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月灯りの下

闇の世界に差し込む光を追い求めて

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只今、警視庁トップ来訪中!

お使いに来ていたコンビニ。商品を手に並んだレジ。渡された小銭入れは金を出しにくく、もたくさしていた。
 そして、後ろに並んでいた男はイライラしていて。

「~ッ!オイ、金だしな!!」

 気付いた時には男の腕の中にいて、キラリと光るナイフが首にあって。
 どうやらこの男はコンビニ強盗で、レジを開けた瞬間を待っていて、我慢できなくなったらしい。

「目の前でこのガキ殺されたいか!?」
『止めなさい!』

 そんな中、凛とした声が響いた。男がそちらを見る。

「何だ、女が何か用か?!」
『その子を離してナイフを捨てなさい!私は、警察よ』
「警察、だと……?!」

 男は体ごと声がした方へ向けた。そこでようやく、警察だと名乗った女性の姿を捉えた。その人は――――――、




*          *          *


「久しぶりに入りましたが、幾分か綺麗になりましたね」
『彼が入った時にそれなりに片付けましたので』
「そうですか」
「どうぞ、コーヒーです」
「どうもありがとう」

                 のりづきみきまさ
 応接用の机に3つのコップを置き、法月 幹正警視総監が座る向かいのソファ、先輩の隣に腰を下ろす。
 今、俺の目の前には警視庁のトップがいる。

『それで?部屋の様子を見るためだけに、わざわざ来たんじゃないですよねぇ?』
「ちょ、ちょっと先輩?!そんな言い方……!」
「結構ですよ、秋木巡査。……詩夢さん、あなた拗ねてますね。私に全然構ってもらえなかったものだから」
「へ?」
『構うってなんですか、構うって。誤解を生むような言い方、やめてくださりません?それに、拗ねてるなんて可愛いもんじゃないですよ~。……どういうことですか!何で変な嘘まで吐いて人事に紛れ込んでるんですか!何で私に相談もなく勝手にここに人を寄越すんですか!何であれ以来私を無視し続けたんですかああぁぁッ!
「先輩落ち着いてくださいー!!」
「ほら、私の言った通り拗ねているでしょ?」
言ってる場合っスか?!

 あ、いつもの調子でやってしまった。
 勢いよく立ち上がり、『いつまでも子ども扱いしないでください!』と噛み付く先輩を必死で押し止める。生きてられるかな?俺。問題の法月警視総監は、他人事とでもいうようにカラカラと笑っている。

「まあ落ち着いてください、詩夢さん。最後の質問に対する答えを先に言わせていただくなら、貴女を避けていたわけではないんですよ?私もこう見えて忙しい身ですので」
『……人事の仕事に首突っ込んどいてよく言いますよ』

 法月警視総監と目を合わせた先輩は、呆れながらも椅子に座り直した。どうやら落ち着きを取り戻したらしい。

「私も悪いと思っていたんですよ?だからこうして来たんですから」
『なら、答えていただけます?私の質問に』
「ええ。まず一つ目ですが、"人事のお荷物窓際係長さん"と役職を偽ったのは、彼に余計な緊張を与えないためです。私はその場にいるべき人間ではありませんでしたからね。そして二つ目、嘘まで吐いて人事に紛れ込んだのは、彼に会いたかったから」
ぅえ、お、俺っスか?!
「ええ」

 今回も蚊帳の外か……と思っていた俺は、いきなり指されて無茶苦茶動揺してしまった。先輩の視線も加わり、なんとなく、痛い。

『何故、秋木くんに興味を持たれたんですか?』
「それは三つ目の質問にも関わって来ることです。取り敢えず、秋木巡査。君が面接でどの部署で働きたいか訊かれたとき、何と答えたのか詩夢さんに教えてあげてください」
『……そういえば、そういった話は聞いたことなかったわね』
「俺は訊かれないんで、先輩には伝わってると思ってましたよ」
『で、何課志望だったの?やっぱり刑事課?』
「いや、俺は最初から特使捜査課希望でしたよ」
『はい?』

 先輩は信じられないものを見るような目で俺を見た。あれ、何かマズイことでも言っただろうか?

「え、何スか……?」
『もう一回。君は何課志望だったのかな?』
「え……、特使捜査課、っスよ?」
嘘おっしゃーい!
えぇー!?
『特使は警視庁内では知られているけど、外部の人は存在を知らないのよ』
「え、そうなんスか?!」
「ええ。特使捜査課は様々な案件を扱いますから、あまり公にしない方が都合がいいときもあるんですよ。それに外で捜査する時に名乗っても、市民のみなさんは警察ということ以外あまり気にされませんからね」
『なのに!何であなたが知ってるの?』
「何でって……、俺はある人に聞いたからですよ」
『ある人ぉ?』
「それに、それは彼が警察官を志した理由にも関係してきます。そうですね」
「あー、はい。えっとですね。俺、小学生の頃にコンビニ強盗に遭遇して人質になってしまったことがありまして……。その時、女の人が犯人の前に立ち塞がって――――――」


*          *          *


『その子を離してナイフを捨てなさい!私は、警察よ』
「警察、だと……?!」

 警察だと名乗ったその人は、人質がいても動じることなく堂々としていて、とてもかっこよかった。

『今ならまだ軽い罪で済む。それに、痛い目も見なくて済むわよ』
「ハッ!女が何言ってやがる!男に勝てるわけねぇだろ!」
『あら、そうとは限らないわよ?』
「何を!舐めやがって……、ッ?!」

 挑発的な物言いと自信に満ちた瞳が気に入らなかったのか、男は怒ったようでナイフを横に振った。
 その瞬間、男が言い終わる前に後ろから来た衝撃。次いで腕を引っ張られる。気付いた時には女の人の腕の中で。

『舐めてるのはあなたでしょ』

 バタンと倒れる音に後ろをチラリと見ると、男性が一人立っていて、犯人の男は沈んでいた。男性が犯人を取り押さえる。

「いつ見ても、貴女のハイキックは見事ですね」
『いえいえ、それほどでも。……僕、大丈夫?怪我はない?』
「う、うん。だいじょうぶ。助けてくれて、ありがとう。……お姉さん、けいさつの人なの?」
『そ!私は、警視庁の特使捜査課の――――――です』
「とくし、そうさか……」


*          *          *


「その後も、共働きの両親が迎えに来るまでよくしていただいてて……。なのに、恥ずかしながら助けてくれたその人の名前は覚えてないし、顔も朧げにしか覚えてないんですよ。でもその人がかっこよくて、その人みたいに誰かを守れる人になりたくて、警察官を目指し、特使を志望したんです」
『…………』
「あれ、先輩……?」

 昔を振り返るって結構恥ずかしいものだ。
 話し終えて恐る恐る先輩を見ると、何故か固まっていた。

「これで、貴女の質問に対する全ての答えが出ましたが、まだ不満ですか?」
『……秋木くん、お願いがあるんだけど』
「な、何スか?」
『悪いんだけど、ちょっとデザート的な甘いもの買ってきてくれる?』
「え、今っスか……?」
『この人と話すと頭使うのよ、お願い』
「……わかりました、行ってきます」

 先輩にしては珍しく、ごまかすのが下手だ。それに。
 あんな風に笑う先輩を、初めて見た。
 俺はなにかマズイことでも言ったのだろうか?
 俺が特使に入ることが決まった時は、あの人に会えるのではないかと期待した。しかし、そこにいたのは少女のような上司。俺が覚えている朧げな姿とは合致せず、そこには先輩しかいないと聞き、辞めてしまったか異動になったかのだろうと思った。ひょっとして寿退社かな~、なんて。
 名前も覚えていないんだ。誰かに訊きようもなかった。



 俺がデザート的な甘いものを買って帰ってきた時、丁度法月警視総監が特使から出てきたところだった。

「あ、もう戻られるんですか?警視総監の分も買ってきたので、よかったら食べてってください」
「お気遣いありがとう。しかし、もう戻らなければならないので詩夢さんに差し上げてください」
「そうですか。また来て下さい。先輩も喜びます」
「ありがとう。その時は私がデザートを買ってきますね」

 カラカラと笑って隣を通り過ぎる法月警視総監。

「あの!一つお訊きしたいことがあるんスけど!」
「はい?何でしょう?」
「俺を特使に配属してくださって、ありがとうございました。希望を叶えてもらって……」
「礼を言う必要はありません。君の熱意の賜物じゃないですか」
「でも、俺のためだけじゃ、ないんっスよね」
「おや、何故でしょう?」
「勘、です。それに俺個人の我が儘だけで組織は動かせませんよね、流石に」

 面接時、特使に入りたいと言った俺は採用担当者から、特使は他の課を経験した者しか入れないと聞かされた。
 警察官になると、誰もが最初は交番勤務となる。そしてその後は本人の希望や働く様子から、どこの課に配属するのか決める。特使に配属される者は交番勤務を経た後、違う課で経験を積んでから配属される。それは色々な案件を手掛ける特使だからこそ必要となる条件だった。
 にも拘わらず、俺は交番勤務を終えると、他の課を経験することなく特使に配属された。

「いい勘をお持ちですね。君の言う通り、君ためだけではなく私個人の2つの私情を挟んだんですよ」
「……2つの、私情?」

 そんなものを挟む人には見えないが。しかも2つも?

「1つは、君が詩夢さんのブレーキ役になると思ったからです」
「先輩の、ブレーキ?」
「彼女は昔から、無茶ばかりしていましたからね。部下がいると無茶ができないと我が儘を言って、2人1組で捜査しなければならないところをずっとワンマンプレーでした。もう少し、彼女はスピードを落としてもいいんじゃないかと思ったものですから」
「そう、だったんっスか」

 それは初耳だ。でも、確かに俺が配属されたときも先輩一人だった。それで俺が入った時に文句を言っていたのか、あの人。

「2つ目は、君の姿を見せてあげたかったものですから」
「見せるって、誰に……?」
「それは……、またの機会にしましょう」
「へ?!」
「それでは、詩夢さんをよろしくお願いしますね」
「ちょ、ちょっと!?」

 法月警視総監は朗らかに笑いながら去って行った。……何故またの機会!?

「た、ただいま帰りましたー……」
『お帰りなさい、秋木くん。悪かったわね、急にお使い頼んじゃって』
「あ……、いえ……」

 先輩の先程の無理な笑顔を思い出し、どんな顔して入ろうか悩んでドギマギしながら入ったが、いつもの笑顔で迎えられたじろいでしまった。

『何買ってきてくれたの?』
「あ、はい。これです」
『イチゴのショートケーキとチョコレートケーキのセット!?やったー!……って、これまさか秋木くんと1個ずつ?』
「そう言うと思ってもう1セット買ってきたんで、1人1セットずつありますよ」
『さっすが秋木くん!さ、食べましょ~!!』
「はいはい」

 ルンルンと食べる用意をする先輩の姿に、様子が戻ってよかったと思う反面、やはりあの人ではないよなと苦笑した。


*          *          *


「大丈夫ですか?」
『ちょっと、驚きました』
「ちょっと、ですか?」

 竜志が部屋を出た後、幹正は立ち上がったままだった詩夢を椅子へと導いた。そんな紳士的な振る舞いとは裏腹に、詩夢に向けられた表情は悪戯っ子そのものだ。

『イジワル。……大分、驚きましたよ』
「私も、彼が入署してくるのを知った時は驚きました」
『……何で嘘まで吐いて人事に紛れ込んでいたのかはよくわかりました。珍しく私情を挟んだんですね』
「私も人間なんですねー」
『他人事じゃないでしょーが、まったく。……何で、私に相談してくれなかったんです?ここに入れること。私が嫌がるから、だけじゃないですよね』
「秘密にしておくつもりはなかったんですが……。貴女と彼との関係、いや繋がりでしょうか。それを話すのは、まだ早いのではないか。そう思ったものですから」
『子ども扱い、し過ぎですよ。昔から』
「私にしてみれば、貴女は子どもですよ。昔から。それに、」
『それに?』
「先入観を持っていると人間関係はうまく築けません。何も知らない方が"私たち"みたく、いいコンビになると思ったのも1つの理由です」
『いいコンビになると思った根拠は?』
「直勘です」
        のり
『……フフ。また法さんらしくないことで。それにしても、見事なまでに忘れ去られてますね。法さんはしっかり覚えていたのに』
「……仕方がありません。私は犯人の腕を取っただけで、その後もほとんど彼に関わっていませんでしたからね。それに私の側には、私よりもとても輝いている人がいましたから」
『そう、ですか』
「ええ、そうですよ」
『……あの、法さん』
「はい?」
『もう少し、お話お聞いてもいいですか?"いいコンビ"の』
「ええ、もちろん」

 詩夢の思い出話をいくつかし、幹正は特使捜査課を後にした。


只今、警視庁トップ来訪中!



「そういえば、先輩は法月警視総監とどういった関係なんスか?とても仲良さそうでしたよね」
『ああ、法さんは私の保護者というか、後継人みたいなもんよ』
「……はい?」
     こ   こ
『あと、特使捜査課を創ったのはあの人で、一応ここはあの人の直轄課よ。ま、形だけだけどねー』
えぇーーーーー!!
『んー!このケーキ美味しー!』





+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++


前の話を確認していたら、上げたのは年越し前になっていて、
正月用の短編が挟まっていることに気付きました;
遅くなってしまってすみません(土下座)

警視総監は、警視庁本部の各部や課の附置機関などに配置する職員の定員を
定めることができ、また、警察署の分課や内部の事務分掌について
定めることができることを知ったので、こういった設定にしました。
新しい課を作ることができるかはわかりませんが、ここの中ではできるということで……。

今度は事件ものを書くつもりでいるので、また遅くなると思います;
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