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月灯りの下

闇の世界に差し込む光を追い求めて

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僕たちの世界

僕は屋上へと通じる扉を開ける。
そしてあの日、彼女に見惚れた場所であり、始まりの場所―――給水タンクのおかげで出来た陰へと迷いなく歩みを進める。
近づくにつれて足から徐々に見え始める。
僕は彼女の隣まで来て声を掛ける。

「お邪魔するよ。……寝てる?」

僕はいつも同じように声を掛ける。
ここが屋上で学校の所有物であったとしても、彼女にとってはここは大事な居場所だ。
一緒にいるようになってわかったのは、彼女は"ひとり"が好きな分、自分の居場所を大事にするということ。
だからそこに入れてもらうようになってから、僕はいつも最初にこの言葉を言うことにしている。

『……やっぱりな』
「起きてたんだ。っていうか、何が?」
『いや、こっちの話だ』
「?」

彼女が言った『やっぱり』という意味が分からなかったが、気にしないことにした。

「授業、もうすぐで始まるよ。今から戻れば間に合うから戻ろう」
『……今日はいいや』
「そう言うと思ったよ」

僕は寝転んでいる彼女の隣に腰を下ろす。

『お前は戻らないのか?』
「うん、ちゃんと先生への言い訳は適当に見繕っとくように伝えておいたから」
『そうじゃなくて、人に戻れと言っておきながら自分は戻らないのかってこと』
「それはそうだけど……今日は君と少しでも長く一緒にいたいから」
『……また、わけの分からないことを』

照れてるような、嫌がっているような、入り混じった声で言う彼女が僕には可愛いとしか見えなくて、本当に僕は病気だなと思う。

僕たちの間を気持ちのいい風が通り過ぎる。

「そういえば、さっき授業中寝ちゃってさ」
『知ってる。見えてた』
「え、なら起こしてよ!」
『何で俺がそんな事しなきゃいけないんだよ』
「ケチだな~」
『うるさい。で、話の続き』

彼女に文句を言っても仕方がない。寝てしまったのは僕の責任だ。
彼女に促され続きを話す。

「でね、昔の夢を見た。君とここで初めて会った時の夢」

懐かしいでしょ?、という僕の顔を寝転んだまま驚いた顔で見つめてくる彼女に気付き、如何したのか訊いてみる。

『……俺も見た。ついさっき』
「え、嘘、本当!?うっわー、すごいね!!偶然って言うか」
『気持ち悪い』
「えぇッ!!」

「偶然って言うか、運命かな」なんて、自分でもちょっとクサイかなと思いつつ、言おうと思った言葉は彼女のその一言で見事に砕かれた。

「ちょっと、何でそんなこと言うの!?」
『だって、気持ち悪いじゃないか。ほぼ同じ時間に同じ夢を他人が見ているなんて。偶然にしては出来すぎてるだろ』
「そうだけどさ~」

そこまで言われるとさすがの僕も傷つくというものだ。

『……でも、まぁ、嫌な夢じゃないからいいか』

・・・・・・・・・。
あぁ、やっぱり僕は病気だな。
その言葉だけで彼女の言葉に沈まされたにも拘らず、彼女の言葉によっていっきに浮上させられた。
僕に出会った時の記憶は、彼女の中で"嫌なもの"に部類されていない、それだけで嬉しいと思ってしまうなんて、本当にどうかしている。

『……あれから、結構経つのか』
「うん、そうだね」
『お前がここに現れるまで、ここは俺だけの世界で、俺"ひとり"の世界だった』
「うん」

そんな事知っている。知っていて僕は、敢えてそこに踏み込んだ。
彼女の事が知りたい、その一心で。
彼女に嫌われるかもしれないと思ったこともあるけど、『俺の邪魔じゃなければ構わない』とあの時彼女は言った。
彼女ならきっと、邪魔なら邪魔だと教えてくれるだろうから、今のところは邪魔になってはいないのだろうと勝手に結論付けて、僕は彼女の世界に踏み込み続けて今日に至る。
今だって本当は不安だったりするわけで……

『けど、お前が現れてから、お前と関わるようになってから、ここは俺だけの世界じゃなくなった。そんな気がする』
「え」

意外だ、彼女からこんな言葉が出てくるなんて。
僕は驚いて彼女を見た。
だって彼女は素直じゃないから。

「どうしたの、君がそんなこと言うなんて」
『……お前と同じ夢見たせいでおかしくなっちまったんだ、きっと』

彼女はごろりと寝返りを打って僕に背中を向けながら、まだ同じ夢を見たことを引きずっている。

「まだ引っ張ってたの、それ」
『その世界を、悪くないと思ってる俺も、いる。お前のいる世界も、落ち着く』
「……え」

風に乗って届いた彼女の囁くような小さな声に、僕は耳を疑った。

『あ~、昔の夢と一緒にいろんなこと思い出したから頭がおかしくなったんだ!忘れろ!!』

やけくそに叫びながら背中を丸める彼女が可愛くて可愛くて仕方がない僕は笑ってしまった。

『笑うな、バカ!!伸されたいのか!?』
「はいはい、そういう物騒なことは言わないの。僕も、君の世界に、君の隣にいるとすごく落ち着くよ」
『~ッ!!もうお前しゃべるな!!』

彼女は一層身体を丸め、照れてるのを隠そうと頑張っている。
けど、残念ながら耳まで真っ赤だ。
でもあんまりいじめると後々大変なのでここで止めておく。

それっきり黙ってしまった僕と彼女を包む沈黙。
でも嫌な沈黙じゃない、心地いい沈黙。
こんなゆったりした時間がいつまでも続けばいいのに。

「たまには君と一緒に授業サボるのも悪くないな」
『珍しいこと言うな、真面目なお前が。お前まで頭がおかしくなったか?』
「うん、そうかも。でもそれは夢じゃなくて君のせいだけどね」
『人のせいにするな』
「イテ」

彼女は背中越しに小さな石を投げてきた。
その石はきれいに僕の頭にコツリ。
この大きさなら痛くないけど、反射で言ってしまった。
でも、彼女は背中に目でも付いているのだろうか?

『……だったら、ずっと傍にいればいいだろ』
「ん?――――――あぁ、うん。そうだね、そうさせてもらおうよ」

行き成り言われた言葉が分からなかったけど、どうやら話を戻したらしい。

言われなくても、彼女に『邪魔だ』と言われない限りそうするだろう。
だって僕は"独り"が嫌いで、君が好きなんだから。


僕たちは透き通るように青い空と、心地いい風に包まれながら"2人の世界"を感じていた。

+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++


3部作ついに 完 成 !!

……すみません、調子乗ってしまいました。


何かグダグダグダグダ続けた挙句、
訳のわからない中途半端な終わり方+何かこのシーンと言うか
会話と言うかが在り来たりじゃね?という気がしてならない渡月です。

この話では「僕」語りにして『俺』の気持ちを織り交ぜてみることで
ちょっとした2人の視点を同時に作り上げる的なことをやってみたんですが、
そんな文才僕が持ち合わせている筈もなく、敢え無く撃沈してしまってます;


1人だった世界が、いつの間にか2人の世界へ。
前まではお互いバラバラでいるのが当たり前だったのに、
ふとしたきっかけで隣にいることが当たり前になった。
そしてそれは決して居心地が悪いものじゃなく、どこか心地いいもので、
その世界に依存してしまっている。
それは決して甘えているとか逃げているとかそういう悪いことじゃなく、
自分の隣に当たり前のように存在している"世界"のひとつでしかなくて、
それでいて誰でも持っている大切な"世界"――――――――――


そんな感じをこの2人で表せていたら、それを少しでも感じてもらえればいいなと思います。

長々と続けてきてしまいましたが、この話で長編は終わりです。
お付き合いくださった方々、本当にありがとうございました。

これからも『月灯りの下』をできればよろしくお願いします(笑)
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