月灯りの下
闇の世界に差し込む光を追い求めて
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教科書カモフラージュ
無様にも、久方振りに学校で倒れ。
その翌日は念のためにと過保護な姉的ポジションの奴に勝手に学校を休みにされ。
さらに土日を挟んで。
月曜日。
つまりは、今日。
日にちが経つに連れて行き辛さが増して、今ここにいる。
まあ、行き辛いのはそれだけじゃない。どちらかと言うと、今日一日油断が許されないのはそっちが理由。
気を引き締め、俺は校門を潜った。
その翌日は念のためにと過保護な姉的ポジションの奴に勝手に学校を休みにされ。
さらに土日を挟んで。
月曜日。
つまりは、今日。
日にちが経つに連れて行き辛さが増して、今ここにいる。
まあ、行き辛いのはそれだけじゃない。どちらかと言うと、今日一日油断が許されないのはそっちが理由。
気を引き締め、俺は校門を潜った。
と朝は意気込んだものの、
『驚くほどなんもねー』
遠巻きに俺を見る視線は感じるものの、昼休みを迎えた今でも、いつものように冷やかして来る奴はやってこなかった。普段なら朝一で来るのに……いや、別に来てほしいわけでは決してないが。臨戦態勢は整えてあったのに、拍子抜けだ。
「な~にソワソワしてんだよ!告白でもすんのか?」
掛けられた馬鹿みたいな台詞に意識を現実に戻し横を向くと、弁当片手にニタニタ笑う海がいた。
『……馬鹿がいる』
「ちょ、馬鹿って何!馬鹿って何!?」
『何で2回言ったよ。告白とか馬鹿なこと言ってるから馬鹿なんだろうが』
「告白を馬鹿にするな!!一世一代の大イベントだぞ!?」
『いや、どちらかというとお前を馬鹿にしたというか、お前が言うから馬鹿な事に成り下がったというか』
「ヒドイ!じゃあ何よ!何だって言うのよ!!」
『何キャラ?!――――――いや、こないだのことで冷やかしが入ると思ってたからよォ』
「まっさかー。流石に気分悪くして倒れた人間をけなす奴なんていないって!人間じゃねーよ、それ」
『いや、そんな人間じゃない奴がたくさんいるのがこの世の中だと思う』
ケタケタと笑いながらガタガタと俺の横の席の机と椅子を引き寄せる海に突っ込みつつ、違和感。何というか、一瞬海の雰囲気がピリッとしたような――――――
『まさかお前、何かした?』
「……な、何かって、何?何の事?何言ってるの?嵐くん」
『したんかい』
コイツ、嘘下手すぎ。動揺しすぎ。目だってどんだけ泳いでんだよ。
「し、してないって言ってるだろ!俺はお前と違って抗争主義者じゃなくて平和主義者なの!争い事はなるべく避けたい子なの!」
『抗争主義者って何だ』
コイツってたまに無鉄砲なところがある。
友達の悪口を言われていても腹の中で怒りはすれ、直接怒りをぶつける奴はこのご時世少ないのが現実だ。別にそれが間違いだとは思わない。たとえ異を唱えたとしても、そいつらの悪口を言われていた奴に対する認識が変わるわけじゃない。最悪の場合、偽善者というレッテルを貼られ不興を買いいじめに発展、なんてザラだ。
それに、どういう人間であれ関係を好んで悪化させたい奴はいないだろう。同じクラスの人間ならば尚更だ。
だからコイツが何をしたのかは知らないが、無鉄砲なことをしたと言わざるを得ないだろう。
が、俺はコイツのそういうところが好きだったりする。
「だーかーらー!俺は何もしてないって言ってるだろ!」
『フッ、そうかよ。何かあっても知んねェからな』
「…………」
『?何だよ。人の顔じっと見て』
「いや、さっきのフッって笑ったのかっこいいな~って」
『――――――は?』
「なあ、それどうやってやんだよ!俺もそれが出来るようになればモテる気がする……!」
まあ、基本馬鹿だけど。
『何で俺、こんな馬鹿の隣なんだろ……』
「そりゃあ嵐が休んだ日に席替えして、たまたまなったからだ。あと、あんま馬鹿馬鹿言うとアレだ。終いには泣くぞ」
『泣け』
「即答!!……あ、そうだ。ほいコレ』
海の机の上に置かれたままになっていたノートが差し出された。
『……無駄にでかいな、字』
"社会"と"秋木海"の5文字がノートの表紙を占領している。休んでいた金曜日分を写すため借してくれるように頼んでおいたものだ。
『サンキュー。次の授業終わる頃には返せると思う』
「ん?いつ写すんだよ?昼休みじゃ時間足りないんじゃないのか?」
『次の授業中にやるから大丈夫だ』
「うっわ、真面目な嵐からまさかの内職発言!」
『うるせー。あの先生はすぐ話が横道に逸れるからいいんだよ』
昼休み明けの授業は数学。数学が別に嫌いなわけではない。方程式の辺りとか特に好きだし、担当の先生の説明も解りやすい方だと思う。ただこの先生、すぐ授業という道から足を踏み外して話が横道に行ってしまう。しかも横道に逸れるとなかなか戻ってこない。記録としては、授業が残り10分になるまで話していたと記憶している。
「えー、俺は好きだけどな~。あの先生の話。面白いし」
『面白くても聞き流してもいい話だから内職すんだよ。時間は有意義に使わねェとな』
「真面目だな~。面白い話だから聞いて損はないのに。……あ、嵐様!この俺にその黄金に輝くとても美味しそうな卵焼きを恵んでください!」
『お前はもう少し真面目に勉強しろ。つかそんな褒めんでもやるっつーの!こっちが恥ずかしいわ!!』
「そう照れるなって」
『照れてねェよ!!』
悪態を吐きながらも、海に弁当箱を差し出した。それでも美味そうに食べる海に、どこかくすぐったくなりなり弁当を掻き込んだ。
昼食後の授業は格別眠くなる、先生の詰まらない話は子守歌、窓際は風が入ってきて心地いいから余計だ。というのが一般論。
俺としてはいつもはそんなことはなく、理解できないと思っていたのだが、
(ヤバ……眠ィ……)
海に借りたノートを写しながらも、眠気に襲われていた。
先生のあの声をどう聞いたら子守歌になるのか今まで特に理解できなかったが、今日理解した。いつもは聞き流している横道に逸れた話が眠気を誘う。
(最近まともに寝てねェから、それが祟ったな)
夢見が悪く、ぶっ倒れた日からまともに寝ていない。そのせいだろう、この眠気は。
(このままだと海のノートに線引きそう……)
自分のなら自業自得でまだしも、借りた物にそれは避けたい。俺は海のノートを閉じ、机の端に追いやった。シャープペンを置き、ノートを写すのを断念した俺の耳には先程よりも鮮明に先生の話が届く。それに比例して眠気も増した。
やっぱ数字に目を回すよか、先生の話の方が面白いわ~。先生万歳!数学万歳!……いや、数学の授業が好きなわけじゃ全くもってないんだけどね、うん。
シャープペンを手の中で弄びながら先生の話に耳を傾ける。
他の先生の話なら眠くもなるけど、話が授業以外の内容ならバッチコイ!なんだけどな~。こっちの内容をテストにしてくれたらかなりいい点取れるんじゃね?オレ。……そんなこと嵐に言ったらまた馬鹿馬鹿言われそうだけど。
そう思って右隣りの席をチラリと盗み見る。
(う、わっ)
ちょ、え、嘘、マジ、えっ……?!
みなさ~ん!!あの嵐様が、勉強大好きで授業中寝たことがないというあの嵐様が、完全に突っ伏して寝てらっしゃいますよ~!!
(何コレ、ちょーレアじゃん)
今まで授業以上にしっかり聞いていた先生の話そっちのけで、嵐の方をガン見する。突っ伏してはいるが若干こちらを向いているためか、紫がかった髪の間からは寝顔が覗いている。
嵐が倒れて保健室へ様子見に行ったときもちょっと思ったけど、やっぱり女顔というか、可愛いよな~コイツ。こうしてたらほんと女子みたいだし。なんて思ってから、嵐にはオレの心の声が筒抜けなのを思い出した。
(スミマセンスミマセンごめんなさい!何もやましーことは思ってないし考えてないんで起きないでください嵐様~!!)
オレの想いが通じたのか、嵐は起きる気配がない。た、助かった……!
(――――――にしても)
木曜日に倒れて早退して次の日から3連休だったっていうのに授業中寝るなんて……ひょっとして寝てないのか?
"……俺、血とかダメなんだよ。昔、色々あって"
今まで弱味なんて見せたがらないくせに、血が苦手だと教えてくれた嵐。寝れないのは、その昔あった色々のせいなのかもしれない。
(う~ん)
その色々を知りたいけど、無理には聞き出したくない。嵐は寝れないくらい悩まされてるんだ。思い出したくなことなんだろうと思う。
(取り敢えず、)
オレは先生の様子を窺いながら、嵐の机にぐぐっと手を伸ばす。手の届いたノートを引き寄せ、半分に開く。まだ何も書かれていないページ。それを嵐の前に置いて衝立にする。
(これでよし、っと)
これで早弁も居眠りも先生に絶対バレないぜ☆カモフラージュの完成。
先生は話に夢中だから気付かないだろうけど、念のため。寝れないなら寝れるときに寝とくのが一番だろう。寝る子は育つって言うし。や、嵐の身長が低いとか言ってないからね。大丈夫だからね?!
ツンツンと腕を突かれ、意識が急浮上した。
(ッ、は?ノート?)
顔を上げると、まず視界に入ったのは白紙のノート。つうか何で立ってんだ?
「きりーつ」
『!』
号令を聞き、意識がノートから擦れた。ガタガタと音を立てながら号令に従う生徒たち。俺も号令に従い席を立つ。その拍子にノートが音を立てて倒れた。
「礼ー」
(ヤベ、完全に寝てた俺……?)
頭を下げつつ、思考は違うことを考えていた。
授業中に居眠りをするという初体験を果たしたが、先生にバレてないか冷や汗もんだ。心臓に悪いな、これ。授業中居眠りとか、すごい度胸がいるもんなんだな。
「よぅ、ちゃんと寝れたか!」
『おまっ、気付いてたなら起こせよ』
にこやかに片手を挙げて話し掛けてくる海に思わずこめかみを押さえた。
「ほっんと真面目だな~。心配性め。大丈夫だって!これで早弁も居眠りも先生に絶対バレないぜ☆カモフラージュは完璧だ。嵐が寝てたなんて気付いてないって!」
『さっきのお前が……?つーか何だそのネーミング』
さっきのノートは気遣ってくれたということなんだろうか?ということは礼を言うべきところなのだろう。
「そんなことよりさ!放課後、空いてね?兄貴が非番でさ~、映画連れてってもらう約束してんだ。嵐もどう?」
『……いや、兄弟水入らずのところに邪魔するわけには――――――』
「固っ!!そんなこと気にすんなって!大勢の方が盛り上がるじゃん」
『いや、放映中は静かに観ろよ』
俺は映画とかあまり観に行かないから盛り上がるというのがイマイチピンとこないが、まあ周りに迷惑をかけない程度なら許されるだろうか。というか、礼を言うタイミングを見失ってしまった。
「行こうぜ~?なあなあ」
「――――――その前に、行くべきところがあるだろう若者たちよ」
「へ?」
『ん?』
突如話に割って入った第三者の声。再び冷や汗が流れる。錆び付いた蝶番のようにギギギと音を発て、海と揃って首を動かした。
「授業中に居眠りなんて珍しいじゃないか、夜凪」
『せ、先生……』「せ、先生……」
やはり、今まで教壇に立っていた先生がそこいた。
『す、すみませんでした』
「まあ、まだ本調子じゃないんだろうから今回は大目に見るけどね」
『ありがとうございます。気をつけます』
「だけど、内職は頂けないな」
『……へ?な、内職?』
何でバレたんだ?教壇からじゃ、何書いてるかわからないのに……。そりゃ先生が脱線話してる間にノート取ってりゃ怪しいだろうけど、いつもなら数学のワークやってるからそこまで怪しまれないはず――――――
「数学のワークならまだしも、他の教科はさすがに見逃せないな~」
トントンと先生の指が叩くのは、先程立っていたノート。今は倒れて俺が見た白紙が顔を見せている。となると当然先生は表紙を見ていたことになるわけで。
まさかと思い恐る恐るノートを閉じる。
『…………』
「ぁ~……」
「秋木も共犯ということで、2人揃って放課後職員室」
表紙にはデカデタと社会の文字と秋木海の3文字。
「いや~、大きい字で見やすかったぞ~」
あっはっはと笑いながら俺達の間になんとも言い難い空気を残して去っていく先生を黙って見送るしかなかった。
「ぁ~……なんか、ごめん」
『いや、別に……仕方ないわ。うん』
「ああ、それとな秋木」
「はい!?」
「授業中に教科書ならまだしも、ノート立てる奴なんていないからな」
「…………」
ま、教科書立てて授業受ける奴もいないから何かやってるってバレバレだけど。
軽く放心状態の海に爆弾を投下して先生は今度こそ教室を出て行った。
「…………」
『まぁ…………ドンマイ』
「優しくすんじゃねェよ!!責めろよ!いつもみたいに毒吐けよ!!お願いオレを責めて~~~!!」
結局6時間目を終え、掃除を終えて海と共に職員室に行ったが、日頃の行いの賜物と休んだことが幸いして内職のことも大目に見てもらえることとなり、すぐに帰ることができた。
『驚くほどなんもねー』
遠巻きに俺を見る視線は感じるものの、昼休みを迎えた今でも、いつものように冷やかして来る奴はやってこなかった。普段なら朝一で来るのに……いや、別に来てほしいわけでは決してないが。臨戦態勢は整えてあったのに、拍子抜けだ。
「な~にソワソワしてんだよ!告白でもすんのか?」
掛けられた馬鹿みたいな台詞に意識を現実に戻し横を向くと、弁当片手にニタニタ笑う海がいた。
『……馬鹿がいる』
「ちょ、馬鹿って何!馬鹿って何!?」
『何で2回言ったよ。告白とか馬鹿なこと言ってるから馬鹿なんだろうが』
「告白を馬鹿にするな!!一世一代の大イベントだぞ!?」
『いや、どちらかというとお前を馬鹿にしたというか、お前が言うから馬鹿な事に成り下がったというか』
「ヒドイ!じゃあ何よ!何だって言うのよ!!」
『何キャラ?!――――――いや、こないだのことで冷やかしが入ると思ってたからよォ』
「まっさかー。流石に気分悪くして倒れた人間をけなす奴なんていないって!人間じゃねーよ、それ」
『いや、そんな人間じゃない奴がたくさんいるのがこの世の中だと思う』
ケタケタと笑いながらガタガタと俺の横の席の机と椅子を引き寄せる海に突っ込みつつ、違和感。何というか、一瞬海の雰囲気がピリッとしたような――――――
『まさかお前、何かした?』
「……な、何かって、何?何の事?何言ってるの?嵐くん」
『したんかい』
コイツ、嘘下手すぎ。動揺しすぎ。目だってどんだけ泳いでんだよ。
「し、してないって言ってるだろ!俺はお前と違って抗争主義者じゃなくて平和主義者なの!争い事はなるべく避けたい子なの!」
『抗争主義者って何だ』
コイツってたまに無鉄砲なところがある。
友達の悪口を言われていても腹の中で怒りはすれ、直接怒りをぶつける奴はこのご時世少ないのが現実だ。別にそれが間違いだとは思わない。たとえ異を唱えたとしても、そいつらの悪口を言われていた奴に対する認識が変わるわけじゃない。最悪の場合、偽善者というレッテルを貼られ不興を買いいじめに発展、なんてザラだ。
それに、どういう人間であれ関係を好んで悪化させたい奴はいないだろう。同じクラスの人間ならば尚更だ。
だからコイツが何をしたのかは知らないが、無鉄砲なことをしたと言わざるを得ないだろう。
が、俺はコイツのそういうところが好きだったりする。
「だーかーらー!俺は何もしてないって言ってるだろ!」
『フッ、そうかよ。何かあっても知んねェからな』
「…………」
『?何だよ。人の顔じっと見て』
「いや、さっきのフッって笑ったのかっこいいな~って」
『――――――は?』
「なあ、それどうやってやんだよ!俺もそれが出来るようになればモテる気がする……!」
まあ、基本馬鹿だけど。
『何で俺、こんな馬鹿の隣なんだろ……』
「そりゃあ嵐が休んだ日に席替えして、たまたまなったからだ。あと、あんま馬鹿馬鹿言うとアレだ。終いには泣くぞ」
『泣け』
「即答!!……あ、そうだ。ほいコレ』
海の机の上に置かれたままになっていたノートが差し出された。
『……無駄にでかいな、字』
"社会"と"秋木海"の5文字がノートの表紙を占領している。休んでいた金曜日分を写すため借してくれるように頼んでおいたものだ。
『サンキュー。次の授業終わる頃には返せると思う』
「ん?いつ写すんだよ?昼休みじゃ時間足りないんじゃないのか?」
『次の授業中にやるから大丈夫だ』
「うっわ、真面目な嵐からまさかの内職発言!」
『うるせー。あの先生はすぐ話が横道に逸れるからいいんだよ』
昼休み明けの授業は数学。数学が別に嫌いなわけではない。方程式の辺りとか特に好きだし、担当の先生の説明も解りやすい方だと思う。ただこの先生、すぐ授業という道から足を踏み外して話が横道に行ってしまう。しかも横道に逸れるとなかなか戻ってこない。記録としては、授業が残り10分になるまで話していたと記憶している。
「えー、俺は好きだけどな~。あの先生の話。面白いし」
『面白くても聞き流してもいい話だから内職すんだよ。時間は有意義に使わねェとな』
「真面目だな~。面白い話だから聞いて損はないのに。……あ、嵐様!この俺にその黄金に輝くとても美味しそうな卵焼きを恵んでください!」
『お前はもう少し真面目に勉強しろ。つかそんな褒めんでもやるっつーの!こっちが恥ずかしいわ!!』
「そう照れるなって」
『照れてねェよ!!』
悪態を吐きながらも、海に弁当箱を差し出した。それでも美味そうに食べる海に、どこかくすぐったくなりなり弁当を掻き込んだ。
昼食後の授業は格別眠くなる、先生の詰まらない話は子守歌、窓際は風が入ってきて心地いいから余計だ。というのが一般論。
俺としてはいつもはそんなことはなく、理解できないと思っていたのだが、
(ヤバ……眠ィ……)
海に借りたノートを写しながらも、眠気に襲われていた。
先生のあの声をどう聞いたら子守歌になるのか今まで特に理解できなかったが、今日理解した。いつもは聞き流している横道に逸れた話が眠気を誘う。
(最近まともに寝てねェから、それが祟ったな)
夢見が悪く、ぶっ倒れた日からまともに寝ていない。そのせいだろう、この眠気は。
(このままだと海のノートに線引きそう……)
自分のなら自業自得でまだしも、借りた物にそれは避けたい。俺は海のノートを閉じ、机の端に追いやった。シャープペンを置き、ノートを写すのを断念した俺の耳には先程よりも鮮明に先生の話が届く。それに比例して眠気も増した。
* * *
やっぱ数字に目を回すよか、先生の話の方が面白いわ~。先生万歳!数学万歳!……いや、数学の授業が好きなわけじゃ全くもってないんだけどね、うん。
シャープペンを手の中で弄びながら先生の話に耳を傾ける。
他の先生の話なら眠くもなるけど、話が授業以外の内容ならバッチコイ!なんだけどな~。こっちの内容をテストにしてくれたらかなりいい点取れるんじゃね?オレ。……そんなこと嵐に言ったらまた馬鹿馬鹿言われそうだけど。
そう思って右隣りの席をチラリと盗み見る。
(う、わっ)
ちょ、え、嘘、マジ、えっ……?!
みなさ~ん!!あの嵐様が、勉強大好きで授業中寝たことがないというあの嵐様が、完全に突っ伏して寝てらっしゃいますよ~!!
(何コレ、ちょーレアじゃん)
今まで授業以上にしっかり聞いていた先生の話そっちのけで、嵐の方をガン見する。突っ伏してはいるが若干こちらを向いているためか、紫がかった髪の間からは寝顔が覗いている。
嵐が倒れて保健室へ様子見に行ったときもちょっと思ったけど、やっぱり女顔というか、可愛いよな~コイツ。こうしてたらほんと女子みたいだし。なんて思ってから、嵐にはオレの心の声が筒抜けなのを思い出した。
(スミマセンスミマセンごめんなさい!何もやましーことは思ってないし考えてないんで起きないでください嵐様~!!)
オレの想いが通じたのか、嵐は起きる気配がない。た、助かった……!
(――――――にしても)
木曜日に倒れて早退して次の日から3連休だったっていうのに授業中寝るなんて……ひょっとして寝てないのか?
"……俺、血とかダメなんだよ。昔、色々あって"
今まで弱味なんて見せたがらないくせに、血が苦手だと教えてくれた嵐。寝れないのは、その昔あった色々のせいなのかもしれない。
(う~ん)
その色々を知りたいけど、無理には聞き出したくない。嵐は寝れないくらい悩まされてるんだ。思い出したくなことなんだろうと思う。
(取り敢えず、)
オレは先生の様子を窺いながら、嵐の机にぐぐっと手を伸ばす。手の届いたノートを引き寄せ、半分に開く。まだ何も書かれていないページ。それを嵐の前に置いて衝立にする。
(これでよし、っと)
これで早弁も居眠りも先生に絶対バレないぜ☆カモフラージュの完成。
先生は話に夢中だから気付かないだろうけど、念のため。寝れないなら寝れるときに寝とくのが一番だろう。寝る子は育つって言うし。や、嵐の身長が低いとか言ってないからね。大丈夫だからね?!
* * *
ツンツンと腕を突かれ、意識が急浮上した。
(ッ、は?ノート?)
顔を上げると、まず視界に入ったのは白紙のノート。つうか何で立ってんだ?
「きりーつ」
『!』
号令を聞き、意識がノートから擦れた。ガタガタと音を立てながら号令に従う生徒たち。俺も号令に従い席を立つ。その拍子にノートが音を立てて倒れた。
「礼ー」
(ヤベ、完全に寝てた俺……?)
頭を下げつつ、思考は違うことを考えていた。
授業中に居眠りをするという初体験を果たしたが、先生にバレてないか冷や汗もんだ。心臓に悪いな、これ。授業中居眠りとか、すごい度胸がいるもんなんだな。
「よぅ、ちゃんと寝れたか!」
『おまっ、気付いてたなら起こせよ』
にこやかに片手を挙げて話し掛けてくる海に思わずこめかみを押さえた。
「ほっんと真面目だな~。心配性め。大丈夫だって!これで早弁も居眠りも先生に絶対バレないぜ☆カモフラージュは完璧だ。嵐が寝てたなんて気付いてないって!」
『さっきのお前が……?つーか何だそのネーミング』
さっきのノートは気遣ってくれたということなんだろうか?ということは礼を言うべきところなのだろう。
「そんなことよりさ!放課後、空いてね?兄貴が非番でさ~、映画連れてってもらう約束してんだ。嵐もどう?」
『……いや、兄弟水入らずのところに邪魔するわけには――――――』
「固っ!!そんなこと気にすんなって!大勢の方が盛り上がるじゃん」
『いや、放映中は静かに観ろよ』
俺は映画とかあまり観に行かないから盛り上がるというのがイマイチピンとこないが、まあ周りに迷惑をかけない程度なら許されるだろうか。というか、礼を言うタイミングを見失ってしまった。
「行こうぜ~?なあなあ」
「――――――その前に、行くべきところがあるだろう若者たちよ」
「へ?」
『ん?』
突如話に割って入った第三者の声。再び冷や汗が流れる。錆び付いた蝶番のようにギギギと音を発て、海と揃って首を動かした。
「授業中に居眠りなんて珍しいじゃないか、夜凪」
『せ、先生……』「せ、先生……」
やはり、今まで教壇に立っていた先生がそこいた。
『す、すみませんでした』
「まあ、まだ本調子じゃないんだろうから今回は大目に見るけどね」
『ありがとうございます。気をつけます』
「だけど、内職は頂けないな」
『……へ?な、内職?』
何でバレたんだ?教壇からじゃ、何書いてるかわからないのに……。そりゃ先生が脱線話してる間にノート取ってりゃ怪しいだろうけど、いつもなら数学のワークやってるからそこまで怪しまれないはず――――――
「数学のワークならまだしも、他の教科はさすがに見逃せないな~」
トントンと先生の指が叩くのは、先程立っていたノート。今は倒れて俺が見た白紙が顔を見せている。となると当然先生は表紙を見ていたことになるわけで。
まさかと思い恐る恐るノートを閉じる。
『…………』
「ぁ~……」
「秋木も共犯ということで、2人揃って放課後職員室」
表紙にはデカデタと社会の文字と秋木海の3文字。
「いや~、大きい字で見やすかったぞ~」
あっはっはと笑いながら俺達の間になんとも言い難い空気を残して去っていく先生を黙って見送るしかなかった。
「ぁ~……なんか、ごめん」
『いや、別に……仕方ないわ。うん』
教科書カモフラージュ
「ああ、それとな秋木」
「はい!?」
「授業中に教科書ならまだしも、ノート立てる奴なんていないからな」
「…………」
ま、教科書立てて授業受ける奴もいないから何かやってるってバレバレだけど。
軽く放心状態の海に爆弾を投下して先生は今度こそ教室を出て行った。
「…………」
『まぁ…………ドンマイ』
「優しくすんじゃねェよ!!責めろよ!いつもみたいに毒吐けよ!!お願いオレを責めて~~~!!」
結局6時間目を終え、掃除を終えて海と共に職員室に行ったが、日頃の行いの賜物と休んだことが幸いして内職のことも大目に見てもらえることとなり、すぐに帰ることができた。
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