月灯りの下
闇の世界に差し込む光を追い求めて
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直感と賭
『ありがとうね、海くん』
「へ?」
『あの子と仲良くしてくれて』
「あ、いや~、俺なんて、嵐にはお世話になりっぱなしで……」
たつにい しおん
嵐が竜兄と食事を作ってくれている間、詩夢さんがぽつりと呟いた。いきなり優しい笑顔でそんな事を言われたから、俺は照れるだけで。
『そんなことないよ。嵐だって、海くんに助けられてると思うわ。……それに、私も』
「え、詩夢さん、も……?」
『そ。あの子があんな風にやっていけているのを見れるなんて思わなかったから。海くんのお陰。結局、私には、できなかったもの……何も』
自嘲的に、でも哀しそうに、淋しそうに笑う詩夢さんは、どこか遠くに行ってしまう感じがして。
その笑顔が、どことなく、嵐に似ていた。
俺、秋木海と夜凪嵐の出会い。
まあね、特に何かあったわけじゃないよ?ふっつ~な出会いだった。そんなもんでしょ、普通。ほとんどが忘れちゃいそうな出会いの仕方。
ただ、俺達の出会いの場合、最悪な滑り出しだっただけで……。
「へ?」
『あの子と仲良くしてくれて』
「あ、いや~、俺なんて、嵐にはお世話になりっぱなしで……」
たつにい しおん
嵐が竜兄と食事を作ってくれている間、詩夢さんがぽつりと呟いた。いきなり優しい笑顔でそんな事を言われたから、俺は照れるだけで。
『そんなことないよ。嵐だって、海くんに助けられてると思うわ。……それに、私も』
「え、詩夢さん、も……?」
『そ。あの子があんな風にやっていけているのを見れるなんて思わなかったから。海くんのお陰。結局、私には、できなかったもの……何も』
自嘲的に、でも哀しそうに、淋しそうに笑う詩夢さんは、どこか遠くに行ってしまう感じがして。
その笑顔が、どことなく、嵐に似ていた。
俺、秋木海と夜凪嵐の出会い。
まあね、特に何かあったわけじゃないよ?ふっつ~な出会いだった。そんなもんでしょ、普通。ほとんどが忘れちゃいそうな出会いの仕方。
ただ、俺達の出会いの場合、最悪な滑り出しだっただけで……。
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台所は戦場なり
「では、今日はこないだの授業で言ったように、卵焼きを作りましょう」
火傷に気をつけてくださいねー、という先生をの声を合図に、それぞれのキッチンで生徒は作業を開始した。
もちろん、俺達も。
調理台1台には、男子3人と女子3人で作られた6人班、もしくは、どっちかが足りない5人班。
班内でローテーションして、順番に卵焼きを作っていく。そして出来たら、先生に見せて点数をつけられる、というある意味戦争に、今、俺達は挑もうとしているのだった。
『おい、変なモノローグ入れてる暇があったら用意しろよ。卵もらって来い、人数分の』
「……ハイ」
火傷に気をつけてくださいねー、という先生をの声を合図に、それぞれのキッチンで生徒は作業を開始した。
もちろん、俺達も。
調理台1台には、男子3人と女子3人で作られた6人班、もしくは、どっちかが足りない5人班。
班内でローテーションして、順番に卵焼きを作っていく。そして出来たら、先生に見せて点数をつけられる、というある意味戦争に、今、俺達は挑もうとしているのだった。
『おい、変なモノローグ入れてる暇があったら用意しろよ。卵もらって来い、人数分の』
「……ハイ」
テスト前の誘惑にはご用心!
「ん~っ、やっとテストから解放された~!!これでやっとゲームできる~!!」
『"やっとゲームできる"って、どうせ休憩とかなんとか言って、テスト勉強よりもゲームやってたんじゃねェの?』
「なんで判ったんだよ!?お前エスパー!?」
『図星かよ』
「そんなことより、エスパー嵐。これから俺の家でゲームしないかい?」
『その呼び方やめろ、イラつく。お前が判りやすいだけ』
俺は、友達の嵐と共に校舎の外へと出た。
今日は天気もよくて温かい。
テストからようやく解放されたためか、清々しさも一塩だ。
『一塩じゃなくて、一入だ』
「やっぱエスパー!?」
『いや、だから、お前が判りやすいだけだっつってんだろ』
いやいや、聞いただけで漢字の違いが判るなんてエスパー以外の何者でもねーよ。
『その様子だと、お前テストも相当ヤバイんじゃねェの?』
「ヤバイことが否定できないことは哀しいが、相当まで付けちゃう?いや、確かに全教科、棺桶に腰まで浸かってる感じだけども、現国は自信あるんだって!!」
『ほぉ~』
うわ、むっちゃ疑いの眼差し……!!
そして、嵐は鞄からファイルを取り出し、その中から現国の問題用紙を引っ張り出した。
「ちゃんとファイルに入れてるなんて流石……」
『流石じゃねェよ。当然のことだろ。お前はどんっだけダメなんだ』
「そこまで言いますか!」
『言う。むしろ言うしかねェ。じゃあ手始めに、これは?』
カタカナを漢字になおしなさい。
<彼は少し自意識カジョウだ。>
「お、これは書いたぞ。加えるにー、乗るの横に何か2本突き刺さってるやつ」
『……加剰?』
「そうそう、それ!」
『あー、雰囲気的には近すぎず遠からず、なのか……?』
「お、ツッコミにキレが無いじゃないか、嵐くんよ~。やっぱあってんだろ!な!な!」
『加えるじゃなくて過ぎるだ』
「ん?というと?」
『間違えてる、しかもものっそいツッコミにくいボケで』
「……何かすんません」
『……何が』
「いや、ツッコミにくいボケで突っ込み殺ししちゃって」
『いらん気ィ回すな!!』
おもっきし頭を叩かれた。
イタイ。
体も、心も……。
『じゃあこれは』
<親身にカンジャの手当てをする。>
「こ、これも書いたぞ!!看護婦さんの看に者!どうだ!」
『……お前さ、雰囲気だけで漢字書けると思ってね?』
「まさかの?」
『まさかの。病気を患うって漢字』
「???」
『ハァ、四角二つを棒で貫いて、下に心を付けたやつだ』
「ああ!!それか!!」
『それだ』
「…………」
『…………』
お、おっかしーなぁ。あれ、俺ってこんなに漢字できなかったっけ?
そうだ!
「読みは!?読みは大丈夫!!うん!」
『読みって、書くよりも難しい漢字出たぞ』
「大丈夫だ、きっと」
『じゃあ、これ』
" "の中の読みを答えなさい。
<津波が発生する"虞"がある。>
「トラ!!」
『は?』
「トラ!!干支じゃない方の!」
『お前全文読んでるか?"津波が発生するトラがある"ってどういうことだよ』
「あ」
『…………。』
ひ、冷ややかな目!!
ものっそい冷ややかな目!!
確かに、そんな初歩的なミスをしてしまったが……てか、俺よくよく考えたらそんなんばっかかも!!
と、兎に角、なんとか誤魔化すんだ!!この空気は嫌だ!!
「ほ、ほら!動物のトラじゃなくて、どっか場所の名前だよ!愛称的な!」
『海』
「……はい」
『苦しいし、見苦しい』
「ですよね~」
『…………』
「…………」
『じゃあ、これは』
<"春宵"一刻値千金。>
「はる、よ」
『全文読むと?』
「は、はるよいっこくあたいせんきん」
『意味がわからん』
「春代、いっこく、アタイ、せんキン」
『は?』
「春代といっこく堂に、アタイが何かしないと宣言してんの」
『……キンは?』
「どっかの方言、かな。うん」
『無茶だな、色々と』
「ですよねー」
恥ずかしい……!!むっちゃ恥ずかしい!!
だってここ、学校の外よ!?
ちょ、誰も聞いてない!?誰も聞いてないよね!?
ああ、もう早くゲームしたい!ゲームしてテストの事を忘れたい!!
(お前、よく現国得意って豪語できたな)
(うるさい!言うな!!恥ずかしくて死んじゃうだろォッ!!)
(それでも懲りずにゲームしようとするのか、お前は。少しは誘惑に抵抗しろよ)
(だーから、人の心を勝手に読むんじゃねェッ!!プライバシーの進害禁止!!)
(進害って、まあながち間違いではないが、どんだけ積極的に害されてんだ。侵害だ、侵害)
(…………。)
『"やっとゲームできる"って、どうせ休憩とかなんとか言って、テスト勉強よりもゲームやってたんじゃねェの?』
「なんで判ったんだよ!?お前エスパー!?」
『図星かよ』
「そんなことより、エスパー嵐。これから俺の家でゲームしないかい?」
『その呼び方やめろ、イラつく。お前が判りやすいだけ』
俺は、友達の嵐と共に校舎の外へと出た。
今日は天気もよくて温かい。
テストからようやく解放されたためか、清々しさも一塩だ。
『一塩じゃなくて、一入だ』
「やっぱエスパー!?」
『いや、だから、お前が判りやすいだけだっつってんだろ』
いやいや、聞いただけで漢字の違いが判るなんてエスパー以外の何者でもねーよ。
『その様子だと、お前テストも相当ヤバイんじゃねェの?』
「ヤバイことが否定できないことは哀しいが、相当まで付けちゃう?いや、確かに全教科、棺桶に腰まで浸かってる感じだけども、現国は自信あるんだって!!」
『ほぉ~』
うわ、むっちゃ疑いの眼差し……!!
そして、嵐は鞄からファイルを取り出し、その中から現国の問題用紙を引っ張り出した。
「ちゃんとファイルに入れてるなんて流石……」
『流石じゃねェよ。当然のことだろ。お前はどんっだけダメなんだ』
「そこまで言いますか!」
『言う。むしろ言うしかねェ。じゃあ手始めに、これは?』
カタカナを漢字になおしなさい。
<彼は少し自意識カジョウだ。>
「お、これは書いたぞ。加えるにー、乗るの横に何か2本突き刺さってるやつ」
『……加剰?』
「そうそう、それ!」
『あー、雰囲気的には近すぎず遠からず、なのか……?』
「お、ツッコミにキレが無いじゃないか、嵐くんよ~。やっぱあってんだろ!な!な!」
『加えるじゃなくて過ぎるだ』
「ん?というと?」
『間違えてる、しかもものっそいツッコミにくいボケで』
「……何かすんません」
『……何が』
「いや、ツッコミにくいボケで突っ込み殺ししちゃって」
『いらん気ィ回すな!!』
おもっきし頭を叩かれた。
イタイ。
体も、心も……。
『じゃあこれは』
<親身にカンジャの手当てをする。>
「こ、これも書いたぞ!!看護婦さんの看に者!どうだ!」
『……お前さ、雰囲気だけで漢字書けると思ってね?』
「まさかの?」
『まさかの。病気を患うって漢字』
「???」
『ハァ、四角二つを棒で貫いて、下に心を付けたやつだ』
「ああ!!それか!!」
『それだ』
「…………」
『…………』
お、おっかしーなぁ。あれ、俺ってこんなに漢字できなかったっけ?
そうだ!
「読みは!?読みは大丈夫!!うん!」
『読みって、書くよりも難しい漢字出たぞ』
「大丈夫だ、きっと」
『じゃあ、これ』
" "の中の読みを答えなさい。
<津波が発生する"虞"がある。>
「トラ!!」
『は?』
「トラ!!干支じゃない方の!」
『お前全文読んでるか?"津波が発生するトラがある"ってどういうことだよ』
「あ」
『…………。』
ひ、冷ややかな目!!
ものっそい冷ややかな目!!
確かに、そんな初歩的なミスをしてしまったが……てか、俺よくよく考えたらそんなんばっかかも!!
と、兎に角、なんとか誤魔化すんだ!!この空気は嫌だ!!
「ほ、ほら!動物のトラじゃなくて、どっか場所の名前だよ!愛称的な!」
『海』
「……はい」
『苦しいし、見苦しい』
「ですよね~」
『…………』
「…………」
『じゃあ、これは』
<"春宵"一刻値千金。>
「はる、よ」
『全文読むと?』
「は、はるよいっこくあたいせんきん」
『意味がわからん』
「春代、いっこく、アタイ、せんキン」
『は?』
「春代といっこく堂に、アタイが何かしないと宣言してんの」
『……キンは?』
「どっかの方言、かな。うん」
『無茶だな、色々と』
「ですよねー」
恥ずかしい……!!むっちゃ恥ずかしい!!
だってここ、学校の外よ!?
ちょ、誰も聞いてない!?誰も聞いてないよね!?
ああ、もう早くゲームしたい!ゲームしてテストの事を忘れたい!!
テスト前の誘惑にはご用心!
(お前、よく現国得意って豪語できたな)
(うるさい!言うな!!恥ずかしくて死んじゃうだろォッ!!)
(それでも懲りずにゲームしようとするのか、お前は。少しは誘惑に抵抗しろよ)
(だーから、人の心を勝手に読むんじゃねェッ!!プライバシーの進害禁止!!)
(進害って、まあながち間違いではないが、どんだけ積極的に害されてんだ。侵害だ、侵害)
(…………。)
祭り効果
『9月になって浴衣の時期も過ぎたのに、何で祭りなんてあるんだよ』
「いいじゃん、まだまだ暑いんだし。それに祭り楽しいじゃんよ」
みなさん、こんにちは。お久しぶりの秋木海です。
夕日の中、並んでブドウ飴を齧りながらも文句を言うのは、俺の友達、夜凪嵐。
今日は近くであった祭りに来てます。
「っていうか、ブドウ飴美味いだろ?」
『……まあな。でもこれ、皮のまま飴付けされてんじゃねェか。どうすんだよ?』
「んあ?皮?俺はそのまま食べちまうけど?」
『たべ……っ!?皮食うのかよ!?』
「結構美味いぞ。味がしっかり滲みてて」
『滲みててって……』
「まあ、確かに?ブドウの皮なんて出すのが普通だよ、うん。
でも俺は結構めんどくさくて、そのまま食っちまったりするんだよ、うん」
『このめんどくさがりめ……』
とは言っても、祭り会場だからといってそこらじゅうにゴミ箱があるわけでもない。
『…………』
結局こいつも、食べることを選んだらしい。
顔をしかめつつも、しっかり咀嚼してゴクリと飲み込んだ。
『……』
「な?食えないわけじゃないだろ?」
『………確かに』
「はっは~!!だろ!!」
『何かムカつくんだけど』
その後も、俺は嵐と会場を巡りに巡った。(別名:引っ張り回した)
食い物関係がやっぱり多いが、祭りだから珍しいものもあるわけで。
珍しいことに、嵐も結構興味あるみたいでキョロキョロしてた。
「お、カキ氷!!嵐、お前食べる?」
『いや、俺はいい』
「そうか?んじゃ兄ちゃん!!カキ氷ひとつ!!」
そのカキ氷の屋台には、色とりどりのシロップが並んでいる。
自分で好きなものを好きなだけかけられるセルフタイプ。
俺はカキ氷屋の兄ちゃんから、氷が入ったカップを受け取る。
『ヘェ、最近は自分でかけるのか。それにしても、シロップの種類も増えたな。イチゴ、レモン、メロン、ピーチ、マンゴー、ブルーハワイ、オレンジ』
「最近はこういう屋台ばっかりだぜ?」
『ふ~ん。で?お前何かけるの』
「フッフッフ、俺はだな~」
そう言いながら、俺はシロップのレバーをひねる。片っ端から。
『おまっ、何やって……』
「え、なになに?夜凪くん、引いてるの?引いちゃってるの?最近はこれが流行りなんですよ~」
『流行ってお前……』
ちらりと嵐は他の人を見る。
俺はカキ氷に手を付け始める。早くしないと溶けちまうからな!
『多くても3色じゃねェか。しかも、ちゃんと部分分けしてるぞ』
「溶けりゃ混ざるし、下の方でも混ざってるんだから一緒だろ?うっわ、頭にきた、キーンって!!それにせっかくフリーダムなんだからかけなきゃ損損!!」
『限度があるだろうが。何だその色は』
「確かに色は悪いかもしれん!!でもさっきのブドウの皮然りだよ、夜凪くん!!味は悪くない」
『いや、ブドウの皮もさすがにそれと並べられたくない思う』
「う~、頭に来るぜ!!でも、やっぱ溶けるの早いな。嵐も食べてみろよ、騙されたと思ってさ」
『食べるも何も、ほとんど液体じゃねェか。"騙されたと思って"って、こんな色した奴には絶対騙されない』
「細かいこと気にしなさんなって!!」
『んぐ……っ!!』
騙されてくれない嵐に、俺は強行手段に出た。
そう!!無理やり飲ます!!!
『ゲホッゴホッゴホッ…………海、テメェ』
「な、美味かったろ?」
にっこり笑う俺に、にっこり笑い返してくれた嵐。
そうか!!やっぱり美味かったか!!
……と、思った矢先、俺は頬を摑まれてひょっとこ状態。
笑っていた嵐の目がすわってる。
俺の目の前に、鬼がイマス。
『美味いわけねェだろ、行き成り流し込まれてよォ。テメェ何が強硬手段だ、あ゛ぁ゛?』
嗚呼、俺の心の声は駄々漏れですか。
「ひひゃ、しゅみましぇんえひあ。ろういえおらんひゃまあやましゃええくえなあったからちゅい」
(訳:いや、スミマセンデシタ。どうしても嵐様が騙されてくれなかったからつい)
『何言ってるのかわかんねェんだよ。喧嘩売ってんのか、テメェ』
いや、それはあなたのせい……、っていうか心の声は聞こえたのに、この声は届かないんデスカ(泣)
「そこのお二人さん!!仲いいね~!!」
『あ?』「はへ?」
声のした方を見てみると、そこには射的の屋台とそこの親父。
「どう?彼氏、やってかない?彼女にいいとこ見せるチャンスだよ!」
『"彼女"?』
「あ」
嵐は、ようやく俺から手を放し、射的の屋台へと向かう。
ヤバ、嵐の禁句言っちゃったよ、あのおっさん!!しかも油に火を注いじゃったよ!!や、違った"火に油を注ぐ"だった!!どっちにしろ危険だよ!!
『おっさん、俺がやるわ』
「お、彼女の方がやるのかい?おまけしてあげるから、頑張ってね」
そう言って嵐から金を受け取り、普通よりも多くコルク栓が乗った皿を渡す。
ちょ、おっさん気付いて!!その子、男の子だから!!まごうことなき男の子だから!!女顔って言われるけど、誰よりも男らしい子だから!!
『あぁ、頑張るわ』
あ、ダメだわ。もう笑顔が真っ黒だもん。悪魔だもの。般若通り越して悪魔になっちゃってるもの。
おまけしてくれたけど、それだけじゃ揺らがないもの。恩を仇で返しちゃうよ、あの子。や、最初に爆弾投げてきたのあの人だけども。
『片っ端から、でいいか』
その宣言通り、嵐は一発も外すことなく片っ端から落としていく。
おっさんも、他の人もあんぐりだ。
そりゃそうだよね、台から乗り出すことなく普通に撃って普通に落としてるんだもんね、ビックリだよね。
だが、最後の一発。
当たったのは、並べられた景品ではなく――――――、
『あ~、危ねェよおっさん。そんなところでぼさっと突っ立ってたら』
ぼおっと次々と落ちていく景品を見つめていたおっさんの米神。
『ぼおっとしてねェでさっさと袋入れてくれる?』
「……鬼だ;」
「……いやいや、上手くね?上手過ぎね?祭りなんてほとんど来たことないって言ってませんでしたっけ?何?君はいくつ天から才能授かってんの?」
『集中すりゃあたんだろうが』
「いや、無理です」
太陽もすっかり沈み、辺りは数少ない祭り提灯の灯りだけだった。
俺たちは人が少ない神社の石段に座り、射的で嵐が取った戦利品を食べていた。
『重いのなんて、あんなちっこい弾で取れるわけがない。こういう軽いもんの重心避けて打つのが一番いいんだよ』
「そこを狙って当たってるところがすげーよ」
嵐は手に持ったお菓子を振りながら説明する。
袋の中にはお菓子ばっか。
確かに一番取りやすいものではあるが、まさか全弾命中させて、それを全部落とすとは……。
『しっかし、あのおっさんの顔は最高だったな』
「……鬼」
俺がポツリとこぼした言葉は、打ち上がった花火によって掻き消された。
「お、花火の時間だ。たっまや~」
『……綺麗だな』
「珍しい感想」
『……今日は楽しかったから、そのせいだ』
本当に珍しい。
素直なコイツはレアキャラだったりするわけで。
「じゃあまた来年も来ようぜ!!」
『それは、来年も彼女がいないこと前提だけどいいのか?』
「こういういい場面で、そういう哀しいこと言うなや~ッ!!」
『フフッ……アハハハハッ』
嵐が笑い出した。
本当に、珍しい。これも祭り効果というやつか。
なんだか俺も可笑しくなってきて、遂には二人で笑い出した。
夜空には花火が咲き誇っていた。
「いいじゃん、まだまだ暑いんだし。それに祭り楽しいじゃんよ」
みなさん、こんにちは。お久しぶりの秋木海です。
夕日の中、並んでブドウ飴を齧りながらも文句を言うのは、俺の友達、夜凪嵐。
今日は近くであった祭りに来てます。
「っていうか、ブドウ飴美味いだろ?」
『……まあな。でもこれ、皮のまま飴付けされてんじゃねェか。どうすんだよ?』
「んあ?皮?俺はそのまま食べちまうけど?」
『たべ……っ!?皮食うのかよ!?』
「結構美味いぞ。味がしっかり滲みてて」
『滲みててって……』
「まあ、確かに?ブドウの皮なんて出すのが普通だよ、うん。
でも俺は結構めんどくさくて、そのまま食っちまったりするんだよ、うん」
『このめんどくさがりめ……』
とは言っても、祭り会場だからといってそこらじゅうにゴミ箱があるわけでもない。
『…………』
結局こいつも、食べることを選んだらしい。
顔をしかめつつも、しっかり咀嚼してゴクリと飲み込んだ。
『……』
「な?食えないわけじゃないだろ?」
『………確かに』
「はっは~!!だろ!!」
『何かムカつくんだけど』
その後も、俺は嵐と会場を巡りに巡った。(別名:引っ張り回した)
食い物関係がやっぱり多いが、祭りだから珍しいものもあるわけで。
珍しいことに、嵐も結構興味あるみたいでキョロキョロしてた。
「お、カキ氷!!嵐、お前食べる?」
『いや、俺はいい』
「そうか?んじゃ兄ちゃん!!カキ氷ひとつ!!」
そのカキ氷の屋台には、色とりどりのシロップが並んでいる。
自分で好きなものを好きなだけかけられるセルフタイプ。
俺はカキ氷屋の兄ちゃんから、氷が入ったカップを受け取る。
『ヘェ、最近は自分でかけるのか。それにしても、シロップの種類も増えたな。イチゴ、レモン、メロン、ピーチ、マンゴー、ブルーハワイ、オレンジ』
「最近はこういう屋台ばっかりだぜ?」
『ふ~ん。で?お前何かけるの』
「フッフッフ、俺はだな~」
そう言いながら、俺はシロップのレバーをひねる。片っ端から。
『おまっ、何やって……』
「え、なになに?夜凪くん、引いてるの?引いちゃってるの?最近はこれが流行りなんですよ~」
『流行ってお前……』
ちらりと嵐は他の人を見る。
俺はカキ氷に手を付け始める。早くしないと溶けちまうからな!
『多くても3色じゃねェか。しかも、ちゃんと部分分けしてるぞ』
「溶けりゃ混ざるし、下の方でも混ざってるんだから一緒だろ?うっわ、頭にきた、キーンって!!それにせっかくフリーダムなんだからかけなきゃ損損!!」
『限度があるだろうが。何だその色は』
「確かに色は悪いかもしれん!!でもさっきのブドウの皮然りだよ、夜凪くん!!味は悪くない」
『いや、ブドウの皮もさすがにそれと並べられたくない思う』
「う~、頭に来るぜ!!でも、やっぱ溶けるの早いな。嵐も食べてみろよ、騙されたと思ってさ」
『食べるも何も、ほとんど液体じゃねェか。"騙されたと思って"って、こんな色した奴には絶対騙されない』
「細かいこと気にしなさんなって!!」
『んぐ……っ!!』
騙されてくれない嵐に、俺は強行手段に出た。
そう!!無理やり飲ます!!!
『ゲホッゴホッゴホッ…………海、テメェ』
「な、美味かったろ?」
にっこり笑う俺に、にっこり笑い返してくれた嵐。
そうか!!やっぱり美味かったか!!
……と、思った矢先、俺は頬を摑まれてひょっとこ状態。
笑っていた嵐の目がすわってる。
俺の目の前に、鬼がイマス。
『美味いわけねェだろ、行き成り流し込まれてよォ。テメェ何が強硬手段だ、あ゛ぁ゛?』
嗚呼、俺の心の声は駄々漏れですか。
「ひひゃ、しゅみましぇんえひあ。ろういえおらんひゃまあやましゃええくえなあったからちゅい」
(訳:いや、スミマセンデシタ。どうしても嵐様が騙されてくれなかったからつい)
『何言ってるのかわかんねェんだよ。喧嘩売ってんのか、テメェ』
いや、それはあなたのせい……、っていうか心の声は聞こえたのに、この声は届かないんデスカ(泣)
「そこのお二人さん!!仲いいね~!!」
『あ?』「はへ?」
声のした方を見てみると、そこには射的の屋台とそこの親父。
「どう?彼氏、やってかない?彼女にいいとこ見せるチャンスだよ!」
『"彼女"?』
「あ」
嵐は、ようやく俺から手を放し、射的の屋台へと向かう。
ヤバ、嵐の禁句言っちゃったよ、あのおっさん!!しかも油に火を注いじゃったよ!!や、違った"火に油を注ぐ"だった!!どっちにしろ危険だよ!!
『おっさん、俺がやるわ』
「お、彼女の方がやるのかい?おまけしてあげるから、頑張ってね」
そう言って嵐から金を受け取り、普通よりも多くコルク栓が乗った皿を渡す。
ちょ、おっさん気付いて!!その子、男の子だから!!まごうことなき男の子だから!!女顔って言われるけど、誰よりも男らしい子だから!!
『あぁ、頑張るわ』
あ、ダメだわ。もう笑顔が真っ黒だもん。悪魔だもの。般若通り越して悪魔になっちゃってるもの。
おまけしてくれたけど、それだけじゃ揺らがないもの。恩を仇で返しちゃうよ、あの子。や、最初に爆弾投げてきたのあの人だけども。
『片っ端から、でいいか』
その宣言通り、嵐は一発も外すことなく片っ端から落としていく。
おっさんも、他の人もあんぐりだ。
そりゃそうだよね、台から乗り出すことなく普通に撃って普通に落としてるんだもんね、ビックリだよね。
だが、最後の一発。
当たったのは、並べられた景品ではなく――――――、
『あ~、危ねェよおっさん。そんなところでぼさっと突っ立ってたら』
ぼおっと次々と落ちていく景品を見つめていたおっさんの米神。
『ぼおっとしてねェでさっさと袋入れてくれる?』
「……鬼だ;」
「……いやいや、上手くね?上手過ぎね?祭りなんてほとんど来たことないって言ってませんでしたっけ?何?君はいくつ天から才能授かってんの?」
『集中すりゃあたんだろうが』
「いや、無理です」
太陽もすっかり沈み、辺りは数少ない祭り提灯の灯りだけだった。
俺たちは人が少ない神社の石段に座り、射的で嵐が取った戦利品を食べていた。
『重いのなんて、あんなちっこい弾で取れるわけがない。こういう軽いもんの重心避けて打つのが一番いいんだよ』
「そこを狙って当たってるところがすげーよ」
嵐は手に持ったお菓子を振りながら説明する。
袋の中にはお菓子ばっか。
確かに一番取りやすいものではあるが、まさか全弾命中させて、それを全部落とすとは……。
『しっかし、あのおっさんの顔は最高だったな』
「……鬼」
俺がポツリとこぼした言葉は、打ち上がった花火によって掻き消された。
「お、花火の時間だ。たっまや~」
『……綺麗だな』
「珍しい感想」
『……今日は楽しかったから、そのせいだ』
本当に珍しい。
素直なコイツはレアキャラだったりするわけで。
「じゃあまた来年も来ようぜ!!」
『それは、来年も彼女がいないこと前提だけどいいのか?』
「こういういい場面で、そういう哀しいこと言うなや~ッ!!」
『フフッ……アハハハハッ』
嵐が笑い出した。
本当に、珍しい。これも祭り効果というやつか。
なんだか俺も可笑しくなってきて、遂には二人で笑い出した。
夜空には花火が咲き誇っていた。
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