッ!!」
脳天グーで殴られたー!
「気持ち悪いとか酷くない?!脳天殴るとか酷くない?!」
『落ち着いて普通に考えてみろ!俺ァ男だぞ!?愛情とか気持ち悪ィんだよ!』
「何が気持ち悪いだ!お友達にそんなこと言うなんて、お母さんそんな子に育てた覚えないわよ、嵐ちゃん!俺達の間で愛情と言えば友情だろうが!」
『いつそんな事決めたよ!初耳だわ!つうか、お前が母親なら俺ァグレる!』
「分かれや友達なら!半グレてるくせに!」
『半グレてるって何だ!お前となんてわかり合いたくないわ!!』
「そこまで言う?!」
「あ、あの……!」
『あぁ?!』「あぁ?!」
声をかけられた方を勢いよく見れば、女子がビックリしたように肩を揺らして立っていた。
「あ、取り込み中ごめんなさい……?」
『ぁ?君は家庭科の授業で一緒の班だった――――――』
のはし
「野橋さん、どったの?」
「あ、あの、夜凪くんに……これ……」
『え、俺……?』
「……ッ」
コクリと頷いた野橋さん。差し出されたのは四方形の可愛らしいクローバー柄の緑と黄緑色の箱。
「これは……まさか……!」
「あの時、卵焼き作るの助けてくれたから……その、お礼、です」
『別にたいしたことはしていない』
「でも、夜凪くんのお陰で上手く出来たから……」
『……じゃあ、有り難く貰っとく。ありがとう』
「こ、こちらこそ……!」
嵐にチョコを渡した野橋さんは、教室の端に走り去った。後ろでひっそりと見守っていた女子たちが、野橋さんを囲んでキャピキャピはしゃいでいる。
くっそ~
「この裏切り者めーッ!!」
『何が裏切りだ!』
「裏切りだろ!?チョコ欲しがってる親友の前でチョコ受け取るか~?!」
『くれたんだから受け取らなきゃ悪ィだろうが』
「だって~、だってさ~」
俺は嵐の机に突っ伏した。
もういいよ、何だよチクショー。いいよ、母さんがくれるからー。親父が会社で貰ってきたやつ貰うからー。別に……惨めな気分とか、そんなんないし~…………――――――
「ぅ……」
『泣くか、普通』
「うるへー。貰った奴に俺の気持ちがわかるかー」
『大袈裟だろ。礼で貰っただけじゃねェか』
「貰ったことに変わりねぇよ……ぅ」
『……ハァ。ったく、しょうがねェなァ……ほらよ』
コトン。
机と何かがぶつかる音に目を向ける。そこにはピンク色の箱が置かれていた。
「ん?へ、え、これは……!」
『お望みのチョコだ、多分』
「ら、嵐様ーッ!!」
『だー!泣き付くんじゃねェ!!』
い ぼ
「さすがは嵐様!ただ単純に俺を地獄に叩き落とすだけじゃなくて、ちゃんと揖保の糸も用意して下さっていたんですね!」
『何でそうめんを地獄に垂らさにゃならんのだ。蜘蛛、蜘蛛の糸だ!それに、それは俺が用意したも
しおん
のじゃねェ。こないだ詩夢から預かった』
「し、詩夢さんから!?」
そう言われて改めて箱をよく見ると、小さなカードがリボンに挟まっている。カードを開くと、そこには綺麗な字が並んでいた。
「オイ見ろよ。夜凪の奴、秋木にチョコ渡してるぜ」
『………』
「やっぱ気になるんじゃねーの、こういうイベント」
『…………』
「好きだもんな~、"女子"はよ」
『だァれェがァ……女だァッ!!』
《海くんへ
いつも嵐と仲良くしてくれて、ありがとう。ささやかですが、お礼です。これからも嵐をよろしくね。
「ぅわ、テメ、夜凪!!」
「いきなり何を……!」
『なァにがいきなりだ!喧嘩売ってきたのはテメェらだろーがよォ。高価買い取りしてやるから有り難く思いなァ!!』
「し、詩夢さん……!俺、大切にいただきます……!」
詩夢さんがくれたチョコと手紙に感動していた俺は、嵐が喧嘩をおっぱじめていたことに気付かなかった。
『粉々にしたらァ!!』
それはチョコレート会社の陰謀から始まり、その日は男女共にそわそわする。
というのは昔の話か漫画の中の話。いや、昔のことなんて知らないけども、少なくとも俺のクラスにそんなそわそわという空気はない。
「何でそわそわしないんだろ?」
『貰えないことがはっきりしてるからだろ』
「酷ッ!!ちょ、僅かな希望砕くのやめてくんね!?」
机に頬杖をついて後ろの席に座る嵐に意見を求めた。が、一蹴。溜息を吐きクラスを見渡すと、女子が女子同士チョコを渡している。
家の学校は、割りと校則がゆるい。お菓子の持ち込みは禁止されているが、バレンタインぐらいはいいだろうということで、先生達は見て見ぬ振りをしている。
お陰でクラスの雰囲気は、そわそわというかキャピキャピ?してる。
「友チョコってやつだろ?そのチョコのせいで、俺達男子がチョコを貰える機会は完全に逸したわけだ」
『さっき僅かな希望は俺が砕いたと言ってなかったか?』
「あ~、チョコが欲しい!チョコが欲しい!!チョコが欲しい!!!」
『何回言うんだ』
「大事なことなので3回言いました」
愛情たっぷりのチョコは美味いんだろうな~。まあ、家に帰れば少なくとも母さんがくれるけどさ。毎年。市販のやつだけど。それでもやっぱり、女の子から欲しい……、健全な男子として。
「チョコ~」
『さっきからチョコチョコ五月蝿い奴だな~』
「そういう嵐だってもらってないだろ?」
『いらねェよ、興味ねェし。それに、渡す奴の方が今時珍しいんじゃねェの?知らねェけど』
「お前、幾つよ。そして相変わらずクール」
それにしても、嵐にチョコか~。豚に真珠の組み合わせ並に似合うよな~。
『オイ、どういう意味だそれ。喧嘩売ってんのかァ?買うぞコラ』
「すみません、心の中を勝手に読まないでください。因みに、諺で言われる組み合わせと同じくらいお似合いの組み合わせだな~って意味デス。"嵐にチョコ"みたいな」
『わけわかんねェこと考えてんじゃねェよバカ』
「ハイ、スミマセンデシタ」
……モテそうだもんな~、むっちゃ口悪いけど。
……嵐にチョコか。そういや嵐って料理美味いよな~。嵐が作ったチョコか。美味いんだろうな~、うん。
………。
「嵐様僕にチョコをください~!!」
『はぁ?!ちょ、何だいきなり!離れろ!!』
泣き付けば、嵐には顔面押さえ付けられるわ、周りからの視線が痛いわ、チョコもらえないわで踏んだり蹴ったり……。そんな視線を向けられるのは、お前らが嵐の料理の美味さを知らないからだぞ!!
「嵐料理めっちゃ上手いじゃん!めっちゃ美味いじゃん!チョコもどーせ美味いんだろ?もー嵐でいいから俺にくれよ~!ギブミーチョコ!」
『どーせって何だ、どーせって!俺でいいからって何だァ!チョコなんて市販の板チョコ溶かして固めてるだけなんだから、誰が作ろうが同じだろ?お前が作ったって台所の有様は酷いだろうが、味は普通に美味いだろうよ!』
「同じじゃないだろー!愛情の違いがあるだろー!俺が美味いの作れたとしても、自分に愛情なんて込められるわけないだろー!だったら嵐に作ってもらった方がいいじゃん!どうせむっちゃ凝った作り方するんだろ?なら普通のより美味いに決まってんじゃん!食ってみたいじゃん!」
『知るかー!気持ち悪いわお前はァ!!俺は男だッ!!』
「痛ーッ!!」
脳天グーで殴られたー!
「気持ち悪いとか酷くない?!脳天殴るとか酷くない?!」
『落ち着いて普通に考えてみろ!俺ァ男だぞ!?愛情とか気持ち悪ィんだよ!』
「何が気持ち悪いだ!お友達にそんなこと言うなんて、お母さんそんな子に育てた覚えないわよ、嵐ちゃん!俺達の間で愛情と言えば友情だろうが!」
『いつそんな事決めたよ!初耳だわ!つうか、お前が母親なら俺ァグレる!』
「分かれや友達なら!半グレてるくせに!」
『半グレてるって何だ!お前となんてわかり合いたくないわ!!』
「そこまで言う?!」
「あ、あの……!」
『あぁ?!』「あぁ?!」
声をかけられた方を勢いよく見れば、女子がビックリしたように肩を揺らして立っていた。
「あ、取り込み中ごめんなさい……?」
『ぁ?君は家庭科の授業で一緒の班だった――――――』
のはし
「野橋さん、どったの?」
「あ、あの、夜凪くんに……これ……」
『え、俺……?』
「……ッ」
コクリと頷いた野橋さん。差し出されたのは四方形の可愛らしいクローバー柄の緑と黄緑色の箱。
「これは……まさか……!」
「あの時、卵焼き作るの助けてくれたから……その、お礼、です」
『別にたいしたことはしていない』
「でも、夜凪くんのお陰で上手く出来たから……」
『……じゃあ、有り難く貰っとく。ありがとう』
「こ、こちらこそ……!」
嵐にチョコを渡した野橋さんは、教室の端に走り去った。後ろでひっそりと見守っていた女子たちが、野橋さんを囲んでキャピキャピはしゃいでいる。
くっそ~
「この裏切り者めーッ!!」
『何が裏切りだ!』
「裏切りだろ!?チョコ欲しがってる親友の前でチョコ受け取るか~?!」
『くれたんだから受け取らなきゃ悪ィだろうが』
「だって~、だってさ~」
俺は嵐の机に突っ伏した。
もういいよ、何だよチクショー。いいよ、母さんがくれるからー。親父が会社で貰ってきたやつ貰うからー。別に……惨めな気分とか、そんなんないし~…………――――――
「ぅ……」
『泣くか、普通』
「うるへー。貰った奴に俺の気持ちがわかるかー」
『大袈裟だろ。礼で貰っただけじゃねェか』
「貰ったことに変わりねぇよ……ぅ」
『……ハァ。ったく、しょうがねェなァ……ほらよ』
コトン。
机と何かがぶつかる音に目を向ける。そこにはピンク色の箱が置かれていた。
「ん?へ、え、これは……!」
『お望みのチョコだ、多分』
「ら、嵐様ーッ!!」
『だー!泣き付くんじゃねェ!!』
い ぼ
「さすがは嵐様!ただ単純に俺を地獄に叩き落とすだけじゃなくて、ちゃんと揖保の糸も用意して下さっていたんですね!」
『何でそうめんを地獄に垂らさにゃならんのだ。蜘蛛、蜘蛛の糸だ!それに、それは俺が用意したも
しおん
のじゃねェ。こないだ詩夢から預かった』
「し、詩夢さんから!?」
そう言われて改めて箱をよく見ると、小さなカードがリボンに挟まっている。カードを開くと、そこには綺麗な字が並んでいた。
「オイ見ろよ。夜凪の奴、秋木にチョコ渡してるぜ」
『………』
「やっぱ気になるんじゃねーの、こういうイベント」
『…………』
「好きだもんな~、"女子"はよ」
『だァれェがァ……女だァッ!!』
《海くんへ
いつも嵐と仲良くしてくれて、ありがとう。ささやかですが、お礼です。これからも嵐をよろしくね。
詩夢》
「ぅわ、テメ、夜凪!!」
「いきなり何を……!」
『なァにがいきなりだ!喧嘩売ってきたのはテメェらだろーがよォ。高価買い取りしてやるから有り難く思いなァ!!』
「し、詩夢さん……!俺、大切にいただきます……!」
詩夢さんがくれたチョコと手紙に感動していた俺は、嵐が喧嘩をおっぱじめていたことに気付かなかった。
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