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月灯りの下

闇の世界に差し込む光を追い求めて

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直感と賭

『ありがとうね、海くん』
「へ?」
『あの子と仲良くしてくれて』
「あ、いや~、俺なんて、嵐にはお世話になりっぱなしで……」

   たつにい                    しおん
 嵐が竜兄と食事を作ってくれている間、詩夢さんがぽつりと呟いた。いきなり優しい笑顔でそんな事を言われたから、俺は照れるだけで。

『そんなことないよ。嵐だって、海くんに助けられてると思うわ。……それに、私も』
「え、詩夢さん、も……?」
『そ。あの子があんな風にやっていけているのを見れるなんて思わなかったから。海くんのお陰。結局、私には、できなかったもの……何も』

 自嘲的に、でも哀しそうに、淋しそうに笑う詩夢さんは、どこか遠くに行ってしまう感じがして。
 その笑顔が、どことなく、嵐に似ていた。

 俺、秋木海と夜凪嵐の出会い。
 まあね、特に何かあったわけじゃないよ?ふっつ~な出会いだった。そんなもんでしょ、普通。ほとんどが忘れちゃいそうな出会いの仕方。
 ただ、俺達の出会いの場合、最悪な滑り出しだっただけで……。
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守り方

正面から来た拳を後ろに飛んで避け、腕を引き、肘を後ろにいた奴にお見舞いした。

「おぇ」

 そのまま脇を締め直し、左から拳を振るってきた奴の腹を狙って蹴りを出す。

「ぐふっ」

 その足でしっかりと地面を踏み締め、右手で正面の奴に裏拳を浴びせる。

「あがッ」
「この……ッ」

 反撃とばかりに蹴りを放ってきた奴を避け、しゃがんで支えになっている足を払う。

「わっ!」
「調子に……ッ」

 拳を振るおうとする奴を視界の隅に捉えつつ、立ち上がり様に地面に背中を預けてる奴の腹を思いっ切り踏み付けてやる。

「うぐっ」

 振るわれた拳と同時にこちらも腕を突き出した。

「が……ッ!」

 俺に向けられた拳は髪を掠め、顔の隣で止められていた。一方、俺の掌は相手の顎を捉えていた。
 ひっくり返る相手を見送り、男の上から退きながら痺れを取るために腕を軽く振っていると。

「くっそ……ッ!」

 一番最初に肘を腹に受けた奴が、植木の茂みから何かを引っ張り出し、それを振り上げて突進してきていた。そして、

「くぅろぉみやぁーッ!!」
『!』

 振り下ろした。

『あ』

知りたい、

「あちゃー、遅くなっちゃったか~」

 もうすぐで夕暮れが見え始めるだろう頃。
 買い物を頼まれて出掛けたが、いつもよくしてくれるおばさんと、すっかり話し込んでしまった。まあ話し込んだと言っても内容は、ロルトさんはいい人だとか、ロルトさんは人気だから次の選挙はあの人で決まりだとかで、近々行われる選挙に向けて語られた、と言った方が正しいか。ロルトさんは最近人気がある政治家さんで、とてもいい人らしい。テレビで見たことがあるが、笑顔が素敵な人だったと記憶している。
 選挙近いし、一度ちゃんと調べておこうかな~と思いつつ、シエナは家路を急いだ。両腕に抱えた荷物は落とさないように。

「よし!近道しちゃおう!」

 そして、薄暗く細い横道に入った。が、それが間違いだった。

「……あれ?ここ、どこだっけ?」

 迷子になったシエナの頭には、引き返すという選択肢は用意されていなかった。さらについていないことに――――――

「あ、人だ!……すみませーん。ちょっと道に迷ってしまって――――――……」

 煉瓦の建物に囲まれた、先程よりも開けた道。
 見つけた人達は、一人を除いては皆、黒いスーツに身を包み、サングラス、黒い車をバックに話しをしていた。
 シエナが話しかけた瞬間、一斉に彼女を見た。

「……あれ?」

只今、団欒中!


                               かい
 家へ向かおうと、先輩と車に乗り込む。丁度そこに携帯がなった。海からメールだ。
 内容は、

《帰りにトマトとナス、買ってきてねv》

 だった。
 ……お前は奥さんか。と心の中だけでツッコんだ。

只今、微罪処分中

「ふぁ~……ぁ」

 欠伸を噛み殺すこともせずに伸びをすれば、机に視線を落としていた先輩がこちらを見た。

『あら、秋木くん。随分と眠そうね。……それとも、書類整理に対するささやかな抗議?』
「すみません。耐えられなかったもので、つい」
ふーん……?
冷ややかな視線を浴び、自分の説明不足に気付く。

「あ、いや、違いますよ!?耐えられなかったのは欠伸の方っスよ!?……いや、実は昨日、弟がベットの上で暴れてまして、五月蝿いの何のって……」
『へぇ、あの弟くんが?暴れてたって、どうして?』

 先程とは打って変わって、今度はキラキラと好奇心に満ちた瞳を向けられた。本当にこの人は、好奇心が旺盛どころではなく、だだ洩れだと思う。
 でもよかった、誤解が解けたらしい。
 俺は下に一人弟がいるのだが、マンション暮らしのため部屋は共有。寝床は二段ベットで、弟たっての希望で俺が下となっている。働く時間が不規則なため、異議はなかった。当初は。

「それが、今日プールがあるらしいんスけど、クロールが泳げないもんで、家の弟。それで、イメージトレーニングしながら寝たとか……」
『え、じゃあ暴れてたっていうのは――――――』
「夢の中でクロールの練習をしていた音らしいです……」

 そう答えると、先輩は思いっ切り笑いだした。

『か、かわいー!秋木くんの弟くん!!最早イメージトレーニングの域を軽く越えてるわ!』
「かわいくなんかないっスよー。お陰で俺は寝不足なんですよ?」
『十分かわいいわよ、弟くん!夢で泳いじゃうなんて。とても秋木くんの弟くんらしいわ』
どこら辺がっスか!?

 何かがツボに入ってしまったらしく、先輩はまだ笑い続け、目には涙を溜めていた。

『でも、子供らしくていいじゃない。歳相応ていうことはとても大切なことよ?こんなこと羨ましがっても仕方ないけど、羨ましいわ』
「?」

 涙を指で拭いながら言う先輩。
 羨ましいって、先輩にも下に兄弟がいる、という解釈でいいんだろうか?
 訊こうとしたところで携帯が鳴った。

「あ、すみません」
『どうぞ』

 先輩の了承を得て携帯を開く。ディスプレイには、話題に上がっていた人物の名前が光っている。ディスプレイの上に表示されている時間をちらりと見て、学校から帰ってくるであろう頃だと推測。
 電話して来るなんて珍しいな。

「もしもし……、え、はぁ。そうですが――――――」

 電話の向こうからは知らない男の声で「秋木竜志さんですか?」と問われた。答えきる前に「あ、コラ!」と言う台詞が遮ると、「兄貴~!!」と言う聞き覚えのある、泣きが入った声が聞こえてきた。

「もしもし?……どうかした――――――はぁ?!

 そして、その内容はよく伝わっては来なかったが、一単語だけで今は取り敢えず十分だった。

「判ったから、いや判らんが落ち着け。取り敢えず、さっきの人に代われ」

 大人しく代わったらしく、最初の男性が出た。
 今から行く旨を伝えて電話を切る。

「すいません、ちょっと出てきます」
『どうかしたの?』
「……先程話題にしていた弟が今、警察でお世話になってるらしくって」
『え』

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