忍者ブログ

月灯りの下

闇の世界に差し込む光を追い求めて

[104]  [103]  [102]  [101]  [100]  [99]  [98]  [97]  [96]  [95]  [94

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

僕たちの出会い

あの時の僕は、"独り"だった。


「ちょっと強いからっていい気になんじゃねェッ!!」

男の拳が僕の頬をとらえる。羽交い絞めにされているせいで、僕はそれをもろに受けた。
口に鉄の味が広がる。
痛いなぁ、と思いつつ、口に溜まった血を吐き出しす。

「なってないよ。そっちこそ、人数集めてきたからっていい気になってるんじゃない?大勢でなきゃ僕に勝てないって、自分が弱いってわかってるんだろ?そこは賢いと思うよ」
「テメ……ッ!!」

僕の言葉に怒ったのか、僕の笑顔に怒ったのか、まぁどっちもかな。
思いっきり腹を蹴ってきた。

「痛ッ!!」

羽交い絞めにしていた奴もその衝撃を食らってか、僕の押さえる力が緩み僕は地面へと投げ出された。
咽返っている僕の視界には、僕が伸した連中が映る。

(あぁ、心臓が、五月蝿い)

喧嘩を売られることは今に始まったことじゃない。
最初の原因はなんだったかな、もう覚えてない。

それとも、原因なんて始めから何もなかったのかもしれない。

いつもは1対2~5ってところだったけど、今日は結構な人数がいた。
別に自分の強さを過信して挑んだわけじゃない。

―――――――――ただ僕は、"独り"だったから。

助けを求められるような友人はいない。
ま、いたとしてもこんな人数に囲まれたんじゃ助けを呼ぶことも、ましてや逃げることもできやしない。
結局僕には「挑む」という選択肢しか残されていなかったわけだ。

「ハッ、生意気なのは口だけだなァ?オイ」

未だ地面に伏している僕を見下ろしいやらしい笑みを浮かべる男。
「そっちこそ、これだけやってようやく生意気な口が利ける余裕が出てきたんだね」
って本当は言ってやりたかったけど、まだ声が出ない。
そこが悔しいなぁ。

「こいつ、もうしゃべる力も残ってないぜ?さっさと終わらせて帰ろうぜ」
「それもそうだな」

そっからは帰ったらどうするだの、何か奢れだの、ゲーセン行こうだの、どうでもいい会話で盛り上がっている。
やっと落ち着き始めた心臓の音を聞きながら、四肢を張って起き上がる。

起き上がろうとした。

「じゃ、俺たち忙しいから」

そう言って、男は僕の背中目掛けて足を徐に上げ、降ろした。
それに抗うこともせず、抗う力もなく、僕はその衝撃を待った。

『おい』

その時聞こえた声は、今でも忘れない。
透き通るように僕の耳を撫で、馴染むように僕の頭に響いた。

男の足はその声で止められた。

「何だテメェ」
『そこをどけ、邪魔だ』

そう言って黒い髪を風になびかせながら、僕とその男に近づいてくる。
その歩き方は、さも当たり前だといわんばかりに自然なものだった。
そして、ふと、僕はここへ何の前触れもなしにやって来た客人と目が合った。
僕はこの客人を知っている。
目があったのは本当に一瞬だった。
そして何も見なかったかのように、僕の上の男に視線を滑らせる。

『たったひとりをこんなに大勢でやってるのか、情けないな』
「あぁッ!!?」
「行き成り来てなんだなんだテメェ!」

僕の上にいた男は、客人の方に近づいていく。
僕は止めようと男のズボン裾に手を伸ばしたが、空を切ってしまった。

「テメェ、一応女だろ!?だったら大人しくしとけや!!」
『五月蝿い、こんな近くで騒ぐな。それに、「一応」って何だ「一応」って。制服見て分かるだろうが。それともお前の目は腐っているのか?』
「ッ!!女だからっていい気になってんじゃねェぞ!!」

男は客人の胸倉を掴む。
が、

「グハァッ!!?」

男は地面に転がった。
男の連れも何が起こったのわからず呆然と立ち尽くしている。

『女とわかってて手を上げるか。多人数で袋叩きといい、ホント、男としても人間としても腐ってるな、根性が』

そんな言葉にこの場にいた全員が、男にいっていた視線を客人に向ける。
そこには、涼しい顔で襟元をただす客人がいた。
それを見た男の連中は焦りだす。

「テ、テメェ!!何しやがった、この女!!」
『何だ、見えなかったか?投げたんだよ。そんなことより、お前らこいつとそこら辺で寝てる奴らを連れてさっさとどけ。ここは俺の場所だ』

自分が投げたという男の肩を蹴って言った言葉に、仲間は切れた。

「行き成り現れた女が何言ってやがるんだ!!」
「ふっざけんじゃねェ!!」
「いつからお前の場所になったんだ!」

そう言って客人向かっていった男の仲間たちは、全員伸されることになる。


『まったく、さっさとどけばいいものを』

そういって彼女は、転がっている男たちを避けながら僕の方に歩いてきた。
僕はというと、彼女の動きに見惚れてしまって動けずにいた。
でもあの身のこなしは僕じゃなくても見惚れたに違いないと断言できる。

『おい』

そう言って僕を見下ろす彼女の瞳には、特段何の感情も表れていない。
その吸い込まれそうな黒い瞳にも、僕は見惚れてしまったらしい。
いや、きっと彼女自身に、僕は――――――

『動けるのか?動けるのなら少しずれるかどいてくれ』
「あ、えっと……」

頭がすぐに働かない。
こういう状況では『大丈夫?』とかそういう言葉が出てくるもんだと思っていた。
そのせいで、その答えにすぐに答えられなかった。

『なんだ、まだ動けないのか。……しょうがないな』

そういうと彼女は僕の肩の服を掴んでズルズルと引き摺った。

「あ、あの~?」

少し移動したところで彼女は僕から手を離し、僕がさっきまでいたあたりに戻り寝転んだ。
僕と彼女は、少し離れて並ぶように寝ている形となった。
僕は彼女の顔をちらりと見る。
彼女はそのまま空を見上げている。
その顔に、表情は見えない。
何だろう、彼女は僕よりも強いのに、今にも壊れてしまいそうな気がした。

「あ、あの!」

僕が思い切って声を掛けると

『ん~?』

とだけ声を発した。
彼女はこちらを見なかった。

「助けてくれて、ありがとう!」
『いや、別に。助けたわけじゃない』
「……そ、そういえば、僕たちって同じクラスだよね?」
『あぁ』
「………あ、あの!」

それから僕は素っ気無い彼女に話しかけ続けた。
が、彼女は空を見たままだった。

「さっきすごかったね。強いんだね、君」
『お前だって、俺が来るまでにあの人数伸したんだろ。なら十分お前もその部類だろ』
「そ、そうかな。でも僕は、君みたいに綺麗には戦えなかったな~。ま、戦ってる時だけが綺麗だったわけじゃないけど」
『……は?』

彼女は上半身を起こし、ありえないものを見るような目でやっと僕を見てくれた。

「あ、やっと見てくれた」
『……お前、今何て言った?』
「綺麗だって言った。最初に聞いた声も、歩く動作も、流れるような動きも、空を見上げてる横顔も、全部」
『……お前の目も腐ってるようだな』
「酷いな~」

苦笑する僕を無視し、彼女は身体を戻し空をまた見上げている。

「……ねぇ、さっき『ここは俺の場所だ』って言ってたけど」
『あぁ、ここは俺のお気に入りの場所であり、俺の居場所』
「居場所?」
『ここしか、俺の居場所はないから』

彼女の顔はさっきと変わらないのに、声はすごく弱弱しかった。
いや、違う。
目がすごく、寂しそうだ。

「じゃあここにはよく来るの?」
『あぁ、だから"いない"だろ』

確かに、彼女は時々教室から消える。
けど、そんな彼女を気にする者はいなかった……先生を除いては。

「じゃあここに来てたんだ」
『友達がいるわけじゃないし、空が好きだし、独りが好きだから』

"独り"が好き。
そんな風に言えるなんて。
僕なんて"独り"が嫌なのに。
"独り"という事実が、怖くて怖くて仕方がないのに。

「……ねぇ、僕もこれからここに来てもいいかな?」
『何だ、行き成り』
「ダメ、かな?僕は君の事、もっと知りたいんだ」

純粋に惹かれた。
そして気になった。
"独り"が好きな彼女に。
強いのに壊れそうな危うさを持った彼女に。

『……俺の事なんか知ってどうするんだよ』
「どうするって言われても困るけど、気になっちゃったから。惹かれたんだ、君に。だから、知りたい」
『……そういうの、何て答えればいいんだ?』
「ん~、僕に訊かれてもなぁ。取り敢えず、ダメかな?」
『別に、俺の邪魔じゃなければ構わない』
「ありがとう!」
『………』

彼女はそのままそっぽを向いたっきり、僕の方を見てくれなかった。

それから僕は、屋上に足を向けるようになり、彼女とも前より話すようになっていった。


*          *          *


僕はゆっくりと瞼を押し上げた。
顔を上げると賑やかな教室が目に入る。
どうやら僕は机に突っ伏して寝てしまっていたらしい。
ということは、さっきのは夢か。
それにしても、いやに懐かしい夢を見た。

「お、起きたか?珍しいな、真面目なお前が授業からぶっ通して寝てたなんて」

前の席の友人が話しかけてくる。

「え、僕授業寝てた?」
「おう、寝てた寝てた。感謝しろよ?俺の影になって先生は全く気づかずにいたし、終わっても寝続けてたお前に気づかずに出てったんだからな」
「……気づかれなかったんならいいや」
「お、意外!お前真面目だから気にすると思ってたのに」

僕もそうだ、正直自分に驚いている。
あの日の夢を見たせいかな?
そしてふと、彼女がいないのに気づく。
教室を見回しても、彼女の机を見ても、その姿は見当たらない。
時計に目をやりながら、僕はガタリと音を立てて椅子から立ち上がる。

「オイオイ、どこ行くんだ?授業もう始まるぞ?」
「うん、多分サボることになる。先生には適当に言っといて」
「サボるって……マジでお前大丈夫か?」

「寝すぎで脳味噌蕩けたか?」という失礼な友人の頭を小突く。

「いないから探してくるんだよ。でもこの時間まで帰ってこないとなると、連れて帰って来れないと思うから」

そういって僕は少し広い歩幅で教室を出る。

「おうおう、だいぶ熱があるようだな~。こりゃ脳味噌も蕩けるわ。つうか、その台詞じゃァ保護者だろ」

友人の言葉は僕には届かず風に流されていった。

僕が目指すは――――――――――……


+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++


長い!!前のより長い気がする!!
しかも続いたりします。←

「俺僕シリーズ」の長編に挑戦してみました。
何かもう、「俺=女」で定着してしまってます。
というか、ぶっちゃけますと最初からその設定でした(オイ)
隠してた方がミステリアスでいいかな~と(殺)

今回は2人の出会いを書いてみました。
どなたかからリクエストがあった、というわけでは決してなく、
いつもの如く、僕の思い付きです。
こう、青春っぽく喧嘩して、屋上でのんびり物語を書いてみたくなったんです(もう黙れや)

あとがきまでダラダラと長くなってしまうとアレなんで、
今回はこれにて逃亡させていただきます!(コラ)

それでは遅くなりましたが、ここまで読んでくださって本当にありがとうございました!
PR

この記事にコメントする

お名前
タイトル
文字色
メールアドレス
URL
コメント
パスワード   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字

俺たちの出会い HOME 僕が歩く地、僕が歩いてきた道、その先で―――


忍者ブログ [PR]
template by repe